怪異探偵薬師寺くん

西野みやこ

エピソード39(脚本)

怪異探偵薬師寺くん

西野みやこ

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〇事務所
  僕が先輩からもらった連絡先に電話をかけると、数コールのあとけだるげな男の声が返ってきた。
  ・・・はい
沢渡充希「あ、こんにちは。 突然のお電話、申し訳ございません」
沢渡充希「わたくし、I.Uテレビ制作でADをしている沢渡と申します」
沢渡充希「ある方から紹介いただき、連絡させていただいたのですが・・・」
  I.Uテレビ制作・・・。
  ああ、ホラーの番組作るっていうやつですか
沢渡充希「はい、そうです!」
  ・・・話は聞いています。
  私はあくまで仲介役ですが
沢渡充希「そうなんですね。 では、霊能者さんのご紹介、お願いできませんかね?」
  あー・・・。
  詳しい案件を聞いてからでないと、なんとも
  ちなみにどこに撮影に行くつもりなんです?
沢渡充希「群馬の山奥のほうに・・・」
  具体的には?
  僕は少し沈黙して言うかどうか悩んだが、正直に地名と洋館のことを話した。
  すると、電話口の男は黙り込む。
  ・・・・・・
沢渡充希「あの・・・?」
  ああ、すみません。なるほど。
  わかりました
沢渡充希「えっと・・・」
  霊能者への連絡先をお教えします。
  そちらから連絡してください
沢渡充希「え?」
  すると、男は突然090から始まる電話番号を口にする。
沢渡充希「!・・・すみません、もう一度お願いします」
  電話口の男がなぜ急に霊能者の連絡先を教えてくれたのかわからないまま、手帳を開く。
  肩で耳元にスマホを押し付けて、繰り返される番号をメモした。
  連絡するときは、八木からの紹介だと伝えてください
沢渡充希「八木さん・・・。ですね。わかりました」
  それでは
沢渡充希「はい! ありがとうございました!」
  お礼を言って電話を切る。
  僕はよし、と小さくガッツポーズをした。
  これで番組制作での不安要素が潰れる。
  少しドキドキしながら、早速もらった連絡先へ電話をかけた。
  ソワソワとした気持ちでコール音を聞くが、いつまでも続くその音に、次第に気持ちも静まってくる。
  あとでかけ直すか、と思ったところで気の抜ける男の声がした。
  は~い。薬師寺で~す
  男の声はずいぶん若く聞こえた。
  もしかしたら10代なのかもしれない。
  想像していた“ホンモノ”の霊能者は6、70代の年季の入った人だったので少しだけ動揺してしまう。
沢渡充希「・・・こんにちは。 突然のお電話、申し訳ございません」
  僕は八木さんに言ったのと同じように、薬師寺さんに自己紹介をする。
  それから、八木さんからの紹介だと言うと薬師寺さんは小さく笑った。
  あ~・・・。
  正確に言うと、霊能者じゃないんだけどねえ
沢渡充希「?」
  まあ、気にしなくていいよ。用件は?
  僕は今回のテレビの企画と、向かう予定の洋館について話す。
  相槌を打ちながら、ひと通り聞いていた薬師寺さんは言った。
  それ、やめといたほうがいいと思うよ
沢渡充希「え・・・。 いや、ですが、そういうわけにもいかないんです・・・」
  僕は苦笑いを浮かべる。
  ・・・・・・
沢渡充希「それで、薬師寺さんにはその撮影に来ていただきたいと思いまして」
沢渡充希「一応、もうひとり霊能者さんをお呼びしているんですが・・・」
沢渡充希「企画が企画ですし、念を入れておこうと思いまして」
  ・・・うーん、約束はできないなあ。
  気が向いたらね
  薬師寺さんの言葉に、思わず声が漏れる。
沢渡充希「気が向いたらって・・・」
  それで、そのロケはいつやるの?
  薬師寺さんに訊(き)かれるまま、僕はロケの日程の詳細を教える。
  薬師寺さんは「ふんふん」と相槌を打ってから笑った。
  うん、わかったよ。じゃあね
沢渡充希「えっ薬師寺さっ・・・。本当に切れた」
  通話終了と表示されるスマホの画面を見て僕は顔をしかめる。
  とても今の人物が“ホンモノ”の霊能者だとは思えない。
沢渡充希(こりゃあ先輩にからかわれたのかな?)
  そう考えていると、お昼休憩が終わりそうな時間になっていた。
  僕は慌てて持ち場に戻ろうと、スマホをポケットに仕舞った。

〇古い洋館
  八木さんと薬師寺さんに電話をかけてから約2週間後。
  今日は撮影日だ。
  僕は他のスタッフや出演者よりも一足早く現場入りしていた。
  まだ9月下旬とはいえ、ある程度高い標高の洋館付近は、少し肌寒い。
  もう少し着込んでくればよかったか、と思いながら僕は目の前の洋館を見上げた。

〇古い洋館
カメラマン「いや~・・・。 こうして見るとやっぱり迫力ありますねえ! 画面によく映えますよ!」
  カメラマンの言葉に、僕は頷(うなず)いた
  件(くだん)の洋館はとても雰囲気がある。
  いかにも、なにかが出そうだ。
  僕が満足げに息を吐くと、後輩のADが不思議そうな声を出した。
後輩AD「あれ? 俺のスマホ圏外だ」
沢渡充希「え? マジで?」
沢渡充希「・・・いや、俺のは普通に通じてるぞ。 格安SIM使ってるからじゃないのか?」
  それでも首を傾(かし)げる後輩を置いて、僕は屋敷内のチェックに向かうことにした。

〇古い洋館
  事前に借りておいた鍵を差し込み、洋館の玄関の扉を開く。
  ギイイイ・・・
  古びた扉はきしんだ音を立てて開いた。
沢渡充希「おじゃまします・・・」
  誰かに言うでもなく小さく呟(つぶや)いて洋館の中に足を踏み入れた。
  ロケハン・・・。
  つまり、下見のときに一度来ているので初めてではない。
  状態に変わりがないのを確認していく。
  僕はスケジュールを確認しながら、撮影ルート通りに洋館内をまわった。
  時間も洋館内も問題はない。
  よし、と頷(うなず)いて拳を握った。
沢渡充希(いいもの作るぞ~! そして昇進!)

〇古い洋館
  数時間後。
  他の撮影スタッフや出演者たちが到着した。
  進行役は、最近すごく人気のある若手芸人コンビの『桜もみじ』の片割れ、馬場文也(ばばふみや)だ。

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