黒い訪問者(脚本)
〇古い本
怪談師『想華』「今から二十年以上、前の話です」
〇オフィスビル
怪談師『想華』「当時、Kさんは、とある企業の人事担当者でした」
怪談師『想華』「ある年、退職や産休などが重なり、人員に不足が生じてしまった」
怪談師『想華』「正社員を募集するには中途半端な時期であり、かと言ってアルバイトでは力不足である」
怪談師『想華』「だから暫定的に、派遣社員でその穴埋めをすることにしました」
Kさん「そして、派遣されて来たのがA子さんでした」
Kさん「年齢は四十代なかば・・・」
Kさん「大手派遣会社所属のベテランで、仕事を覚えるのが早い」
Kさん「正社員にも引けを取らないと言っても過言ではないほど仕事ができました」
〇オフィスのフロア
怪談師『想華』「A子さんが来てから三ヶ月ほど経った頃・・・」
怪談師『想華』「A子さんはKさんに、そろそろ辞めたいと言ってきた」
A子さん「わたしの代わりに別の派遣社員が来るので、辞めさせてもらいたいんです」
Kさん「えっ!?」
Kさん「なぜですか?」
Kさん「あなたがいないと困るのだが」
怪談師『想華』「辞める理由をKさんが聞いても、教えてくれない」
怪談師『想華』「待遇が悪かったのかと問いただしても、会社も仕事にも何も不満はないと言う」
怪談師『想華』「他の社員ともすっかり和んで、もう彼女なしでは仕事がスムーズに回らないほど社の一部になっていたので・・・」
怪談師『想華』「ここでA子さんに辞められたら組織にとって大きな損失でした」
怪談師『想華』「だからKさんは何とかしてA子さんを翻意させようと粘ってみたのですが・・・」
怪談師『想華』「A子さんは黙って首を振るばかりでした」
怪談師『想華』「Kさんが諦めかけた頃・・・・・・」
A子さん「あのう・・・・・・」
A子さん「ここだけの秘密にしてもらえますか?」
Kさん「え、ええ もちろんです」
A子さん「実は・・・・・・」
〇オフィスビル
A子さん「派遣された会社でしばらく働いていると わたし宛にお客さんが訪ねて来るんです」
A子さん「でも・・・・・・」
A子さん「出てみるといなくなってる・・・」
A子さん「そんなことがその後も何度か繰り返されるんです」
Kさん「ほう・・・ そうなんですね」
Kさん(そんな話、いったい何の関係があるんだ)
A子さん「その人たちは名前に特徴があるんです だから普通のお客さんじゃないってわかる」
Kさん「名前?」
A子さん「ええ いつも名前に色が入っているんです」
Kさん「は?」
A子さん「青池とか緑川とか・・・」
A子さん「応対した人の話によれば、その人たちの見た目や年齢はバラバラです」
A子さん「大学生ぐらいの若い男性だったり わたしみたいな中年のご婦人だったり・・・」
怪談師『想華』「意味がよくわからなかったが・・・」
怪談師『想華』「Kさんは、とにかく最後まで、A子さんの話を聞いてみることにしました」
〇オフィスのフロア
A子さん「その人たちの名前の色が赤になると・・・」
A子さん「会社内で良くないことが起こるんです」
A子さん「誰かが怪我をしたり 病気になって入院したり・・・・・・」
〇オフィスのフロア
A子さん「この前、営業部の佐々木さんが事故に遭いましたよね?」
Kさん「あ、ああ 確かに」
A子さん「あの前日に・・・」
A子さん「赤塚という名前の人が、わたしを訪ねて来たんです」
Kさん「えっ・・・・・・」
怪談師『想華』「Kさんは絶句してしまいました」
怪談師『想華』「そんな馬鹿な話は、信じられるはずがない」
〇オフィスのフロア
A子さん「もう、この会社に居られないと思いました」
A子さん「今までも赤い名前の人が来たら 別の会社に移っていました」
A子さん「でも、この会社は居心地が良くて・・・」
A子さん「ぐずぐずしているうちに、昨日、黒崎という人が来たんです」
Kさん「うん・・・・・・」
Kさん「それで?」
A子さん「黒が来たら・・・ 数日のうちに誰かが亡くなる──」
A子さん「だから・・・です」
Kさん(んん・・・・・・)
怪談師『想華』「A子さんの話を信じられませんでした」
怪談師『想華』「しかし、その不気味な訪問者たちに背筋が寒くなったKさんは・・・」
怪談師『想華』「A子さんを慰留するのを諦めた、ということです」
〇オフィスビル
怪談師『想華』「A子さんが退職したあと・・・」
怪談師『想華』「Kさんは、A子さんへの不気味な来客を取り次いだ社員を探しました」
怪談師『想華』「その時の様子を聞いてみようと思い立ったからです」
〇オフィスのフロア
怪談師『想華』「しかし社員たちの反応は、わからない、覚えていないという、釈然としないものでした」
怪談師『想華』「だから、Kさんは・・・」
怪談師『想華』「A子さんがとにかく急いで会社を辞めたいから、あんな突拍子もない嘘をでっち上げた、と、今でも疑っている」
〇オフィスのフロア
怪談師『想華』「さて・・・」
怪談師『想華』「A子さんが退職したあとに、亡くなった社員がいるのか?という点については・・・」
怪談師『想華』「この話をお聞きいただいているあなたも 大いに関心があるでしょう」
怪談師『想華』「A子さんを黒い名前の人物が訪ねてきた」
怪談師『想華』「そして・・・」
怪談師『想華』「どうなったのか?」
怪談師『想華』「何が起きたのか? それとも何も無かったのか?」
怪談師『想華』「その話になると、Kさんはなぜか黙ってしまい・・・」
Kさん「・・・・・・」
怪談師『想華』「固く口を閉ざしたまま、何も語ろうとしません」
最後に想華さんが「その後どうなったのか」について時間をかけて勿体ぶったので、てっきりKさん本人がお亡くなりになったのかと思ったら無事でよかった。不幸な被害に合う人が脈絡が無くアトランダムっぽいところが一番怖いですね。
A子さんの、来客者の名前に色が…、という発言は、普通ならA子さんの神経症を疑いたくなるところですが、、、
実際に社内で起こったこととの因果関係があったとしたら……恐ろしいですね
結末が霧に覆われていて想像力を掻き立てられます。Aさんが辞めたかった理由は、全く別のとんでもないことなのかも!という発想まで出てきました。