第四話「ボーゲンは燃えているか」(脚本)
〇荒廃した街
”僕”が本来何者で、どんな名前だったのか?
その記憶はもう、おぼろげにしか残っていない。
思い出そうとすると、底知れない悲しみと一緒に、知らない大人が”僕”を蹴飛ばしている姿が浮かぶ。
まあ、どのみちロクなものじゃない事はわかる。
なら無理して思い出す必要はないだろう。
〇部屋のベッド
それに、今の僕に愛を注いでくれる人がいる。
温かい食事とベッドをくれて、深く深く愛してくれる”ママ”がいる。
なら、それ以上望むものなんてない。
ママさえいてくれたらいい。ママが頭を撫でてくれて、僕だけを愛してくれたら・・・
〇黒
僕は戦える。どんな戦場でも。
ママさえいれば、他になにもいらない。
たとえ明日死ぬとしても、ママが抱きしめてくれるなら怖くない。
カゲロウ・パトリケエヴナ「大好きだよ、ママ」
第四話
「ボーゲンは燃えているか」
〇城の会議室
リサ・パトリケエヴナ「・・・・・・”間抜け”は見つかったな? ディーンショ大臣」
ディーンショ大臣「・・・・・・」
アルミリア・ボーゲン「えっ?まさか・・・・・・」
アルミリア・ボーゲン「大臣が・・・裏切り者・・・?」
ホーク将軍「・・・・・・いつから気づいてました」
リサ・パトリケエヴナ「ストリンガー戦後に、ね」
リサ・パトリケエヴナ「あの時大臣は城に寝泊まりしていた、だからあんな早朝に駆けつけてきた」
リサ・パトリケエヴナ「でも、だとしたらあの騒動で飛び起きないとは思えない。だから怪しいと思ってカマをかけたのですが・・・」
リサ・パトリケエヴナ「ビンゴ、でしたね」
アルミリア・ボーゲン「そんな・・・嘘よ、嘘よね?ディーンショ・バイランド大臣」
アルミリア・ボーゲン「あなたは、この国の平和のためにって、いつも・・・」
ディーンショ大臣「・・・・・・」
ディーンショ大臣「・・・・・・フッ」
ディーンショ大臣「フフフ・・・」
ディーンショ大臣「クールだね、あんた・・・実にクールだ」
ホーク将軍「ディーンショ・・・お前本当に・・・!」
ディーンショ大臣「おや、まだ信じられませんか将軍」
ディーンショ大臣「・・・では現実をお見せしよう」
ディーンショは、自らの上着を開いてみせた。
そこには・・・
アルミリア・ボーゲン「!!!!!!!!」
ホーク将軍「腹が・・・無い・・・!?」
本来脇腹があるべき場所が大きく抉れ、空洞になっていた。
断面図には何か灰色の羽虫のようなもの──
──ナノマシンが蠢いているのが見えた。
ディーンショ大臣「フフフ・・・そうさ。昨日姫様を襲ったサイボーグ、それは私だ」
ディーンショ大臣「パイルバンカーで貫かれた時はどうなるかと思ったがね」
ディーンショ大臣「しかし・・・どうやら私も慌てていたようだ、偽装用にナノマシンで作った死体に、穴を開け忘れてしまうとはな」
ボーゲン公王「ディーンショ・バイランド大臣!!」
ボーゲン公王「答えろ!!何故この国に仇なす!?」
ディーンショ大臣「・・・まだ解りませんか陛下」
ディーンショ大臣「裏切りの理由は、眼の前にあるでないですか」
ボーゲン公王「どういう事だ!?」
ディーンショ大臣「私の存在そのもの・・・」
ディーンショ大臣「それが・・・私がこのクソ公国に愛想を尽かした理由さ!!」
〇荒廃したセンター街
ディーンショ大臣「考えてみろ、この国は金の鉱脈という最大の武器を持ちながら──」
ディーンショ大臣「”金の亡者になってはいけない”という、子供のような道徳に固執し、それを繁栄や利益のために役立てようとしない!!」
ディーンショ大臣「その結果が国家の不安定な状況と、反政府勢力の武装蜂起!!」
ディーンショ大臣「そのくせ国民はそれを他人事のように見て、自分には国難は関係ないと自分達の幸せしか見ていない!」
ディーンショ大臣「選挙にも行かないくせに!!一丁前に不平不満を並べてデモはする!!自分達の怠慢の責任を国に押し付けて!!」
ディーンショ大臣「挙句の果てが、私のような明らかな売国左翼が国務大臣の椅子に居座る王政!!」
ディーンショ大臣「もうこんな国は救えない!!今のボーゲン公国に必要なのは痛みを伴う改革だ!!」
ディーンショ大臣「現王政を武力で打倒し!!新たな政権を打ち立てるしか、この国を救う方法はない!!」
ディーンショ大臣「この私・・・ディーンショ・バイランドがな!!!!」
〇城の会議室
ホーク将軍「・・・・・・ッ!!」
ホークは、ディーンショに強く言い返す事ができなかった。
当然だ、国民も政治家も皆がディーンショの平和主義・理想主義に倒錯している事は、身を持って知っていたから。
そして、そんな愚民に怒りを燃やしていたのは、他ならぬディーンショ自身だと今気付いた。
ホーク将軍「・・・・貴様の言う事もわからんでもない」
ホーク将軍「だがどんな理由があろうと、テロ行為を正当化する事など許されない!!!」
ホーク将軍「どの道貴様の革命は終わりだ!!国家反逆者として大人しくお縄につけ!!」
ディーンショ大臣「・・・・・・・・・」
ディーンショ大臣「・・・・・・・・・いつから」
ディーンショ大臣「私を”追い詰めた”と錯覚していた?」
「ぐおっ・・・!!!!」
アルミリア・ボーゲン「きゃああっ!!!」
リサ・パトリケエヴナ「今のは・・・!!」
リサ・パトリケエヴナ「あれは・・・殺人ドローン!!」
ディーンショ大臣「フフフ・・・懐かしいだろう?大佐殿。 もっとも、ナノマシンで再現した物だがな」
ディーンショ大臣「そう、こいつは第三次大戦で作られた殺人ドローン「フウマ」。刃を回転させて飛行し・・・」
ディーンショ大臣「・・・人間だけを殺す機械さ!!!!」
ホーク将軍「伏せろ!!」
リサ・パトリケエヴナ「ぐう・・・ッ!! これじゃ動けない・・・」
ボーゲン公王「!!!!!!」
ボーゲン公王「アルミリア!!危ないッ!!」
ボーゲン公王「が・・・・・・ッ」
リサ・パトリケエヴナ「なん・・・・・・ッ!?」
ホーク将軍「陛下ァァッ!!!!」
ボーゲン公王「ぐうう・・・ッ・・・!!」
アルミリア・ボーゲン「お、お父様!!お父様ぁ!!!!」
ボーゲン公王「・・・・・・これでいい ・・・これでいいのだよ」
ボーゲン公王「老い先短い年寄が助かって何になる・・・ 見つめるべきは・・・未来・・・ッ」
アルミリア・ボーゲン「お父様ぁぁぁ!!!!!!」
ディーンショ大臣「ふふふ・・・ははは!!」
ディーンショ大臣「計算通りだ!!やはり娘を庇ったな!?」
ホーク将軍「ディーンショ!!貴様・・・!!」
ディーンショ大臣「愚かな老いぼれだ、上手く政治をやれていれば死なずに済んだものを・・・」
ディーンショ大臣「自分が無能なせいで不幸な子供だって生まれているだろうに、いっちょ前に親を気取るな!!ははははっ!!」
ホーク将軍「─────!!!!!!」
ホーク将軍「ディーンショおおおおおっ!!!!!!!!!!」
ディーンショ大臣「ははははははっ!!!今更そんな物で殺せるものかよ!!」
リサ・パトリケエヴナ「ナノマシン・・・まさかまたストリンガーになるつもりか!?」
ボーゲン公王「将軍・・・ホーク将軍・・・ッ!!」
ホーク将軍「陛下!!しっかり・・・!!」
ボーゲン公王「・・・・・・娘を・・・・・・ アルミリアを、頼む・・・・・・」
ボーゲン公王「支えてやってくれ・・・!!」
ホーク将軍「陛下・・・!!」
ディーンショ大臣「ははははははは!!私の勝ちだぁああ!!!!」
リサ・パトリケエヴナ「機体の構成が始まった!!崩れるぞ!!」
ホーク将軍「姫様!!」
アルミリア・ボーゲン「お父様・・・・・・・・・」
アルミリア・ボーゲン「・・・・・・私、この国を守ります」
アルミリア・ボーゲン「お父様とお母様が愛したこの国を、必ず!!」
ボーゲン公王「ふふ・・・それは心強い・・・」
リサ・パトリケエヴナ「崩れる!!早く外へ!!」
アルミリア・ボーゲン「・・・・・・はい!!」
ボーゲン公王「・・・・・・」
ボーゲン公王「・・・・・・アシュリー・・・我が妻よ」
ボーゲン公王「今・・・そっちに・・・」
〇ファンタジーの学園
アルミリア・ボーゲン「はあっ・・・はあっ・・・」
ホーク将軍「軍部聞こえるか!!ホークだ!! 黒幕が判明した、ディーンショ大臣だ!!」
ホーク将軍「すぐに部隊を編成しろ!!ヤツは・・・」
「逃がすかよおおお!!!!!!」
アルミリア・ボーゲン「!!」
ホーク将軍「き、来た・・・!!」
ディーンショ「ははははは!!こうして見るとそっちがムシケラのようだな!?」
ディーンショ「いいだろう!!虫のように踏み潰されて──」
〇コックピット
カゲロウ・パトリケエヴナ「・・・させると思う!?」
〇ファンタジーの学園
ディーンショ「ふふふ・・・やはり来るか!!ベーオウルフ!!」
カゲロウ「大佐にベーオウルフをスタンバらせとけって言われてたけど・・・まさかアンタが あの時の暗殺者だったとはね」
カゲロウ「しかも仕留め損なったなんて、仕事の信頼に関わるような真似しちゃってさあ」
ディーンショ「ふふ、私にも成し遂げなければならん信念がある、そう簡単には死ねんよ」
カゲロウ「信念?ふん、テロリストが何寝言言ってんのさ」
ディーンショ「・・・・・・」
ディーンショ「・・・・・日本人の君なら、わかるだろ?」
〇荒廃した街
カゲロウ・パトリケエヴナ「・・・・・・!!」
ディーンショ大臣「自分さえよければいい。下のやつなんて見下していい。犯罪は国がどうにかしてくれる・・・」
ディーンショ大臣「そんな甘い状態に慣れきった暇人は、自分達をよく見せるために今度は便利なものを奪ってゆく」
ディーンショ大臣「金の亡者にならないために財政を縮小させ、平和主義のために自衛手段を捨て、自然環境のために発電所を潰し・・・」
ディーンショ大臣「そんな事の繰り返しで、気がつけば国は圧迫され、奴等特権階級に悪者にされた市民が割を食う」
ディーンショ大臣「こうして国は、滅びてゆく・・・・・・」
ディーンショ大臣「・・・・・・貴様の祖国、 日本がそうだったようにな」
〇ファンタジーの学園
ディーンショ「日本が辿った過ちを、私はこの国に辿って欲しくないんだよ」
カゲロウ「その為に・・・テロをやるの?」
ディーンショ「革命と言ってほしいね。そして・・・」
ディーンショ「よければ君も、手を貸してほしい」
アルミリア・ボーゲン「!?」
ホーク将軍「この状況で勧誘だと!?」
ディーンショ「君達日本人の生き残りが、自分達を守らなかった愚かな祖国に対して恨みを抱いているのは知っている」
ディーンショ「私も、かつて日本人だった人々を見てきたからわかるよ。そして、私も同じ怒りを抱えている」
ディーンショ「そして君達が守ろうとしているボーゲン公国は、日本と同じ性質を持ち、同じ過ちで滅びかけてる腐った国だ」
ディーンショ「そこにいるアルミリア姫は、君らの富を食い荒らしてきた”ジョウキュウコクミン”?の同類なんだよ」
ディーンショ「既に滅びた国に復讐はできなくとも、同類を潰す事で弔いにはなると思うんだよ」
ディーンショ「どうだ?悪い話ではないだろう」
カゲロウ「・・・・・・・・・」
アルミリア・ボーゲン「カゲロウさん・・・・・・」
カゲロウ「・・・・・・・・・」
カゲロウ「・・・・・まあ、僕も元は戦災孤児」
カゲロウ「祖国がしっかりしてりゃ少年兵なんてやってなかっただろうし、思うところがないって言うとウソになる・・・」
カゲロウ「・・・でもね」
〇コックピット
カゲロウ・パトリケエヴナ「僕はね・・・・仕事に私情は持ち込まない主義なんだ!!」
〇ファンタジーの学園
ディーンショ「ぐ・・・」
カゲロウ「どんな理想を掲げようが、テロリストのあんたはただのウジムシ野郎・・・」
カゲロウ「ゴミみたいに潰されるのがお似合いだよ!!」
ディーンショ「・・・交渉決裂というワケか」
ディーンショ「ほう?前より動きがよくなってるな」
カゲロウ「一度倒した相手にやられるワケにはいかないからね」
カゲロウ「そういうあんたは、よく一度負けた機神で戦おうと思ったね?」
カゲロウ「テロリストの辞書には学習って文字はないの?それとも、再生怪人は弱いって知らないの?」
ディーンショ「無論、私もストリンガーで勝てるとは思ってはいない」
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