装幀家探偵アドミ

やましな凄春

第1話 装幀家探偵アドミ登場!(脚本)

装幀家探偵アドミ

やましな凄春

今すぐ読む

装幀家探偵アドミ
この作品をTapNovel形式で読もう!
この作品をTapNovel形式で読もう!

今すぐ読む

〇雑誌編集部
女子中学生「装幀家(そうていか)ってどんなお仕事なんですか?」
七ツ森アドミ「そうね・・・『装幀』っていうのは『装丁』とも書くんだけど、ブックデザイナーのほうがわかりやすいかな」
  ここは装幀事務所《アメディオ》
  私は七ツ森アドミ。
  入社5年め、駆け出しの装幀家です。
女子中学生「ブックデザイナ―?」
七ツ森アドミ「本のカバーや表紙をカッコよくデザインしたり、本の中の文字や画像を読みやすくビシッと配置したりする。そんなとこかな」
女子中学生「本のデザイナーって本の表紙の絵を描く人だと思っていました」
七ツ森アドミ「まあ、そういうこともあります。装幀は本の売上げにも大きく関係してくるから責任重大なんです」

〇雑誌編集部
七ツ森アドミ「はあー、疲れたぁー」
星まるお「どーも、お疲れ! アドミちゃん。 社会科見学の中学生たちはどうだった?」
  このガラの悪いおじさんは、「アメディオ装幀事務所」の星まるお社長。
  私の装幀の師匠です。
七ツ森アドミ「社長~! こういうの、私に押し付けないでください! 喋るの苦手だって知ってるでしょ」
星まるお「ま、デザイナーは打ち合わせで喋るのも仕事のうちってとこあるからね」
星まるお「相手に伝わるように話す。 これも修行だよ!」
アポさん「ちわー、少年キッドの野島でーす」
  元気よく飛び込んできた黒シャツに黒ニット帽のオジサンは、編集者の野島さん。
  みんなアポさんって呼んでいます。
星まるお「どもー、アポさん! おつかれさまッス」
七ツ森アドミ「アポさーん、今日は何ですか。 また変な相談を持ってきたんじゃ・・・」
アポさん「それはあんまりだなあ、アドミちゃん。 まるで僕をトラブルメーカーみたいに」
アポさん「今度少年キッドの『空奇ものがたり』を単行本化するんで、作者の先生も交えて装幀の相談に来たんだよ。ね、星さん」
星まるお「そうだよ。 アドミちゃんと僕とで担当しようかと」
七ツ森アドミ「え、『空奇ものがたり』ですか! 好きなんですよね」
七ツ森アドミ「北の大地で文学にかける青年たちの大正青春群像って感じで・・・」
七ツ森アドミ「でも、初本先生って、確か、顔出しNGのはずじゃ・・・経歴も性別も不明で《謎の漫画家》ってネットでも話題になってます」
アポさん「《謎の漫画家》に会いたいかい? それでは、会わせてしんぜよう。 おーい、初本先生!」
  アポさんが事務所の扉を開けると、美形の男性が!
初本つなし「はじめまして。漫画家の初本つなしです」
  あれ、同じ顔をした男性がもう1人!
初本はじめ「初本はじめです」
七ツ森アドミ「え、2人!?」
アポさん「そう! ナイショなんだけど、『初本つなし先生』は原作の一(はじめ)先生と、作画の十(つなし)先生の兄弟コンビなんです」
  初本先生、本当にそっくり。
  二人はまるで見分けがつきません。
星まるお「初本先生、どもッス、装幀家の星まるおッス。こちらがアドミちゃん」
七ツ森アドミ「装幀家の七ツ森アドミです」
初本つなし「わー、アドミさん・・・アポさんから、伺ってましたよ」
初本つなし「なんかモデルさんみたいなデザイナーさんがいると」
七ツ森アドミ「ちょっと、アポさん、適当なこといわないでくださいよ!」
初本つなし「ハハハ。いい雰囲気の楽しい職場ですね」
初本はじめ「雑談はそれくらいにして、打ち合わせ始めてもらえませんか。次の予定もあるんで」
  笑顔が人懐っこい弟の漫画家・つなしさんと、無愛想で不機嫌そうな原作者・兄のはじめさん。
  同じ顔でも性格は正反対みたい。
アポさん「では、打ち合わせを。 第1巻の表紙なんですが・・・ああっ!」
アポさん「あれ! ない、ない!」
星まるお「どうしたんスか」
アポさん「いや、今日の打ち合わせに必要な表紙イラストとか、資料データを入れたUSBメモリーがないんです」
  アポさんは楽しい人なんだけど、ちょっと・・・抜けててトラブルメーカーなとこがあるんです。
星まるお「カバンの中とかじゃないんスか」
アポさん「なくさないように、ポケットの中でずっと握ってきたのに・・・」
アポさん「駅でピンポコしたときも、ポケットの中にあること確認したんで、そこまで持ってたことは確かなんですけど・・・」
七ツ森アドミ「ピンポコ?」
アポさん「自動改札の音ですよ! わかるでしょ」
初本はじめ「ちょっと、いい加減に始めましょう。データがなくても出来ることいくらでもあるでしょうが」
  お兄さんのはじめさんのご機嫌が・・・そりゃ、怒りますよね。
  しようがない! 助け舟出しますか。
七ツ森アドミ「アポさん! わかりましたよ。 探し物のあるレイヤーが・・・」
星まるお「お、アドミちゃんの名推理、出るかな」
アポさん「ええっ!? どこ!? どこ!?」
七ツ森アドミ「それは・・・ここです!」
星まるお「え? アポさんの頭?」
初本つなし「ニット帽の、中?」
アポさん「ちょっとー、そんな、こんなところにあるわけ・・・」
  アポさんのニット帽を取ると・・・ポロリと落ちる、黒いUSBスティック。
アポさん「えー! あった! ・・・でもどうして!? 誰が!?」
七ツ森アドミ「単純なことです。USBメモリーは『ピンポコ』した時まではあったんですよね」
アポさん「うん。一瞬ピンポコとUSBを持ち替えたから憶えてる」
七ツ森アドミ「で、駅を出てから、改札横のトイレで歯を磨き、顔を洗いましたね」
アポさん「そのとおりだけど・・・なぜ僕がトイレに入ったことがわかったの」
七ツ森アドミ「アポさん、ズボンのファスナーが全開なんです」
アポさん「これは失敬」
七ツ森アドミ「ていうか、アポさんはお手洗いに行くと100%、ファスナーを開けて出てくる人なんですよ」
星まるお「言われてみれば確かに」
アポさん「え!?」
初本つなし「でも、歯磨きしたというのは?」
七ツ森アドミ「黒いシャツに歯磨き粉の白いのがついてます・・・」
初本つなし「ほんとだ。 よくそんな細かいのがわかりますね」
七ツ森アドミ「デザイナーは校正紙に小さな汚れやゴミがないか、目を皿のようにしてチェックしますから」
七ツ森アドミ「職業柄、そういうの気になるんです」
七ツ森アドミ「アポさんは洗面台に脱いだ帽子を置き、絶えず握っていたUSBもその上に置いたんじゃないですか」
アポさん「そういえば、そんな気もする。 濡れないように帽子の中に入れたのかも」
七ツ森アドミ「で、歯磨きのあと、そのまま帽子をかぶっちゃったんでしょう」
初本つなし「いや、でもさすがに頭髪の感触で気づくのでは?」
七ツ森アドミ「先生と待ち合わせに遅れそうで、それどころじゃなかったのではないでしょうか」
アポさん「そうだ。歯磨きをしていたら先生から電話がかかってきて・・・」
アポさん「急いで帽子をかぶり、小の方をして、トイレを飛び出したんだった」
アポさん「お騒がせしてスミマセンでした・・・」
七ツ森アドミ「見えないものというのは上に何かが覆いかぶさっているだけで、探しものは、必ずその下の階層(レイヤー)にあるんです」
七ツ森アドミ「レイヤーを上から順番にはいでいけば、かならず隠された事実の痕跡たどり着く。 単純なことです」
初本つなし「なんかアドミさん、シャーロック・ホームズみたいですね」
星まるお「なにせ彼女は『装幀家探偵アドミ』だからね」
初本つなし「へえ、装幀家探偵ですか!」
七ツ森アドミ「ちょっと、星さん!」
星まるお「そもそもブックデザイナーは、色んな業界と関係するから、裏情報とか噂話とか、自然に耳に入ってくるんですよね」
初本つなし「事情通ってわけだ」
星まるお「アドミちゃんの場合、お姉さんが警視庁の警部さんで、たまに本に関わる事件の協力を求められたりするもんで・・・」
初本はじめ「警察に?」
初本つなし「なぜ、そっちの道を選ばなかったんですか」
七ツ森アドミ「いや、そんな警察なんて・・・。 私はただ本が好きなだけで・・・」
  その時、ピンポーンと事務所の呼び鈴が。
アポさん「わっ、婦人警官のコスプレをした女子中学生みたいな・・・ていうか、コロポックルみたいな人が来てます」
星まるお「また社会科見学かな?」
  嫌な予感がする・・・。
アポさん「どなたですか!?」
七ツ森ヤオコ「本官は警視庁捜査一課 七ツ森ヤオコ警部であります!」
アポさん「七ツ森・・・ってことは!?」
七ツ森ヤオコ「緊急事態! アドミ、事件だよ! あんたの力が必要なの。 この近くで、殺人事件が起こったのよ」
七ツ森アドミ「もう来ないでって言ってるでしょ! お姉ちゃん!」

次のエピソード:第2話 星のうた

ページTOPへ