読切(脚本)
〇事務所
───業務遂行の前日
部長「今月の成績を発表する 上田5人。山岡4人。新谷は8人か。今月も好調だな。 ・・・で、三村は今月も0」
三村「すみません・・・・・・」
新谷「謝る必要ないっスよ~先輩!!」
山岡「全体で目標数はクリアできてるんだからさ」
上田「チームワークってやつだ」
三村「みんな・・・ありがとう」
三村「でも、200年も死神やってて、まだ一人も魂回収できてないし。 僕、やっぱ向いてないのかもって・・・」
新谷「・・・・・・・・・」
上田「・・・・・・・・・」
部長「三村。この後ちょっと付き合え」
三村「・・・は、はい・・・・・・」
〇大衆居酒屋
部長「つき合わせて悪いな」
三村「いえ。今日、皆の前でネガティブ発言しちゃって、すみませんでした・・・」
部長「気にしてたんだな」
部長「即戦力が求められる時代になったが、そもそも一人前の死神を育てるのは、時間がかかる」
部長「三村には三村のペースがあるんだよ」
三村「でも200年は掛かりすぎです・・・」
部長「ハハッ!!確かに前代未聞ではあるな」
部長「俺もそろそろ三村を死神デビューさせたいと思ってたんだよ」
部長「でだな。三村がよければなんだが・・・」
部長が差し出したのは一枚の写真
そこには若い女が映っていた
女の表情には深い闇が棲んでいる
三村「この人は?」
部長「榎本まりえ。24才。大手企業の社員だが、うつ病で一年以上休職してる。何度か自殺未遂も・・・」
部長「もう生きる気力を失ってる。楽にしてやった方がいいだろう」
部長「彼女の魂、回収してもらえないか?」
三村「え・・・」
三村(部長は俺を死神デビューさせるために、チャンスを作ってくれてるんだ)
三村(期待に応えなくちゃ・・・!!)
三村「はい!!必ず回収してきます!!」
三村は居酒屋を出るなり、榎本まりえの住むアパートへ向かった
〇簡素な部屋
三村は窓から部屋の様子をうかがった
三村(夜中なのに明るい。昼夜逆転してるのか)
三村は姿を消して、まりえの部屋に入った
榎本まりえ「誰?」
三村(えっ! 人間からは絶対に姿が見えないはずなのに!!)
榎本まりえ「何日か前にも来てた。スーツ姿のおじさん」
三村(部長にも気づいてたの!? 霊感の強っ。霊媒師の仕事なら上手くいきそうなのにな。じゃなくて!!)
三村はまりえが視認できるように姿を現した
三村「うつ病って聞いていたんですけど、わりとお元気そうですね」
榎本まりえ「みんなそう言う。『全然元気じゃん。働けるよね?』って・・・」
榎本まりえ「私の事なんて何も分かってないくせに」
三村(分かってもらおうとしてないだけなんじゃ・・・。って余計な事考えてる場合じゃないぞ。今回は失敗できないんだ!!)
三村「私は死神です。榎本まりえさん、あなたの魂を回収に参りました」
三村「榎本さんは霊感がお強くて、私どもの存在を認識できるようですので、早速ですが最期の方法についてご相談させていただければと」
榎本まりえ「・・・・・・」
榎本まりえ「誰にも迷惑かけたくないし、なるべく片づけやすいようにして下さい」
三村「かしこまりました。 では、1番人気の突発的な心停止がおすすめです!!」
榎本まりえ「・・・じゃ、それで」
三村「あと、最期にやり残したことあれば何なりとおっしゃてください。今、期間限定のサービスキャンペーン中ですので!!」
まりえはクローゼットから、段ボール箱を一箱取り出した
榎本まりえ「プロジェクトの引継の資料。会社の人に渡してもらえますか?」
榎本まりえ「もう必要ないかも知れないけど・・・」
三村「中身を確認させてもらいますね」
三村は段ボールを開けて中身を確認した
三村「すごい量・・・しかも的確にまとまってる!!」
三村「こんなに優秀なのにどうして・・・」
榎本まりえ「こんなのちっとも。私より優秀な人はたくさんいる」
榎本まりえ「頑張っても頑張っても1番になれなくて、もっと頑張らなきゃいけないのに・・・」
榎本まりえ「もう苦しい・・・」
三村「誰かに助けてもらえなかったんですか?」
榎本まりえ「えっ?」
三村「いや、僕の話になっちゃうんですけど、実は死神200年やってて、いまだに実績0なんですよね」
榎本まりえ「そんなんでクビにならないんですか? あ、すみません。失礼な事を・・・」
三村「いや、ホントその通りなんですけど、僕がダメでもチームのメンバーが助けてくれるから、何とかやってけてるっていうか」
三村「ぶっちゃけ100年後輩の新人にも成績抜かれてるし」
榎本まりえ「嫌にならないですか?」
三村「そりゃ落ち込む事もありますよ」
三村「でも、上司が『皆がついてるから、三村は三村のペースでやっていい』って言ってくれて」
三村「それでまあ何とか」
榎本まりえ「・・・・・・」
三村「だから、まあ、そんなに気にしなくてもいいんじゃないですかね」
三村「僕は気にしなきゃダメなんですけど・・・」
榎本まりえ「そうですね・・・」
三村(今、笑った?)
三村「あ、この資料は必ず会社に届けますんで!」
三村「では夜明けに、改めて魂の回収に来ますので。今夜はゆっくりお過ごしください」
榎本まりえ「はい。よろしくお願いします」
三村(ふぅー。無事に魂回収できそうだ。これで明日には死神デビューできるぞ!!)
〇簡素な部屋
────翌朝
三村「おはようござ・・・」
三村「って、なんでスーツ?」
三村「スーツで棺桶に入るなんて、どんだけ社畜なんですか!」
榎本まりえ「いや、墓場じゃなくて、会社行こうかなって」
榎本まりえ「書類も自分で渡たすから、もういいですよ」
三村「どどどどういうことですか?」
榎本まりえ「あなたの話聞いて一晩考えたら、私全然ダメじゃないかもって思えて」
榎本まりえ「てか、ダメでも人に頼ればいいし。そういうやり方もあるのかなって」
榎本まりえ「じゃ、あなたには悪いけど、死ぬの延期で」
そう言って、まりえは部屋を出て行った
三村「・・・・・・」
三村「えぇーーーー!!!!!!」
ビジネスチックな死神世界に笑ってしまいました。そんな”軽み”と、テーマの”深さ”が絶妙に噛み合っている、素敵な物語ですね。
やっと死神デビュー出来ると思ったら不測の事態!笑
でも、そんな彼だから周りの人も、優しく見守ってくれてるのかな?って思いました。
死神デビュー失敗しちゃったけど、いつもうまくいかないのはこういうことかぁと、ほんわかした気持ちになりました。死神の世界が、お互い応援しあう優しい世界でよかったです。