メタリアルストーリー

相賀マコト

エピソード36(脚本)

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〇荒廃した街
ニル「・・・・・・」
  ニルは目の前にいるガルバニアスを見据え、ブレードを構えたまま対峙する。
  あたりが静寂に包まれる。
  しばらくの間、両者とも動かず、互いを牽制(けんせい)しあっている。
  先にその沈黙を破ったのはガルバニアスだ。
  広場を無残に荒らしたときと同様、ガルバニアスは咆哮(ほうこう)を上げながら強烈な突風を辺り一面に巻き起こした。
  アイリ、エルル、エミリアの3人は、吹き荒れる粉塵(ふんじん)を遮るように手で顔を覆っている。
  しばらく突風を吹き荒らしていたガルバニアスは、今度は竜巻を巻き起こす勢いで空気を吸い込み始める。
  土煙が舞い上がり、石畳や瓦礫が少しずつガルバニアスの方へ引き寄せられていく。
  アイリたちは必死に近くの建造物につかまり飛ばされないように耐えている。
  しかしニルは微動だにしない。
ニル「・・・・・・」
  ニルは右腕のブレードを高く掲げた。
  彼は強風で髪と服をなびかせながらも一歩も動かなかった。
  ニルのブレードはゆらゆらと翡翠(ひすい)色の光を帯びている。
  そのとき、ガルバニアスがぴたりと息を吸うのを止めた。
  一瞬、無風状態になり、アイリたちは息を飲んだ。
  ゴッッ
  爆音が鳴ると、巨大な風の塊がニルに向かってまっすぐ打ち出された。
  今までの攻撃の比ではないほどの大きさと威力だ。
  翡翠色の光は煌(きら)めきを増し、刀身を覆うようにくっきりと輝く。
  光はそれ自身が巨大な剣のような、鋭いオーラを放っていた。
ニル「うおおおおおおおおおお!!」
  ニルは雄叫びを上げながら、ブレードを振り下ろす。
  オーラの塊のようなブレードは、ガルバニアスの風と激突した。
  お互いの力はしばらく拮抗していたが、ニルがさらに力を込めると風の塊は完全にふたつに割れた。
  風の塊は轟音をたてて瓦礫へと突っ込み、ニルとガルバニアスを土煙が覆う。
  ブレードから放たれた熱の波はそのまま勢いを落とすことなくガルバニアスへと直撃した。
  ガルバニアスは風の盾を作る暇さえなく、ニルから放たれた一撃に一刀両断された。
  双方のエネルギーの飛散によって、爆発と爆風が広がる。
  エミリアを庇(かば)うように立ちながらニルを見ていたアイリとエルルは、心配そうに土煙の中を見つめる。
  シュウウウ・・・
ニル「はあ、はあ・・・」
  ニルの心に安堵が広がる。
  仲間を、この街を守れた。
  ニルはマグマのように輝く自分の右腕を見つめた。
  自分の身体はすでにボロボロだったはずなのに、気がつくと右腕が変形して体中に力がみなぎっていた。
  なぜ突然戦うだけの力がわいてきたのかニルにはわからなかった。
  と、突然右腕が翡翠色に瞬いたと思うと腕の形に戻ってしまった。
ニル(・・・いったいなんだったんだろう)
  不思議に思いながらも、土煙がおさまってニルを見つけたアイリとエルルが駆け寄ってくるのを見てニルは笑みを浮かべた。
  そしてふたりの方へと一歩踏み出した瞬間、ニルの視界がぐるりと回転した。
ニル(あ、あれ・・・?)
  そしてそこで、ニルの意識は途絶えた。

〇牢獄
ニル「ん・・・」
  ニルは目を覚ました。
  痛む身体をなんとか起き上がらせてあたりを見渡すと、すぐに様子がおかしいことに気づいた。
  ニルが寝ていた部屋は薄暗く、じめじめしているうえに頑丈そうな鉄格子がはめられている。
  ニルは頭をふって意識を失う前の記憶をたどろうとした。
ニル(俺はなんでこんなところに・・・?)
  鈍く痛む頭部に手を伸ばすと、何重にも巻かれた包帯に触れる。
ニル「・・・・・・」
衛兵「ああ、起きたのか。もう3日も寝ていたぞ」
ニル「あの・・・ここは?」
衛兵「ギルド=メタリカの地下牢(ちかろう)だ」
ニル「どうして俺はここに?」
衛兵「詳しいことは俺も知らん。 今回の事件の重罪人とだけ聞いている」
ニル「はあ・・・」
衛兵「評議会が追って処分を決めるらしい。 しばらくはここにいろ」
ニル「・・・わかりました」
  いまいち状況をつかめないまま、ニルはとりあえず頷(うなず)いた。
  身に覚えはないが、ここで下手に暴れても事態はなにも解決しないだろう。
  そもそも、身体がだるくてベッドから起き上がるのもひと苦労だった。
  アイリとエルルが無事なら、それでいい。
  ニルはそう思いながら横になると、再び意識を手放した。

〇鍛冶屋
  ダンッ
  古びたテーブルに、エルルの拳が振り落とされる。
  エルルが真剣な表情でぐっと拳を握り込む。
エルル「納得できません」
アイリ「・・・そうね」
  アイリとエルルは、メイザスの鍛冶屋の片隅に腰を落ち着けて話していた。
  いつもならこの場にニルもいる。
  しかし今はニルは重罪人として地下牢に投獄されているという。
  エルルは憤(いきどお)りをあらわにまくし立てた。
エルル「おかしいですよ! メルザムを救ったのはニルさんなのに!」
  アイリは同意するように静かに首を縦に振った。
  祭りの日に起こったガルバニアスの襲来(しゅうらい)を思い出す。

〇荒廃した街
  ガルバニアスを一刀両断したあと、エネルギーをすべて使い切ったのかニルの身体からふっと力が抜けた。
  急いでアイリとエルルが駆け寄り、よろめくニルの身体を支える。
エルル「・・・ニルさん」
アイリ「お疲れさま、ニル」
  ニルは規則正しい寝息をたて、穏やかな表情で眠っていた。
  あれほどの大立ち回りを見せた人物とは思えないほど、穏やかな寝顔だった。
  アイリとエルルが丁寧にニルの身体を横たわらせる。
  すぐにエミリアも駆け寄ってきた。
エルル「早く手当てしないと・・・」
エミリア「ギルドの救護棟に連れて行こう」
エミリア「人が残ってるとは思えんが、薬と包帯はたくさんある」
  エミリアの言葉を聞き、アイリが救護棟に目をやる。
  損傷はしているものの建物は無事のようだ。
アイリ「そうしましょう」
  「せーの」と声を揃えて、アイリとエルルがニルの身体をゆっくり抱き上げる。
  片方ずつ肩を支え、救護棟へと歩き出そうとしたそのとき。
  避難していたらしいギルド騎士たちが、戦闘が終わったのを見計らって遠くから姿を現した。
アイリ「ちょっ・・・!?」
エルル「な、なんですか!?」
騎士団員「この男はギルドが預からせてもらう」
  淡々と答え、ギルド騎士たちはニルの手首に手錠をかけた。
エミリア「お前たちなにしてる!」
騎士団員「申し訳ございません、エミリア様。 評議長閣下からのご命令です」

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