エピソード43(脚本)
〇地下室
沢渡充希「ん・・・う?」
目を覚ますと、目の前にぼんやりと照らされた土壁が見える。
まだぼーっとしている頭で眺めていると、段々と気を失う前の状況を思い出し、僕は飛び起きた。
周りを見渡すとどうやらここは同じ地下室のようだ。
しかし気を失う前とはすこし様子が違う。
あれだけ照らしても闇しか見えなかったのが今は地面に落ちているつけっぱなしの懐中電灯でも周りがうっすらと見えている。
僕は懐中電灯を拾ってあたりを見渡すと、あることに気づいた。
沢渡充希「ッ! 西園寺さん!?」
僕と同じように倒れているのは消えたはずの西園寺さんだった。
西園寺さんだけではなく、他の3人も倒れている。
ただ薬師寺さんの姿だけはなかった。
僕は慌てて一番近い西園寺さんに近寄ると、身体を揺すった。
もしかしたら死んでいるかも、と焦ったが触れた手のひらからは人の体温と呼吸が感じられた。
西園寺さんは不機嫌そうな声を出しながらもちゃんと起き上がった。
僕は他の3人も急いで起こして、地下室から1階に続く扉に手をかけた。
沢渡充希「ふー・・・はっ!」
ギイィ
沢渡充希「・・・あれ?」
気合を入れて押した扉は、いとも簡単に開いた。
〇洋館の一室
落とし戸も開けてあたりを見渡すと、洋館の窓から眩しいほど朝日が差し込んでいた。
地下室に入った時はまだ真夜中だったので、だいぶ長いこと眠っていたようだ。
僕はそのまま4人を連れて屋敷の玄関まで向かった。
玄関扉に手をかけると、あのときどんなことをしても開かなかったのが嘘のようにすんなりと開く。
〇古い洋館
僕はやっと安堵し、4人に向けて笑いかけた。
沢渡充希「やりましたよ! 僕たち生き延びたんです!」
「・・・・・・」
沢渡充希(・・・?)
きっとまだ完全に屋敷から出ていないからイマイチ信じきれていないんだろう。
屋敷からみんな出たのを確認して、僕は玄関扉を閉めた。
それから屋敷の前に停めてある車に駆け寄りマジックミラーで見えない窓を叩く。
しばらくすると、ガチャンと音がして車の扉が開いた。
姿を現したのは、留守番をお願いしていた後輩ADだ。
眠そうにまぶたをこすっている。
後輩AD「ん~・・・あ、先輩!」
沢渡充希「お前・・・! なにしてたんだ今まで!」
後輩AD「なにって・・・それはこっちのセリフですよ!」
僕の怒号に後輩ADは驚いた様子で言葉を連ねた。
どうやら彼は、撮影のために屋敷に入った一行が予定時間になっても帰ってこなかったので、心配で屋敷内に入って探したらしい。
しかし、いるはずの一行は見当たらず、名前を呼んでも反応がない。
わけがわからず僕の携帯に連絡するも、それにも出ないので途方に暮れて車の中で眠って待っていたそうだ。
沢渡充希「そ、んな・・・。 僕たちはずっとあの屋敷の中にいたのに・・・」
地下室ならともかく後輩が見に来た時間にはまだ屋内を回っていたはずだ。
どういうことだ、と考え込んでいると馬場さんがおずおずと手を挙げた。
馬場文也「あの・・・」
沢渡充希「どうしました?」
馬場文也「ええっと、申し訳ないんですがここってどこでしょうか?」
馬場文也「それでもって、あなたのお名前をお聞きしても・・・?」
沢渡充希「えっ・・・?」
馬場さんの意味のわからない言葉に驚いていると、西園寺さんも一歩踏み出す。
西園寺翼「実は私もだ。 いったいどうしてこんな場所にいるのかわからん」
西園寺翼「さっきから主導して喋っている君の名前もわからないな」
僕はわけがわからず、助けを求めるように音響スタッフとカメラマンに視線を向ける。
するとふたりは僕に近づき困惑した表情で言った。
カメラマン「・・・実は俺も、記憶がないんです」
音響スタッフ「俺も・・・。 ここってどんな企画のロケでしたっけ?」
かなり綿密な打ち合わせをしたはずのふたりまでそんなことを言うとは思わず、僕は慌てて懐から台本を取り出す。
沢渡充希「待ってくださいよ・・・。 これ! ほら、台本がありますよね!?」
僕は台本を片手に、自分たちが心霊番組を撮りに来たことを説明する。
しかし、みんなは首を傾げるばかりで僕は途方にくれるばかりだった。
まるで僕だけが見た夢を説明しているような感覚だ。
僕はどうしようかと思い、周囲を見回してみるとあるものが目についた。
沢渡充希「そうだ、カメラ・・・。 カメラを確認してみてください!」
僕がカメラマンの抱えているカメラを指差すと、怪訝な表情のまま一同はカメラを確認することになった。
早送りの画面に映し出された数字は、僕たちが屋敷に入った時刻と日付だ。
はじめは台本通りに話が進んでいく。
しかし1階の探索が終わり、休憩を挟もうとしたあたりから様子がおかしくなっていく。
カメラ越しに伝わる緊迫した空気の中、聞き覚えのあるのんびりとした声が聞こえてきた。
カメラが映し出したのは、狐面にスカーフを身に着け、学生服に身を包むあの男だ。
僕は目を見開いて「そうだ!」と叫ぶ。
それから彼を指差して、みんなを見た。
沢渡充希「そうだよ! 薬師寺さんが来たんだ!」
沢渡充希「・・・そういえば薬師寺さんは!?」
僕の言葉に、みんなは頭上に疑問符を浮かべている。
西園寺翼「スタッフか誰かかね?」
沢渡充希「違いますよ、ほら、この映ってる・・・」
僕がそう言うと、全員が沈黙した。
後輩ADは引きつった笑みを浮かべる。
後輩AD「・・・なに、言ってんすか、先輩。 画面にはなにも映ってないっすよ」
沢渡充希「・・・は?」
なに言ってるんだ、と言い返そうとしたが、後輩AD以外の全員が頷いていた。
どうやら、映像が流れ始めてすぐに画面が真っ暗になったらしい。
僕以外の全員はただ進んでいく再生時間をじっと見つめていたようだ。
後輩AD「・・・先輩、なにが見えてるんですか?」
僕はなにも言い返すことができず、ただ流れていく映像を見ていた。
僕はじっと映像を見ながら、あることを思いついた。
沢渡充希(・・・そうだ)
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