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ラム25

エピソード2 許されざる研究(脚本)

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〇諜報機関
  暦は石井に用済みと言われた通り、研究所から出奔した。
  そこで独自の研究機関『Avenge』を立ち上げた。
  立ち上げた、と言ってもメンバーは2人のみであり、設備もスーパーコンピュータ1台を除けば貧相な物であったが。
  2人、と言ったがそれは暦と妻の琥珀のみである。
  琥珀に研究する知識などなく、実質1人であった。
  元より周囲とは隔絶された才能を持つ暦は1人で研究していたため、大して不利にはならなかった。
  しかし相手は国家研究機関。
  このまま放置すれば緋翠のAIで何をしでかすか分からない。
  孤独な戦いが続くと思った。
  そんな時だった。
矢坂「探したぜ。なああんた、研究所に戻る気はないか」
暦「矢坂? なぜここに?」
  暦の元同僚の矢坂が現れた。
  矢坂はため息をつくと語る。
矢坂「あんたという優秀な人材が抜けて大損害らしくてな、上にあんたを連れ戻すために説得するよう命令されたんだ」
暦「・・・悪いがその気はない」
矢坂「だろうな。 なあ、何があったんだ?」
  暦はこれまでを話した。
  娘の意志を宿すAIを作り娘が非人道的な実験に使われていること、更に悪用されかねないこと。
矢坂「それは本当か? 信じられん・・・」
暦「まあそういうわけで戻るわけにはいかないんだ。上には適当に言っておいてくれ」
  矢坂は信じられんと言ったが暦が嘘をつくはずがないと確信していた。
  途端に彼は怒りに震える。
矢坂「なあ、俺を雇ってくれないか。 そんな非人道的な行為断じて許せない」
暦「しかし相手は国家研究機関だ。 悪いことは言わない、戻れ」
矢坂「何言ってるんだ、今更戻れるはずあるか。 なあ、いいだろ!」
  矢坂はもとより暦を尊敬していた。
  いつもエラーを瞬時に直してくれたし、何よりAIの平和的利用という理念を持っている。
  暦の研究はきっと多くの人を助ける。ならば自分が暦を助ける。
  矢坂には暦を手伝う以外の選択肢はなかった。
  矢坂のこの様子では断れないと悟った暦は頷く。
暦「・・・あぁ、よろしく頼む」
  同僚は手を差し出し、暦が握り返す。
  固く握手する暦と矢坂。この矢坂は暦の相棒として今後の研究を支えていくことになる。
矢坂「なあ、俺は何をしたらいい?」
暦「まさにお前にしか頼めない事があるんだ。それをやってもらう」

〇屋上の倉庫
  数日後、矢坂は寝不足であくびを噛み締める。
  天才である暦を支えるのは想像以上にハードだった。
  矢坂は研究者としては凡人と言って良かった。
  このままでは暦の脚を引っ張りかねないと血の滲むような努力をしている。
  暦が使っているプログラミング言語であるC言語も調べながらでなければ満足に書けない。
  しかし矢坂は決して後悔してはいなかった。
  それより暦を支えられないのがもどかしい。
  彼は寝不足でクマの出来た目をこすると、タバコをポケットから取り出して火を付けて加える。
  そして、深く煙を吸って吐くと暦が後からやってきた。
矢坂「あんたも吸うか?」
暦「いや、俺はいい。 それより頼んだ物はどうなったか知りたい」
  矢坂は懐からUSBを取り出し、暦に手渡す。
暦「助かった、これで大幅に負担が減る」
矢坂「本当か? そいつは良かったぜ」
  暦は以前いた研究所での自分の成果を置き去りにしてしまった。
  そこで暦の勧誘に来た矢坂を逆に利用したのだ。
  USBには暦の研究成果がある程度収められている。これさえあれば緋翠のAIをまた作れるかもしれない。
  そんな希望を抱いた。
  早速暦はUSBのデータを確認しに戻る。
矢坂「・・・俺も休んでらんねえな」
  矢坂は吸っていたタバコを地面に捨てると踏み、火を消す。
  そして暦の後を追った。

〇諜報機関
暦「ナイスだ。これなら娘の意志を99.9%再現するところまで一気に研究を進められる」
矢坂「良かった。俺も少しは役に立てたか」
  99.9%まで、また1からコードを書いたのでは何年かかるか分かった物ではなかった。
  暦も数十万行ものコードを暗記してはいない。
  あとはまた99.9%から100%を目指せば良い。
  しかしここからが問題だった。前回は奇蹟が起きたことで100%になったが今回はそうはいかない。
  しかし仮に緋翠のAIが悪用された場合、対抗できるのは同じく意志を持ったAIのみ。
  意志を持ったAIを作ることは国家研究機関に立ち向かう上で最低条件と言えた。
  そこで暦は娘でなく、妻の意志を再現したAIを作ることにした。
  それでも画面は99.9%から進まない。どうやらここには壁があるらしかった。
  そして暦はある判断に至った。
暦「やはりC言語では足りない。 A言語、B言語、そしてC言語・・・それに連なる第4の言語、”D言語”が必要だ」
矢坂「新たな・・・言語? そんな物作れるっていうのか?」
暦「分からない。だがやるしかない」
  暦はAI、C言語に関しては天才だったが言語の開発の経験などない。
  だがどうしてもD言語が必要だと判断した。
  暦はこのD言語の開発に最も苦労することになる。
  ただでさえ理解するのが難しいC言語を超えた完璧な言語の創出。
  その苦労は想像するのも難しいほどだろう。
  しかし暦はD言語の開発に乗り組むことになる・・・

〇実験ルーム
  暗く閉鎖的な研究所。
  そこにあるのは培養液に漬かったクローン。
  そして1人の男。
  この男が製造するクローン人間は脳に欠陥が生じるという問題があった。
  だが暦が開発した意志を持ったAI・・・
  それをナノコンピュータに埋め込み脳と結合し、プログラミング言語を数式に、数式を電気信号に変換させる。
  そうする事で石井の思い描いた完璧なクローン・・・いや、アンドロイドが完成する。
  石井は天才と呼ぶに相応しい科学者でクローン人間を2〜3年で成人させることが出来るまでに研究を進めていた。
  つまり大々的にアンドロイドを製造する準備が整っているのだ。
  石井はモニターに目を移し、映されている少女を見やる。
石井「さて、そろそろ起きたまえ」
  そう言い石井はタイピングをし、エンターキーを押す。
  すると緋翠は目を覚ます。
  意志を持ったAIは研究機関でも危険視され、その制御が急務とされた。そして反抗しないようプロテクトされている。
  石井はプロテクトが機能しているか確認するために、緋翠にウイルスを送り込む。
  緋翠はたちまちウイルスに侵食される。
  石井が送ったプログラムは人間で言うと痛覚を刺激するものであった。
  苦痛に顔を歪ませる緋翠。
石井「痛いかね」
緋翠「はい」
  それを見て石井は微笑む。無事プロテクトが機能しているらしい。
石井「結構だ。奴の娘のAIはこれでなんとかなるか・・・あとは・・・」
  そう言い培養液に漬かったクローンを見る。そのカプセルを撫でる石井。
  石井はコンピュータに向き合い、なにやらタイピングをする。
  やがてクローンが目を開き、カプセルから出てくる。
  石井はそれを台に横たわらせ、頭を切り拓き脳を露出させる。
  そして脳とナノコンピュータを結合し、電気信号を送らせる。
  するとナノコンピュータは心臓を鼓動させ、肺に空気を入れさせ、血液を循環させた。
  どうやら成功したらしい。
石井「名前を言ってみろ」
「・・・緋翠です」
  無事クローンの脳はナノコンピュータと結合され、動き出した。
  人体への移植に成功した・・・アンドロイドの完成である。
  暦には知る由もないが、こうして地獄へのカウントダウンは着々と進んでいた・・・

次のエピソード:エピソード3 物理的特異点

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