あの夏へ

Raito378

少年少女(脚本)

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〇ボロい駄菓子屋
  この自転車はなかなか漕ぎやすい。しかし、チェーンが時折奇怪な音をあげる。
  その点に目を瞑れば、少しブレーキ音がうるさいだけ・・・。
  そこそこ短所はあったが、まぁ気にならない程度だ。運転に差支えはない・・・。たぶん。
  少し進んだとこで、駄菓子屋があった。
日比谷志乃「ほい、200円ねー。」
「ありがとー、志乃姉ちゃん!」
日比谷志乃「毎度ありー。」
  近所の子供たちだろうか。駆け足で海の方向へ走っていく。店番をしてるのは、どうやら俺と同い年くらいの少女のようだ。
日比谷志乃「あら、あなたもお買い物?」
齋藤陸「いや、そういう訳じゃないんだけど・・・。」
日比谷志乃「そうなの。・・・見ない顔ね。観光?」
齋藤陸「うーん、半分正解・・・かな?」
日比谷志乃「何それ。何かほかに目的があるってこと?」
齋藤陸「いや、目的はあった。でもその目的が果たされたから、こうやって島を散策してるんだよ。」
日比谷志乃「なるほどね・・・。私は日比谷志乃。おばあちゃんの代わりに店番してるんだ。」
齋藤陸「よろしく、日比谷。俺は齋藤陸。この近くに住んでる湊花譜の親戚だよ。」
日比谷志乃「花譜の。大丈夫?あの子風邪ひいてたけど。」
  どうやら、日比谷と花譜は知り合いらしい。
齋藤陸「うん、病院から逃げ出したりしてたけど、無事退院できたよ。」
日比谷志乃「ふふ、花譜らしいわね。」
  そう言うと、日比谷はくすりと笑った。
  そういう反応からも、彼女が好かれていたことが伺える。
齋藤陸「で、ここは?みたとこただの和菓子屋だけど・・・。」
日比谷志乃「ただのとは失礼な・・・!」
日比谷志乃「まぁいいわ。それも事実だし。」
日比谷志乃「あなたの言うとおり、ここは駄菓子屋。でもただの駄菓子屋じゃない。」
日比谷志乃「この島の本土の商品の三分の一の物販、及び唯一の通販の受け渡し先となっているこの島の生命線。」
日比谷志乃「文字通りのライフラインなんだから。」
齋藤陸「なるほど。この島で生きる上では欠かせない施設なんだな。日比谷とばあさんの二人で切り盛りしてるのか?」
日比谷志乃「うん。おばあちゃんが店主なの。両親は本土の方で働いてるから、二人で交代でね。でも最近歳なのか、体力の衰えが激しくて。」
日比谷志乃「でも、さっき言った通りこの店はこの島に無くてはならない存在だから、私が変わりに店番してるって訳。」
日比谷志乃「あ、それとここ独自のサービスで、録画したいテレビ番組と500円でダビングできるサービスもあるわよ。」
日比谷志乃「録画媒体は持ち込みだけど、ケース付きブルーレイもこっちで用意してるわ。その場合追加料金500円ね。」
  なるほど、確かにそんなサービスは本土にはなかった。本当にこの島というか、この店独自のサービスだ。
日比谷志乃「ところであんた、何か買って行けば?というか買ってくれる?冷やかしは簡便なんだけども。」
齋藤陸「あぁ、うん。そうだな・・・。これとか。」
  俺はサイダーを取りだし、日比谷の所へ持っていく。
日比谷志乃「毎度ありー。」
  たく、日比谷は商魂たくましいな。これならこの店も安泰というもんだ。
日比谷志乃「あ、そうそう。行く宛てないなら、プレハブ小屋の方に行ってみたら?」
齋藤陸「プレハブ小屋?」
日比谷志乃「私も時々行くんだけどね。そこを根城にしてる奴らがいるのよ。ここらで同年代ってなると、私とあいつらくらいだから。」
齋藤陸「根城って・・・。」
日比谷志乃「まぁ、秘密基地なのよ。誰も使ってない朽ちたプレハブ小屋を、私たちが修繕したの。で、そのまま秘密基地にしたって訳。」
齋藤陸「秘密基地か。いいな、そういうの。誰しも一度は憧れるもんだ。」
日比谷志乃「そうよねー、ロマンよねー。場所はこのまま海沿いに出て、左に曲がったとこにあるから。」
日比谷志乃「気のいい連中だから、すぐに打ち解けられると思うわ。」
齋藤陸「分かった。じゃあ、ありがとな。」
日比谷志乃「またのお越しをー。」

〇海辺
  俺は駄菓子屋を後にして、海沿いに向かった。左折し、しばらくすると砂浜にプレハブ小屋が見えた。あれか。
  砂浜に自転車を留め、プレハブ小屋に近づく。すると、何やら青年が竿を垂らしていた。どうやら釣りをしているようだ。
原幸大「お!大物だ!」
  何やら白熱してるようだ。ここは見守っておこう。
原幸大「うぉおおお!」
  気合を入れてギャルギャルと音を立てながら、リードを巻き上げる。しかし、釣り上げられたのは空き缶だった。
齋藤陸「・・・ふっ。」
原幸大「あぁ・・・、またか。」
原幸大「ところで、あんた誰だ?」
齋藤陸「あぁ、ごめん。俺は齋藤陸。花譜の親戚で、ここには日比谷に教えられて来たんだ。」
原幸大「志乃が。なるほどな。俺は原幸大!」
原幸大「釣りマスターだ!」
齋藤陸「はぁ・・・。」
  さっきの様子を見るに、対極の位置にありそうなのだが・・・。
原幸大「じゃ、秘密基地でも案内するか。案内って言っても、中はただの四畳半なんだけどな。」
  そう言うと、釣り竿を担いで原はプレハブ小屋に向かった。

〇小さい倉庫
  プレハブ小屋に入ると、何やら少女が座って本を読んでいた。
???「あ、幸大。おかえり。どう、魚釣れた?」
原幸大「いや、今回の成果はこれだ。」
???「おー、空き缶。先月の記録更新だね。力作の予感がするよー。」
???「・・・ところで、その人は?」
齋藤陸「あ、俺は齋藤陸。花譜の親戚で、日比谷に紹介されてここに来たんだ。」
間戸修也「そうなんだね。僕の名前は間戸修也。よろしくね。」
齋藤陸「よろしく・・・、って、え?」
齋藤陸「男!?」

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