樒家の掟

深山瀬怜

樒家の掟(脚本)

樒家の掟

深山瀬怜

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〇古びた神社
  とある山の奥に、樒(しきみ)
  と名乗る一族が暮らしていた。
  古くから続くこの一族は、
  人を殺すことを生業としていた。
  そんな樒一族には、ある掟があった。

〇広い和室
樒悠真「ぐ・・・っ、玲奈、お前また盛りやがったな」
樒玲奈「そうだけど?」
樒悠真「俺ら樒家の人間は、幼少期から様々な毒を少しずつ摂取して慣らしてるから死なないけど、苦しくはあるんだぞ?」
樒玲奈「そりゃあそうでしょうね、致死量の5倍は入れたもの。でも5倍じゃ足りないみたいね」
樒悠真「毎日毎日毒盛りやがって、一体何が目的なんだ?」
樒玲奈「お兄ちゃんが死んだら、この家の当主になるのは私だからよ」
樒悠真「いいから早く解毒剤よこせよ」
樒玲奈「欲しかったら力づくで奪ってみたら?」
樒悠真「言ったな?」
樒玲奈「そんなんで私に勝てると思ってんの?」
樒悠真「てめぇ・・・殺す気か?」
樒玲奈「殺す気だけど?」
樒七香「二人とも、喧嘩はそこまでにしておいて」
樒玲奈「お母さん、これは喧嘩じゃなくて殺し合いなんだけど」
樒七香「殺し合いでもいいからやめてって言ってるのよ。仕事の依頼よ」
樒悠真「標的は?」
樒七香「今回はある著名な映画監督。でも裏ではずいぶん恨みを買っているみたいね」
樒玲奈「私が行くよ、お母さん」
樒悠真「いや俺が行く」
樒七香「そうねぇ・・・今回は玲奈にお願いするわ。できれば自然死に見えるようにとの依頼よ」
樒玲奈「わかった。じゃあ検出されない毒を使うよ」
樒七香「じゃあ、行ってらっしゃい」
樒玲奈「行ってきます」
樒悠真「どうして玲奈なんだ?」
樒七香「今回は自然死に見えるようにという依頼だから、玲奈か私が適任なのよ」
樒七香「でも私は昨日力を使ってしまったから、玲奈にお願いしたの」
樒悠真「玲奈はまだ・・・子供なんだぞ」
樒七香「子供でも、樒家の人間よ」
樒七香「それにあの子は当主の座を狙っている。それなら今のうちから仕事に慣れさせないと」
樒悠真(それはわかる。でも・・・玲奈にはここで生きる道以外もあるって知ってほしい)
  樒家に生まれたからには、人を殺して生きるのが宿命。
  血塗られた家に生まれた子供は、普通の子供のような楽しみを知ることなく生きていかなければならない。
  しかし悠真は、玲奈にはこの家の外にある幸せも知ってほしいと思っていた。
樒七香(悠真は玲奈に普通の幸せを知ってほしいと思っているのね)
樒七香(けれど、樒家に生まれた時点で、それは無理なのよ・・・)

〇テーブル席
樒玲奈「ご注文は以上でお揃いでしょうか?」
監督「ああ、ありがとう」
樒玲奈(ちょろい相手ね・・・ 銀髪は目立つから黒くしたけど、私のことなんて見てないし)
  バイト店員のフリをして、標的の飲み物に毒を仕込んだ。
  この毒は優れもので、効果が出るのは半日後、しかも毒も検出されない。
  あとは経過を観察して、標的が絶命したら任務完了だ。
樒玲奈(とりあえず怪しまれないように帰らないとね)
  樒家の仕事は地味だが確実が売りだ。
  綿密な作戦で危なげなく任務を達成する。
  玲奈は標的が飲み物を飲んだことを確認してから、その場を立ち去った。

〇広い和室
樒七香「標的の死亡が確認されたわ。これで依頼は完了ね。よくやったわ、玲奈」
樒玲奈「ありがとうございます」
樒七香「これからも気を抜かずに精進して頂戴。あなたが本気で樒家の当主を狙ってるならね」
樒玲奈「はい」
樒七香「それにしても、本当に樒家の当主を狙ってるの?」
樒玲奈「だって、お兄ちゃん・・・明らかに向いてないじゃない」
樒七香「ふふ、悠真も仕事はしっかりやってるわよ?」
樒玲奈「いや、でも性格がさ・・・」
樒玲奈「あんなのが当主になったらうちも終わりだって。分家の人たちも何してくるかわかんないよ?」
樒七香「あらおかえりなさい、あなた」
樒治彦「ただいま。長く家を空けてすまなかったね」
樒治彦「なかなか用心深い標的でね。さすがに3キロ離れたところからの狙撃は骨が折れたよ」
樒治彦「玲奈が最近よく働いてくれてることは聞いているよ」
樒玲奈「ありがとうございます、お父様」
樒玲奈「私、このまま実績を積んでいけば、樒家の当主になれるでしょうか?」
樒治彦「玲奈は当主になりたいんだってね」
樒治彦「だが、当主になるのは簡単ではないよ。樒家の掟があるからね」
樒治彦「このまま実績を積んでいけば、悠真とともに当主となるための試練に挑むことになるだろう」
樒玲奈「はい、これからも精進します」
樒七香「期待してるわよ、玲奈」

〇古風な和室(小物無し)
樒玲奈「掟、か・・・やっぱりそうなるんだよね」
  樒家の当主になるためには、掟に定められた試練を乗り越えなければならない。
  それは「己が愛している人間を殺す」ことだ。
  それができるような人間でなければ、樒家の当主にはなれない。
樒玲奈(少なくともお兄ちゃんには無理でしょ)
  樒家に生まれながら、悠真は人を殺すのに抵抗を感じているようだった。
  それが愛する人間なら尚更だ。
  悠真は樒家で生きていくにはあまりにも優しすぎる。
  だからこそ玲奈は、自分が当主になり、悠真を追い出すことで、彼をこの家から解放したいと思っていた。
樒玲奈(でも、掟に従うなら・・・私が殺さなければならないのは)
  愛しているのはただ一人、
  血を分けた兄だけなのだ。
樒玲奈(当主になるには、お兄ちゃんを殺さなきゃいけない)
樒玲奈(それならそれで・・・これ以上、向いてない仕事をさせなくても済むけれど)
  本心は誰にも気づかれてはならない。
  悠真を樒家から解放しようとしているなんて知られたら、きっと父も母も玲奈を止めようとするだろうから。
  だからこそ、玲奈は悠真を嫌い、家督を奪おうとする野心家として振る舞っているのだ。
樒玲奈(お兄ちゃんは、私たちと違って平気で人を殺せるような人間じゃない)
樒玲奈(だから、早く・・・お兄ちゃんをこの家から解放しないと)
  決意したのは数年前。
  最も愛する人のため、
  玲奈は屍を積み重ねていくのだった──

コメント

  • 裏稼業にも裏稼業なりの守るべき掟や秩序があるということですね。相手を思いやるあまり本心とは正反対の行動をとらざるを得ない玲奈の心の葛藤が切なかったです。

  • 兄妹がそれぞれ想いあっているのがいいですね☺️ 内容はダークですが兄妹モノが好きなのでほっこりしました。

  • 与えられた運命を兄弟愛をもって自らが犠牲になり、それを全うしようとする2人それぞれに、とてもない強さと優しさをかんじました。

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