暁までのアナタ

翠碧緑

前編(脚本)

暁までのアナタ

翠碧緑

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〇街中の道路
  園原愛佳(そのはらまなか)。
  気持ちの悪い言い方になるが、僕の全てだ。
  平日は6時半起床。待ち合わせをしているわけでもないが、なんとなくいつも同じモブと登校している。
  桜ヶ芽女子高校に通う2年生。
  品行方正。先生の覚えも良し。
  性格の暗い僕とは比べるまでもなく、受け入れられ易い人だ。

〇名門の学校
  学校嫌いの僕はわからないが、彼女はそんな生活をとても楽しんでいるようにも思える。
  そんな楽しむ彼女も可愛らしい。
  その笑顔は僕を幸せにするのだ。

〇名門の学校
  帰宅部である彼女は、いつも4時頃下校する。
  朝のモブも一緒だ。
  近すぎるぞモブの癖に。
  ・・・いけない、いけない。コイツは彼女を彩るための存在でしかない。
  無視だ。

〇綺麗な一戸建て
  塾に通っている彼女の帰宅時間は大体9時。
  僕は勉強なんてやる気にならない。尊敬すべき点だ。

〇綺麗なダイニング
  お風呂に入って、両親と談笑して、寝るのはだいたい11時。
  この時、次の日の予習も軽くしているのだから驚きだ。
  僕は両親なんて会いたくもないし、放っておいて欲しい。
  誰のせいで僕がこんなことになったと思っているんだ。

〇学生の一人部屋
  彼女の一日が終わると、ちょうど僕の活動時間だ。
  できることなら彼女の寝顔を拝んでいたいものだ。
  彼女の匂いのついたモノを手に取ると、自然と笑顔が溢れる。
  僕は今日もまた、彼女の幸せをわけて貰ったのである。

〇ネオン街
  夜は良い。
  言い様のないこのイライラを忘れられる。
  僕の住むこの街はほどほどにカオスだ。
  愛佳を視ているモノとは違う幸福を得るのだ。

〇飲み屋街
  僕みたいなヤツでも受け入れてくれそうな、言い方は悪いが外れたヤツにこそこういう場所は相応しい。
  地べたに座りながら、コーヒーを飲む。
  このなんも考えない虚無な時間が好きだ。
  もちろん愛佳ほどではない。
  近くで酔っぱらいが騒いでいる。
  カップルがいちゃついている。
  だーれも他人のことなんざ考えていない。
  自分なんて所詮はただのモブだってことを自覚させてくれる。

〇入り組んだ路地裏
  お気に入りの喫茶店がある。
  夜の経営がメインの半分居酒屋みたいなとこだ。
  僕の散歩は大抵そこをゴールにして終わる。
  それが僕の日常。なんてことのない空っぽな人間の生活だ。
  この時までは。

〇入り組んだ路地裏
???「だから・・・そういうんじゃないって言ってるじゃないですか」
男「いいじゃん。いくらならいいの?」
???「・・・・・・」
  こんな狭い道で繰り広げられる口論。
  僕の夜が台無しだ。
  どっちが悪いかって?
  そんなの”女性”の方に決まってる。
  ここはそういう場所でもある。
  住みわけされたところに入ってきて知りませんでした、で済むわけがない。
  ・・・邪魔だ。邪魔すぎる。
  やめた方がいい。
  そう頭ではわかっていた。
  だが日々のストレスを少しでも解消しようと、夜をさまよう僕には我慢できなかった。
  近くにあったビンを蹴って割る。
男「こわっ・・・なんだよ・・・」
  男の方は去っていった。それが普通だ。
???「・・・・・・」
  だが女は去らずに、僕を見つめていた。
  人をじろじろと視るな気持ち悪い。
???「あっ・・・」
  無視だ無視。うざったい。
  僕の感情はいつもの苛立ちを取り戻してしまった。
  なにかを振り払うように僕はお気に入りの店に向かった。

〇レトロ喫茶
  小道にひっそりと存在するこの店は、きっと僕のようなひねくれものが建てたのだろう。
  それくらい僕には合っていた。
  だって立地が悪すぎる。窓の外にはビルの壁。昼にきっと日差しは入ってこない。
  繁盛を狙っているとは思えない。ただの娯楽趣味で営んでいるとしか考えられなかった。
  それがまた良い。
  客は一人で来る人が多い。喋り声なんてない静かな雰囲気。
  注文をしていないのに、コーヒーが運ばれてくる。
  店員が僕のお気に入りを把握するくらいには、ここを贔屓にしている。
  こんな風貌のヤツを、なにも言わずに放っておいてくれる。
  社会っていうのは、縛り付けるだけでは無いということを教えてくれる優しい瞬間だ。
  僕は、愛佳が眠っている間はこうして朝焼けを待っている。
???「へー、いいところね。ここ」
  コーヒーに含まれるカフェインは眠気覚ましにいいとは言うが、実は緑茶の方が多く含まれている。
  日本人ならば、緑茶を飲んだ方がきっと体に合うだろう。
???「ちょっと!」
  ・・・さすがに無理か。
  「なに?」
???「あら意外な声」
  さっそく嫌いだ。
  人の声なんてどうでもいいだろ。
  「なんでついてきたんだよ」
???「いやあ、お礼くらい言わせてよ」
  「・・・わかった、受け取った。じゃあね。バイバイ」
???「あはははっ! 雑ぅ!」
???「ここのオススメなに? あんたと同じがいいかな」
  クソが。
???「すごい顔するじゃん・・・。そう邪険にしないでよ」
  いつの間にか、・・・いや黙殺していたが、ついてきていた女は対面に座った。
  「お前みたいなのがなんであんなところにいたんだよ」
???「ちょっと・・・家庭の事情でさ」
???「親と喧嘩して軽い家出中なの」
  バカだ。今時、親と喧嘩するなんて流行んない。
  「ふーん。一晩経てばなんてことなくなってるだろ。帰れ」
???「辛辣ー」
???「そういうあんたは?」
  「・・・・・・」
???「おーい?」
  「特になんもないよ。一緒にするな」
???「そうなの? 同類かと思ってた」
  何がだ。失礼な女だ。
???「あっ」
  「なんだよ・・・」
???「自己紹介!!」
  本当にどこか狂ってないかこの女。
緒玉 梓「私は『緒玉 梓(おだま あずさ)』! あんたは?」
  「・・・言わない」
緒玉 梓「は? そんなことある?」
  「別にいいだろ。プライバシーだ」
緒玉 梓「そもそもの社会性がないのね。あんたって」
緒玉 梓「じゃあ・・・なんか好きなものってあるの?」
  そんなもの決まっている。
  でもそれを口に出す程、社会性がないわけでもない。
  「・・・強いて言えばナズナかな」
緒玉 梓「強いて言わないと出てこないの?」
緒玉 梓「まあいいや。じゃああんたナズナって呼ぶね」
  「・・・・・・」
緒玉 梓「ホントすごい顔するじゃーん」
緒玉 梓「名前教えないならこうよ?」
  かなりペースを握られて、僕の大切な憩いの場は崩壊していた。
  この後も、この空気の読めない女に僕は蹂躙されていくのだった。
  緒玉 梓。
  愛佳とは別の高校に通う女。
  名門の高校ではある。愛佳のところとは違い、お金持ちが融通を利かせるお嬢様校という噂のところだ。
  コイツの事情なんてどうでもいい。
  なんでこんな僕に関わってくるのかわからない。
  僕とは真逆の、日差しの中を歩くような性格。
  愛佳と比較したくはないが、少し似ている。
  言葉も少なく、自分から話すことの無い僕に、なんの嫌味もなく会話できるのだ。
  きっとコイツは真っ当なのだろう。
  「・・・なあ」
緒玉 梓「ん?」
  「なんで僕についてきたんだよ。お礼だけじゃないんだろ?」
緒玉 梓「あー・・・」
緒玉 梓「単純にあんたに興味を持ったのよ。こんな夜更けに慣れたようにうろつく姿にね」
緒玉 梓「私とは同じじゃないにしてもどんな理由があって、不良してるのかなって」
緒玉 梓「私のまわりってまともなのしかいないからさ!」
  本当に嫌いな女だ。
  「暇だからこうしてるだけだよ」
緒玉 梓「わーお。そういやあんた高校生? 同い年に見えるけど」
  「高校なんてどうでもいいだろ。行く必要もない」
緒玉 梓「あれ中卒?」
  「・・・違う」
緒玉 梓「もしかして不登校? うっそ、本当にいたんだ?」
  「・・・そりゃあ不登校はいるだろ」
緒玉 梓「いや、私のまわりにはいないし。アリなんだねそういうの。 知らない世界だわ」
  ガチで嫌いだこの女。
  僕は小銭を机に置くと、席を立つ。
緒玉 梓「おっ?」
緒玉 梓「へえ、お洒落な会計の仕方~」
  真似をする女を無視して、店を出る。
  コイツとは絶対相性がよくない。

〇川に架かる橋
  この糞女のせいで本当に今日は台無しだ。
緒玉 梓「暗いとこうなるんだね。静かで素敵」
  ・・・・・・。
緒玉 梓「好きかもこういうの」
  もしかすると少しは話のわかる女なのかもしれない。
緒玉 梓「うん! 決めた!」
  「・・・敢えて聞くけど、何を?」
緒玉 梓「あんた私の友達ね!」
  「お前はさ・・・、いや、すごいよね」
緒玉 梓「なんだあ~? 文句かあ~?」
緒玉 梓「伺おうかナズナちゃん!」
  「勘弁してくれよ・・・」
緒玉 梓「あはははっ! 今日のところはこれくらいで勘弁してあげる」
緒玉 梓「また明日!!」
  そう言って女は走り出した。
  本当によくわからないヤツだ。
  まだこんな日が続くのか?
  でも、不思議とストレスには感じなかった。
  僕は”梓”の背中に声をかけた。
  「制服はやめとけよー」
  大きくこちらを振り返り、彼女は笑顔で手を振った。
  まるで太陽だ。夜には相応しくない。
  アイツはきっと僕とは違うのだ。
  ・・・いや、僕が思考を割くのは愛佳のことだけだ。
  それだけでなくてはならない。
  日がやがて昇る。僕には許されない時間がやってくる。
  愛佳を今日も感じていよう。
  僕は自分の家に向かって歩き出した。

〇川に架かる橋
  今朝の愛佳は少し寝不足のようだった。
  それでも彼女は問題なく、卒なく日常生活を送る。
  当たり前の日向を歩く。
  僕の歩けない、その眩しい道を。

〇レトロ喫茶
緒玉 梓「やっほー」
  ”言葉を失う”とはこのことだろうか。
  僕はあまり話さないけど。
緒玉 梓「もはやその顰めっ面も、風情があるように思えてきたわ」
緒玉 梓「すいませーん。この人と同じヤツ一つくださーい」
  「ホントに来たんだな」
緒玉 梓「家からここまでの道も覚えたよん」
  「・・・なんだ。仲直りしたのか」
緒玉 梓「まあ・・・妥協点を見つけたかなあって・・・」
緒玉 梓「昨日の経験でどうでも良くなったんだよね、割りと」
  正直、コイツの事情なんて一切興味がない。
  けれど、悩みが無くなることは良いものだとわかっている。
  「そりゃあ、良かったな」
  「・・・?」
緒玉 梓「ふ~ん?」
  「なんだよ。キモいな」
緒玉 梓「なんか、一人納得してるみたいだけど、 私の興味が変わったってだけだからね?」
  「それが、なんなんだ?」
緒玉 梓「いえいえ、べっつにー」
緒玉 梓「ナズナちゃんはさー、気になる人とかいるの?」
  「話題剃らし下手すぎないか」
緒玉 梓「そう?」
  答える義務なんて無い。
  そう答えようにも、コイツの表情が真剣すぎて、僕には無理だった。
  「・・・いるよ」
  「すごく大事な人がね」
緒玉 梓「・・・・・・」
緒玉 梓「ほ、本気すぎて引いちゃった・・・」
  「・・・は?」
緒玉 梓「いやー重すぎない? その人が可哀想」
  コイツ・・・。
緒玉 梓「はい、ナズナフェイス入りました~」
緒玉 梓「あはははっ! ごめんって」
  もう、絶対に、コイツとは、喋らん
緒玉 梓「おいし~」
  ・・・たとえこのコーヒーの味がわかるヤツだとしてもだ。

〇名門の学校

〇ネオン街

〇綺麗なダイニング

〇川沿いの公園

〇駅の出入口

〇街中の道路

〇レトロ喫茶

〇駅の出入口
  ただ、夜を歩く。
  コイツとの絡みも数日が過ぎた。
  喫茶店で意味の無い話をしたあと、なんとなく散歩をする。
  それが日課になっていた。
  あれだけ明るい笑いを振り撒くコイツも、この時だけは静かだった。
  きっと僕に合わせている。合わせてくれている。
  余計な気遣いだ。
  だから今度は僕が話す番だと思った。
  「・・・学校に支障出るだろ。もう、これっきりにした方がいい」
緒玉 梓「大丈夫。これでも要領はいいのよ」
  「なんとなくだけどさ・・・」
緒玉 梓「うん」
  「もし僕を心配しているようなら、やめて欲しい」
緒玉 梓「・・・・・・」
  やっぱりか。
緒玉 梓「いやーそうじゃなくてさ・・・」
  「梓が思ってるよりも僕はどうしようもないヤツだよ」
緒玉 梓「ううん。そんなことない」
  彼女は、静かに僕を見つめる。
  陰りの無いその視線は僕をただ焼き尽くすだけなのだ。
緒玉 梓「あの時、私を助けたのはナズナだよ」
  「・・・邪魔だったから退かしただけだよ」
緒玉 梓「理由付けでしょ」
  「ポジティブな解釈だな」
緒玉 梓「・・・・・・」
緒玉 梓「今度の週末」
緒玉 梓「”お昼”の2時に会わない?」
  コイツは暖かい。その心が。
  僕は目の前で赤信号を渡る人に、注意したりしない。
  せいぜい僕の前では轢かれるなよ、と思うだけだ。
  世の正しさに従って、何が残るというんだ。
  それが一体いつ僕の助けになったというんだ。
緒玉 梓「・・・ナズナ?」
  「・・・無理だよ」
緒玉 梓「ちょっとの寝坊くらい許してやるわよ」
  「違うっ!!」
緒玉 梓「・・・?」
  「僕には・・・無理なんだよ・・・」
緒玉 梓「あっ」
  僕はストレスを発散しなければならないのに。どうして、こんなに溜め込んでいるのだろう。
  わからない。わかってはならない。
  そうだね。僕は君のために。
  ──愛佳。

〇学生の一人部屋
母親「愛佳ー、寝坊よー」
園原 愛佳「・・・・・・」
母親「ほらっ起きて!」
園原 愛佳「・・・るせえな」
園原 愛佳「はーい!! 今行くー!」

〇広い改札
園原 愛佳「寝坊なんて久しぶり」
園原 愛佳「はあ・・・」
  サノ:先行ってるね!
  ソノハラ:ごめん!!!
園原 愛佳「まあなんとかなるよね」
???「えっ?」
園原 愛佳「?」
???「なあんだ! ちゃんと学生やってんじゃん!!」
???「しかもカガジョとかエリートじゃ~ん」
園原 愛佳「あのー・・・」
???「どしたん?」
???「というか学校サボって遊ばない? 今からじゃ無駄な足掻きだし」
園原 愛佳「誰かと間違ってませんか?」
???「────────」
???「そんなに嫌だった?」
園原 愛佳「えっ?」
???「結構仲良くなれてたと思ったんだけどさ。 私は」
園原 愛佳「いや、その?」
???「余計なお世話だとは思ったよ。でも、それはないんじゃない?」
園原 愛佳「あのだから! 初対面ですよね!?」
???「はあ?」
園原 愛佳「いきなり話しかけてきて、なんですか。 私急いでるんで失礼します!!」
???「えっ、ホントに?」
???「・・・・・・」
???「ねえ、あんた姉妹とかいるん?」
園原 愛佳「独りっ子です!!」
???「・・・好きな花とかある?」
園原 愛佳「お花?」
園原 愛佳「うーん・・・」
園原 愛佳「あっ!」
園原 愛佳「”ナズナ”の花が好きです!!」
???「・・・・・・」
???「そう・・・」
???「そう・・・なのね・・・」
園原 愛佳「って違う!! 今度こそ失礼します!!」
???「そんなことが・・・」
???「・・・・・・」
???「ひねくれすぎでしょ・・・」
???「馬鹿・・・」

〇街中の道路
  僕は愛佳のために存在している。
  そう、彼女こそが僕の全て。
  彼女の幸せが、僕の幸せなのだ。

次のエピソード:後編

コメント

  • ナズナの正体は実は・・と分かったところで、なるほどなあ!とガテンがいきました。人間誰にでも表の顔裏の顔あると思いますが、その自覚のない彼女は可哀想なのかそうでないのか想像しています。

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