明日、世界が○○る日(脚本)
〇森の中
私「それでは、最後の晩餐を始めようか」
友人1「いやー、三人で集まるのも今日で最後かぁ」
友人2「思えば歳をとったよな、俺達も」
もうすっかり見慣れたメンバー。別に幼馴染でも何でもない。
似たような立場の私達だからこそできる話があった。
これはそういう集まりだ。
友人2「今日は良いものを持って来たんだ」
友人1「へぇ、良いもの・・・ってあんた、その和太鼓みたいなやつ転がしてきたの!?」
友人2「おうよ。この日のためにとっておいた秘蔵のワインだぜ?」
私「しかし、樽ごととはな。相変わらず、大それたことをよくやるものだ」
湧き上がる二人の笑い声と私のため息。
反応一つでもこれだけ違いを見せる、個性とはやはり知性体の魅力的な要素だと思う。
友人1「とか言って、実は僕も」
また樽が現れる。こちらはやや小ぶりで、両腕に抱えられる程度のもの。
友人1「こっちは日本酒。超吟醸と呼んでくれ」
私「いやいや二人とも、揃いも揃って・・・私はいつものビールだが、悪いね」
友人1「なーに言ってんの。あんたのビールも手間暇かけた自家製じゃん?」
友人2「今年の小麦は質が良いんだろ? 楽しみだ」
私は苦笑し、素焼きの杯に注いだビールを二人に手渡した。
引き換えに、ワイン入りのゴブレットと日本酒に満たされた猪口を受け取る。
友人1「それじゃあ各々方! 酒は行き渡ったかな?」
お決まりの掛け声に、器を掲げて応えた。
友人1「では──」
「乾杯!!!」
〇森の中
友人2「ところでおまえら、明日の準備は万全なんだろうな?」
友人1「もっちろん! ギリのギリまであんたらと吞み交わす覚悟で来てっからな!」
私「こちらも完璧だ。明日の失敗だけは、人生最高の恥になる」
日付が変わるまであと一時間。
何物にも代えがたいこの集まりにも、次第に終わりの時が迫って来ている。
友人2「本当は、明日もおまえらと過ごしたかったんだがな。一人はやっぱり寂しいもんだ」
私「私もだよ。その点、君はいいね。帰ったらあの可愛い妹が出迎えてくれるんだろう?」
友人1「まぁな。でも僕だって、見慣れた妹よりあんたらの方がいいんだぜ?」
友人2「はっ。この贅沢者が」
私「ああ、本当に・・・」
友人2「なぁ・・・」
友人1「・・・・・・」
沈黙。ずっと続いていた会話が自然と途切れた。
皆の言いたいことは分かる・・・そろそろ、頃合いか。
私「・・・では、そろそろお開きにするかい?」
友人2「もう、そんな時間になるのか。あっという間だな、ほんと」
友人1「なあ、もうちょっといいじゃんよ。まだ三十分以上もあるのに」
私「そんなことを言って、帰る途中で明日にでもなったらどうする」
友人1「・・・そりゃそうだけどさ」
拗ねたような表情に、思わず笑みがこぼれてしまった。
そうだな・・・ああ、まだもう一つだけ。いい話題があった。
私「明日になったら、何がしたい?」
友人1「うぇ? 明日?」
友人2「明日ねえ。俺はまず仲間からだな! やっぱ一人じゃ寂しいし、役割分担って大事だろ?」
私「確かに。でも私はまず、土壌づくりからやるよ。大切な箱庭なんだからね」
友人2「あー、おまえはやっぱそうだよな。昔っから何でも一人で全部やりたがる」
友人1「あ・・・僕も! 僕も僕も!! 子供作る!」
私「お、幸せな家族計画かい?」
友人1「だって・・・せっかく妹がいるんだし」
友人2「あー。ま、そうなるよなー。あー羨まし羨まし」
私「ははは。それなら尚更、早く帰らないといけないな?」
友人1「う・・・分かったよ!」
名残惜しそうに何度も振り返りながら、二人の友人は去っていった。
最後は無理矢理作った笑顔で、元気に手を振っていた。
〇森の中
私「・・・さて」
今日で最後のこの世界が、果たして明日からどんな様相を見せるのか。
それは私達の誰にも分からない。
だけど、もしも。
もしも、どこかでまた君達に出会えたら。
その時は、また酒を酌み交わそうじゃないか。
――日本神話の祖、イザナギ。
――ギリシャ神話における原初の神、カオス。
願わくは、君達の神話が恒久のものでありますように。
〇黒
・・・明日が、今日になった。
それでは私も、自分の神話を始めよう。
確か、最初に言う事は──
――光あれ。
〇白
『明日、世界が始まる日』
~fin~
うまく騙されました。笑
終わる日だと思って読んでたら、始まりの日だったとはびっくりです!
ということは、彼らが酌み交わしたのは祝杯ですね。
酒を酌み交わす事ってめでたい時とそうでない時両方想定できるので、恐る恐るタップしました。でも最後にバーンと夜明けを感じて嬉しさ倍増です!
面白いです。最終回のような緊張感が漂う展開に気持ちよくミスリードされていました。まさかそんなメンツで酒飲まんだろ、というツッコミを飲み込みながら。