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〇駅の出入口
  僕には、特技がある。

〇黒背景
  目を閉じ、三秒間待つ。そして、目を開く。

〇駅の出入口
  これだけ。これだけで、世界から全ての人間が消えてしまう。

〇黒背景
  元に戻したい時は、もう一度同じ手順を繰り返すだけだ。

〇駅の出入口
  自分自身でも自覚の無いうちに習得した、何とも不思議な能力だ。
  正直、怖い。でもこの能力が役に立つ場面も多いので、何だかんだ利用している。
獅々田美里「おっ、惣太君じゃん。奇遇だね~」
新井田惣太「げ。美里かよ・・・・・・僕も、運が無いな」
獅々田美里「何、言っているのよ。嬉しいくせに!」
  背中を、叩かれる。
  相変わらず、礼儀も手加減も知らないやつだ。思わず、情けない声が出てしまう。
獅々田美里「ぷ、可愛い。今の声」
新井田惣太「うるさい! そんなことより、お前今日の朝練はどうしたんだよ」
獅々田美里「今日のテニス部は、お休みだよ。大会近いからって、顧問が決めたんだ」
新井田惣太「むしろ、大会近い時って猛練習するもんじゃないのか?」
獅々田美里「それが、うちの方針なの。文句あるなら、顧問に言って」
新井田惣太「いや、帰宅部の僕には関係無いことだけどさ」
  美里は僕のクラスメイトであり、幼馴染だ。
  小さい頃から上から目線で、何かにつけて絡んでくる嫌味な性格をしている。
獅々田美里「あ、もうこんな時間だ。走るよ、惣太君」
新井田惣太「わっ・・・・・・ちょっと、そんなに強く引っ張るなって・・・・・・」

〇教室
  教室は、喧騒に包まれている。
  いつものことだが、どうにも僕は教室の空気が苦手なようだ。
  思わず自分の世界に閉じこもるために、特技を使いたくなる。
  だが、この特技にも難点はある。
  全ての人間が消えるということは、教師の存在も消えるということ。
  そのまま時間が過ぎるのを待っていたら、授業がまともに受けられない。
  仕方なく、僕は鞄から教科書を取り出す。
新井田惣太「あれ、おかしいな・・・・・・」
獅々田美里「惣太君、どうしたの?」
新井田惣太「いや、教科書が見当たらなくてさ。確かに、入れたはずなんだけど」
獅々田美里「また? この前も、私が貸してあげたじゃない」
新井田惣太「悪い。また、貸してくれないか?」
獅々田美里「嫌よ。あれから席替えがあって、隣の席から離れちゃったじゃない」
新井田惣太「はあ、じゃあいいよ」
  運悪く、隣の席のやつは風邪で休んでいた。
  教科書が無いんじゃ、授業をまともに受けることが出来ないだろう。
新井田惣太「やっぱり、あの特技を使うか」

〇黒背景
  僕は、目を閉じる。そして、三秒間待って、目を開く。

〇教室
  辺りは、静寂に包まれていた。上手くいったらしい。
新井田惣太「教室に居ても仕方ないから、外を散歩でもしてくるかな」
  これだけ静かだと、つい独り言が多くなってしまう。
  うるさいのは嫌だが、何だかんだ寂しさを感じてしまっているようだ。
  僕は席を立ち、学校内を散歩でもしてみることにした。
  今日は天気が良いし、絶好のお昼寝日和かもしれない。

〇高い屋上
  屋上への階段へ足を運ぶと、そこには先客がいた。
新井田惣太「ん・・・・・・誰?」
  長い髪の少女が、こちらを振り向いた。
  透き通るような白い肌と整った顔立ち、それに底の見えない井戸のような暗い瞳が印象的だった。
新井田惣太「あれ、今は誰もいないはずなのにおかしいな」
  少女は首を傾げると、ゆっくりと近づいてきた。
  だが、歩き方がおかしい。まるで、生まれたばかりの赤子のようにおぼつかないのだ。
新井田惣太「君、名前は?」
  返事は無い。ただ、じっと見つめてくるだけだ。
新井田惣太「まさか、言葉が喋れないなんてことは無いよな?」
  少女は、何も返さない。試しに、ジェスチャーで反応を見てみることにした。
新井田惣太「君は。ここで。何を。しているの?」
  特段上手くないジェスチャーだったが、少女は俺の意図を察してくれたようだ。
  笑顔を向けて、空を指差した。
新井田惣太「空を、見ていたの?」
  こくり、と頷く。
  そして、ぱたぱたと鳥の様に羽ばたくような仕草をした。
新井田惣太「空を、飛びたいのか?」
  再び、少女はこくりと頷いた。
  彼女との会話・・・・・・会話と呼べるものなのかは分からないが、僕はそれが楽しくなっていた。
新井田惣太「飛行機にでも乗れば、空を飛べるんじゃないか?」
  少女は初めて首を振り、否定の意を示した。
  そして、ぐいっと伸びをする。もっともっと高く、そんな意思表示に見える。
新井田惣太「もしかして、宇宙?」
  こくこくと、頷く。
新井田惣太「宇宙飛行士にでもなれば別だけど、簡単には行けないだろうな」
  少女は、諦めたようにぱたりと屋上のフェンスに寄りかかり腰を下ろした。
  僕も、その隣に座る。

〇空
  二人で、ただ空を見上げる。
  夕方になるまで、僕たちは空を見上げ続けた。

〇高い屋上
新井田惣太「あー、首が痛い。そろそろ、帰らなきゃ」
  少女は、不思議そうな顔をする。彼女は、まだ帰るつもりは無いようだ。
新井田惣太「君は、いつもこの場所に居るのかい?」
  こくりと、肯定を示す。
新井田惣太「また、来るよ」
  少女は、微笑みを返してくれた。

〇高い屋上
  それから、次の日も。
  また、次の日も。
  僕たちは、空を見上げ続けた。そんな、ある日のことだった。
新井田惣太「何だ、あれ?」

〇UFOの飛ぶ空
  空から、何かが近づいてくる。
「宇宙船、か?」

〇高い屋上
  やがて、宇宙船は屋上に降り立った。あまりに異常な光景に、僕はただただ言葉を失っていた。
  しばらくして、宇宙船から降りてきたのは見慣れた人物だった。
新井田惣太「美里・・・・・・どうして!?」
獅々田美里「惣太君、そいつから離れて!」
  美里が、光線銃のようなものを構えている。その銃は、隣に座る少女の方を向いていた。
新井田惣太「やめろ! その子は!」
  次の瞬間、隣に居た少女は跡形も無く消え去った。
  塵一つ残ることなく、忽然と。
新井田惣太「うわぁああああああああああああああああああああああああああああっ!!」
獅々田美里「惣太君、落ち着いて!」
  美里が何か言っているような気がするが、耳に入らない。
新井田惣太「そ、そうだ。あの特技で、元の世界に戻れば・・・・・・」

〇黒背景
  目を閉じて、秒数を数える。
  3・・・・・・
  2・・・・・・
  1・・・・・・

〇宇宙空間
宇宙船員「遭難者、発見しました。低酸素症による昏迷状態です」
宇宙船員「了解。宇宙船に収容し、直ちに治療を開始します」
獅々田美里「惣太君・・・・・・」
  惣太君が船外活動時の事故で、宇宙に放り出されてから一週間が経過していた。
  本来すぐに救助されるはずだったのだが、宇宙船自体が小さな隕石と衝突したことでコントロールを失っていた。
  惣太君は、しばらく窒素ガスを噴出し宇宙を彷徨っていたらしい。遭難地点から、随分と離れた位置で発見された。
宇宙船員「どうしますか、こいつは」
獅々田美里「ここに、置いていきましょう」
  惣太君の隣に寄り添うように浮かぶ、宇宙人を見下ろす。
  この宇宙人も、惣太君の様に宇宙に取り残されていたのだろう。
  咄嗟に撃ってしまったけど、もしかしたら話が通じる相手だったのかもしれない。
  地球は、宇宙人との争いの只中にある。
  そんな宇宙の中の、ちっぽけな話。だけど確かにそこにあった絆を、もう誰も語り継ぐことは無い。

コメント

  • 宇宙に一人きり取り残された極限状態の主人公が、仲間のクルーが会いに来てくれた幻覚を見ていた映画ゼロ・グラビティを思い出しました。あの主人公は地球に帰れたけど惣太の結末は切ないですね。

  • まるで真逆の想像をしていたので、まさか彼が宇宙人だったとは! 想定外の結末がある意味心地よかったです。一瞬でも地球人と宇宙人の心が繋がったのが印象的ですね。

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