エピソード39(脚本)
〇西洋風の部屋
お互いに協力することを誓ったあと、アイリはエドガーに質問した。
アイリ「それで? なにか策はあるの?」
エドガー「はい。奪還のための作戦を考えてきました」
アイリ「座って」
アイリの指示で3人は同じテーブルにつく。
エドガーは最低限の声量で、作戦をひと通り説明した。
エルルはアイリの顔を覗(のぞ)く。
アイリはエルルと視線を合わせて頷いた。
アイリ「それでいきましょう」
エドガーは安心したようにほっと息を吐く。
アイリ「でも、最悪の場合は私とエルルで力ずくで奪還するわ」
アイリの言葉に、エルルも力強く頷く。
エドガーはそんなふたりを見て困ったような笑みを浮かべた。
エドガー「・・・わかりました」
エドガー「段取りはこちらで進めておきます。 後ほど使いを送りますので」
エドガーはそう言うとふたりに礼をして、再びマントを着てフードを被る。
来たとき同様に窓から去っていき、ふり返りはしなかった。
そんなエドガーの背中を見届け、アイリは窓を閉める。
アイリ(待ってなさいよ・・・ニル)
〇牢獄
ニル「はあ・・・」
消灯時間を過ぎ、ニルは暗闇の中で硬いベッドに横たわって天井を見つめていた。
ニル(明日、か)
明朝、あまり日も高くないうちに処刑が執り行われると、そう衛兵から聞かされている。
それにもかかわらず、ニルは異様に落ち着いていた。
ニル(明日死ぬ、か・・・)
自分が下手に抵抗すれば、アイリやエルルたちにまで嫌疑がかけられてしまう。
そう考えると、このままひとりで死ぬほうがいい。
ニルは徐々に自らの死を受け入れ始めていた。
ニルはぼんやりと暗闇を見つめたまま、自身の過去を振り返る。
〇けもの道
捨て子のニルは森の木陰で穏やかに眠っていたという。
そんなニルを気まぐれに拾って育ててくれたのは、ギルバートだった。
ニルを拾ったときに置き手紙などもなく、ただ不思議な色を放つペンダントだけがその手に握られていたらしい。
〇牢獄
ニルは自身の機械でできた右腕を撫でた。
ニル(・・・俺は、自分の正体すらよくわからないまま、死ぬのか)
機械の右腕も、首元にあるネックレスも、なにひとつ知らないままだ。
なぜ自身の右腕がゼノンと同じように変形するのかも、自分の意識が曖昧なまま戦えたのかもわからない。
ニル(ゼノン・・・あいつはいったい・・・)
ニルはこの間のゼノンとの激闘を思い出していた。
〇草原
ニル「・・・・・・」
ゼノン「クックッ・・・あは、アハ、アハハハハ!」
ゼノン「なるほどね! そういうことだったのか!」
ニル「アアアアアアァッ!!」
ドゴォッ
ゼノン「──!」
ゼノン「クッ!」
キュルキュルキュイン
ニル「・・・!」
ゼノン「ふう・・・なかなかやるね」
ゼノン「・・・でも、もう終わりかな?」
バタッ
ゼノン「・・・あーあ」
ゼノン「・・・この身体じゃここまでか。 また会おう、ニル」
〇黒
ニルは自分自身の力の得体が知れず、恐ろしさを覚えた。
ニルは右腕を抱きかかえて、思考を巡らせながら目を閉じる。
そのまま、いつの間にか夢の中に入ってしまっていた。
〇牢獄
衛兵「起きろ。時間だ」
ニルは衛兵の声で目を覚ました。
衛兵は重々しい牢屋の鍵を開けて、ニルの手首に枷をかける。
おとなしく、されるがままにニルは従った。
目隠しもされて、ニルは闇の中を手を引かれて歩き出す。
衛兵が誰かにニルを引き渡す声が聞こえた。
再び手枷の鎖を引かれ、どこかもわからない場所を歩いていく。
自分以外に3人の足音と、水の流れる音が聞こえた。
しばらく歩いていると、突然足音が止まる。
不思議に思い首を傾(かし)げると、スラリと剣を抜く音がする。
衛兵「何者だ!」
わずかに手枷が重くなる。それとともに近くで人が倒れる音がした。
ニルが眉をひそめると、何者かが目を覆っていた布を取り払う。
目の前には、エミリアがいた。その足元には、ふたりの騎士が倒れている。
ニル「エミリアさん!」
エミリアのすぐ後ろには、フードつきのマントに身を包んだアイリとエルルがいた。
ニル「アイリ、エルルも・・・」
困惑して、ニルは3人を見つめる。
ニル「これは・・・?」
エミリア「言っただろ。私は諦めない、と」
アイリ「逃げるわよ、ニル」
エルル「チャンスは今しかありません」
3人はニルを逃がすために、危険を冒してここまでやってきたのだ。
気持ちは痛いほどに嬉しかったが、ニルは無言で表情を歪める。
ニル「・・・だめだ」
ニルの言葉に、3人は息を呑んだ。
エルル「どうしてですか! ニルさん、死んじゃうんですよ!」
ニル「わかってるよ。 それでも、ここで逃げるわけにはいかない」
ニル「俺がいなくなればすぐに騒ぎになるし、誰が助けたのか候補は限られてくる」
ニル「・・・そうなれば、メイザスさんやブッシュバウム家にまで疑いが向けられてしまう」
エミリアはぐっと下唇を噛み締める。
エミリア「ッ、そんなことはどうでもいい! これは私個人の独断ということにすればいい」
エミリア「お前のためなら、私は家を、ブッシュバウム家を捨てても構わない!」
エルル「そうです! きっとおじいちゃんだってわかってくれます!」
ニル「・・・・・・」
ニルは無言のまま顔を伏せる。
その表情を3人は見れなかった。
ニルはエミリアをじっと見て、手枷を軽く掲げる。
ニル「エミリアさん、俺をこのまま処刑場まで連れていってください。 はやく行かないと怪しまれてしまいます」
エミリア「な・・・」
ニルはアイリとエルルとは目を合わさず、進行方向へとまっすぐ歩き出す。
エルル「ニルさん!」
エルルは悲痛な叫びとともにニルを行かせまいと飛び出そうとする。
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