メタリアルストーリー

相賀マコト

エピソード40(脚本)

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〇牢獄
  絞首台に立ったニルの首には太い縄がかけられていた。
議長「最後に言い残したことはあるか?」
  議長が絞首台の下からニルに話しかける。
ニル(言い残したことか・・・)
ニル(アイリ・・・エルル・・・)
ニル「ッ・・・」
ニル(ごめん・・・)
議長「特にないようだな」
ニル「はい・・・」
議長「では刑を執行する」
ニル「・・・・・・」
ニル「・・・あ」
議長「なにかね?」
ニル「すみませんひとついいですか?」
議長「言い給え」
ニル「ギルバートという元コレクターがメルザムに来たら、俺が死んだことを伝えてくれませんか?」
議長「!」
議長「ギ、ギルバート・・・だと!?」
  議長は困惑した表情のまま、無言であごに手をやり、考え込む。
  秘書を呼び寄せ、耳打ちをする。
  秘書は何度か頷いたあと走り去って行った。
ニル「・・・あの・・・?」
議長「しばし待て」
ニル「・・・?」
エミリア「何が起きている・・・?」
  ニルやエミリアのみならず、執行人や騎士たちもなにが起こっているのかわからないといった表情をしている。
  そのまま20分ほど経ったころ、秘書が束になっている手紙を手にして戻って来た。
  評議長は手紙の束にかかっていた紐を解き、その中のひとつを開封して読む。
  しばらく視線が手紙の文面を追ってから、くしゃりと眉間にシワを寄せた。
議長「あやつめ・・・名前を書いておけ馬鹿者め・・・」
  議長は手紙を閉じて秘書に渡すとニルをまっすぐに見つめる。
  死刑は取りやめだ。罪人を牢に戻せ。
  至急、評議会を開く
エミリア「!」
ニル「──は?」
  ニルとエミリアだけではなく、絞首台を囲んでいた人たち全員が目を丸くさせた。

〇西洋の円卓会議
長老A「評議長! いったいどういうおつもりですか!」
長老B「いくら評議長といえど、こうも簡単に評議会の決定を覆(くつがえ)すなどあってはならないことです!」
  緊急評議会で集められた長老たちは口々に異議を唱えている。
  議長は彼らの言葉を黙って聞いていたが、やがてゆっくりと口を開いた。
議長「わかっておる。 だが、この手紙を読んでからでも遅くないと思ったのだ」
  議長は慣れた手付きで手をたたく。
  すると、暗闇の中から秘書が現れ、手紙を長老たちの前にかざした。
議長「手紙を読み上げよ」
秘書「はい。『よお、じじ・・・』・・・」
  秘書はぐっとそこで手紙を読み上げるのを一度やめて、様子をうかがうように議長を見つめた。
議長「よい、書いてあるがままに読め」
秘書「はっ。それでは、続けさせていただきます」
  頭を下げると、秘書は手紙の内容を朗々と読み上げた。
秘書「よお、じじい。元気でやってるか?」
秘書「まさかあんたが評議長になるなんてな。 あんときは思いもしなかったぜ。 俺のほうは俺のほうでぼちぼち進んでるぜ」
秘書「ところでひとつ頼みがあってな、そのうち俺の甥っ子がそっちに行くはずだから面倒を見てやってくれ」
秘書「そいつは見てくれからして普通のやつには見えねえだろうが、正真正銘(しょうしんしょうめい)俺の妹の息子だ」
秘書「おっと、これは秘密にしておいてくれよ。 ワケあってそいつには捨てられてたところを拾ったって言ってあるからな」
秘書「まあなにかと面倒事を起こすだろうから、あんたの目にもはやいうちにとまるはずだ」
秘書「それじゃよろしく頼むぜ。 あんたが生きてるうちに顔を出すから飯でもおごってくれや」
秘書「・・・ギルバート」
秘書「以上でございます」
  評議会はざわつき、長老たちは困惑したまま、次々と議長へ質問していく。
長老B「ギ、ギルバート・・・といいますと、あのギルバートですか・・・?」
議長「他にどのギルバートがいるというのだ。 1年ほど前に届いてすっかり忘れておった」
長老A「となると、あのニルという男はギルバートの親族であり、人間ということか」
議長「うむ。それで間違いないだろう。 あやつは勝手なやつだが、嘘を吐くような男ではない」
  会議室に「あのギルバートの・・・」「伝説のコレクター・・・」というひそひそ声が響く。
長老A「だから言っただろう。 危うく新たな英雄を失うところだった」
長老B「お主も最終的には処刑に賛同していたではないか」
議長「まあよい。もう一度決を採ろうではないか。 ニルという者の処刑の取り消しに賛同する者は手をあげよ」
  議長が言い終わるやいなや、いちはやく手をあげたのはガトリン・ブッシュバウムだ。
  次々に手があがり、議長が会議室を見渡すときには全員の手があがっていた。
  議長は頷いて、高らかに宣言する。
議長「それでは、ニルの処刑を取り消すことを今ここで決定とする」

〇牢獄
  もう一度戻ってきた牢の中で、ニルは硬いベッドの上で静かに寝ていた。
  少し意識が浮上してきたころ、誰かが駆け寄ってくる音が聞こえてくる。
  もどかしい手付きで鍵を開く音が聞こえ、寝ぼけたままニルは上体を起こした。
  ニルは開ききらない目をこすってベッドから起き上がろうとすると、突如なにかに抱きしめられた。
ニル「!?」
エミリア「ニル!」
ニル「エミリアさん!」
エミリア「ニル、本当によかった・・・!」
ニル「?」
  エミリアは上体を起こしてニルの目をまっすぐ見つめた。

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