水鬼

🟣人皮(ひとか)🟣

水の鬼(脚本)

水鬼

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〇地下倉庫
男「ぐわぁ!」
みずき「僕は水鬼」
みずき「水を操る、水の鬼」
男「・・・」
みずき「ああ」
みずき「もう聞こえてないか・・・」

〇寂れた雑居ビル
由佳(・・・ここ?)
  古ぼけたビルを見上げて女は呟く。
  エントランスに入り郵便受けに目を向けた。
  【びょういんだよ!】
  子供の落書きの様な字で書かれたメモが貼り付けられたポスト。
  女は息を呑む。
由佳(びょういんだよ・・・って)
  だが、自分が行きたい所であるのは間違いない。
  階段を登り、【びょういんだよ!】とメモが貼られたドアの前に立つ。
  どうやらインターホンは無いようだ。
  女は深呼吸をするとドアを叩く。
トンカチ「はぁい!」
  幼げな声と共にドアが開かれた。
  ドアを開いたのは、髪をツインテールにした、少女・・・と言うよりは幼女だった。
  幼女は女を見上げると瞬きをした。
トンカチ「こんにちはぁ! しんかんさん?さいしんさん?」
由佳「え・・・えっと」
  幼い大声が頭に響く。
トンカチ「どっち?どっちなのぉ??」
由佳「あ、あの・・・もう少し小さな声で・・・」
トンカチ「んえ??」
みずき「トンカチ君」
  穏やかな声がした。
  部屋の奥から白衣を着た細身の青年が現れた。
  幼女の頭を撫でると青年は苦笑した
みずき「病院は、静かにお話する所ですよ」
トンカチ「はぁい!!」
みずき「ですから・・・静かにね?」
トンカチ「あ!」
  【トンカチ】と呼ばれた幼女は、両手で口を抑えた。
  その様子が可愛らしく見えて、女は小さく笑う。
みずき「さて」
  白衣の青年は女の方を向く。
みずき「貴女は・・・ここが『どういう場所』か分かって来られたんですか?」
  青年の問い掛けに息を飲むが、次には女は頷く。
由佳「はい・・・」
みずき「そうですか・・・分かりました、診察室へ行きましょうか」
トンカチ「どぞどぞ!」
  トンカチは女の手を取り、中に誘った。

〇病院の診察室
  診察室。通常の医院よりは簡素な内装で、置いてあるのは机と椅子2脚。それだけだった。
  女を椅子へ促すと、青年は女の正面に座る。
みずき「トンカチ君、麦茶を持ってきてください」
みずき「君の分も入れて3つ」
トンカチ「はぁい!」
みずき「さて・・・早速ですが」
  青年は女を見つめた。
  よく見ると瞳の色が水色掛かった色をしている
みずき「貴女は血液を売りに来たんですか? 或いは臓器・・・ですか?」
  青年の問い掛けに女は肩をビクつかせた。
由佳「はい。血液を・・・」
みずき「・・・ここの事は、誰から?」
由佳「彼氏・・・から・・・です」
  女は言葉を続ける。
由佳「私、鳴海由佳と言います。 彼は・・・その・・・」
みずき「無理に名前を出す必要は無いです」
  青年は小さく笑う。
みずき「僕だって、本名は教えられないし・・・」
  小声で呟く。
由佳「え?」
みずき「なんでもありません」
  青年は優しげに微笑む。
みずき「そう言えば、まだ名乗ってませんでしたね」
みずき「私は姫上(ひめかみ)みずきと言います」
由佳「ひめかみ先生・・・」
みずき「はい。 それでは始めますか?」
由佳「は、はい!」
  突然、由佳は手元のカバンを気にし始めた。
由佳「・・・ごめんなさい!」
  カッターナイフを振り上げる由佳

〇病院の診察室
  だが、風がゆかの手元を掠めカッターナイフを払い落とした。
由佳(え?)
蓮「・・・させへんよ?」
  片手を掲げながら、金髪の青年が部屋に入って来た。
蓮「狼ちゃんが『やな感じがする』言うから入ってみたらこれや」
  眼鏡の青年の傍らから、恐る恐るといった風に黒髪の少年が顔を出した。
狼「先・・・生。 大丈・・・夫?」
  刃物を向けられたというのに、みずきは全く動揺はしていなかった。
みずき「有難う蓮君。 狼君も」
蓮「かましまへん。 この位大した事あらへん」
狼「・・・うん」
みずき「さて・・・」
  うずくまる由佳に視線を合わせるみずき。
みずき「何故こんな事をしたのですか?話してもらえませんか?」
  みずきの問い掛けに由佳は小さく頷いた。
みずき「…なるほど」
  一通りの話を聞いて、みずきは頷く
みずき「とりあえず、鳴海さん。貴女はお帰り下さい」
由佳「でも・・・」
みずき「大丈夫ですから」
由佳「・・・」
トンカチ「あのね!」
  黙りこくる由佳の顔を覗き込むトンカチ。
トンカチ「せんせーが、だいじょぶよ〜って言ったらね? 大抵は〜だいじょぶなんだよ!」
由佳「・・・」
トンカチ「トンカチも言うよ! だいじょぶだいじょぶ!よしよし」
  精一杯背伸びをして、ゆかの頭を撫でてきた。
由佳「っ・・・」
  ゆかの頬を涙が伝う。
由佳「ごめん・・・なさい!!」
トンカチ「うん!よしよし!いいこいいこ!」

〇病院の診察室
  由佳を帰らせた後の診察室。
みずき「さて」
  みずきは、トンカチ達3人に目を向ける。
みずき「蓮君、お手数をかけるけど彼女の話の裏を取ってもらえるかな?」
蓮「へい。」
蓮「せやけど、もしかしたら俺のお得意さんが絡んでるかも知れへん」
みずき「そうなのかい?」
蓮「せやから時間は掛からないと思いますわ。任せてや」
  片目を瞑る蓮。
みずき「裏が取れ次第・・・動こう」
  3人を見回す、みずき。
  頷く3人。
みずき「あと・・・は」
  携帯端末を操作する、みずき。
みずき「あ、僕です。 今、話をしてもいいかな?・・・うん、実はね・・・」
  経緯を説明すると、端末からは怒号にも似た声が漏れてくる。
蓮「赤兄、声でかすぎや」
トンカチ「せんせーの、お耳割れちゃうよぉ!」
狼「・・・怖い」
  声の大きさに苦笑を浮かべながら、みずきは話を続けた。
みずき「・・・赤座君は・・・お腹を空かせておいてね」
  続いた言葉にトンカチ達は思わず顔を見合わせる。
トンカチ「おおお」
蓮「え、エグいわぁ・・・」
狼「・・・・・・・・・」
みずき「じゃあね」
  端末を切ると、みずきは立ち上がった。
みずき「始めようか」
  髪で表情は確認できなかったが、いつものみずきよりは低い声だった。

〇センター街
  数日後。とある繁華街。
  ホストクラブの前。
蓮「ここやな」
  蓮は鼻歌混じりに両手を店に翳す。
蓮「さて、いっちょかまそか!」
  両手のひらから暴風が繰り出される。風は店の入っているビルを大揺れに揺らす。
  客が入る前の時間帯を狙った襲撃。
  店の入っているビルには他に店は無い。
  店からは蟻の子の様に関係者が出て来る。
トンカチ「ねえ?ゆかちゃん知ってる子いる?」
  問い掛けるトンカチ。顔を見合わせ合う関係者。
  だったが、金髪の男が走り出した。
蓮「アイツか!」
トンカチ「にっがさないよ〜」
  トンカチは、右手を翳す。
トンカチ「あるてぃめっとはんまー!」
  右手は巨大なハンマーと化す。
  それを振り下ろしたトンカチ。
  同時に地面には亀裂が入った。
  亀裂に足を取られて男は転倒する。
  それでも、なんとか逃げようとする。
狼「・・・任せて」
  狼が走り出す。
  走りながら巨大な黒狼へと変身する。
  素早く男に走り寄り首根っこを銜えた。
蓮「しっかしまあ」
  肩を竦める蓮。
蓮「店ぐるみで、臓器売買やっとるなんて、えっげつないわ〜」
蓮「しかも法外な価格やとか無茶苦茶やん」
  蓮の言葉に腰を抜かしていた店関係者は怯えた表情になる。
店員「なんだよ!お前ら!」
店員「警察か!」
蓮「ポリさん?ちゃうな〜」
  口の端を上げて蓮は嗤う。
トンカチ「トンカチ達は〜 おまわりさんより〜 こっわいよ〜〜アハハ!!」
  クルクル回りながらトンカチが笑った。
蓮「ほな、さいなら〜」
  両手を振ると、蓮の繰り出した風は小さな竜巻となる。
  吹き飛ばされた関係者と店は・・・正しく木っ端微塵となった。
ホスト「・・・そ、そんな」
  怯える金髪の男。
狼「・・・寝て」
  呟くと、人型に戻った狼が男に当て身を食らわした

〇地下室
  金髪の男が目を醒ます。
みずき「起きたかい」
  長髪の男が近付いてきた。
ホスト「てめえは・・・!」
  ふと、自分の両腕が掲げられている事に気付く。
  そして、両手首を一纏めに握られてる事にも。
赤座「ああ?何、先生に『てめえ』とかぬかしてやがる!」
  手首を掴んでいるスキンヘッドの大男が睨んできた。
ホスト「っ・・・!」
みずき「残念だったね」
  笑顔を浮かべる長髪の青年。
みずき「臓器を売り飛ばせそうなお客は囲う。 出来ないお客からはお金を搾り取る、或いは・・・」
  言いながら男は真顔になる。
みずき「自分達の都合の良い様に使う」
ホスト「・・・・・・んだよ!」
  金髪の男は虚勢を貼る様に青年を睨みつけた。
ホスト「てめえが!あんなアホみたいに高い金で臓器買い取りなんかするから悪いんだろうが!」
みずき「ほお。つまり店の客からの臓器抜き取り以外もしていたという事だね」
ホスト「そうだ!てめえのせいでこっちは商売上がったりだ!だから!」
みずき「僕を・・・襲わせた・・・と」
  呟くと、長髪の青年は笑い出す。
みずき「そりゃあ、高いお金は出すさ!そうすれば良いモノが手に入る」
みずき「あ、あと僕は買うだけで売らないし、君が吠える程には買っては無いよ」
  どこか狂気じみた笑い方に金髪の男は黙り込む。
みずき「良いモノを少しだけ。そうじゃなきゃ」
  ゆっくりと自分の隣の大男を指差す。
みずき「その子、お腹を壊してしまうよ」
ホスト「・・・・・・え?」
  同時に、バキバキと骨と肉が軋む音がした。
  恐る恐る目を向ければ…そこには
ホスト「お、鬼!」
  昔話などで見る鬼。そのものだった。
  長髪の男は再び楽しそうに笑う。そして金髪の男に近づいた。
みずき「君や、君のお仲間のやり方・・・良くないね。特に、君は良くない」
ホスト「なっ!」
みずき「せめて、自分で向かって来てくれてたらねぇ・・・」
  パンッと両手を打つ。
みずき「痛くて苦しい思いはしないで済んだのに。お仲間と同じく、瞬時に逝けて」
ホスト「!」
  次の瞬間。金髪の男の全身の毛穴から血が噴き出す。
みずき「いくら、踊り食いと言っても血抜きはしないと・・・ねえ?」
ホスト「ああああ!」
ホスト「なんなんだよ!てめえら!なんなんだよ!」
みずき「・・・そうだね。 君は、もう死ぬから・・・教えてあげるよ」
ホスト「っ・・・」
  いつの間にか茶色から水色へと変わっていた髪を靡かせ、青年はお辞儀をした。

〇モヤモヤ
みずき「僕の本名は【姫神水姫】」
ホスト「ひめ・・・がみ」
  失血で失われつつある意識。だが、その名の持つ意味は分かる・・・
ホスト「【姫神・・・大災厄・・・】」
  この世界に置いて過去最大の異能力者が起こした事件。
  発端は姫神と呼ばれた一族から。
  異能者が引き起こした事件として、最悪の災厄。
  それを知らない者など居ない。男の様なチンピラ紛いの者であっても。
みずき「うん」
  頷くと水姫は言葉を続ける。
みずき「あれは【起こした者】と【鎮めた者】がいた」
みずき「僕は鎮めた者。そして・・・」
  寂しげに目を伏せ、言葉を続けた。
みずき「起こした者は・・・僕の・・・大事な人」
赤座「・・・先生」
  鬼が呟く。
みずき「彼女は、その罪悪感の為に、本当は【さつき】なのに【殺姫】と名乗る様になった・・・」
  悲しげに呟くも、次には笑顔で顔を上げた。
みずき「僕も、それに倣うことにしたんだよ」
みずき「彼女ばかりに・・・恐ろしい名前は名乗らせたくないから」
  もう、意識は無くなる間近。それでも水姫の話は耳に入る。
みずき「僕は【水鬼】水を操る、水の鬼だよ」
ホスト(水・・・それで・・・俺の・・・血を・・・操れたのか・・・)
赤座「先生、どうせこいつ聞いちゃいねえし、俺が喰う前にくたばったら意味ないんじゃね?」
みずき「だね。血抜きも出来たみたいだし・・・」
  最後に男の耳に聞こえたのは、『召し上がれ』と言う水姫の声と噛み砕かれる自分の頭蓋骨の音だった。

〇寂れた雑居ビル
  後日。ノックされる病院のドア。
トンカチ「はぁい!あ!」
  相手を見上げてトンカチは笑う。
トンカチ「ゆかちゃん!」
由佳「こんにちは」

〇病院の診察室
  診察室で、向き合うみずきと由佳。
みずき「どうしました?」
由佳「あの・・・」
  躊躇いながらも顔を上げる。
由佳「あのお店・・・潰れたんです」
みずき「そうですか」
由佳「経営が・・・じゃなくて、物理的に」
みずき「なるほど」
由佳「・・・・・・・・・・・・もしかして・・・」
  言いかけた由佳だったが、みずきの顔を見て押し黙る。
  みずきは笑顔のままだったが、目は・・・笑ってはいなかった。
みずき「・・・鳴海さん?」
由佳「は、はい」
みずき「貴女を騙して・・・不当な借金を背負わせ、挙げ句の果てに僕を襲わせる」
みずき「そんな店も店員も無くなった」
  言葉を続ける。
みずき「これからの貴女の人生は前途洋々。そうですよね?」
由佳「え、ええ・・・」
みずき「でしたら」
  みずきは、由佳に近づいた。
みずき「藪を突いて蛇を出すような真似は、しない方がいいですよ」
  冷ややかに告げる。
由佳「・・・」
  再び椅子に、みずきは戻った。
みずき「お大事に」
  優しげに微笑む。
由佳「・・・は、はい!」
由佳「・・・有難う御座いました!」
  由佳は深々と頭を下げた。

〇明るいリビング
  夜。
  みずきの自宅兼、皆の住まいで夕食を取る4人。
蓮「あの店な?やっぱ俺のお得意さん等も目えつけとったんやて」
トンカチ「そなの?」
蓮「ん」
蓮「やり方がえげつないてな、来週辺り殴り込んだろ思ってたらしいで」
狼「お、お得意さん・・・怖い・・・」
  怯える狼の頭を、蓮は撫でた。
蓮「ハハッ!確かにお得意さんはヤーさんやけど、そないには怖ないで?」
狼「そ、そう・・・なんだ」
赤座「ただいま〜」
  赤座が部屋に入って来た。
  ヘルメットや仕事道具の入ったカバンを床に置く。
トンカチ「あーちゃん、おつかれさま!」
赤座「おお」
狼「ごはん・・・・・・用意するね」
赤座「ああ、狼、座ってていいぞ」
  立ち上がろうとした狼を手で制する。
赤座「当分、飯は食わなくても大丈夫だわ」
  服の上からでも分かる鍛えられた腹を叩く
赤座「いや〜やっぱよう?若い奴の肉は良いよな!」
赤座「しかも全身だろ?モツや骨もめっちゃ腹に貯まるわ!」
赤座「先生!ありがとな!」
  楽しそうに笑う赤座に反し、トンカチと蓮は眉を寄せ、狼は半泣きな顔になる。
赤座「ん?どした?」
みずき「・・・赤座君」
  苦笑を浮かべて、みずきは首を振る。
みずき「お食事中に、そういう話は良くないよ?」
赤座「あ、悪っりい悪い!想像しちまったか」
トンカチ「あーちゃんのバカちん!」
蓮「赤兄!何追い討ちかけてるんや!」
蓮「うえ・・・あかん、気持ち悪・・・」
狼「うぅ・・・・・・」
  怒る3人に両手を合わせて謝る赤座。
  そんな4人を、見つめるみずき。
  いつか・・・いつか、君にも彼等に会ってほしい・・・
  そして、1日も早く・・・
  君の望みを叶えたいよ。さっちゃん
トンカチ「せんせー?」
  赤座によじ登り『おしおき!』と、スキンヘッドをパシパシと叩いていたトンカチが、みずきの方を向く。
みずき「なんでもないよ」
  皆に笑顔を向けた。

次のエピソード:第2話

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