装幀家探偵アドミ

やましな凄春

第5話 斗(たたか)う装幀家(脚本)

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〇車内
  関野先生が危ない! 私はヤオコ姉さんとパトカーに乗り込みました。
七ツ森ヤオコ「関野先生は今どこに?」
七ツ森アドミ「確か今日は・・・神保町のギガンテ書廊の装幀展に在廊中のはず」
七ツ森ヤオコ「OK。そこに急ごう。 上林氏、ご自宅にも警備を」
上林「了解です!」
七ツ森ヤオコ「『北斗星の会』の同人は4人・・・残る2人は関野先生と故人の『H』氏か」
七ツ森ヤオコ「・・・言いたかないけど、関野先生が容疑者という可能性も・・・」
七ツ森アドミ「たぶん、ないと違う・・・私の予想が正しければ・・・」
七ツ森ヤオコ「ほう、犯人の目星がついてるのかい」
七ツ森アドミ「とにかく、いまは先生のところに急ぎましょう」

〇本屋
  私たちが大型書店併設の画廊に着いた時、関野先生はマスクとサングラスをかけた男ともみあっていました。
七ツ森ヤオコ「関野先生を放しなさい!」
  ヤオコ姉さんは特殊警棒を取り出し、犯人に向かって構えます。
  関野先生・・・私が装幀家を目指すきっかけをくれた人・・・押しかけた私を今の会社に推薦してくれた・・・!
七ツ森アドミ「待ちなさい!」
  私は関野先生と男の間に割って入りました。
七ツ森アドミ「関野先生は出版界の至宝! 先生を傷つけることは日本の・・・いや世界の文化と知の世界への大冒涜よ! 許さない!」
男「邪魔するな!」
七ツ森アドミ「きえええい!」
  私は殴りかかってきた男の拳を捕らえ、そのままみぞおちに正拳突きを食らわせました。
七ツ森ヤオコ「ナイス! さすが七ツ森家最強! 武道合わせて十三段!」
七ツ森アドミ「それより早く先生を!」
  ヤオコ姉さんは関野先生を犯人から引き離しました。
七ツ森アドミ「やっぱり・・・あなたでしたね・・・」
男「・・・うう」
  私は倒れ込んでいる犯人の顔のサングラスとマスクを外しました。
七ツ森アドミ「初本はじめさん」
  それは数日前に事務所で会った漫画『空奇(うつくし)ものがたり』の作者兄弟の兄・初本はじめさんでした。
七ツ森ヤオコ「え・・・!?」
  はじめさんの近くに何かが落ちていました。
  それは関野先生の小さくて美しい本『斗(たたか)う装幀家』の初版・・・
  そして小さな金属の棒・・・「斗」が刻まれた活字でした。
七ツ森アドミ「《ウトゥルチクシ》活字・・・この名前を聞いた時から、気になってたんです・・・」
七ツ森ヤオコ「どういう意味だい」
七ツ森アドミ「あとがきには郷土の《ウトゥルチクシ》壁画の名からつけたとあるけど・・・元々はアイヌ語由来の地名・・・」
七ツ森アドミ「「我らがその間を通る所」・・・後に漢字を宛て、空奇(ウツクシ)と訓み慣らされた・・・」
七ツ森ヤオコ「《ウツクシ》!?」
七ツ森アドミ「そう。はじめさんの漫画『空奇(うつくし)ものがたり』の舞台、4人の青年が青春を過ごした村の名です・・・」
七ツ森アドミ「北の大地で4人の青年が忘れられた郷土詩人を称える会を作り、愛憎を越えて一冊の遺稿集を編むために奮闘する・・・」
七ツ森ヤオコ「たしかに、北斗星の会の四人と似た状況だわね」
七ツ森アドミ「おそらく・・・あなたは、残り1人の同人、H氏の・・・お孫さん、ですね」
七ツ森ヤオコ「・・・え、どゆこと!?」
  そのとき、ドタドタと警官隊が到着しました。
初本はじめ「ああ。そうだ。そして、この男を殺すことで、彼の復讐が完遂する・・・」
  はじめさんはポケットからナイフを取り出し、関野先生に向けました。
七ツ森ヤオコ「復讐・・・!?」
七ツ森ヤオコ「ナイフを捨てなさい!」
  ヤオコ姉さんははじめさんに拳銃を向けました。
初本はじめ「最初は・・・美しい物語だった。彼らは《北斗星》の遺稿集のために青春をかけ、その本は美しい活字で刷られた」
七ツ森アドミ「《ウトゥルチクシ》活字ね・・・」
初本はじめ「ああ。それは小樽の林崎印刷の活版部にいた祖父・初本柴三郎が敬愛する《北斗星》のためだけに彫った活字だ」
初本はじめ「だが、祖父の活字の価値に目をつけた奴らは、まずは《ウトゥルチクシ》活字を売ろうと画策したのだ!」
初本はじめ「それが失敗すると、林崎の倉庫から祖父が手掛けた別の活字原版を盗み、それを他社に売ろうとした・・・」
初本はじめ「祖父は奴らを止めようとしたが、逆に主犯に仕立て上げられ、濡れ衣を着せられ・・・会社をクビになった」
七ツ森アドミ「なるほど。そんな経緯があったから、あとがきの名前もH氏なんてぼかした表記にしていたのね」
初本はじめ「川元たちは祖父が作った活字で自著を作り、それを足がかりに地位や金を得た。 なのに祖父だけは本も出せず・・・」
初本はじめ「友の裏切りによるショックと過労がたたり、病に臥して、極貧の中で死んでいった!」
初本はじめ「枕元にバッグいっぱいの日記を残して!」
初本はじめ「最晩年の日記の最後には歪んだ字でこう走り書きされていた」
初本はじめ「『私を騙した同人会の奴らを、誰か殺してくれ』と」
初本はじめ「悪筆の祖父の文字を解読しながら、俺は涙が止まらなかった」
初本はじめ「これが、今描いている美しい物語のラストなのかと・・・」
七ツ森アドミ「だから・・・お爺様に変わって、復讐を決意した・・・と」
初本はじめ「それだけじゃない! 最近、川元と柿野が《ウトゥルチクシ》活字をPCフォントとして売ろうと実家に訪ねてきた・・・」
初本はじめ「事情を知らない母を騙し・・・祖父が青春をかけた活字が、今再び、こんな奴らの欲望のために・・・だから!」
七ツ森アドミ「・・・現場に活字と本を置いたのも、このことを公にするためね」
初本はじめ「ああ。後はメディアが勝手にかぎまわって、事件のことを世間に知らしめることができる・・・」
七ツ森ヤオコ「それじゃ、まんまと私たちも、あなたの思惑にハマったってわけね」

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