そして夜は更けていく‥(脚本)
〇シックなバー
松前遊里(私は会社の社内報を担当する事になった)
松前遊里(今回のテーマは「家族」)
松前遊里(各社員から「家族」について聞き取りしていくうちに、私は自分にとっての家族が何なのか、わからなくなっていた‥)
〇シックなバー
オネェ「ねぇ、あんたさ、そのモノローグ調の独り言を店で話すのやめてくんない? 私が背景みたいになっちゃうから」
松前遊里「えっ?」
オネェ「えっ?じゃないわよ さっさと注文しなさいよ」
松前遊里「はーい! じゃあ、ハイボール」
オネェ「ハイボールね、はいはい」
松前遊里「ねー、オネェはどう思う?」
オネェ「何が?」
松前遊里「家族って何なのか 私、よくわかんないのよ」
オネェ「あんた家族いないの?」
松前遊里「だって結婚してないもん」
オネェ「親は?」
松前遊里「うち母子家庭だったし、2年前に母親亡くなってるしね」
オネェ「あらそうなの‥でもさ、お母様とは家族だったでしょ?」
松前遊里「まあ‥でも、母親と仲悪かったから」
オネェ「ふーん、色々と複雑なのね はい、ハイボール」
松前遊里「ありがと‥だからさ、記事を作りながら、なんかしっくりとこなくて」
オネェ「じゃあ、あたしもハイボールごちそうになりまーす!はいカンパーイ!」
松前遊里「カンパーイ!」
松前遊里「って、おい! 奢ってねえよ!」
オネェ「えっ!」
松前遊里「えっ!じゃねえわ! こっちのセリフだわ」
オネェ「やーね、遊里ちゃん感じ悪いわー」
松前遊里「どっちがだよ!」
オネェ「でさ、その家族の何が疑問なわけ?」
松前遊里「奢りの件をさらっと流したな‥」
オネェ「むふふー」
松前遊里「まあ、いいよ、奢るよ だから教えてよ」
オネェ「何を?」
松前遊里「家族って何なのか?」
オネェ「家族ねー」
松前遊里「家族ってさ「夫婦や血縁関係(親子・兄弟)によって構成された集団」って事らしいの」
オネェ「集団‥そうなるのね」
松前遊里「うん‥でも、私みたいに何も無い人は、もしかしたら一生家族になれないかもしれないじゃない?」
オネェ「まあね」
松前遊里「そうなるとさ、実感わかないんだよね‥」
オネェ「それを言われたら私にもわかんないわよ」
松前遊里「オネェは家族いないの?」
オネェ「あんたさ、オカマに向かって家族ネタとかややこしい事をよく聞けるわね?」
松前遊里「だってさぁ‥」
オネェ「父親は小学生の時に亡くなってる、 母親も6年前にね」
松前遊里「そっか‥」
オネェ「だから家族って言われると‥ そうね‥みっちゃんぐらいかな」
松前遊里「みっちゃん?」
オネェ「うん」
松前遊里「誰、それ?」
オネェ「その子」
松前遊里「へ?」
オネェ「だから、その子 みっちゃん」
松前遊里「この縫いぐるみ?」
オネェ「そうよ、その子だけが私の家族かな」
松前遊里「オネェ‥割とヤバい人だったの?」
オネェ「何よ、失礼ね!」
松前遊里「だって縫いぐるみが家族って、 何かちょっと‥」
オネェ「あんたねぇ、何度も縫いぐるみって失礼よ!みっちゃんって名前があるんだから」
松前遊里「はぁ‥」
オネェ「みっちゃんはね、亡くなった父が最後に買ってくれたプレゼントなの」
松前遊里「‥そういう事か」
オネェ「だからこの子は私にとって、 ただ一人の家族なのよ」
松前遊里「そっか‥ごねん、オネェ」
オネェ「いいのよ、私は‥でもね」
松前遊里「でも?」
オネェ「みっちゃんがちょっと拗ねてるから、 ちゃんと謝っといてよ」
松前遊里「は?」
オネェ「だから、みっちゃんには謝っといて」
松前遊里「謝るって縫いぐるみよ、これ?」
オネェ「これって、あんた‥ほら、また拗ねてる」
松前遊里「何?オネェ、ちょっと怖いんだけど‥」
オネェ「まぁ、あんたはみっちゃんと話せないからねー」
松前遊里「オネェは話せるんだ‥マジでやばいかも‥」
オネェ「ちょっとあんたさ、引くのやめてくんない?」
松前遊里「あっ‥あははは でねでね、その家族の話なんだけど」
オネェ「強引に話を戻したわね」
松前遊里「まあ、いいじゃないのー! で、そのみっちゃんの件は置いといて、 どう思う?家族って?」
オネェ「どうって‥そうね‥ 決まりより、今の繋がりを大事に考えれば いいんじゃない?」
松前遊里「どういうこと?」
オネェ「だから、夫婦とか血縁とか、決まり事で家族を考えてるから実感がわかないのよ」
松前遊里「‥はい?」
オネェ「今いる身近な人がその決まりに当てはまらなくても、あんたと大切な繋がりがあるなら、家族と同じでいいんじゃないの?」
松前遊里「大切な‥」
オネェ「そうしたら血縁より濃い繋がりが出来る事だって、きっとあると思うわよ」
松前遊里「‥‥」
オネェ「‥あれ?そういえばさ、 あんた彼氏いなかった?」
松前遊里「あー‥」
オネェ「それと結婚すればいいじゃない、 そうすれば‥」
松前遊里「別れた」
オネェ「あら!なんで?」
松前遊里「‥‥」
オネェ「なに?浮気されたの?」
松前遊里「‥大切な人が出来たって言われた」
オネェ「はぁ?」
松前遊里「私より大切な人が出来たから 別れたいって言われた」
オネェ「あんたは大切な人じゃなかったの?」
松前遊里「私より!! 大切な人が出来たんだって!」
オネェ「大切さってあれね、ランクがあるのね」
松前遊里「‥うるさい」
オネェ「じゃあ、あれだ? がっつり振られたわけだ?」
松前遊里「‥そう」
オネェ「あらあら、お気の毒‥ まぁでも、そんな事もあるわよ」
松前遊里「‥ハイボール、おかわり オネェも飲んでいいよ」
オネェ「はーい、ごちそうになりまーす」
〇黒背景
〇シックなバー
松前遊里「うぃー‥」
オネェ「ちょっと、飲み過ぎなんじゃないの?」
松前遊里「おかわり!」
オネェ「もー、それ飲んでからにしなさいよ!」
松前遊里「うい!」
松前遊里「うい!おかわり!」
オネェ「はいはい、それにしてもよく飲むわね、 これで12杯目よ」
松前遊里「‥それ、オネェの分も入ってない?」
オネェ「てへへ、あんたが8杯であたしが4杯です」
松前遊里「てへへ、じゃねぇよ」
オネェ「はーい13杯目どうぞ でも、もうこれで最後にしなさいよ」
松前遊里「‥ねぇ、オネェ」
オネェ「はい?」
松前遊里「私さ‥もう誰とも家族になれない気がする‥」
オネェ「何よあんた、ちょっと男に振られたぐらいでー」
松前遊里「もう、ずーっと一人で生きていくような気がするの、オネェみたいに」
オネェ「ちょっと何あたしの人生を勝手に決めつけてんのよ!」
松前遊里「ずーっとずーっとずーっと一人なんだ―‥もう誰も大切に思ってくれないんだぁー」
オネェ「‥めんどくさい酔い方するわね、あんた」
松前遊里「ねぇ、オネェー?」
オネェ「なに?」
松前遊里「私も入れて‥」
オネェ「はぁ?」
松前遊里「オネェとみっちゃんの家族にさぁ‥ 私も入れてよ‥」
オネェ「あんた、さっき散々あたしの事をやばい奴呼ばわりしてたじゃない?」
松前遊里「もう、やばくてもいいよー‥」
オネェ「何なのこの女‥」
松前遊里「‥何か一人がさ‥苦しいよ‥」
オネェ「‥‥」
松前遊里「オネェ‥」
オネェ「‥‥だってさ」
みっちゃん「‥‥」
松前遊里「うぐぅぅぅぅ‥」
オネェ「どうする?みっちゃん?」
みっちゃん「‥‥」
オネェ「どうします?」
みっちゃん「‥めんどくさい女だな」
オネェ「そうね‥でもほら、うちの大事な常連さんだし、ちょっと可哀想だからさ」
みっちゃん「うーん‥」
オネェ「それじゃあ、この店に来た時だけは家族って事なら?それならいいんじゃない?」
みっちゃん「‥わかったよ」
オネェ「だってさ、よかったね、遊里ちゃん」
松前遊里「‥はぁ?えっ?」
オネェ「ちょっとー、あんたメイク崩れて 顔がキュビズムみたいになってんだけど」
松前遊里「九尾ZOOM?」
オネェ「いいよ、もう! みっちゃんが家族に入れてくれるって」
松前遊里「ほんとー! あでぃがどぉー!縫いぐるみー!」
みっちゃん「抱きつくな! つーか、酒くせぇよ!」
松前遊里「がぁ!? 何か言った!」
みっちゃん「めんどくさいな、お前!」
松前遊里「何これしゃべんの? AI入ってる? Hey Siri? OK Google?」
みっちゃん「何だよ!近いよ! ちょっと、背中をほじくるな!」
松前遊里「この中に入ってるの? パーツが?USBどこ?」
みっちゃん「ほじくるなって言ってんだろ! ほつれるだろ!縫い目が!」
松前遊里「もふもふー! ぎゅーってしてあげるー!」
みっちゃん「やめろ!化粧がつく!ベージュになるだろ!」
オネェ「よかったね、遊里ちゃん 家族が出来て」
松前遊里「しろくまー!」
みっちゃん「犬だ、犬!」
松前遊里「むふふふふー!」
オネェ「もう聞いてないのね、この女は‥」
そして夜は更けていく‥
〇黒背景
次の日の夜‥
〇シックなバー
オネェ「そろそろお店開けないと‥ん?」
オネェ「あら、遊里ちゃん?」
〇青(ライト)
松前遊里「オネェ、昨日は飲み過ぎて迷惑かけた? あんまり覚えて無いんだけど?」
オネェ「大丈夫よ、いつも通りのあんただったから」
松前遊里「それならよかった! 今日もいく!」
オネェ「お待ちしてまーす」
松前遊里「それとね、スマホで何か撮った?」
オネェ「?」
松前遊里「縫いぐるみに抱き着いた私とオネェが写った画像があって、そこに家族って書いてあるんだけど?」
〇シックなバー
オネェ「なに?あたしが撮ればいいのね?」
松前遊里「ふぉってふぉってー! (撮って撮ってー!)」
みっちゃん「しゃぶるな!尻尾をしやぶるな!」
〇青(ライト)
オネェ「あんたが撮れって言ったから あたしが撮ったのよ」
松前遊里「家族ってなに?」
オネェ「あんたが書いたの」
松前遊里「何で?」
オネェ「あんたが家族にしてくれって言うから、 お店に来た時だけは家族だよって話よ」
松前遊里「何それ?」
オネェ「さあ?何でしょうね?」
松前遊里「わかんない、後で聞く」
オネェ「はいはい」
松前遊里「じゃあね」
オネェ「はーい」
〇シックなバー
オネェ「あの子、ホントに覚えてないのね?」
みっちゃん「めんどくさいやつ」
オネェ「ねー、でもそこが可愛いんだけど」
みっちゃん「ふん!」
オネェ「ふふふ」
オネェ「さて、今夜はどんな夜になるのかな‥」
おしまい
オネェの語り口があまりにもスムーズでリアリティがあって声が聞こえてくるほどでした。みっちゃん、けっこう毒舌ですね。私も顔がキュビズムにならないように注意しよう。
オネェ、常連になりたくなる良い人ですね……奢った覚えの無い2~3杯が気になりますが、きっと些細な問題ですよね🤤
家族とは何なのか、今一度考えさせられました。法や社会に規定されたものなのか、それとも主観に基づくものなのか、遊里さんとオネェさん(さん付けにすると意味合いが変わってきそうですが…)の会話から、また違った価値観が浮かびあげってきますね。そして、みっちゃんの正体って……