メタリアルストーリー

相賀マコト

エピソード43(脚本)

メタリアルストーリー

相賀マコト

今すぐ読む

メタリアルストーリー
この作品をTapNovel形式で読もう!
この作品をTapNovel形式で読もう!

今すぐ読む

〇西洋の大浴場
ニル「実は・・・。この街を出ようと思っているんだ」
  ニルの言葉に、エドガーは目を見開く。
エドガー「はあ? どこへ行くんだ」
ニル「とりあえずはハイドン帝国を目指そうと思ってる」
エドガー「ずいぶん遠いな・・・。なぜ急に?」
  ニルはすぐに返事をせず口をつぐむ。
  大浴場のざわめきの中、ふたりの間には沈黙が流れた。
  ニルはお湯の中でゆったりと自身の機械の右腕を撫でる。
ニル「・・・知りたいんだ、俺自身のこと。 今はわからないことだらけだから」
  エドガーはニルの右腕をじっと見つめ、小さく息を吐く。
エドガー「・・・そうか」
エドガー「それは、なんというか・・・。残念だな」
  ニルは曖昧に笑みを浮かべる。
エドガー「エミリア姉さんは出ていくことを知ってるのか?」
ニル「ああ・・・。うん」
  ニルが頷くと、エドガーはそっとまぶたを閉じた。
エドガー「きっと悲しむ」
ニル「・・・そうだね」
  エドガーはふう、と息を吐いて浴槽から立ち上がる。
エドガー「まあいい。精々頑張るんだな」
  そう言って浴槽を出るエドガーの背中に、ニルは声を掛ける。
ニル「エドガー・・・」
エドガー「次に会うとき、僕はもっと強くなっているはずだ」
  エドガーは振り返らずに背中越しに言った。
エドガー「僕はいずれ必ず君に勝つ。 だから・・・それまで、誰にも負けるなよ。」
  言い終わると、エドガーはさっさと立ち去ってしまった。
  ニルはそんなエドガーなりのエールに、小さな声で返事をした。
ニル「・・・うん。ありがとう、エドガー」

〇ヨーロッパの街並み
  大浴場を後にして、ニルはあることを決意した。
  出ていくにしても、このまま黙って行くことはできない。
  ちゃんと彼女たちにも伝えなければ。
  しばらく歩いて着いたのは、こじんまりとした可愛らしい家だった。
  しばらくお世話になっていたアイリの家だ。
  深呼吸をしてから、ニルは扉をノックする。
  しばらくしてから、扉がゆっくりと開く。
  そこには、パジャマに厚手のスカーフを羽織ったアイリの姿がいた。
ニル「こんばんは、アイリ。夜遅くにごめん」
  アイリがニルをじっと見つめる。
  それから小さくため息を吐くとニルに背中を向けた。
アイリ「・・・入って」

〇西洋風の部屋
  コトン
  アイリは机にマグカップを置いた。
  カップからは湯気がたち、お茶のいい香りが部屋を満たしている。
  テーブルについていたニルは、目の前に出されたコップを前に微笑む。
  それはニルがアイリの家に泊まっていたときにニルが使っていたマグカップだった。
ニル「ありがとう」
アイリ「それで、いつ出発するの?」
ニル「えっ・・・」
  まるで言おうとしていたことがわかっていたかのようなアイリに、ニルは目を見開く。
  アイリは呆れたように息を吐いてから、コツンとニルの頭を軽く叩いた。
アイリ「アンタの考えてることなんてお見通しなんだから」
ニル「・・・」
  ニルはアイリに小突かれたところに触れ、苦笑を浮かべる。
  アイリは、自分の分のコップを手にしてニルの真正面の席についた。
アイリ「もう準備はできてるわよ」
アイリ「この家だって、私が不在のときに月に1回掃除に来てくれるようギルド経由でもう頼んであるわ」
アイリ「馴染みの店で武器の整備は済ませたし、旅の食糧も買っておいたわ」
  ニルは呆気にとられた表情で、つらつらと言うアイリを見ている。
  彼女は凛とした表情で言う。
アイリ「ニル・・・。私はあなたと一緒に行きたいの」
  アイリの言葉に、ニルは困ったように微笑んだ。
ニル「・・・アイリならそう言うかもって、ちょっとだけ思ってた」
ニル「・・・でも」
  ニルはいったん深呼吸をすると言葉を続けた。
ニル「・・・アイリに話したと思うけど、俺はネームドってやつを引き寄せちゃう体質だから」
  ニルは首から下がっているネックレスを胸元から取り出して握りしめる。
ニル「俺はなんであいつらが俺を狙うのかを知りたい」
ニル「それにこの右腕も・・・。 どうしてネームドに会うと右腕が反応するのか知りたい」
ニル「でもメルザムでは情報が足りない・・・。 だからここをでなくちゃならないんだ」
ニル「俺は昔からたくさん、災いを呼び寄せてきた」
ニル「そしてこれからもきっと、あれに負けないくらいやっかいな問題をたくさん起こす」
ニル「今回のガルバニアスやゼノンの襲撃だって、多分俺のせいだと思う」
  ニルはネックレスをぐっと握り込む。
ニル「それでも、俺と一緒に来てくれるの?」
  アイリはニルの話を聞き終えてから、大きくため息を吐いた。
  呆れたようなアイリを見て、ニルはすこし驚いたようにまばたきをする。
アイリ「私はアンタがいなくてもいずれ、あの男を、ゼノンを倒しにここを出るつもりだったのよ」
  アイリはテーブルの上で両手を組むと、すこし目を伏せてぐっと手に力を込める。
アイリ「あの日ハッキリとわかった。 アイツが村の・・・、父さんと母さんの仇だって」
アイリ「あの日見たあの男の姿は、10年前から変わってなかった」
アイリ「絶対に、私はアイツを倒さないといけない」
  アイリはそれから、悔しげにくしゃりと表情を歪(ゆが)める。
アイリ「でも、あのときアイツは今の私じゃ敵わない相手だってことも、痛いほどわかった」
アイリ「私はこのままメルザムにいるだけじゃ、絶対にアイツは倒せない」
アイリ「だから私はもっと強くなりたい。 災いを呼ぶなんてむしろ好都合よ」
  アイリが顔を上げ、ふたりの目が合った。
  決意を秘めたアイリの目はしっかりとニルを見つめていた。
アイリ「・・・それに」
  アイリとニルの視線が交わった。
  強い意志と情熱が秘められたアイリの瞳が柔らかく弧を描く。
アイリ「私はニルとこれからも一緒にいたい。 それじゃ、ダメかしら?」
  まっすぐなアイリの言葉を聞いて、ニルは照れて鼻の頭をかいた。
ニル(なんか・・・。こそばゆいな)

このエピソードを読むには
会員登録/ログインが必要です!
会員登録する(無料)

すでに登録済みの方はログイン

次のエピソード:エピソード44

成分キーワード

ページTOPへ