ゾンビ専門 しかばね通訳社

久望 蜜

アナタの願い、叶えます!(脚本)

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久望 蜜

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〇水玉2
叶(かなえ)「あなたは、どうしますか?」
「最愛の家族が、ある日突然──」

〇モヤモヤ
「ゾンビになってしまったら──」

〇荒廃したショッピングモール
  20XX年、日本に突然ゾンビが溢れた。

〇荒廃した街
  ゾンビは人々を襲い、増えつづけた。

〇ハチ公前
  ゾンビ化の進行や感染を抑える「防腐薬」ができてからは日常をとり戻したが、
  ゾンビになった人間はもとに戻ることなかった。
  人を襲うことはないものの、
  ゾンビたちは言葉を発することができない。
  街には意思の疎通ができないゾンビたちが、
  数多く残ることとなった──。

〇謎の扉

〇古書店
叶(かなえ)「ようこそ、「しかばね通訳社」へ!」
太郎「ここで、ゾンビの言葉がわかると聞いてきました」
叶(かなえ)「はい、弊社はゾンビ専門の通訳社です」
太郎「君には、ゾンビの言葉がわかるんですか?」
叶(かなえ)「いえ、通訳人は私の兄です」
叶(かなえ)「ただ兄は人見知りのため、ゾンビ本人としか会えません」
叶(かなえ)「兄の言葉を私が聞いて、それをお伝えすることになります」
太郎「それでもいいです」
太郎「またハナさんの言葉がわかるなら・・・」
叶(かなえ)「失礼ですが、恋人さんですか?」
太郎「告白を、したんです」
太郎「でも、返事を聞く前にゾンビになってしまって・・・」
叶(かなえ)「わかりました」
叶(かなえ)「アナタの願い、叶えます!」
叶(かなえ)「ハナさん、こちらへ来てください」

〇小さな小屋
叶(かなえ)「お兄ちゃん、依頼だよ」
ハナ「あ・・・う・・・あ・・・」
願(ねがい)「・・・わかった。その言葉、伝えよう」
願(ねがい)「本当は、俺が直接伝えられたら早いんだけどな」
叶(かなえ)「いったでしょ?」
叶(かなえ)「何でかお兄ちゃんは人間の言葉を話せるけど、」
叶(かなえ)「他に言葉を話せるゾンビなんて見つかってない」
叶(かなえ)「だから、他の人に見つかれば間違いなく実験動物だよ」
願(ねがい)「わかっている」
願(ねがい)「お前を一人で置いていくようなことは、絶対にしない」

〇古書店
叶(かなえ)「お待たせしました」
叶(かなえ)「では、通訳を始めます」
叶(かなえ)「太郎さん、私も好きです」
太郎「ハナさん・・・!」
叶(かなえ)「でも、ごめんなさい」
太郎「え?」
叶(かなえ)「私はこんな姿になってしまった」
叶(かなえ)「アナタに迷惑をかけるわけにはいかないの」
叶(かなえ)「だから、ごめんなさい」
太郎「ゾンビだからって、何だ!」
太郎「ハナさんは、何も変わらないじゃないか!」

〇見晴らしのいい公園
太郎「昔から研究室に籠もってばかりだった僕を、よく外に連れだしてくれた」
太郎「ゾンビになってからも、それは変わらなかった」
太郎「ゾンビになって動くのが大変なうえに、」
太郎「言葉も通じないのに、無理やり引っぱって」

〇古書店
太郎「やっぱりゾンビになっても、ハナさんはハナさんだよ」
ハナ「あ・・・あ・・・」
叶(かなえ)「通訳がなくても、心は通じあえたようですね」
太郎「ありがとうございました」
叶(かなえ)「また、いつでもどうぞ!」

〇SNSの画面
  アナタの願い、叶えます!
  ゾンビのことでお困りなら、
  ゾンビ専門「しかばね通訳社」へ!

〇古書店
大樹「たのもー!」
叶(かなえ)「ええと、何の用ですか?」
大樹「俺の願いを叶えてくれるんだろ?」
叶(かなえ)「えっと、そういう意味では・・・」
大樹「どうしても、ゾンビと話したいんだ!」
叶(かなえ)「お母さんかお父さんは?」
大樹「・・・母ちゃんが、ゾンビなんだ」
叶(かなえ)「・・・お話を伺いしましょう」

〇明るいリビング
大樹「母ちゃんは怒りっぽくて、口うるさかった」
大樹「あの日もいつもみたいにケンカして──」
大樹「母ちゃんなんて、大嫌い!」
大樹「思わず、そういっちゃった」
大樹「もちろん、本気じゃなかった」

〇明るいリビング
大樹「でも、次に会ったとき──」
大樹「母ちゃんは、ゾンビになっていた」

〇古書店
大樹「それから謝ったけど、」
大樹「母ちゃんが許してくれたか、わからないんだ」
大樹「だから、お願い」
大樹「母ちゃんと話したいんだ」
叶(かなえ)「わかりました。その依頼、承ります」
叶(かなえ)「お母さんは今どこに?」
大樹「家!」
叶(かなえ)「あの、お母さんをここへ連れてきてくれます?」
叶(かなえ)「通訳人がここから出られないので・・・」
大樹「でも、何でかわからないけど、」
大樹「母ちゃんは家から出たがらないんだ」
大樹「通訳人が来てよ」
叶(かなえ)(そんな期待の眼差しで見られても・・・)
叶(かなえ)「えーと、少々お待ちください」

〇小さな小屋
叶(かなえ)「お兄ちゃん、どうしよう・・・?」
願(ねがい)「お前はどうしたいんだ?」
叶(かなえ)「私は・・・ゾンビも、周りの人間も、」
叶(かなえ)「全員に幸せになってほしい」
叶(かなえ)「私はたまたまお兄ちゃんと話せるからまだいいけど、」
叶(かなえ)「家族がゾンビになった悲しみは、よくわかるから」
  家族を失ったと思った絶望感も、
  まだ生きていたという希望に縋りたい気持ちも──。
叶(かなえ)(でも、きっと言葉が通じない分、あの子はもっと傷ついている)
願(ねがい)「ハア・・・」
願(ねがい)「お前は俺に残された、唯一の家族なんだ」
願(ねがい)「どんな無茶なものでも、お前の願いは叶えてやりたい」
願(ねがい)「その想いは、ゾンビになってからも変わらない」
願(ねがい)「何とかしてみせるさ」
叶(かなえ)「えっ、その格好で行くの!?」

〇古書店
願(ねがい)「待たせたな」
大樹「えっ、何!?」
願(ねがい)「俺が通訳人だ。家に案内しろ」
叶(かなえ)(この格好で、本当にいいのかな・・・?)

〇一軒家

〇明るいリビング
ミキ「あ・・・あ・・・」
大樹「母ちゃん、いつも家に閉じこもって、ああやって部屋を散らかしているんだ」
大樹「何を考えているのか、さっぱりだよ」
願(ねがい)「なるほどな」
ミキ「あ・・・」
ミキ「ああああああああ・・・!!」
叶(かなえ)「どうして!?」
叶(かなえ)「ゾンビはもう、人間を襲わないはずなのに!」
叶(かなえ)「お兄ちゃん!」
願(ねがい)「大丈夫だ。何ともない」
ミキ「うう・・・うう・・・」
大樹「やめてよ! 母ちゃん!」
願(ねがい)「くっ」
大樹「俺のいうことが、わからないの!?」
大樹「やっぱり俺のこと、怒ってるの!?」
大樹「母ちゃん・・・うっ・・・ひっく・・・」
叶(かなえ)「大丈夫です」
叶(かなえ)「こんなに想っているんです」
叶(かなえ)「アナタの心は、きっと通じています」
叶(かなえ)「どんな姿になったとしても、アナタのお母さんなんだから」
願(ねがい)「ああ、そうだ」
願(ねがい)「この人は俺を不審者だと勘違いして、お前を守ろうとしただけだ」
願(ねがい)「守りたい大事な家族がいるのは、俺も同じ」
願(ねがい)「ゾンビになっても、その想いに変わりはない」
願(ねがい)「なあ、そうだろ?」
ミキ「ああ・・・ああ・・・」
願(ねがい)「俺は大樹に頼まれて、アンタの通訳に来た」
願(ねがい)「俺の通訳が本当か嘘かは、アンタにはすぐにわかるはずだ」
願(ねがい)「だから、襲うのはその後にしてくれるか」
大樹「そうだよ、母ちゃん」
大樹「俺、母ちゃんと、ちゃんと話したいんだ」
ミキ「うう・・・」
大樹「家に籠もりたがる理由もよくわからないし・・・」
願(ねがい)「ああそれは、通訳をするまでもなくわかる」
大樹「えっ、何!?」
願(ねがい)「家事をしていたんだ」
願(ねがい)「ゾンビになって細かい作業ができなくなっても、」
願(ねがい)「母親としての責任を果たそうとしていたんだ」
大樹「本当なの、母ちゃん?」
ミキ「ぐう・・・あ・・・」
願(ねがい)「ただ、散らかしているだけになっていたのは確かだし、」
願(ねがい)「今後は家族に頼ったほうがいいと思うぞ」
ミキ「ぐ・・・う・・・」
大樹「ねえ、母ちゃん」
大樹「あんなことをいって、ごめんなさい」
大樹「俺、母ちゃんのこと、大好きだから!」
ミキ「あ・・・あ・・・」
願(ねがい)「ボソボソ」
叶(かなえ)「・・・わかった。では、通訳を始めます」
叶(かなえ)「私も大好きよ、大樹」
叶(かなえ)「ごめんなさい」
叶(かなえ)「お母さんのせいで、つらい思いばかりさせて」
大樹「そんなことないよ!」
大樹「ゾンビになっても、母ちゃんは母ちゃんだって、わかったもん!」
大樹「だから、平気!」
叶(かなえ)「大樹・・・ありがとう」

〇一軒家
大樹「兄ちゃん、姉ちゃん、今日はありがとう」
叶(かなえ)「また、いつでもどうぞ!」
大樹「うん、じゃあね!」
叶(かなえ)「お兄ちゃん、ありがとうね」
叶(かなえ)「私の願いを叶えてくれて」
願(ねがい)「いや」
叶(かなえ)「でも、今回はせっかくお兄ちゃんが来たんだから、」
叶(かなえ)「直接通訳してあげればよかったのに」
願(ねがい)「俺にはお前みたいに演技して、それっぽく伝えるなんて器用なことはできない」
叶(かなえ)「まあ確かに、人間のときから演技ができないのは知っているけど・・・」
叶(かなえ)「ねえ、お兄ちゃん」
叶(かなえ)「ゾンビ化は不幸なできごとだけど、絶望じゃない」
叶(かなえ)「だって、ゾンビでもまだ生きているんだもの」
願(ねがい)「ああ」
叶(かなえ)「お兄ちゃんの通訳があれば、それを証明できる」
叶(かなえ)「だがら、これからも力を貸してね」
願(ねがい)「任せろ。お前の願いは、俺が叶えてやる」
叶(かなえ)「さてさて、次はどんな依頼がくるかな」

〇謎の扉

〇古書店
叶(かなえ)「アナタの願い、叶えます!」
叶(かなえ)「ゾンビのことでお困りなら、」
叶(かなえ)「ゾンビ専門「しかばね通訳社」へ!」

コメント

  • 面白かったです!!それぞれの家族の関わりあいにジンときました😭✨ 家族をテーマにしたコンテストでゾンビを思いつく久望さんの発想力に感動ですし、それを通訳に結べるところもすごいです😊!

  • ゾンビだって生きている!
    今までできていた事ができなくなったり会話ができなくなったゾンビ達と人間の架け橋になるのがいいですね。
    切ないけどちょっとほっこりしてしまいました。

  • ゾンビに対して変わらず温かな気持ちを持つ人たちにほっこりしました😊でも、そうじゃないパターンもたくさんあるでしょうね……
    ゾンビだから書くのも不自由ということですよね。意思が通じないってどんなに苦しいだろうと思います。

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