メタリアルストーリー

相賀マコト

エピソード42(脚本)

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〇西洋の市場
  すっかり以前の賑わいを取り戻したメルザムの街は、今日も人々の活気に満ちている。
  そんな街の一角、商店街に面した酒場のテラス席のテーブルにニル、アイリ、エルルの3人は座っていた。
エルル「じゃじゃーん!」
  エルルが得意げにふたりに見せたのは、中級コレクターのライセンスだ。
  ガルバニアスが街に襲来した一件で、コレクターと共に街を守ったひとりとして特例で中級コレクターとなったのだ。
  嬉しそうに笑みを深めるエルルに、ニルとアイリも笑みを浮かべる。
アイリ「おめでとうエルル」
ニル「おめでとう。あ、そういえば俺も」
  ニルはそう言って懐からブローチを取り出した。
  先日議長から渡された、あの濃紺の宝石が埋め込まれているブローチだ。
  ブローチをテーブルの置くと、アイリとエルルが覗き込んだ。
  首を傾(かし)げるエルルだったが、アイリは目を見開いてから微笑む。
アイリ「これ・・・。アンタやっと特級になったのね」
エルル「えーっ!! ニルさん、特級コレクターになったんですか!?」
  エルルの驚いた声がテラス席に響く。
  注目を浴びるのにまだ慣れていないニルに周囲から視線が集まった。
  加えて、エルルがキラキラとした瞳で嬉しそうにニルを見ている。
  その勢いに押されてニルは困ったように笑う。
ニル「う、うん。 処刑の件の罪滅ぼしってことなのかな?」
アイリ「そんなことないわ。 ニルはすでに2機のネームドを倒してるんですもの」
  アイリは呆れた顔をしたあと、ニルのブローチを指先で小突く。
アイリ「もう“特級”ですらニルには役不足よ」
  アイリの言葉に、ニルはあごに手をやる。
  すこし考えるような素振りのあと呟(つぶや)いた。
ニル「うーん・・・」
ニル「メルザムに来る前にあれくらいのエネルギーを持つ個体を2機くらい相手にしたんだよね・・・」
ニル「今思えば、あいつらもネームドだったのかな?」
  アイリは呆然とし、口をポカンと開く。
アイリ「・・・・・・」
アイリ「・・・まあ、いまさらね。 2機でも4機も変わらないわ」
  アイリはもう自分があまり驚いていないことに気づき、苦笑した。
  ニルのことだから、きっと本当に倒しているのだろうと小さく息を吐く。
  エルルはガタンと音をたてて立ち上がり、前のめりになってキラキラとニルを尊敬の眼差しで見つめる。
エルル「とにかくすごいですよ! 間違いなくニルさんは最短で特級に昇級したコレクターです!」
エルル「歴史的快挙です!!」
  エルルは両手を身体の前で合わせ、勢いよくブンブンと頷く。
ニル「そう・・・なのかな?」
エルル「そうです! また名滅(めいめつ)に新しい伝説が刻まれたんですよ!」
  エルルはうっとりとした様子で熱っぽくしゃべる。
  エルルの声はあたりに響き渡り、周囲の注目を集めている。
ニル「そ、そっか。ありがとうエルル」
  ニルはエルルの服の端を引っ張り、とりあえず座るように訴えた。
  エルルはハッとして慌てて座る。
  それから申し訳なさそうに目を伏せた。
  エルルが座ったのをきっかけに、周囲の視線も落ち着く。
  それを見てニルはほっとすると、言葉を続けた。
ニル「そういえば議長からメタリカ騎士団の副団長にならないかって言われたんだよね」
アイリ「なっ!・・・、い、いえ、そうなのね・・・」
  アイリは動揺を隠すようにコップを手に取ると、ひと口だけ飲んだ。
アイリ「それはたしかに名誉なことだけど、でも、その・・・、う、受けないんでしょ?」
  様子のおかしいアイリに、ニルは首を傾(かし)げる。
ニル「・・・? うん、そうなんだ。 引き受けるつもりはないよ。 少なくとも今はね」
  ニルの言葉にアイリはほっと息を吐いた。
アイリ「そう・・・」
  アイリはすました顔でコホンと咳払いをした。
  エルルはニヤニヤと笑みを浮かべて、口元に手をあてアイリに耳打ちをする。
エルル「アイリさん、今ニルさんが遠くに行っちゃうかもって心配しました?」
  アイリはぐっと眉間にシワを寄せ、小声でエルルに言い返した。
アイリ「そ、そんなことないわよ!」
エルル「またまた~」
エルル「まあ私も嫌ですけどね。 ニルさんが認められるのは嬉しいことですけど、それとこれとはね~」
  エルルはさらにニヤニヤと笑みを深めた。
エルル「エミリアさんに先を越されちゃうかもしれませんからね」
アイリ「なっ、なっ・・・! なんの話かさっぱりわからないわ!」
  アイリは頬を赤く染める。
  はくはくと口を動かし、アイリはエルルを睨む。
  ニルはなぜか目を合わせようとしないアイリを見て、首を傾げた。
ニル「ん? どうしたの?」
エルル「なんでもありませーん」
アイリ「・・・・・・」
  アイリは真っ赤な目のまま、ニルを見ようとしない。
  普段見せる表情とまったく違う、恥ずかしがっているアイリを見てエルルは微笑んだ。
  エルルはニルの左手を両手で握ると、にっこりと笑いかける。
エルル「これからもよろしくお願いしますね! ニルさんっ」
ニル「え⁇ あ・・・うん、こちらこそ」
  ニルはすこしの間を置いて返事をする。
  エルルは、それを聞き、んんっと咳払いをするとおもむろに立ち上がった。
エルル「とにかく! 今日はお祝いですよ! マスター追加で3杯お願いしまーす!」
  店のカウンターから「へい!」とマスターの声が返ってくる。
  そして運ばれてきた、メルザムで人気のあるポムルンという炭酸飲料を片手に3人は乾杯をした。

〇西洋の大浴場
  夕方になり、ニルはギルド会館内にある大衆浴場に来ていた。

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