第8話「量子論的カット&ペースト」(脚本)
〇公園のベンチ
坂野りせ「・・・・・・まずは」
坂野りせ「時間も時間ですし、なにか食べましょうか」
坂野りせ「れい子、好きなものは?」
坂野 れい子「わ、私の!?」
坂野 れい子「な、なんでも、いいけど」
坂野りせ「そうですか、じゃあ私はジャムパンを」
坂野あかり「れい子、ジャムパン好きなの?」
坂野 れい子「えっ、あ、その」
坂野りせ「奇遇ですね、私もです」
〇公園のベンチ
「ごちそうさまでした」
坂野 れい子「ごめんね、半分こしてもらって」
坂野りせ「いいんですよ、まだ数日分はありますし」
坂野あかり「で、りせ、さっき何に気づいたの?」
坂野りせ「聴きます?」
坂野あかり「そりゃ、ねぇ、気になるし」
坂野 れい子「私も、気になるわ」
坂野りせ「これは推測になりますが」
坂野りせ「量子力学的に非常に低い確率で──」
坂野あかり「ごめん、手短にできる?」
坂野りせ「ああ、すみません」
坂野りせ「私もよくわかっていないのですが、」
坂野りせ「私たちは本当に、私たちだと思いますか?」
坂野あかり「・・・・・・は?」
坂野 れい子「・・・・・・そうよね」
坂野 れい子「両親が付き合ってすらいないのに」
坂野 れい子「なんで生まれてるのかしら」
坂野 れい子「って、言いたいのよね? りせ」
坂野りせ「ええ、れい子、その通りです」
坂野りせ「これがパラドックスです」
坂野あかり「そ、そうかもしれないけど・・・・・・」
坂野りせ「つまり、我々にはなにかしら」
坂野りせ「別に存在する原因がある」
坂野りせ「はずです」
坂野 れい子「そ、それは、どんな理由なの?」
坂野りせ「それは、」
坂野りせ「私も信じたくありませんし もう少し調べたくもありますが しかし、我々の未来にも関わることですし──」
坂野あかり「りせ、言って」
坂野あかり「受け止めるから」
坂野りせ「・・・・・・元の自分を消すためです」
坂野りせ「なぜかというと」
坂野りせ「変わってしまった時間線を守るため」
坂野りせ「非常に低い確率で、元の私たちと全く同じ存在が現れたんです──転送機のように」
坂野りせ「カット&ペーストされたかのようでもある」
坂野あかり「わけ、わかんないんだけど?」
坂野 れい子「それじゃあ、それじゃあ、もう」
坂野 れい子「あかりの世界は戻らないってことよね!?」
坂野 れい子「そんな・・・・・・」
坂野あかり「えっ、嘘でしょ?」
坂野あかり「戻せるんでしょ?」
坂野あかり「私の両親、友達、ぜんぶ!」
坂野あかり「ねえ、りせ!」
坂野りせ「私も戻せると信じていました」
坂野りせ「私はバカだった!」
坂野 れい子「・・・・・・」
坂野 れい子「・・・・・・そんな」
坂野 れい子「あ、あの」
坂野 れい子「私のテントに行かない?」
坂野 れい子「ここより安全だし」
坂野あかり「え、ええ、そうね」
坂野りせ「そう、しましょう」
坂野 れい子「あの雲より森の奥にあるから」
坂野 れい子「ついてきて」
〇木の上
〇けもの道
坂野 れい子「・・・・・・雲、小さくなってない?」
坂野あかり「えっ?」
坂野あかり「悪いことは続くってこと?」
坂野りせ「どのみち誰の世界にも帰れないんです」
坂野りせ「もう両親も結婚しない」
坂野りせ「別のことを考えましょう」
坂野 れい子「・・・・・・」
坂野あかり「りせ!」
坂野あかり「どうしちゃったのよ」
坂野あかり「れい子が気にしちゃうでしょ?」
坂野 れい子「ご、ごめんなさい!」
坂野 れい子「私のせいよね・・・・・・」
坂野 れい子「ぜんぶ、めちゃくちゃに──」
坂野りせ「違います!」
坂野りせ「私も気づかなかった」
坂野りせ「両親が付き合いだすタイミングが少し違うだけで」
坂野りせ「全く違う子供が生まれるとは」
坂野 れい子「で、でも」
坂野 れい子「別れさせたのは私!」
坂野 れい子「ごめんなさい──」
坂野あかり「もういい!」
坂野あかり「3回くっついたなら」
坂野あかり「4回目だってあるでしょ!」
坂野りせ「あかり、それは、どうでしょうか?」
坂野あかり「りせ、さっき言ってたこと、ひじょうに低い確率なんでしょ?」
坂野あかり「じゃあ、なんで4度目の正直は信じないの?」
坂野あかり「理由は、なに?」
坂野りせ「た、たしかに」
坂野 れい子「私、ママに説明する!」
坂野あかり「よく言った、その意気よ」
坂野りせ「ええ、そう、ですね」
坂野りせ「守るべき未来も、もう、ありません」
坂野りせ「そして、現代において帰る場所が必要です」
坂野りせ「使えるものはすべて使いましょう」
坂野あかり「お、いいねえ」
坂野 れい子「なにを使うの?」
坂野りせ「これです」
〇テントの中
坂野 れい子「パパのお賽銭袋、そっちにもあったのね」
坂野りせ「ええ、持ってきてよかった」
坂野あかり「制限時間は明日いっぱい」
坂野あかり「みんな、明日に備えて──」
「おやすみなさい!」
〇テントの中
一気読みしてしまいました。
パパの賽銭袋、めちゃくちゃ役に立っていますね。
時間軸を守るための姉妹たちの奮闘が、実はコピーを生み出しているという発想が面白いですし、姉妹たちのそれぞれの性格が違うのも引き込まれます。
りせが冷静で頼りになりますね。