氷魔おスズの旅語り一 春告げ鳥を捜して

ヤミヲミルメ

氷魔おスズの春捜し(脚本)

氷魔おスズの旅語り一 春告げ鳥を捜して

ヤミヲミルメ

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氷魔おスズの旅語り一 春告げ鳥を捜して
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〇雪山
氷魔 おスズ「父上ー! あの子は何をしておるのじゃ?」
おスズの父上「あれかい? あれはこの土地の 春を目覚めさせる儀式だよ」
春告げ鳥「ららら〜♪ いとしき春の光よ〜♪」

〇桜の見える丘
氷魔 おスズ「わああああ!」
おスズの父上「見事だねえ 春の目覚めだよ」
氷魔 おスズ「これはあの子の力なのかの?」
おスズの父上「いやいや、とんでもない」
おスズの父上「ほら、このレンズを通して見てごらん」
おスズの父上「春の女神様だよ」
おスズの父上「冬の間、眠っていたのが 春告げ鳥の歌で目を覚ましたんだ」
おスズの父上「けれど春告げ鳥には 女神様は見えていないみたいだねえ」
春告げ鳥「儀式、終わったよ」
村の子供 ホノ「わーい! 春が来たー!」
村の子供 テル「春告げ鳥さまー! あそぼ! あそぼー!」
氷魔 おスズ「わ、わらわも・・・」
氷魔 おスズ「わらわも仲間に入れてほしいのじゃ!」
おスズの父上「おいおい、私らはここに 魔術の修行をするために・・・」
おスズの父上「やれやれ」

〇山間の集落
村の子供 テル「おスズちゃんも春告げ鳥さまも 行っちゃった」
村の子供 ホノ「しょうがないわよ 二人とも旅をしてるんだもの」
村の子供 テル「おスズちゃん、また逢えるかなぁ・・・」
村の子供 ホノ「逢えるといいわよね」
村の子供 ホノ(春告げ鳥さまは毎年 冬の終わりに来てくださるけど)
村の子供 ホノ(夏も秋もキライ 春告げ鳥さまがいない季節はキライ)
のら犬「くぅ~ん」
村の子供 ホノ「あんた、何をくわえてんの! ?」

〇桜の見える丘
  次の春
春告げ鳥「ああ我が夢に見し春よ〜♪」
村の子供 ホノ(女神さまって あんなに おキレイなのね)
村の子供 ホノ(春告げ鳥さまの歌、 去年よりも上手になってる)
  さらに時は流れ
春告げ鳥「離れし日々にも我が心には 貴女の風が常に吹き〜♪」
村人 ホノ「・・・春告げ鳥様なんて」
村人 ホノ「・・・大嫌い」

〇山間の集落
村人「ポーラのやつ、また ふもとの町へ行ってるのかい?」
村人「畑仕事もしないで ほっつき歩いて しょうがない娘だねえ」

〇児童養護施設
町の人「マジ? 山の奥の村の人って そんな迷信を信じてんの?」
町の人「春告げ鳥が来なければ 春が来ないだなんて」
町の人「そんなバカな話、あるわけないだろう」
町の人「春なんて待ってれば勝手に来るもんさ」
町の人「春告げ鳥とやらには、村を上げて ごちそうを振る舞っているんだろう?」
町の人「詐欺師が冬の終わりを狙ってやってきて ごちそうを騙し取っているんだよ」

〇児童養護施設
若い男性「すみません、この辺りで 春告げ鳥様を見ませんでしたか?」
氷魔 おスズ「テル! ?」
村人 テル「え! ?」

〇雪山の森の中
氷魔 おスズ「この辺りだけ冬のままじゃ」
氷魔 おスズ「春告げ鳥が来ないせいで 春の女神が目覚めぬのじゃな」
村人 テル「ホノちゃんも行方不明なんだ」
村人 テル「みんなは ただの家出だって 言ってるけど」
村人 テル「いなくなる前に おかしなことを言っててさ」
村人 テル「『春告げ鳥はウソつきの詐欺師だ』」
村人 テル「『春告げ鳥が来なくても  よそには春が来ている』なんてさ」
村人 テル「そんなわけないよね」
氷魔 おスズ「春なら来るぞ よそには、な」
氷魔 おスズ「こちらの村が特殊なんじゃよ」
氷魔 おスズ「村の北の山を越えた先に 雪の妖精の里があってな」
氷魔 おスズ「冬の間に妖精どもが 人の村まで入り込むので」
氷魔 おスズ「女神が目覚めて追い払わねば 村には春が来ないのじゃ」
氷魔 おスズ「おそらくホノは 南の町で聞いた話が」
氷魔 おスズ「自分の村でも通じると 思ってしまったのじゃろう」
氷魔 おスズ「南ではなく北へ行っておれば」
氷魔 おスズ「春告げ鳥のありがたさが わかったじゃろうが」
氷魔 おスズ「北の山は険しいからのう」

〇雪山
熊「グオー!」
村人 テル「ひええっ!」
氷魔 おスズ「ええい! いね!」
熊「ぐおーんっ」
村人 テル「おスズちゃん、すごいや」
氷魔 おスズ「修行の成果じゃ それより・・・」
氷魔 おスズ「あの熊、何か落としていったぞえ」
村人 テル「ひぃっ!」
氷魔 おスズ「ただの お面じゃ」
氷魔 おスズ「呪術用」
氷魔 おスズ「・・・っぽく見える民芸品」
氷魔 おスズ「単なる土産物じゃな 特別な力は感じぬ」
村人 テル「そういえばホノちゃんが 行商人から買ってたような・・・」
氷魔 おスズ「お面に血がついておる!」
氷魔 おスズ「熊に怪我はさせておらぬし もしや これはホノの・・・」
氷魔 おスズ「だとしたらホノは 家出などではなく・・・」
村人 テル「なかなか春が来ないから、熊も お腹をすかして狂暴になってて・・・」
村人 テル「まさか春告げ鳥様も熊に・・・」
氷魔 おスズ「だとしたらバカな熊じゃ」
氷魔 おスズ「春告げ鳥がおらねば この山はずっと冬のままなのに」

〇山間の集落
氷魔 おスズ「どの家もすっかり 雪に埋もれてしまっておるな」
村人 テル「こっちだよ 屋根裏部屋の窓から入るんだ」

〇古民家の蔵
村人 テル「去年の春の終わりに」
村人 テル「ホノちゃんが春告げ鳥様に 告白したんだ」
村人 テル「でも春告げ鳥様は 返事もせずに逃げ出しちゃって」
村人 テル「それからホノちゃんの様子が おかしくなって」
村人 テル「服の趣味が変わっただけって 言ってしまえば そうなんだけど」
村人 テル「自分で高下駄を作って履いたり」
村人 テル「僕の服を勝手に持ち出して着たり」
村人 テル「それで お面で顔まで変えるなんて」
村人 テル「何もかも嫌になっちゃったって ことなのかな・・・」
村人 テル「『春告げ鳥が詐欺師だって証明して  女神様と引き離してやる』」
村人 テル「なんて言って 村のみんなを怒らせて・・・」
  外が騒がしい
村人「ドロボウだ!」

〇山間の集落
村人「あいつめ! また食べ物を盗みやがった!」
村人「こらー! 待てー!」
村人「駄目だ。吹雪いてきた。あきらめよう」
村人 テル「僕らも家に戻ろう」
氷魔 おスズ「先に戻っておれ」
氷魔 おスズ「わらわには これがあるでな」
村人 テル「炎の魔石! ?」
村人 テル「おスズちゃん、そんなの持ってて 解けないの?」
氷魔 おスズ「解けるわけなかろう 氷魔は」
氷魔 おスズ「氷の魔術が扱えるだけの ただの人間じゃぞ」
村人 テル「不老不死の化物じゃないの?」
氷魔 おスズ「背が伸びてないだけで 年は取っておる!」

〇雪山の森の中
のら犬「くぅ〜ん! くぅ〜ん!」
氷魔 おスズ「わらわを呼んでおるのか?」

〇雪洞
氷魔 おスズ(洞窟・・・)

〇暗い洞窟
氷魔 おスズ(横穴を進んだ先に 落とし穴みたいな縦穴)
氷魔 おスズ(明かりがなければ危なかったわい)
氷魔 おスズ(犬が、くわえていた魚を 縦穴に落としおったぞ)
氷魔 おスズ「穴の底に誰かおるのかー! ?」
???「・・・・・・・・・」
氷魔 おスズ「ちと下りてみるかの」
氷魔 おスズ「いでよ! 氷のらせん階段!」
氷魔 おスズ「さて、何が待っておるのかのう」
氷魔 おスズ「春告げ鳥! ?」
氷魔 おスズ(返事がない・・・ じゃが、息はある!)
氷魔 おスズ(低体温症か! 首飾りの魔石の 魔力が尽きたせいじゃな!)
氷魔 おスズ(太い血管が集まる脇の下と 股の間を温めて・・・)
氷魔 おスズ(お湯を沸かして・・・)
氷魔 おスズ(でも意識のない状態で 飲ませるのは危険・・・)
氷魔 おスズ「春告げ鳥! 目を開けい!」
氷魔 おスズ(冷え切っておる・・・)
氷魔 おスズ(ここで急にマッサージなどすれば 冷えた血液が一気に心臓に流れてしまう)
氷魔 おスズ(体の中心からゆっくりと温まるのを 待つしかない・・・)
春告げ鳥「うう・・・」
  がたがた
氷魔 おスズ「震え出したか」
氷魔 おスズ「それは体が 熱を作ろうとしておるということじゃ」
氷魔 おスズ「ささっ これを飲め」
氷魔 おスズ「わらわが誰か わかるかの?」
氷魔 おスズ「何があったか話せるかえ?」
氷魔 おスズ「無理は せんで ええぞ」
春告げ鳥「・・・・・・・・・」
春告げ鳥「いつもの年と同じように・・・」
春告げ鳥「いつもの時期に 村へ行こうとしていたんだ・・・」
春告げ鳥「森の中で変なやつに襲われて・・・」
春告げ鳥「洞窟に追い込まれて・・・ 落とし穴に・・・」
氷魔 おスズ「襲ったのは どんなやつじゃ?」
春告げ鳥「知らない男・・・」
氷魔 おスズ「どんな顔じゃった?」
春告げ鳥「わからない・・・ お面をつけてた・・・」
春告げ鳥「それに声も出さなくて・・・ 目的を聞いても・・・」
氷魔 おスズ「それで どうして 男だと わかったんじゃ?」
春告げ鳥「服が そんな感じだったし・・・」
春告げ鳥「女の人にしては背が高かったから・・・」
氷魔 おスズ「その お面とは」
氷魔 おスズ「もしや これかの?」
春告げ鳥「そう・・・それだよ・・・」
春告げ鳥「どうして それを おスズちゃんが・・・?」
氷魔 おスズ(高下駄に男物の服に お面)
氷魔 おスズ(これらが意味するのは)
春告げ鳥「お面の男は最初のうちは 毎日ここに来ていたんだ・・・」
春告げ鳥「穴の上から僕の様子をのぞいて・・・ 食べ物を・・・」
春告げ鳥「でも、パタリと来なくなって・・・」
春告げ鳥「あの男が来なくなってから こいつが食べ物を運んでくれたんだ」
氷魔 おスズ(ホノは犬が好きじゃった)
氷魔 おスズ(この犬は ホノの真似をしていたのじゃな)
春告げ鳥「お面の男を捕まえないと」
春告げ鳥「村の人にも ひどいことをするかも・・・」
氷魔 おスズ「その心配はない」
氷魔 おスズ「お面の男は・・・」
氷魔 おスズ「もう おらぬ」

〇雪洞
春告げ鳥「早く春の女神に目覚めてもらわないと」
春告げ鳥「はるか南の山の神より〜♪ いとしき妻への愛の歌〜♪」

〇菜の花畑
氷魔 おスズ「その歌詞、なんなのじゃ?」
春告げ鳥「ここよりずっと南」
春告げ鳥「世界を半周して 季節が逆になる土地の」
春告げ鳥「春の男神から この地の女神への恋の歌だよ」
春告げ鳥「女神は夫から贈られた歌で目覚めて 春をもたらし」
春告げ鳥「夫へ贈る歌を作って」
春告げ鳥「夏の間に僕が旅して その歌を南の夫のもとへ届けて」
春告げ鳥「こっちの村に秋が来るころ 南の山が春になるんだ」
氷魔 おスズ「これもかの?」
春告げ鳥「それは僕の・・・!」
氷魔 おスズ「いとしのホノちゃんへ・・・!」
春告げ鳥「一族の ならわしでね」
春告げ鳥「求愛の歌を作っている最中に ホノちゃんのほうから告白してきて」
春告げ鳥「慌ててしまって ちゃんと答えられなかったんだ」
春告げ鳥「今年こそ 僕から」

〇桜の見える丘

コメント

  • これは秀作!
    ボイスと台詞の言い回しを変えるテクニックやよく練られたどんでん返し、切ないラストなのに爽やかな春を感じる読後感はお見事としか言えません。
    やはりヤミヲミルメさんのファンタジーはスゴいです。

  • とってもステキなファンタジーですね!可愛らしさと、ちょっぴり切なさと悲しさもあって。おスズの活躍、もっともっと見たくなります!

  • 切なくも素敵な世界観!
    テンポもよくて沁みました。
    のじゃロリいいですね😄

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