~それぞれの心情~(脚本)
〇桜並木
令和某年春──
藤鷹茄「桜が綺麗よのう」
今が一番咲き盛りにございます!
藤鷹茄「今夜の為に、場所確保しておけ」
はっ、頭領!
藤鷹茄(彼奴ら、喜んでくれるか?)
俺は『藤鷹組』の頭領。
19代目の『藤鷹茄(ふじたかなすび)』だ。
戸籍は『楔(くさび)』だが、頭領は代々『茄』と名乗っている。
〇屋敷の門
家は代々地主をしている。
人に土地を貸して利益を得る、『不動産』のような稼業だ。
時が経つにつれ土地の値段も上がり、多額の収入を得ている。
だが同時に不況となり、代金未払いの客も増え
俺達は毎日金の取り立てに行くこととなった。
〇個別オフィス
藤鷹茄「──社長、支払いはいつになります?」
社長「すまない、来月には金の工面が付くから・・・」
藤鷹茄「同じ台詞を10ヶ月聞いていますが」
藤鷹茄「1年以上滞納された場合は、『強制退場』させる規約です」
社長「ひ、人でなし!」
社長「『強制退場』って、私を『始末』するつもりか!?」
端から見れば『ヤクザ』なので、世間からこのような誤解を受ける。
藤鷹茄「普通に業者に依頼するだけですが」
藤鷹茄「個人的には、『自己破産』を薦めているのです」
藤鷹茄「家財を取り上げられて、『ホームレス』にはなりたくないでしょう?」
社長「うぅ・・・」
『藤鷹組』のモットーは『仁義』だ。
『違法』な事は絶対しない。
なぜなら──
〇道玄坂
藤鷹雅「失礼、警察の者ですが」
社長「助けて下さい!」
社長「実は男に恐喝されまして・・・」
藤鷹雅「御自分の借金の支払いに困り、通報したと?」
社長「へ?」
藤鷹雅「それは警察の管轄外なので、無意味な通報は困ります」
社長「なんでそんな事知ってんだ!?」
「雅(みやび)」
藤鷹茄「すまない、誤解されてしまって」
社長「!?」
藤鷹雅「いいんです、慣れてますから」
社長「アンタら、知り合いなの?」
藤鷹雅「『藤鷹雅』」
藤鷹雅「そこの『藤鷹茄』の妻です」
藤鷹雅「夫には、常に盗聴機を仕掛けてます」
藤鷹雅「職業故に、よく冤罪をかけられてまして・・・」
藤鷹茄「勿論私も同意の上なので、違法ではありません」
藤鷹雅「今回私が出動したのは、厳重注意の為です」
藤鷹雅「次にこのような通報があった場合は、許しませんよ?」
社長「スミマセン・・・」
俺の妻は現職の刑事だ。
彼女の前で『犯罪』は、御法度だ。
〇祈祷場
──25年前
神主「神の名の下に、二人の婚姻を認める」
〇神社の本殿
それにしても驚きですなー
警察署長の娘が、極妻になるとは
政略結婚ってヤツですかねー
俺と雅は親父達の薦めで結婚した。
否定はできない。
〇屋敷の門
先代『藤鷹茄』の俺の親父と『警察署長』の雅の父親。
最初はお互い、偏見によって啀み合っていたようだが
組の『仁義』に感心した署長が、世間の悪評を払拭させる為
自分の娘を嫁がせる事になった。
〇古風な和室(小物無し)
俺は妻を心から愛している。
だが、妻の笑顔はあまり見た事がない。
妻は俺を愛していないのか?
〇警察署のロビー
藤鷹雅「お疲れ様でした」
雅刑事はいつも凛々しいよな
オマケに美人、
俺デートに誘ってみようかな?
馬鹿!人妻だぞ!?
そっか、旦那は確か極道の・・・
〇屋敷の門
私は『藤鷹雅』、警察署長の娘にして現職の刑事。
藤鷹茄「お帰り、雅」
藤鷹雅「ただいま」
この『藤鷹茄』の妻である。
〇古風な和室
夫とは親の薦めで結婚した。
政略結婚が故に夫に愛されている事はないだろう。
それでも妻の役目を果たすべく、
私は夫との間に二人の子を産んだ。
『蓪(あけび)』、24歳。
『蕨(わらび)』、15歳。
しかし家の環境のせいか、思春期に入ってから子供と距離を感じている。
職業柄、私の表情が堅くなっているのも原因かもしれない。
なんとか打ち解けられないものか?
〇校長室
藤鷹蓪「所長、書類を纏めましたのでご確認ください」
ありがとう、蓪くん
『本番』もよろしく頼むよ
藤鷹蓪「はい!」
私は『藤鷹蓪』、今年『弁護士』になったばかりだ。
〇屋敷の門
私の実家は極道で、父は『頭領』、母は『警察』と
非常に複雑な家庭である。
私は昔、家のせいでイジメにあってきた。
イジメの事を話しても、二人は何もしない。
でもやり返したら、二人は私を責める。
私はそんな両親が大嫌いだった。
〇本棚のある部屋
私は、早く家を出たくて寮付の高校に入学。
バイトを重ねて学費を稼ぎ、今年『弁護士』となった。
この職業を選んだのは、イジメや冤罪に苦しんでいる人を救う為だ。
藤鷹蓪「間違っても、親と同じ職につかないわ!」
最初はそう思っていた。
でも厳しい現実を知り、大人になるにつれ
両親に対する感情を改めるようにはなった。
〇古風な和室(小物無し)
心配なのは、弟の蕨だ。
私が家を出た時、弟は小学1年生だった。
姉弟で文通をしていたのだが、最近は弟から返事が来ない。
〇本棚のある部屋
藤鷹蓪「蕨、元気かな?」
近いうちに実家に行くべきだろうか?
〇木造の一人部屋
藤鷹蕨「うん、うん、これでよし」
藤鷹蕨「あとは──」
「蕨」
藤鷹雅「学校に行く時間よ、準備なさい」
藤鷹蕨「人の部屋に勝手に入んじゃねえよ!」
藤鷹雅「今年受験生なのよ?」
藤鷹雅「出席日数は内申に響くんだから、ちゃんと学校に行きなさい」
藤鷹蕨「俺は受験なんかしねぇからな!」
「雅」
藤鷹茄「ここは俺の出番だ」
藤鷹雅「あなた!」
藤鷹蕨「親父・・・」
藤鷹雅「仕事行ってきます」
藤鷹蕨「・・・」
藤鷹茄「蕨」
藤鷹茄「愚痴なら俺が聞いてやる」
藤鷹茄「母さんに八つ当たりするな」
藤鷹蕨「親父も『学校行け』ってんだろ!」
藤鷹蕨「学校行けなくなったの、親のせいだって自覚あんのかよ!!?」
〇学校の校舎
〇体育館裏
『3年1組 藤鷹蕨』
〇教室
〇体育館の裏
俺はいつも、酷い目にあってきた・・・
〇木造の一人部屋
藤鷹蕨「俺は親父が『ヤクザ』、母さんが『警察』ってだけでイジメにあってる!」
藤鷹蕨「そんな俺が学校行けるかよ!?」
藤鷹蕨「だから姉ちゃんも家出したんだ!」
藤鷹蕨「俺は『ヤクザ』にはならないし、学校にも行かねぇからな!」
藤鷹茄「なら、好きにしろ」
藤鷹蕨「は?」
藤鷹茄「『好きにしろ』と言ったんだ」
藤鷹茄「お前の人生はお前の物だ、俺が言うことではない」
藤鷹蕨「・・・親なら学校行けとか言わねぇの?」
藤鷹茄「言わん」
藤鷹茄「親の努めとして、義務教育の間は衣食住の保証はする」
藤鷹茄「その間どうするかは自分で決めろ」
藤鷹蕨「責任丸投げかクソ親父!」
〇木造の一人部屋
藤鷹蓪「蕨」
藤鷹蕨「姉ちゃん!」
藤鷹蓪「大きくなったわね」
藤鷹蕨「姉ちゃん、会いたかった・・・」
藤鷹蓪「勉強で忙しかったのよ、ゴメン」
藤鷹蓪「私、弁護士になったの!」
藤鷹蕨「すごいな」
藤鷹蕨「俺も姉ちゃんみたいに強ければいいのにな」
藤鷹蓪「話は聞いたわ」
藤鷹蓪「父さんの話も一理ある、私も経験あるもの」
藤鷹蕨「姉ちゃん・・・」
藤鷹蓪「やりたいことがあれば言いなさい」
藤鷹蓪「弁護士権限で協力してあげる」
藤鷹蕨「俺、前からやってみたい事が──」
〇古めかしい和室
藤鷹雅「あなた、蕨は・・・」
藤鷹茄「蓪が対応している」
藤鷹茄「蕨は暫く、蓪の家に行くらしい」
藤鷹雅「あの子、弁護士になったのね」
藤鷹雅「私と立場逆ね」
藤鷹茄「成長したって事だ」
藤鷹雅「蕨は学校行かないのね」
藤鷹雅「私の教育が悪かったわ、ゴメンなさい」
藤鷹茄「君のせいじゃない」
藤鷹茄「これは蕨の問題だ」
藤鷹茄「親として見守ってやろうじゃないか」
〇屋敷の門
──翌年の春。
藤鷹雅「お花見?」
藤鷹茄「今宵は桜が満開らしい」
藤鷹茄「見に行かないか?」
藤鷹雅「ええ」
〇桜並木(提灯あり)
藤鷹雅「今日はお祭りがあったのね」
藤鷹雅「知らなかった」
藤鷹茄「『藤鷹組』が主催だからな」
藤鷹茄「許可もある」
藤鷹雅「え!?」
お集まりの皆様、ご注目ください!
藤鷹蓪「『藤鷹組』の『20代目』が小咄を披露します!」
藤鷹雅「蓪!?」
「はーい」
藤鷹蕨「20代目『茄』になる予定の藤鷹蕨です」
藤鷹蕨「素人ではありますが、 落語を披露させていただきます」
藤鷹蕨「まだ見習いなので扇子の代わりです」
藤鷹雅「蕨!」
藤鷹蕨「えー本日はお日柄も良く・・・」
藤鷹蕨「あ、もう夕暮れですね」
藤鷹蕨「改めまして──」
藤鷹蕨「──」
藤鷹蕨「──!」
藤鷹蕨「──」
藤鷹蕨「──」
藤鷹蕨「──」
藤鷹蕨「──」
藤鷹雅「蕨が・・・笑ってる・・・」
藤鷹雅「あんな笑顔・・・初めて見た・・・」
藤鷹蕨「──御後が宜しいようで」
藤鷹蕨「御清聴ありがとうございました」
藤鷹蓪「続きまして『主催者』の挨拶です」
藤鷹蓪「父さん、母さん、壇上へ!」
藤鷹雅「蓪!?」
藤鷹茄「行こうか、雅」
藤鷹茄「『藤鷹組19代目藤鷹茄』です」
藤鷹茄「愚息の小咄にお付き合いくださり ありがとうございました」
藤鷹茄「色々ありましたが、息子が『落語家』になると言いまして──」
藤鷹茄「私は強制する気はなかったのですが」
藤鷹茄「本人が『落語家』として『20代目』になると言った時は」
藤鷹茄「正直驚きました」
藤鷹蕨「親父!」
藤鷹茄「男なら、 一度決めた事は最後までやり遂げろ!」
藤鷹蕨「押忍!」
藤鷹雅「蕨・・・」
藤鷹蓪「ここでサプライズです」
藤鷹蓪「ウチの両親の『銀婚式』を行います」
藤鷹雅「!?」
藤鷹茄「蓪、初耳だぞ!?」
藤鷹蓪「家族愛が深まったもの」
藤鷹蓪「丁度人も集まっているし、絶好の機会だよ」
藤鷹蕨「これお祝い」
「・・・」
藤鷹蓪「これ私から」
「・・・」
藤鷹雅「ありがとう」
藤鷹茄「雅、愛している」
藤鷹雅「あ、あなた!」
「せーの!」
〇桜並木(提灯あり)
〇学校の校舎
俺は地獄を見てた。
〇木造の一人部屋
心を癒してくれたのが『落語』だった。
『皆で笑いたい』、それが俺の夢だ。
〇桜並木(提灯あり)
だから俺は『落語家』を目指した。
いつか世界へ羽ばたくぜ!
父親がナスだから娘と息子も植物の名称で、母親がミヤビだからアケビとワラビで韻を踏んでいますね。両親の名前のそれぞれの特徴を子供の名前に反映させていることからして、親が子供に愛情がある証拠です。筋とは無関係なディティールからも、この一家の根っこでのつながりの深さがうかがえてほっこりしました。
旦那さんも奥さんもお互い気付いてないみたいですが、実は愛し合っているというところにほっこりしました☺️
親の職業のせいで子供がいじめられてしまうのは悲しいし心が痛いですよね🥲
そうやっていじめっ子に育てた親の方が愚かだと思います😕
いじめられたり辛い目にあったにも関わらず、しっかり自分の夢を見つけて叶えていて、感動しました。
相反する2人が夫婦となって、その子供たちもそれぞれの道を歩もうとする姿は、とてもいい家族だなぁと感じました。
子供たち自らに考えさせる教育は見習わないとなぁ。