メタリアルストーリー

相賀マコト

エピソード37(脚本)

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〇鍛冶屋
  「ニルのことか」という問いにアイリは答えなかったが、気にせずにエミリアは言葉を続けた。
エミリア「私も納得はしていない。 伯父上にも掛け合ってみたが、あくまで評議会の一席にすぎない」
エミリア「それだけでは、評議会の決定を左右することはできないだろう」
アイリ「ブッシュバウム家もその程度ってことね」
エミリア「本当にその通りだ・・・返す言葉もない」
エミリア「まあ・・・」
エミリア「まだ策がないこともないのだが・・・」
アイリ「・・・?」
  いつもの調子に似合わずぼそぼそと言葉をこぼすエミリアに、アイリは不審そうに首を傾(かし)げる。
エミリア「いや、なんでもない。すまない」
  そこへエルルが戻ってきた。
  その後ろからは鍛冶屋の主であるメイザスがいつもの仏頂面で現れる。
メイザス「おう、エミリアか。久しぶりだな。 話は聞いたぞ。槍を見せてくれ」
  エミリアは席を立ち、布に包まれた槍を手にしてメイザスの元へ向かう。
  その槍を差し出すと、メイザスは頷き包まれた布を解いた。
  槍の状態は悲惨なもので、メイザスは一目見て顔をしかめる。
メイザス「これは・・・新しく鍛え直すしかないな」
エミリア「すみません。お願いします」
  メイザスはエミリアの槍を細部まで観察し、少し唸った。
メイザス「しばらく時間がかかるぞ」
メイザス「パーツを取り寄せないことには始まらんが、ギルドも先の一件でごった返している。 いつ手に入るかはわからん」
メイザス「その間、うちに置いてある武器を貸してやることはできるが・・・」
  メイザスの言葉に首を横にふると、エミリアは腰から下げていた大きめの袋をカウンターに置く。
  袋はゴト、と鈍い音を立てた。
エミリア「それなら、これを」
  メイザスは袋を開いて目を見開いたあと、眉間にシワを寄せて深いため息を吐く。
メイザス「・・・また厄介なものを」
  エミリアの差し出した袋には、ガルバニアスの素材が入っていたのだ。
メイザス「わかった。1週間後に取りに来い」
エミリア「はい、ありがとうございます。 ・・・よろしくお願いします」
  エミリアは鍛冶屋のドアの前でひとつ礼をして立ち去る。
  アイリとエルルは、そんなエミリアを見つめていた。

〇西洋の円卓会議
議長「今回、臨時で集まってもらったのはニルという者の処遇についてだ」
  ギルド評議会では厳格な雰囲気のもと、緊急臨時会議が開かれていた。
  議長の口から、先日の祭りでの一件について説明がなされる。
  会議に集まっている者たちを含め、多数の目撃情報や証言が集まったため、ニルがなにをしたのかは明らかだった。
  議長は会議の参加者たちを見渡し、厳格な口ぶりで問いかけた。
議長「なにか意見のある者はいるか?」
長老A「処刑すべきだろう。 野放しにするのはあまりにも危険だ」
  真っ先にひとりの長老が声を上げた。
議長「だが、罪状はなんだ?」
長老A「そんなものはどうとでもなる。 あれは人間かどうかすら怪しい」
長老A「見ただろう、あの力はネームドから降りてきた者と酷似しておる」
長老B「異議あり」
  会議室内のほとんどのものが肯定する中、ひとりの長老が手を挙げる。
  面々は不可思議そうな表情で声の方を見た。
長老B「どんな力であれ、彼がガルバニアスを倒したのは事実」
長老B「うまく使えば、ギアーズに対する大きな力となるだろう」
  ふむ、と何人かが頷(うなず)く。
長老B「それにもしニルという男が人の形をしたギアーズだとすれば・・・」
長老B「ヴェラグニルとガルバニアスを葬った事実を鑑みるに、八王級である可能性も否定できない」
長老B「今はおとなしくしているものの、下手に敵対すれば再び大惨事となりかねん」
  その意見に、評議長を含め数人が納得した様子で聞いていた。
議長「ふむ・・・たしかに逸脱した力を持つ人間と考えるより、人の形をしたギアーズと考えるほうが合理的ではある」
議長「しかし私の知る限り人の形をかたどれるギアーズは、1体だけだ」
議長「それがもしガルバニアスとともにいた白髪の男だとすれば・・・ニルという者の存在は説明がつかん」
  会議室は評議長の言葉以降、沈黙の時間が流れた。
  考え込んでいた評議長は、ひとりの長老に視線を送る。
議長「お主はどう思う? ガトリン」
  名前を呼ばれたガトリンという男はピシッと襟と姿勢を正すと、凛とした表情を浮かべ、意見を発した。
ガトリン「あくまで個人としての意見ですが・・・ニルという青年は味方につけるべきでしょう」
ガトリン「事実、我が姪エミリアは彼に救われました」
議長「ほう」
ガトリン「ですが」
  ガトリンの表情に少しの影が差す。
ガトリン「一方で、彼の底が知れないのも事実です。 評議員として、そのような不確定要素を野放しにすべきではないとも思います」
  ガトリンの意見の後も、議論は白熱して重ねられた。
  あらかた意見がまとまったあと、議長は長老たちを一度静かにさせる。
議長「・・・さて、では決をとろう」
議長「ニルという者を処刑するのに賛成の者、手を挙げよ」
  徐々に長老たちの手が挙がっていく。
  ほとんどの者が手を挙げ、残されたのはガトリンだけだ。
  皆の視線がガトリンに集まる。
  ガトリンは目を伏せ、息を吐いた。
  それから、ゆっくりと手を挙げる。
  議長はまわりを見回し、全員の手が挙がったことを確認してから淡々と述べた。
議長「では、ニルという者を死刑に処す。 これにて臨時評議会は終了とする」

〇牢獄
  ニルはベッドの上に寝転がって、ぼーっと天井を眺めていた。
  天井の模様を観察するのに飽きた頃、コツコツと足音が近づいてくる。
  ニルは音に気づくと、身体を起こしてベッドのふちに腰掛けた。
  足音の数は3人分だ。
  音はニルのいる牢屋のすぐ近くで止まった。
「ごくろう。少し下がっていてくれないか」
「はっ!」

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