私立桜田高校演劇部 ~春は舞台で青く色づく~

YO-SUKE

第十八話「一人で芝居やってるわけじゃない」(脚本)

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〇病室
  ベッドで眠っている寿子。
  雄一郎がその寝顔を見守っていると、病室に沙也加が飛び込んできた。
青野沙也加「お母さんに何があったの!?」
青野雄一郎「まあ・・・ちょっとな」
青野沙也加「わざわざ学校に連絡を寄越すくらいなんだから、よっぽどなんでしょ?」
青野雄一郎「・・・・・・」
青野沙也加「ねえ、お父さん!」
青野雄一郎「沙也加・・・やっぱりお前にはちゃんと話しておきたい。お母さんは──」
青野寿子「私ね、ガンなのよ。もう長くはないの」
青野沙也加「・・・何、言ってるの」
青野寿子「あなた。ちょっと沙也加と二人きりにしてくれないかしら?」

〇花模様
  第十八話「一人で芝居やってるわけじゃない」

〇病室
  病院の中庭から鈴虫の鳴き声が響く。
  ベッドに横たわる寿子は、窓の外に耳を澄ませている。
青野寿子「夏も終わって、すっかり秋って感じね。 世界を回ったけど、日本の秋が一番過ごしやすい」
青野沙也加「なんで病気のこと黙ってたの?」
青野寿子「もしかして心配してくれてるの?」
青野沙也加「別に。呆れてものが言えないだけ」
青野寿子「自分の死期を自覚し始めてから、最後は日本にいたいって思うようになったの」
青野沙也加「やめてよ。死期とか言わないで」
青野寿子「お父さんには感謝している。あの人は、私のわがままを全部受け入れて一緒になってくれた。私が死んだあとは──」
青野沙也加「やめてって言ってるでしょ!」
青野寿子「・・・沙也加・・・ごめんね」
青野沙也加「冗談でしょ? 謝らないで。そんなこと、一度だってしたことないじゃない」
青野寿子「自分の女優人生に悔いはない。でも、犠牲にしたものはあまりに多すぎた。あなたもそのうちの一つ」
青野沙也加「それって──」
青野寿子「演劇部なんて辞めなさい」
青野沙也加「!」
青野寿子「あなたには才能がある。でもこの世界は、なまじ才能がある人間のほうが傷つきやすいの」
青野寿子「あなたをこの世界に引きずり込んで、傷つけてしまったこと・・・今になって後悔してる」
青野沙也加「今さらそんな──」
青野寿子「今なら引き返せる。演劇部を辞めて、女優以外の何かを目指しなさい」
  真剣なまなざしの寿子。
  沙也加はその目をじっと見つめる。
青野沙也加「・・・やだ。辞めたくない」
青野寿子「どうして?」
青野沙也加「みんながいるから。私、一人で芝居やってるわけじゃない」
青野寿子「沙也加・・・お願い」
青野沙也加「・・・・・・」
青野沙也加「やめてよ。こんなタイミングで、そんな目をして言わないでよ・・・!」

〇病室
青野雄一郎「・・・今、沙也加が泣きながら飛び出して行ったよ。何か言ったのか?」
青野寿子「別に・・・優しい母を演じて、つまらない夢を見ないように説得しただけよ」
青野雄一郎「それは君なりの愛情なんだろう?」
青野寿子「どちらかという義務ね」
青野雄一郎「君は知らないかもしれないけど、最近の沙也加はずっと活き活きしてたんだ」
青野雄一郎「僕はそんな沙也加が、今まで以上に輝いて見えたけどな。まるでステージに立っている君みたいに」
青野寿子「・・・私と一緒にされても困るわ」

〇生徒会室
  練習に励む演劇部の部員たち。
摂津亜衣「ハル!? 話、聞いてたの!? どこから?」
青野沙也加「・・・た、楽しんでやる・・・苦労は、苦痛を、癒すものだ──」
海東三鈴「ごめん、無理。止めて」
平井智治「三鈴さん?」
海東三鈴「沙也加、いい加減にしてよ。全然集中してない。本番まであと三日なんだよ?」
青野沙也加「・・・わかってる」
海東三鈴「わかってない。そんな状態で舞台に立つつもりなの?」
摂津亜衣「三鈴、言いすぎだ」
小山内陽菜「そうだよ。沙也加はお母さんのことがあって大変なんだから」
海東三鈴「そんなの関係ない」
小山内陽菜「はあ? 関係ないことなくない? 家族が大変なときに、お芝居に集中できるわけないじゃん」
海東三鈴「私は集中できる」
小山内陽菜「三鈴みたいな演技バカと、一緒にしないで」

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