島の家族(脚本)
〇通学路
さてと。母に教えられた住所は・・・。
瑠璃島蒼崎区6-15・・・。字面だけじゃ分からないな。
スマホの検索機能使うか。お、ここからそう遠くない。百メートルもないじゃないか。
曲がり角を曲がり、直進したところに笹原宅を見つけた。花譜の自宅である。
〇平屋の一戸建て
塀から覗くと、庭先には綺麗な花々が咲き乱れ、その前で水をあげている女性が一人居た。花菜さんだろうか。
齋藤陸「あの、花菜さんですか?」
湊花菜「えぇ、あなたは・・・。」
齋藤陸「齋藤陸です。母さんに言われてやってきたんですが・・・。」
花菜さんは「陸くん・・・」と呟き、何かを察したように目を見開くと、顔を綻ばせた。
そして、俺の手を握る。あまり異性とのスキンシップに慣れていない俺の心臓は、ドキンと大きな音を立てた。
湊花菜「あなたが陸くんね!姉さんからお話は聞いてるわ。」
湊花菜「遠路はるばるご苦労だったわね。長旅疲れたでしょ?さ、上がって上がって。」
齋藤陸「あっ、ちょっ・・・。」
俺は少し強引に、家の中に勧められた。
〇実家の居間
玄関には、北海道土産だろうか。木彫りの熊と、何やら砂が瓶に詰められていた。
そのまま真っ直ぐ歩くと、脱衣場と洗面台が一体化していた。そこで手を洗い、居間に行くと、麦茶が出されていた。
その前に花菜さんが座っている。
湊花菜「改めて、いらっしゃい、陸くん。花譜のお見舞いに来てくれたのよね?」
齋藤陸「はい。で、その花譜は・・・。」
湊花菜「花譜は近くの病院に入院してるわ。もう退院も間近だろうってお医者様からも言われてたけど。」
齋藤陸「そうですか。」
元気そうなら何よりだ。早速病院に行こうか。
そう思い立った時、何やら蝉の鳴き声が聞こえた。バチバチと。
???「わ、この蝉まだ生きてた!これがホントのセミファイナル!?」
庭先から声が聞こえる。花菜さんがはぁ、とため息をついた。
ドッタンバッタンと音を立てて、縁側から少女が現れる。
湊花菜「花譜。なんで家に帰ってるの?」
湊花譜「だって、病院に居てもつまらないんだもん。」
湊花譜「・・・むむっ!君が陸くんだね。湊花譜。よろしく!」
齋藤陸「あ、うん。よろしく。」
花譜が俺の手を握る。別に、血色が悪い訳じゃないが、体からは病院特有の薬品の臭いが漂っていた。
それに病衣も着ているし。
花菜さんの反応からするに、恐らくこいつは病院から脱走してきたのだろう。
湊花菜「ごめんね、陸くん。病院には私から話しとくから、花譜のこと病院に連れてってくれないかな?」
齋藤陸「分かりました。ほら、行くぞ花譜。」
湊花譜「ぶぇー、病院つまんないよー!」
湊花菜「話聞くだけだから、ね?」
花菜さんが花譜を説得する。まるで子供だ。こいつ、仮にも俺と同級生だよな?
齋藤陸「さ、行くぞー。」
湊花譜「むー、分かったよ。行きますかー。」
〇海岸線の道路
俺たちは病院まで顔を出し、こっぴどく叱られた。
まぁ、当然だろう。多方脱走した誰かさんのせいなのだが。
脱走するほど元気なのなら療養も必要ないだろうとのことで、念の為に渡された薬を受け取り、帰る道すがら。
湊花譜「ねぇねぇ、なにか面白い話してよ!」
齋藤陸「唐突だな。」
湊花譜「今、私的には怖い話が来てるんだよ!あ、でも怖すぎるのはNGね、寝れなくなるから。」
子供か。
しかし怖い話。怖い話か。俺は話の引き出しが多い訳では無い。何かあったか・・・。
何やらキラキラした視線を送られてる手前、断りづらい。
あぁ、そうだ。あの話をしようか。出来たてホヤホヤの怖い話を。
齋藤陸「これは俺が経験した話なんだが、あるフェリーに乗っててんだ。」
湊花譜「ほうほう、それでそれで!」
齋藤陸「で、そこからある島が見えて、そこの崖から人が飛び降りた・・・。」
湊花譜「で!で!」
齋藤陸「それだけ・・・。」
湊花譜「それ、だけ・・・?」
齋藤陸「うん・・・。」
湊花譜「陸くん。こんなこと言いたくないけど・・・。」
湊花譜「話作るの、下手・・・?」
齋藤陸「・・・ごめん。」
──気まずい空気。
湊花譜「そ、そう。これから上達するよ!伸びしろがあるってことだ、うん!」
齋藤陸「そ、そうか・・・。」
バシバシと肩を叩かれ、若干雑に慰められる。しかし、それも彼女なりの優しさなのだろう。
やがて、門扉が見えてきた。
湊花譜「そうそう、ママが自転車は自由に使っていいって言ってたよー。」
齋藤陸「そうか。ならちょっとサイクリングでもしてこようかな。花譜もどう?」
湊花譜「私これでも病人だからー。」
齋藤陸「え、まだ治ってないのかよ・・・、なら安静にしてないとだな。」
湊花譜「そ。だから行ってらっしゃい。地図・・・、はスマホあるからいっか」
齋藤陸「あぁ、ありがとな。お大事に。」
どうやら自転車には鍵が差しっぱなしらしい。不用心だな。それほど治安がいいってことだろうか・・・。
俺はゆっくりと自転車をこぎ、道へ進んだ。