じいちゃんと、ばあちゃんと、サッカーボール(脚本)
〇幼稚園
最初の記憶は、うすら寒い施設での出来事だった
先生「それではこの子を、よろしくお願いします」
「ありがとうございます」
それは「お父さん」「お母さん」と呼ぶには、少し年老いた人物だった
女性「行きましょう。翔太くん」
繋がれたその両手は、とても温かかった
〇屋上の入口
男の子「やーいやーい!チビ!」
男の子「お前、親いないんだろ? ビンボーでご飯も食べさせてもらえないんじゃねえの!?」
小学校に入った俺は、親がいないという理由で、いじめられていた
〇安アパートの台所
おばあちゃん「おかえりー、翔太・・・」
〇古いアパートの一室
翔太「なんで、俺には父さんと母さんがいないんだよ・・・」
翔太「なんで、じいちゃんとばあちゃんなんだよ・・・」
翔太「なんでだよ!!」
そして、幼いながら薄々気付いていた
俺が「じいちゃん」「ばあちゃん」と呼んでいる人たちは、本当のおじいちゃんとおばあちゃんではないことも
〇安アパートの台所
おじいちゃん「翔太・・・」
〇アパートのダイニング
おばあちゃん「翔太、お誕生日おめでとう!」
翔太「ありがとう、ばあちゃん!」
おじいちゃん「ほら、誕生日プレゼントだ」
翔太「えっ! サッカーボール!?」
おじいちゃん「あぁ、そうだ。 じいちゃん昔サッカーやってたんだぞ」
おじいちゃん「これから、近くの河原に蹴りに行かんか?」
翔太「うん!やったー!!」
〇川に架かる橋の下
翔太「よーし!じいちゃん、もう一回!」
おじいちゃん「はっ、ははっ・・・よし! はぁ、はぁ・・・」
翔太「あっ!ごめん、俺、夢中になっちゃって。 疲れたよね!?」
おじいちゃん「いや〜、年をとると体力が衰えるのぅ」
おじいちゃん「そこで壁当てをしたらどうだ? 一人でもたくさん練習できるぞ」
翔太「うんっ!」
ボールを蹴るのは楽しかった
ただただ時間を忘れて、没頭することができた
〇ゆるやかな坂道
翔太(学校・・・行きたくないな)
日を追うごとに、クラスメイトからのいじめはひどくなっていった
翔太「・・・・・・」
〇川に架かる橋の下
翔太「41・・・42・・・43・・・」
翔太「よっしゃ!新記録!!」
翔太「次はドリブルの練習だな!」
〇アパートのダイニング
おばあちゃん「翔太も、明日から中学生ねぇ」
おじいちゃん「あぁ、そうだな」
「・・・・・・」
翔太「じいちゃん、ばあちゃん」
おばあちゃん「あら、翔太。まだ起きてたの?」
翔太「俺、明日から学校行くよ」
「えっ!?」
翔太「サッカー、やりたいんだ!」
翔太「サッカー部に入って、全国大会目指して、高校でもサッカーやって、プロになる!」
おばあちゃん「翔太・・・」
おじいちゃん「そうか。頑張れよ! じいちゃんとばあちゃんは、いつでもお前のことを応援しとるぞ!」
〇教室
あれっ?あの人・・・
誰だっけ?あの、不登校だった子?
なんか親いないとかで・・・
いじめられてたって噂もあったよね
翔太(うっ・・・ こんなことで、へこたれるか!)
翔太(サッカー頑張るって、決めたんだ)
〇田舎の学校
集合っ!!
それじゃあ、入部希望の一年生はこちらに並んで
翔太(すごい!これがサッカー部!!)
俊英「・・・えっ、お前・・・あのチビ!?」
翔太「あ・・・」
そこにいたのは、小学生の頃、俺をいじめていた当時のクラスメイト、久長俊英君だった
俊英「なになに、お前もサッカー部入んの?」
俊英「ってかお前、サッカーやったことあんのかよ?」
翔太「あ、あぁ、まぁ・・・」
俊英「へぇ〜意外だなぁ どこのチーム入ってたんだよ?」
翔太「いや、一人で・・・」
俊英「・・・ぷっ え、どゆこと?一人で練習してたの?」
俊英「あのさ、サッカーって知ってる? 11人でやるものだぞ!?」
俊英「そんなの、初心者と変わらねーだろ!」
翔太「そ、そんなことない!」
俊英「ふぅん・・・言うじゃねーか。 それじゃあ、お手並み拝見といこうか?」
〇田舎の学校
俊英「1on1だ。俺を抜いてみろ」
翔太「・・・っ」
翔太(すごい威圧感だ)
翔太(でも、大丈夫。 あれだけ練習したじゃないか)
翔太(みんなが学校に行ってる間も、遊んでる間も、俺はずっと、サッカーボールを蹴っていた)
翔太「・・・いくぞ!!」
翔太「・・・・・・っあ・・・」
俊英「お前は、何もわかってねぇよ」
俊英「いくらリフティングが上手かろうが、無人のゴールにボールを蹴るのが上手かろうが」
俊英「そんなの、サッカーではなんの意味もないんだ」
翔太「くっ・・・」
俊英「サッカーはな、相手がいる。そして、味方もいるんだ。 一人でやるもんじゃねぇ」
俊英「・・・お前の実力なんて、こんなもんだ」
女の子「ねぇねぇ、今の見た!? あれ、3組の久長君だよね?」
女の子「見た見た! サッカー得意なんだっけ?カッコいいね♪」
女の子「それに比べて相手の人、あんなに派手にすっ転んで・・・」
女の子「誰?同じ学年の人?可哀想ー」
俊英「あっ、じゃあ今日は帰りますんで」
えっ!?
俊英「あれ、聞いてないっスか? 俺、東京リオンズのジュニアユースに選ばれてるんスよ」
俊英「なんで、クラブチームの練習ある時は、そっち優先させてもらいます」
俊英「あ、試合の時は部活優先って頼み込んだんで、そこは穴開けないから安心してください!」
俊英「それじゃ、お疲れさまっス」
〇安アパートの台所
おばあちゃん「翔太ー、ごはんできたわよー」
おばあちゃん「翔太ー、遅刻・・・」
おばあちゃん「・・・」
〇アパートのダイニング
おばあちゃん「翔太、降りて来ないわね」
おじいちゃん「やはり、中学校に入るタイミングで、転校させるべきだったか・・・」
・・・翔太!!
翔太「じいちゃん、頼みがあるんだ!」
〇川に架かる橋の下
おじいちゃん「ちょっ・・・ 年寄り相手に1on1なんて、練習にならんじゃろ・・・」
翔太「大丈夫。ちょっと動くだけで・・・立っててくれるだけでも良いんだ!」
翔太(悔しいけれど、俊英君の言ってたことは、その通りだ)
翔太「よし、いくぞ!」
〇田舎の学校
俊英「おはよーっす」
俊英「・・・って、はぁっ!?」
翔太「おはよう、俊英君」
俊英「お前・・・なんでいるの? 最近見なかったら、てっきり辞めたのかと思ってたぜ」
翔太「・・・ははっ いや、俊英君の言う通りだったよ」
翔太「俺はずっとサッカーボールばかり見てた。 サッカーは、初心者同然だ」
翔太「だから、こっちの初心者チームで基礎からやっていこうと思う」
翔太「でも、いつかレギュラー取るからな!」
俊英「・・・アホくさ」
俊英「せいぜい三年間、ボール磨きでもしてな!」
〇川に架かる橋の下
あら、部活終わった後も練習するの?
じゃあ、これ持って行きなさい
翔太(ばあちゃん、ありがとう)
翔太(さて、次はなんの練習するかな・・・)
なに、一人でボール蹴ってて楽しい?
一瞬、金色に輝く髪が視界に入って、身構えてしまった
誠也「中学生か?俺は誠也。高校二年生だ」
翔太「は・・・はぁ・・・」
誠也「せっかくだから、一緒にやろうぜ?」
翔太「え?はい・・・」
翔太(な・・・なんだ!?この人 上手すぎる・・・)
〇土手
俊英「はぁ・・・はぁっ・・・」
──・・・!!
俊英(人の声・・・?なんだ、こんな時間に)
〇川に架かる橋の下
誠也「右だ、右! ボールばっか見てんな。相手の動きを読め!!」
翔太「はいっ!! ・・・ぜぇ、はぁ」
誠也「おぉっ、いいじゃねーか! なかなかセンスあるぞ!」
翔太「ありがとうございます!」
誠也「って、さすがにそろそろボール見えなくなってきたな・・・」
翔太「あっ、すみません!こんな時間まで付き合わせてしまって」
誠也「いいってことよ! まぁ、また気が向いたら来るよ」
翔太「ありがとうございます! また色々教えてください!!」
翔太(って、いったい何者だったんだ?あの人)
〇土手
俊英(えっ・・・兄貴と、あのチビ!? なんでこんなとこで・・・)
俊英(あいつ、下手くそのくせして、気に入らねぇ!!)
〇アパートのダイニング
翔太「それで今日、超すごい人と会ったんだよ! ボール捌きも上手いし動きもキレがあって」
おじいちゃん「おぉ〜そうか。また相手してもらえると良いのう」
翔太「昔同じクラスだった俊英君も、ジュニアユースに選ばれてるって・・・」
翔太「すごい人たちが、たくさんいるんだ。 俺はまだ、サッカー部の中でも・・・全然で」
翔太「・・・本当に、やっていけるのかな・・・なんて」
おじいちゃん「・・・翔太。 「努力は裏切らない」なんて、綺麗事は言わん」
おじいちゃん「だが、成功している人は、必ずその裏で血の滲むような努力をしておる」
おじいちゃん「辛い時も、苦しい時も、立ち止まっても、諦めなかった者だけが、成功を手にすることができるんじゃよ」
翔太「じいちゃん・・・」
おばあちゃん「大丈夫よ。やりたいこと、なんでもやってみなさい!」
おばあちゃん「失敗したって、人から笑われたって、私たちはいつでも翔太の味方よ」
翔太「ばあちゃん・・・」
翔太「ありがとう。 俺、絶対にプロサッカー選手になる!」
夢中で打ち込める好きなことを見つけて、それを応援してくれる家族もいて。それだけでもうすでに翔太はかけがえのない幸せを手にしているんですよね。いつの日か人としても成長して、じいちゃんとばあちゃんに孝行してほしいなあ。
真っ直ぐな主人公が人との出会いに恵まれていくストーリー、大好きです🌟
続きが楽しみです😆
おお、まさに王道のスポーツもののストーリー。
意地の悪いでも実力のあるメンバーとともに切磋琢磨して上を目指し…まさに青春ストーリーですね。