とある世界の物語

ビスマス工房

Story#0010:選択は熟慮の上で(脚本)

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〇城の会議室
  次の日、エマは昏睡状態に陥る事なく、普通に起きてきた。
アキラ・ロビンソン「大丈夫?昨日──」
エマ・レイ「昨日?」
アキラ・ロビンソン「いや、良いんだ」
  何を見たにせよ、忘れているのならそれで良い。
ロザリス・ハイルローゼ「今日は、お客さんが来ているのですよ」
ロザリス・ハイルローゼ「ご挨拶を!」
  奥から出てきたのは、昨日の闖入者たちだ。三人は簡単に自己紹介をした。
ブランカ「私はヴァルキリーのブランカだ。ナイトサーカスで火吹きの怪力女をしている」
リル・リリアック・レイ「ぼくはリル・リリアック・レイ。千七百年後から来た、アキラとエマの子孫だ」
森美羽「私は森美羽と言います。兄を探しに来ました」
シーナ・ディラン「おい、アキラ」
  三人を見ていると肩を叩かれた。シーナさんは静かに言う。
アキラ・ロビンソン「どうしたんですか?もしかして、三人の中に嘘付いてるのがいるとか?」
シーナ・ディラン「いいや。あの赤い服の子供は、お前とエマの子孫だ。それは間違いないのだがな」
アキラ・ロビンソン「じゃあ、何ですか?」
  神妙な声で、シーナさんは囁く。
シーナ・ディラン「あの美羽という娘は、以前の世界でお前の妹だったようだな」
アキラ・ロビンソン「は!?」
  うっかり大きな声を出してしまい、周りから視線が集まった。
アキラ・ロビンソン「それは本当ですか?」
シーナ・ディラン「ああ。あの子孫がこちらの世界に連れてきたようだな」
  この不思議の国に、ようやく馴染んできた頃だったのに。

〇洋館の廊下
  正式に教会の人となるために、アキラとエマは御祓をすることになった。
エマ・レイ「あの、ロザリスさん」
ロザリス・ハイルローゼ「どうかしましたか?」
  柔らかく微笑む教皇ロザリスに、エマはそっと告白した。
エマ・レイ「昨日、怖い夢を見た気がするんです。大事なものが、目の前でばらばらに壊されていく夢でした」
エマ・レイ「何か不吉な予感がするんです。見てもらえませんか?」
  ハイルローゼ教会教皇になるには、卓越した精神感応能力が必要だ。ダメ元で頼んでみると、ロザリスは笑った。
ロザリス・ハイルローゼ「それは、あなたの守護霊であるご存在が、今まさに見ている夢です」
  守護霊。あの人の事だろうか。
ロザリス・ハイルローゼ「御祓が終わったら、奉仕に行くために、身を整えてくださいね」
エマ・レイ「奉仕?」
ロザリス・ハイルローゼ「あなた方にはこれから、三億四千五百万年前の地球に行っていただきます」
  驚き、尋ねる。
エマ・レイ「その時代に、何かあったんですか?」
ロザリス・ハイルローゼ「それを確かめ、解決に導くのが、奉仕です」
  話はそこで終わった。

〇露天風呂
  御祓が終わり、着替えて出る。
アキラ・ロビンソン「それにしても、三億三千万年前の地球って、どんなところなんでしょうか」
シャルル・マットロック「実際に行くわけでは、ありませんよ。瞑想を通して”見る”だけです」
  それを聞いて、少し安心した。本当に三億三千万年前に送られるのだと、心の隅で思っていたからだ。
シャルル・マットロック「この機械を使って、眠るだけです」
  調停官の頃と同じだ。大丈夫そうだ。
シャルル・マットロック「では部屋に戻りましょうか」
「兄さん?ここにいたんだ」
  部屋に戻る途中で、闖入者の少女にばったりと出くわした。
森美羽「兄さん、私すごく会いたかったんだよ」
アキラ・ロビンソン「僕はもう、君の兄さんじゃない」
  廊下を歩く間、あの少女が、ずっとこっちを見つめている気がした。

〇貴族の部屋
  御祓が終わり、部屋に戻る。
エマ・レイ「あの。もしかして、柊先生をご存じですか?」
  御祓の立会人になってくれたシスター瑠璃はにっこりと微笑んだ。
ネイビー「ええ。彼とは同じ学舎の出身です」
  それだけだろうか。この人の過去には、それ以上の何かがある気がする。
  心を繋げてみようかとも思ったが、この人は気付くだろう、と思い止めた。
シャルル・マットロック「それではこれから、夢渡りの奉仕を始めます」

〇密林の中
  こちらの世界に来てから、人のうなじ辺りに錠前が見えるようになった。
アキラ・ロビンソン「ここはどこだろう。エマはどこかな」
  それは恐らく心の闇を隠す錠前なのだろう。深くは考えないようにしていた。
アキラ・ロビンソン(・・・・・・歩きにくい・・・・・・)
  相方を探して歩いていた時、彼女の叫ぶ声が聞こえた。
アキラ・ロビンソン「エマ!?」
  見ると、数人の蜥蜴たちに囲まれたエマが、困り果てているのが見えた。
ダイナ「お前は何者だ。この星の者か」
エマ・レイ「はい、そうですけど、あのう」
  気が付くと、自分も捕まっていた。

〇宇宙戦艦の甲板
ダイナ「あれが地球か。世にも珍しい、”不死の花”を咲かせる木があると聞くが」
タイロン「はい。これで我々もより強くなるでしょう」
  強き者のみが、世界を支配する。それが我々の理だ。
ダイナ「楽しみだ」
  女王ダイナは笑みを浮かべ地球を見つめた。

〇謁見の間
?「サマエル様、リリス様。蜥蜴族の者らが地球への転生を求めております」
  面倒な客が来た。あまり関わりたくない種族だが、門前払いという訳にもいかない。
リリス「サマエル。通して」
  リリスが自分の耳にだけ聞こえる声で、そう言っているのを聞き、サマエルは聞き返す。
サマエル「良いのかい?蜥蜴族は──」
リリス「平気よ。通して」
  リリスは神々の声を聞く事が出来る。こういった時に決定権を持つのは彼女だ。
サマエル「通せ」
  配下が一旦下がり、客人を連れてきた。
サマエル「初めまして、蜥蜴の女王ダイナ。”地球”への転生をお望みでしたね」
ダイナ「ああ。我ら二十六氏族、この”惑星”の未来に貢献したい」
  蜥蜴族は、かの悪名高き黒竜帝の隷属種だ。彼らのために、多くの星が侵略され、滅びてしまった星もあると聞く。
  地球は、創造主である歓喜の主アシュタールの故郷だ。ここで下手を打って滅ぼされては堪らない。
  考えあぐねていると、リリスが、そっと手を重ねてきた。
リリス「許可して。大丈夫だから」
  君が言うなら、大丈夫なんだろう。
サマエル「良かろう。許可する」

〇病室
  梨と樫、二人のエージェントが、眠りに就いたエイドFの様子を調べている。
  その様子を、二羽の鴉が窓の外から見つめていた。
ムニン(ジェシカ・ハウエル)「寝てるねえ、兄さま」
フギン(ジャック・ハウエル)「うん、寝てるねえ」
ムニン(ジェシカ・ハウエル)「蜘蛛のお姉さんとお話ししたくないのかなあ」
フギン(ジャック・ハウエル)「多分ねえ」
  鴉は飛び去った。

〇宇宙戦艦の甲板
エルシャド・マライ「蜘蛛の道化師が計画を進めている。我々は何としても、それを阻止せねばならない」
シュトリア・ハロン「火星の人間種族の潜在意識内に、彼奴は巣を作っているようです」
エルシャド・マライ「身体はプレアデスに在ろうと、ソルに思念体を送ってきているようだ」
シュトリア・ハロン「如何致しましょうや」
黒夜てゐ「もうじきここに、夫婦星が来まする。失われた記憶が、蜘蛛の道化師を滅するでしょう」

〇密林の中
  蜥蜴たちに捕えられ、女王ダイナの前に引き出された。
ダイナ「今からこの二人は、私の奴隷だ。傷付ける事も、喰う事も許さん」

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