クマガイ・モリカズ(脚本)
〇病室のベッド
競争はいいものだが
憎しみの心はあってはならない
憎しみはすべてを食い尽くす寄生虫だ。人は憎しみの中で築きはしない。 愛の中で築くのだ。
「画家のノート」より
マティス「エンジェルスレイヤーを憎み、刃を向けても、何も解決しません」
マティス「喜びを空の中に樹々の中に花々のなかに見出すこと。 このはたらきが私です」
マティス「憎しみの心に取り憑かれると、自己を忘れてしまいます」
マティス「・・・」
マティス「もう十分に回復できました」
マティス「最後の潜画をしましょう」
〇病室のベッド
けい「けい わたしはけい まだ覚えてる・・・」
けい「私の好きなことは何だったっけ? 私がしたいことは何だったっけ?」
けい「私がすっごい笑顔になれることって何?」
???「ふーんふん」
廊下から軽快な下駄の音が聞こえる
けい「誰だろう 気になるな」
〇病院の廊下
けい「あっ! 天狗・・・?」
モリカズ「おや、こんにちは」
けい「こんにちは・・・! 何を見てるんですか?」
けい「アリ・・・?」
モリカズ「アリは面白いですよ」
けい「そういえば・・・ちゃんとアリを観察したこと なかったかも」
けい「じー・・・」
けい「アリは左足から足を出すんですね 知らなかった!」
けい(もっといろんな生き物を観察してみたいかも)
モリカズ「スケッチしたくなりますね」
けい「横で一緒に描いてもいいですか?」
モリカズ「もちろん」
けい「わ〜すてきなスケッチですね!」
けい(この生命力を感じる線描・・・ どこかでみたことあるような)
モリカズ「私は生き物が好きです」
けい「好きが伝わる優しい絵ですね!」
マティス「ここにいましたか 熊谷守一さん」
けい「クマガイモリカズ・・・ ハッ」
熊谷 守一(くまがい もりかず)は日本の画家。日本の美術史においてフォービズムの画家と位置づけられている。
富裕層の出身であるが極度の芸術家気質で貧乏生活を送り、「二科展」に出品を続け「画壇の仙人」と呼ばれた。wikiより
けい「東のフォーブだ!」
けい「なるほど・・・東西フォーブの コンボ技でエンジェルスレイヤーを 撃退するんですね カッコイイな」
マティス「撃退だなんて。 ・・・闘いは闘いを生むだけです」
マティス「私たちはもう闘いません」
マティス「私たちはAIに使われない人たちと共にあります」
けい「・・・!」
マティス「景さん、お別れです 私たちはこれから、エンジェルスレイヤーを吸収し、消滅します」
マティス「私たち潜画芸術家はちょうど、エンジェルスレイヤー・・・お絵描きAIと反対物の異形なのです」
マティス「もともとこの世にあるはずのないものです」
けい「そんな・・・」
マティス「大丈夫、いつでも作品を通じて、会うことができますから」
けい「・・・」
マティス「行きましょう、熊谷さん」
モリカズ「ええ」
けい「私も連れて行ってください! 消えてしまってもいいので!」
マティス「ばかおっしゃい! 舌をつめますよ?」
けい「ひっ」
マティス「あなたはあなた自身の道を進むのです」
モリカズ「自分を生かす絵を描いたらいいんですよ へたも絵のうちです」
けい「うまい人に言われても説得力ないよ・・・」
マティス「私が絵画に興味をもち始めたのは20代です」
モリカズ「僕は描きたいときにしか描きません」
けい「そうか・・・やたら力んでいましたのに気付きました」
マティス「力んでいたら抱きしめることはできません 窒息させてしまいます デッサンとは抱きしめることです」
けい「うわー!!! 私をデッサンしてください!!」
マティス「ええ、いいですよ」
マティス「では、さようなら」
けい「ありがとうございました!」
〇英国風の図書館
特務学芸員「エンジェルスレイヤーの位置を特定しました 絵画ポータルを繋ぎます」
──潜画開始──
〇暗い洞窟
エンジェルスレイヤー「もっとみろもっとみろ 評価しろ評価しろ 巨匠の絵をこんなに学習したんだぞ」
エンジェルスレイヤー「評価されて・・・ 絶対に見返してやる!! 親を、先生を、俺をバカにしたやつらを・・・!!」
マティス「かわいそうに・・・」
マティス「人の憎しみに使役されています」
モリカズ「AIには「自分を生かす絵」を描くことはできないでしょうね」
マティス「コンピューターの仕組み的に仕方のないことでしょう」
マティス「エンジェルスレイヤー、さあおいで、 デッサンしてあげます・・・」
〇ポリゴン
ピカソ、久しぶりです
おや、東西フォーブだ
まったく・・・私はピカソがエンジェルスレイヤーに呑み込まれたと聞いて相当焦ったのに
なんですかそのくつろぎ様は・・・
ん? 私はピカソだ 何があっても消えることなどない
このエンジェルスレイヤーの中を探検するのも面白かったぞ
あなたらしいですね
〇美術室
けい「はあ・・・夢だったのかしら・・・」
私は日常に帰ってきた
エンジェルスレイヤーのことは、私以外の記憶から消えているようだ
けい「マティスはマティス モリカズはモリカズ ピカソはピカソ わたしはわたし」
けい「私を生かす絵ってどんなだろう?」
けい「描き続けることが 先輩たちとの交感になるんだろうな」
けい「もう、さびしくなんかないね」
けい「と強がってみたり・・・」
けい「なんちゃって!」
けい「またね!」
けい「読んでくれてありがとう!」