とある世界の物語

ビスマス工房

Story#0009:居なくなったナイト(脚本)

とある世界の物語

ビスマス工房

今すぐ読む

とある世界の物語
この作品をTapNovel形式で読もう!
この作品をTapNovel形式で読もう!

今すぐ読む

〇魔法陣
  エイドのFが闇堕ちし、昏睡状態に入った。
ナタリア・ラピス「簡単に居なくなるような生徒ではなかったと思うのですが」
  困ったナタリアは、彼と契約を結んでいた
  ”秘密の主”サーシャを呼び出して相談した。
サーシャ「今、彼は蜘蛛の道化師と共に居ます。探すのは危険です」
ナタリア・ラピス「では、どうすれば?」
  サーシャは静かに言う。
サーシャ「待ちましょう」

〇黒背景
フレデリック・バーネット「うう、あああ」
  フレデリックは、割れんばかりに痛む頭を、抱えて苦しんでいた。
フレデリック・バーネット「くそ、俺がやんなきゃ、魔物が」
黒夜てゐ「それは、本当にそなたの望みなのか?」
フレデリック・バーネット「うるさい!消えろ!」
  幻覚を振り払っても、強迫観念は消えない。自分が魔物を倒さなければ、誰かが魔物に、食われてしまう。
ダルーカ「大丈夫かい」
フレデリック・バーネット「ちくしょう。何で」
ダルーカ「大丈夫だよ」
  何で自分が?
  その言葉は、額に触られた瞬間に溶けるように消えてしまった。

〇魔法陣2
  ──ナタリア・ラピス。聞こえておるか?
ナタリア・ラピス「誰ですか?」
  目を開けると、着物を着た上品な婦人が立っていた。
黒夜てゐ「わしは黒夜てゐと云うものじゃ。訳あって、そなたの弟子のFを見ておる」
ナタリア・ラピス「どうしましたか?」
黒夜てゐ「Fは、このままでは戻れなくなってしまう。それを防ぎたいのじゃ」
ナタリア・ラピス「分かりました。どうすれば防げますか?」
黒夜てゐ「あの混ざりものの蜘蛛と、その古き友人との絆を結び直してもらいたいのじゃ」
  束縛の主コクヤングティは、そう言って姿を消した。

〇教室
  ある日の放課後。
神田流花「ねえねえ、この人の精神世界論は面白いよ」
  またこの話だ。辟易しながらもそれを表には出さないでいると、まるで自分が分裂したような感覚になる。
森玲「それにしても、流花は本当に精神世界が好きだね」
  そう言うと、流花は顔を赤くして答えた。
神田流花「家じゃ話せないから。精神世界について君と話すことが楽しい、て云うのもあるけど」
  男なのに、ふにゃふにゃした奴だ。
森玲「そう?」
  聞き返すと、頷いた。

〇カラフルな宇宙空間
  話したいことがあり、柊先生を呼び出した。
アキラ・ロビンソン「あの、柊先生」
ノアール「ノアールで良い。どうした」
  そう答えた柊先生──ノアールさんに、首飾りにした鍵を見せた。
アキラ・ロビンソン「この鍵、本当に力が有るんでしょうか」
  答えは自分の中にある、と言われても、良く分からないのだ。
アキラ・ロビンソン「過去は、どこに有るんでしょうか」
  柊先生──ノアールさんは冷然と言い放つ。
ノアール「それは、お前しか分からない」
ノアール「探せ。見つかるまで、それは使うな」

〇豪華なリビングダイニング
神田麗子「お帰り、流花。ところで、今日お前の部屋を掃除したのだけれど」
神田麗子「これ、何の本?」
神田流花「ごめんなさい、母さま。僕は──」
神田麗子「──責めてるのではないの。どうしてこんな本を?」
神田流花「母さま、僕は」
神田麗子「良い?流花。この世は楽しむためだけに有るのではないの。こんな本を読んでいたと皆に知られたら、後悔することになるのよ」
神田麗子「楽しむためにこんな本を読んでいたら、蓮法様もお嘆きになるわ」
神田流花「・・・・・・はい」

〇病室
アリス・ロリィ「おはよう。良く眠れた?」
広瀬真琴「まあまあ」
  またこの夢だ。いつの間にか、この夢に入り込んでいる。
ノアール「・・・・・・」
  部屋を出たところで、知っている顔とぶつかった。
アリス・ロリィ「おはよう、ノアール」
広瀬真琴「おはようございます」
ノアール「・・・・・・」
  柊先生──ノアールさんはじっとこちらを──僕の”入っている”少女の方を見て言った。
ノアール「お前は、誰だ?」

〇謁見の間
ロザリス・ハイルローゼ「お二人とも、初めまして。私はハイルローゼ教会教皇ロザリスです」
  ロゼ・ロゼ。不思議な名前だ。
アキラ・ロビンソン「あの、どうして僕たちを教会に呼んだんですか?」
ロザリス・ハイルローゼ「お二人にここに来ていただいたのは、じきに私たち”人間”種族の成人式が近付いているからです」
ロザリス・ハイルローゼ「種の成人式の日は、心を静めて迎え入れなければならない。その為に、エマさんとアキラさん、お二人の力が必要なのです」
ロザリス・ハイルローゼ「どうしてか、お分かりですか?」
アキラ・ロビンソン「うん。まずエマは、他人と心を繋げることが出来る。でも不安定だから、エマの心を落ち着かせるために、僕が必要、でしょ?」
ロザリス・ハイルローゼ「その通りです。あらゆる存在と心で繋がる、エマさんの力が、そしてエマさんと絆を結んだあなたの存在が、人の未来に必要なのです」
ロザリス・ハイルローゼ「お願い出来ますか?」
アキラ・ロビンソン「僕は構わないよ。エマは?」
エマ・レイ「大丈夫」
  謁見の時間は終わった。

〇洋館の廊下
アキラ・ロビンソン「あの、シャルルさん」
シャルル・マットロック「どうなさいました?」
アキラ・ロビンソン「この鍵なんですが」
  ずっと首に掛けていた首飾りの鍵を取り出して見せると、シャルルさんは驚く。
シャルル・マットロック「おや、あなたは祝福候補に入っているのですね」
アキラ・ロビンソン「祝福ってなんですか」
シャルル・マットロック「”大エリクシルの祝福”ですよ。多くの人々を助け、その心に信仰を植え付けた者に与えられる祝福です」
アキラ・ロビンソン「そうですか。これが?」
  顔の前でぷらぷらさせると、シャルルさんは笑った。
シャルル・マットロック「あなたはまだですね。祝福を受けるに値するか否か、その鍵に見定められている段階です」
アキラ・ロビンソン「そうですか」
  その時、廊下の突き当たりから、雷のような凄い音がした。
森美羽「兄さん!」
  いきなり、見知らぬ少女が抱き付いて来た。
森美羽「探したんだからね?兄さん」
アキラ・ロビンソン「いや、君、誰?」
  引き剥がしてそう訊ねると、彼女は言った。
森美羽「あたしは森美羽。あなたの妹よ!」

〇黒背景
ベガ・セレスト「こんばんは」
ベガ・セレスト「おや。まだあの方を思い出そうとしておられるのですか」
  どうしても、頭の中にあの人の微笑みが貼り付いている。思い出したいのに、思い出せない。忘れたいのに、忘れられない。
エマ・レイ「あっちへ行って。あなたには関係ない」
ベガ・セレスト「おや。私はあなたの手助けをするためにここに来ているのですよ」
エマ・レイ「・・・・・・」
  不信の目がこちらを見る。
ベガ・セレスト「扉を開いて上げましょう」
  そう言って、彼は額に触れた。すると空間が歪み、次の瞬間には”彼”の眠るとある部屋の中にいた。
エマ・レイ「マリオン?マリオン!」
  今まで自分の記憶の中にしかいなかった彼。実在する人物だったと知り、嬉しくなって肩をゆする。
ベガ・セレスト「おっと、触ってはいけまS」
  眠る彼の肩に触れた、その時だった。
エマ・レイ「!!」

〇貴族の部屋
エマ・レイ「うわああーああーあ!」
  深夜、隣で眠る彼女が今までにない嘆き声を上げて、跳ね起きた。
シャルル・マットロック「どうしましたか?」
  声を聞いたのか、シャルルさんが部屋に飛び込んできた。
アキラ・ロビンソン「分かりません、いきなり泣き出したんです」
エマ・レイ「マリオン、マリオン」
シャルル・マットロック「これは、あなたの鍵の出番かもしれませんね」
アキラ・ロビンソン「鍵?」
  過去を見付けるまで使うな、と言われた鍵。ミランダを昏睡状態に陥らせた鍵。それでも使わなければいけないのか。
リル・リリアック・レイ「使え、アキラご先祖。今使わないでいつ使う」
  いつの間にか、あの闖入者達の一人が部屋に来ていた。
アキラ・ロビンソン「えーと、君は誰?」
リル・リリアック・レイ「話すと長くなる」
シャルル・マットロック「使ってください。世界のために」
  首の後ろにある錠前に鍵を差し込むと、エマの寝顔がとても安らかなものになった。
リル・リリアック・レイ「これで一安心だ」
  そう言って、闖入者の子は出ていった。

次のエピソード:Story#0010:選択は熟慮の上で

成分キーワード

ページTOPへ