第十九話「私の人生全てを賭けて」(脚本)
〇大きい病院の廊下
寿子の病室には、『面会謝絶』の札が掲げてある。
青野沙也加「・・・・・・」
青野雄一郎「心配しなくていい。 お母さんは強い女性だから」
青野沙也加「心配なんか・・・してない」
青野雄一郎「今日はずいぶん部活終わるの早かったんだな」
青野沙也加「早退してきた。お母さんにどうしても言いたいことがあって」
青野雄一郎「大事な大会の前だろ? わざわざ早退までしなくても──」
青野沙也加「もういい・・・もう充分だよね?」
青野雄一郎「なんの話だ?」
青野沙也加「私、もうお母さんの呪縛から自由になろうって思ってる」
青野雄一郎「どういう意味だ?」
青野沙也加「また来る。目を覚ましたら連絡して。真っ先に伝えたいことがあるから」
〇生徒会室
平井智治「青野さん、来ませんね・・・」
摂津亜衣「昨日も、結局話はできなかったな」
小山内陽菜「ねえ、沙也加が言ってた、『もういい』って・・・あれ部活を辞めるとか、そういう意味じゃないよね?」
海東三鈴「そんなこと・・・あるわけないじゃん」
その時、部室の扉が開いた。
小山内陽菜「沙也加・・・!」
青野沙也加「昨日は途中で帰ったりしてごめん」
小山内陽菜「いや・・・それは別に・・・」
青野沙也加「三鈴の言う通りだった。 私、芝居に全然集中できてなかった」
青野沙也加「でも、もう大丈夫だから」
摂津亜衣「無理してるんじゃないのか?」
小山内陽菜「そうだよ。それに沙也加のお母さんにとっても、今は傍にいてあげたほうがいいんじゃないの?」
青野沙也加「もし私とお母さんが逆の立場だったら、お母さんは迷うことなく舞台を選んでると思う。だから気にしないで」
海東三鈴「沙也加・・・最後の追い込みをしよう」
青野沙也加「うん。昨日の続きからお願い」
〇花模様
第十九話「私の人生全てを賭けて」
〇綺麗なコンサートホール
地区大会当日
平井智治「いよいよ来ましたね・・・!」
海東三鈴「やるっきゃないよ! みんな!」
桐島香苗「でっかい声・・・あんた近所迷惑だから」
海東三鈴「安曇西の双子!」
桐島優「みなさん、おはようございます。 体調はどうですか?」
小山内陽菜「バッチリだよ!」
桐島優「良かったです。青野さんも体調良さそうで安心しました」
青野沙也加「私・・・?」
桐島優「先日の校外発表会の時には、少し疲れてるのかなぁって思ってたので」
青野沙也加「・・・そんなことない。それより、あなたたちトップバッターでしょ?」
桐島香苗「そんなの余裕余裕。あんたたちこそ、ラストでプレッシャーじゃない?」
海東三鈴「順番なんて関係ない。私たちは負けないし」
桐島香苗「あ、そう。私たちの舞台を観て、やる気がなくならないといいけど。行くよ、優」
海東三鈴「くぅ~、相変わらず憎たらしい」
小山内陽菜「私たちも行こう! 開会式始まっちゃうよ」
〇劇場の座席
小山内陽菜「ひろ~い!」
摂津亜衣「こ、こんな大きなところでお芝居するのか?」
平井智治「全国大会に行ったら、もっともっと大きな舞台になりますよ!」
小山内陽菜「それに強そうな学校たくさん来てるね」
海東三鈴「関係ないっしょ! うちは少数精鋭! 芝居のクオリティで勝負じゃん」
青野沙也加「三鈴・・・ありがとう」
海東三鈴「な、なによ、改まって」
青野沙也加「あの時、三鈴が強引に誘ってくれなかったら、私はこの場所にいなかったから」
青野沙也加「三鈴だけじゃない。陽菜も、亜衣も、智治も・・・出会えて良かった」
恥ずかしそうに顔を見合わせる一同。
その時、沙也加の携帯が鳴った。
青野沙也加「ごめん。ちょっと電話出て来る」
海東三鈴「じゃあ先に控室行ってるね」
青野沙也加「うん。すぐ行く」
〇広い更衣室
摂津亜衣「なあ三鈴。沙也加・・・遅くないか? 開会式の時も戻って来なかったし」
海東三鈴「すぐに来るよ」
摂津亜衣「さっきの電話、もしかしたら病院からだったんじゃないかな?」
摂津亜衣「沙也加のお母さんに何かあったんじゃ──」
海東三鈴「亜衣は心配しすぎ。それより少し集中したいから話しかけないで」
摂津亜衣「そうか・・・すまん」
二階堂がやってきて、部員たちの前にドリンク剤を置いていった。
摂津亜衣「先生、これは・・・?」
二階堂護「差し入れだ。みんなの検討を祈る」
平井智治「ありがとうございます。でも実は、僕いま同じのを飲んでしまったんです・・・」
摂津亜衣「私も気持ちは嬉しいんですが、本番前は何も口にしたくないので」
二階堂護「そ、そうか・・・三鈴はどうだ?」
海東三鈴「・・・・・・」
平井智治「あ、いま三鈴さん集中タイムなんで、話しかけても無駄かと」
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