装幀家探偵アドミ

やましな凄春

第2話 星のうた(脚本)

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〇雑誌編集部
七ツ森ヤオコ「アドミ、あんたの力が必要なの! この近くで、殺人事件が起こったのよ」
  この女性警察官の制服を着た小柄な女性は、七ツ森ヤオコ。
  私より身長が30センチ小さいけど、一応私の・・・お姉ちゃんです。
七ツ森アドミ「お姉ちゃん。また私に捜査を手伝わせようって算段でしょ。無駄です。私は忙しいんです」
七ツ森ヤオコ「そのシオシオの対応はなんだい、妹よ! 『姉妹仲良く協力せよ』という警視総監のおじい様の言葉を忘れたのかい!」
七ツ森アドミ「私は民間人です! だいたい何なの、その制服は!」
七ツ森アドミ「アンタ、警視庁捜査一課の警部でキャリアなんだから、スーツ組でしょ!」
七ツ森アドミ「コスプレはコミケとかだけでやってください!」
七ツ森ヤオコ「コスプレじゃない本物だい! 交番勤務の同期に貸してもらったんだい!」
七ツ森ヤオコ「第一、キャリアが婦警の制服着ちゃダメっていう法律はありません!」
七ツ森アドミ「仕事中なんです! 帰ってください!」
七ツ森アドミ「すみません、初本先生。 お騒がせしてしまって」
初本つなし「いえいえ。 ずいぶん明るいお姉さんですね」
七ツ森ヤオコ「キャー、どなた? このシュッとした方々は?」
星まるお「こちら、初本つなし先生です。単行本の装幀の打ち合わせで・・・こちらが原作のお兄さん、初本はじめ先生」
七ツ森ヤオコ「キャー! 初本つなし先生ですか! 同人時代からファンです!」
アポさん「今度の作品は北海道を舞台に、アイヌの壮大な伝説と、それを未来に伝えるために奮闘した若者たちの青春群像劇なんです」
七ツ森ヤオコ「もちろん読んでますます! 見る用、保存用、飾る用に単行本3冊買いますから全部にサインください!」
七ツ森アドミ「愛嬌をふりまかないでください! 先生たち困惑してるじゃない」
七ツ森ヤオコ「あ、電話だ、ちょっと失礼」
七ツ森ヤオコ「あ、ボスボス? ええ。特別捜査協力者。そう。美人の。はいはい。装幀家の。ええ。代々木公園ですよね。すぐ行きまーす!」
七ツ森アドミ「捜査協力者なんて、私は行きませんから。仕事中ですし」
七ツ森ヤオコ「星さーん。ちょっとお願いがあるんですけど・・・アドミさんを貸していただけないですか。お願いしますよ~」
七ツ森アドミ「星さん! そんな国家権力の横暴に負けないで、ビシッと言ってやってください!」
星まるお「あ、ああ」
七ツ森ヤオコ「星さーん。ピラっ! これなんだかわかります?」
星まるお「こ、これは・・・警察関連の印刷物のデザイン発注依頼書!」
星まるお「しかも長期プロジェクト、大口で単価も高い!」
七ツ森ヤオコ「アドミを貸してくれたら、これを『御社に直接発注』しますよ」
星まるお「直発注! 通常何重にも入る中抜きがなしですと・・・? あわわわわ」
七ツ森アドミ「ちょ、星さんが変に! 邪悪な力に負けないでください!」
星まるお「ははー、毎度おおきに! どうぞ今後ともよろしうお願いします!」
七ツ森アドミ「ちょっと! 星さん! 口調までおかしく・・・」
星まるお「じゃ、アドミくん。ここはウチの業務として、お姉さんをお手伝いしてあげてください。無論残業も休日出勤もつけ放題だから」
七ツ森アドミ「そんな、これからの打ち合わせはどうするんですか!」
星まるお「大丈夫! あとで共有するから」

〇見晴らしのいい公園
  こうして、ヤオコ姉さんに半ば連行されるように、私は事件現場の代々木公園に連れてこられたのでした。
七ツ森アドミ「まさか、星さんが・・・国家権力に屈するなんて・・・」
七ツ森ヤオコ「ぶつぶつ言わないで、これ手袋。あとこれ、特別技能捜査協力者の腕章をつけて。ちゃんと謝礼も出すんだから」
七ツ森アドミ「お姉ちゃん・・・いい加減にしなさいよ。民間人は金で動くと思ってる?」
七ツ森ヤオコ「まあまあ、気でも取り直して、遺体でも見に行こうじゃないか」
七ツ森ヤオコ「森の中にひっそりたたずむ知らない人の遺体、見たいでしょ」
七ツ森アドミ「そんなもん見たくありません!」
七ツ森ヤオコ「はいはいはい。被害者は男性、身元不明。年齢70歳から80歳」
  ・・・首筋を鋭利な刃物で切られた遺体。その目は何かを訴えるかのように見開かれたままです。
七ツ森ヤオコ「死因は刃物で首筋を切られたことによる失血死」
七ツ森ヤオコ「今朝方、太極拳のおばちゃんたちが発見したそうよ」
七ツ森ヤオコ「ちな、これ遺留品」
七ツ森アドミ「見たくありません」
七ツ森ヤオコ「いや、見たくなると思うよ。被害者の遺体の上にはなぜか、昭和20年代に出た古い本が置かれていた・・・」
七ツ森アドミ「・・・本?」
七ツ森ヤオコ「ええ。無名詩人の詩集でタイトルは『星のうた』」
七ツ森ヤオコ「作者は修羅春斗となってるけど、正体は調査中。何かわかることはある?」
七ツ森アドミ「・・・これは・・・ビニール袋から出して見ていい?」
七ツ森ヤオコ「いいよ。大事に扱うように」
七ツ森アドミ「この装幀、すごい・・・」
七ツ森アドミ「四六判、ブラッククロス、銀箔押し、このタイトルのレタリングも、素朴なイラストもすごく味わい深い」
七ツ森アドミ「なんか、最初に装幀家になりたいと思った、その時の本に似てる」
七ツ森ヤオコ「なんか言ってたね。 あの星さんの師匠の関野先生だっけ」
七ツ森アドミ「ええ。関野静一郎先生の装幀。読む前に抱きしめたくなって、読んだ後にはもっと抱きしめたくなるような・・・そんな本」
七ツ森ヤオコ「ページ、開けてみなよ」
七ツ森アドミ「うん。え・・・!?」
  その本を開いたとき、私は思わず言葉を失ってしまいました。
七ツ森ヤオコ「どうしたの」
七ツ森アドミ「内容よりも、何よりも・・・その活字が・・・こんなに美しい字体、見たことない」
七ツ森ヤオコ「へえ、そんなもんかい」

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コメント

  • めちゃくちゃ面白いです。
    私もよく本を読むのですが、星のうたという本見てみたくなりました。

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