エピソード42(脚本)
〇地下室
地下室と1階を繋ぐ扉が閉じてしまい、押しても引いてもビクともしない。
沢渡充希「皆さん落ち着いて! いったん集まりましょう!」
自分にも言い聞かせるつもりで言うと、バクバクとうるさい心臓を落ち着かせるためゆっくり深く深呼吸をする。
沢渡充希「皆さん一箇所に集まりましょう。 こっちに来てください!」
僕はそう言うと、手にしていた懐中電灯を周囲にわかるように振る。
雰囲気を盛り上げるために最低限のライトしか持ってきていなかったことが悔やまれる。
西園寺さん、音響スタッフとカメラマンと確認してから、僕は焦りが滲(にじ)む声で答えがない人の名前を呼んだ。
沢渡充希「・・・馬場さん!?」
返事は返ってこない。
もう一度呼んでも、聞こえるのは僕たちの不安げな息遣いだけだ。
西園寺翼「馬場くん! 返事をしたまえ!」
西園寺さんにつられ、他のスタッフと僕も馬場さんの名前を叫ぶ。
僕は手にしている懐中電灯で地下室の中を照らした。
しかし懐中電灯の光は闇に吸い込まれるだけで奥は見えない。
自分で自分に言い聞かせていると。
突然背後の暗闇から声が響いた。
「あの人なら、もうここにはいないよ」
沢渡充希「ひあッ!?」
驚いて背後を懐中電灯で照らすと、入口のそばの壁に狐面をつけた男がもたれかかって立っている。
「!?」
沢渡充希「薬師寺さん!?」
声を聴いて振り返った全員が薬師寺の姿を見て呆気(あっけ)にとられた。
薬師寺廉太郎「あはは、まるで幽霊でも見たような反応だね」
沢渡充希「いや、だって・・・。 さっきまでどこにもいなかったのに・・・。 どうやってこの中に入ったんですか!?」
薬師寺廉太郎「んーそりゃ、君たちが来る前から中にいただけだよ」
唖然(あぜん)とした僕の後ろから、音響スタッフが薬師寺さんに問いかけた。
音響スタッフ「馬場さんはどこに行ったんですか!! ここにいないって、どういう意味ですか!?」
信じられない出来事が続き、焦燥と恐怖が混ざって、声はすっかり震えてしまっている。
僕はそんな音響スタッフを見て、薬師寺さんに再度話しかけた。
沢渡充希「薬師寺さんお願いします、助けてください! 本当におかしくなりそうなんです・・・!」
“本物の霊能者”である薬師寺さんならこの状況をなんとかしてくれるかもしれない。
薬師寺廉太郎「いやだよ。俺は警告したよね? やめたほうがいいって」
薬師寺さんは冷たい表情でバッサリと言い切る。
薬師寺廉太郎「僕に君たちを助ける義理はないよ」
沢渡充希「そ、そんな・・・」
言葉をなくした僕に、薬師寺さんは嫌味ったらしく息を吐いてから言葉をつづけた。
薬師寺廉太郎「それに、君たちには立派な霊媒師がついてるじゃない?」
薬師寺さんは「ね?」と笑う。
その言葉を聞いてハッとした僕は、振り返って後ろにいる西園寺さんに光を当てた。
西園寺翼「ッ・・・」
薬師寺廉太郎「どうしたの? 悪霊がいるんでしょ?」
薬師寺廉太郎「それとも君は、ただのインチキ霊能者なのかな?」
薬師寺さんの言葉に、西園寺さんはカッと怒りをあらわにする。
西園寺翼「インチキだと・・・! お前、ここから出たら覚えておけ!!」
すると黙っている僕とカメラマンへと向きなおり、西園寺は突然開き直ったように笑った。
西園寺翼「はっはっは! 安心しなさい。 私がいれば大丈夫だ!」
西園寺さんは数珠をじゃらじゃらと手に持って握り込む。
その様子を見て、薬師寺さんは楽しそうに笑った。
しかし薬師寺さんの瞳は暗く細められ、その表情はどこか不気味だった。
薬師寺廉太郎「あはは、そりゃ頼もしい。 ・・・ところで、君、あれに狙われてるけど大丈夫?」
薬師寺さんは僕の方を指差す。
・・・いや、違う。僕の後ろを指差した。
僕は驚いて振り返るが、そこにはただ闇が広がっているだけだった。
西園寺さんは眉間にシワを寄せている。
西園寺翼「・・・お前、適当なことを言うんじゃない」
西園寺さんは僕の背後に広がる闇をおそるおそる覗き込みながら言った。
その時、僕には西園寺さんの背後の暗闇が揺れた気がした。
西園寺翼「ふんっ! 私を試そうとしても無駄だ! やれやれ・・・。」
西園寺翼「私のことをインチキ呼ばわりする者は多いが、お前こそ見・・・」
次の瞬間、西園寺さんはまるでなにかに引っ張られたかのようにぐっと動いたかと思うと闇の中に消えた。
「ひい!?」
僕は必死に西園寺さんが消えていった暗闇を懐中電灯で照らす。
しかし、懐中電灯の光が闇に吸い込まれるばかりでなにもない。
そして僕にはその闇の中に西園寺さんを探しに行く勇気はもう残っていなかった。
僕はすがりつくように薬師寺さんを見た。
沢渡充希「さ、西園寺さんはどこに・・・?」
僕の引きつった声に、薬師寺さんはのんきな声で「んー」と言った。
薬師寺廉太郎「ここではない空間、かな。 この屋敷に喰われたのさ」
サアッと背筋が凍るのを感じる。
慌てて他のふたりの方へ光を向ける。
うずくまっていたはずの音響スタッフがいない。
すぐにあたりに懐中電灯を向けるが見当たらなかった。
残ったカメラマンはカメラを抱えたまま今にも倒れそうなほど血の気を失っていた。
沢渡充希「そんな・・・」
僕はふらつく頭を抱える。
目の前で起こっているありえない出来事に思考が追いついてこない。
まずい、まずい。
とにかくここから出なくちゃいけない。
もう残ってるのはふたりだけだ。
いや、馬場さんやスタッフを置いてくわけには・・・。
でも薬師寺さんは助けてくれないみたいだしこのままじゃいずれ僕も・・・。
ガコン!!
沢渡充希「・・・!?」
突然横で鈍い音がした。
おそるおそる横を見ると、先ほどまでカメラマンが持っていたカメラが転がっていた。
カメラのレンズは落ちた衝撃か、ひび割れている。
たった今顔を確認したカメラマンの姿はない。
沢渡充希「・・・!!」
沢渡充希「うっ、うぅぅ・・・!」
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