装幀家探偵アドミ

やましな凄春

第4話 ハヤシザキ(脚本)

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〇高層ビルのエントランス
  エントランスで待っていたのはハヤシザキの社長。
  若作りだけど、50代くらいでしょうか。
七ツ森アドミ「ハヤシザキの社長の林崎大輔さんですか」
林崎大輔「これはこれは。警視庁の捜査一課の警部さんが来るとお聞きしたので、どんな方が来られるかと思ったら」
林崎大輔「女優さんかと。七ツ森警部」
七ツ森アドミ「ちょ、そんな」
七ツ森ヤオコ「ちょいちょい、七ツ森警部は私です!」
林崎大輔「え!? これは失礼しました、七ツ森警部。 ではこちらは・・・」
七ツ森アドミ「妹の七ツ森アドミです。装幀の仕事をしていて、姉よりは本に詳しいので、捜査の協力をしているんです」
林崎大輔「なるほど。で、刑事さん、私に何か?」
七ツ森ヤオコ「はい。単刀直入に伺いますが、川元海道さん、柿野雄三さんをご存知ありませんか? 柿野さんは昔御社の社員だったようですが」
林崎大輔「柿野さん? 今、ウチの社員にはいないですが・・・何か事件でもあったんですか?」
七ツ森ヤオコ「そのお二人が殺されまして・・・柿野さんのほうが昔、林崎印刷機械さんに所属していたとわかったんです」
林崎大輔「殺人事件、ですか。残念ながら、ウチは親父の会社とは別会社ですから、当時のことは・・・」
林崎大輔「おいくつだったんですか、その方?」
七ツ森アドミ「お二人とも78歳です」
林崎大輔「じゃあ、私ではわからないでしょう。父が会社を潰した時、私は高校生でしたから。おかげで苦学しましたよ」
七ツ森ヤオコ「確か、御社はもともとPCゲームのメーカーでしたよね。それがなぜフォントを?」
林崎大輔「父の会社の倉庫を整理した時に、オリジナルの活字をたくさん見つけたんですが、それらが、すごくいい字体だったんで」
七ツ森ヤオコ「それで、ハヤシザキのフォントとして売り出したんですね」
林崎大輔「売り出したというか・・・当時2番手だったDTPソフトに内蔵してもらったんです」
林崎大輔「そしたらそのソフトが業界標準になりまして」
七ツ森ヤオコ(アドミ、この社長、どう見るね)
七ツ森アドミ(たぶん、本当に何も知らない)
  相手のいいたいことが、目と目でなんとなくわかる。
  これは「双子」ならではの特技です。
七ツ森ヤオコ「わかりました。質問は以上です。 ご協力ありがとうございました」
  林崎社長の顔が、ほっと安心したようにほころぶのが見えました。
七ツ森ヤオコ「あ、それから林崎社長! この《活字ミュージアム》って、見ることできます? 前から来たかったんです! ファンなんで!」
林崎大輔「ええ。どうぞ。ぜひ御覧ください。生き字引みたいなキュレーターがいますので」

〇美術館
和坂「というわけで、今のDTPも、浮世絵の木版印刷から、活版印刷、写真植字、電算植字と、連綿と続いておるわけです」
  私たちが案内されたのは活字の歴史をたどるミュージアム。
  私たちは学芸員の和坂さんから印刷の歴史を教えてもらいました。
七ツ森アドミ「ハヤシザキの開業の地は関西なんだ・・・」
和坂「そう。兵庫県の神戸の近くに林崎という地名があって、そこが先代の出身地で会社のルーツでもあるんですわ」
七ツ森アドミ「和坂さんも関西ですか」
和坂「そうなんです。最初は先代の元で活字を拾うアルバイトから入って」
和坂「『銀河鉄道の夜』のカンパネルラと一緒ですわ。ダハハ」
七ツ森アドミ「文選のお仕事は大変なお仕事だったんじゃないですか?」
和坂「いやあ、楽しかったですわ。 頭使いながら、手も足も運動にもなる」
七ツ森ヤオコ「では、社員の柿野さんはご存知ですか?」
和坂「はて、柿野さん・・・なんや聞いたことあるような。でも、東京や大阪の人やないね」
七ツ森ヤオコ「小樽ですね」
和坂「ああ、北海道かいな。あっちの方の人はちょっとわからんねぇ・・・」
和坂「確か地下の書庫に昔の名簿があったはずなんで、確認しますわ」

〇警察署の資料室
和坂「ちょっと探しますよってに、そのへんの本でも見といてくれますか」
  書庫には、印刷や字体関係の本が並んでいました。
  すごい本がいっぱいで、何日でもいられる感じです。
七ツ森ヤオコ「ちょ、アドミ、なにうっとりしてるの! 例の本があるか探すチャンスでしょ!」
七ツ森ヤオコ「例のあれやってよ! 書棚走査(サーチ!)」
  「書棚走査」。それは書棚を高速で流し見ると、探している本が光ったり、声がしたりする、古書マニアには必須の能力です。
七ツ森ヤオコ「見つかった?」
七ツ森アドミ「うーん・・・面白そうな本はいっぱいあったけど・・・これだっていう『本からの呼びかけ』はなかったな」
七ツ森アドミ「ただ・・・気になるものが・・・」
  私は、奥の方の本棚で見つけた古い紙箱を取り出しました。
七ツ森ヤオコ「箱・・・!?」
  箱には《Kunveno Por Studi Granda Urso》の文字が。
七ツ森ヤオコ「なんて読むの」
七ツ森アドミ「わからない。英語でもフランス語でも、ドイツ語でもスペイン語でもないみたい。 アイヌ語でもないようだし・・・」
  と、そこに和坂さんが古い資料を持ってやってきました。
和坂「お、それは・・・また古いもん見つけはりましたな。 そりゃあ、エスペラント語ですがな」
七ツ森アドミ「そうか! エスペラント語」
七ツ森ヤオコ「エスペ・・・? なんだいそれは」
七ツ森アドミ「世界共通語として開発された人工言語で、戦前に流行したの」
七ツ森アドミ「大正期の作家や文化人には愛好した人が多いのよ。宮沢賢治とか」
七ツ森ヤオコ「へー。なんて書いてあるのかわかる?」
七ツ森アドミ「さすがに・・・」

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