とある世界の物語

ビスマス工房

Story#0008:炎のヤイエル、異世界に行く(脚本)

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〇マンションの共用廊下
  三歳年上の兄が姿を消して一ヶ月経った頃、玄関チャイムの鳴る音で目が覚めた。
リル・リリアック・レイ「お前が森美羽だな?」
森美羽「はい?確かに私は森美羽ですが」
  突然の訪問者に詰め寄られ、困惑しているとその子は確信した様子で、一枚の写真を取り出して見せた。
リル・リリアック・レイ「この写真の奴を知っているな?」
  その写真に写っていたのは、紛れもなく姿を消した兄だった。
リル・リリアック・レイ「実は今、人間はある岐路に立たされている。最悪の結末を回避するために、この彼の協力が要るのだ」
森美羽「でも、今、兄はいないんです」
リル・リリアック・レイ「分かっている。だからお前の協力が要るのだ」
森美羽「どういう事ですか?」
リル・リリアック・レイ「話せば長くなる」
  不機嫌そうなその子に、私は言った。
森美羽「どうぞ、中へ」

〇女の子の一人部屋
  お茶とお菓子を出すと、その子は口を開く。
リル・リリアック・レイ「森美羽。お前は一ヶ月に一度だけ、異世界に行っているそうだな」
森美羽「はい。肉体を伴って異世界に行っている訳ではないのですが、一ヶ月に一度、不思議な夢を見るのです。それが異世界ですか?」
リル・リリアック・レイ「実は、お前の兄、玲は肉体を伴って異世界に行ったようなのだ」
リル・リリアック・レイ「そして、その行った先の世界が、お前の夢の世界ではないかと、マザーコンピューターが弾き出した」
リル・リリアック・レイ「調査に協力してもらえるか?」
  もしかしたら、兄の安否を知ることが出来るかもしれない。暫く考えてから答えた。
森美羽「良いですよ」

〇魔界
  眠りに就くと、いつもの異世界に来ていた。隣には、あの子が眠っていた。
リル・リリアック・レイ「すや、すや」
森美羽(寝てる。起こすのも悪いし、ここで待とう)
デマ「お久し振りでございます。そちらの方は?」
森美羽「異世界調査してるんだって」
リル・リリアック・レイ「む。ここは?」
デマ「お目覚めのようですね」
  目を覚ましたので、城に向かう道で、ここがどこか説明する。
森美羽「ここは、私が時々来てる異世界、”アブズ”。この人は、”アブズの民”のデマさん」
デマ「お初にお目にかかる」
森美羽「私は、炎のヤイエルって言って、魔法少女の一人なの。この世界を侵略しようとする存在から、彼らを守ってる」
リル・リリアック・レイ「おう。例えば、あんなのか?」
  指差す先に、機械的な飛行物体があった。
森美羽「先に城に行ってて。私はあれを追い払うから」
リル・リリアック・レイ「おう」
デマ「お気をつけて」
  デマさんは、リルを連れて消えた。先に城に行くのだろう。

〇魔法陣2
  変化して、飛び上がり、船を一刀両断する。船は爆発し、霧散した。

〇闇の要塞
森美羽「ただいま。何か分かった?」
  周囲を見回すその子に、訊ねる。
リル・リリアック・レイ「まだはっきりとは分からんが、ここは、ある世界の過去なのではないかと思う」
  その子は、ある世界の三千七百年の未来から来たという。
リル・リリアック・レイ「実は、お前の兄、玲はぼくの直系の先祖なのだ。だが、ぼくはお前の世界の未来から来たのではない」
森美羽「でも、この世界に来る時は、あなたは真っ直ぐ来たのでしょう?」
リル・リリアック・レイ「ああ。ぼくの世界とこの世界は、数直線上に繋がっている」
森美羽「つまり?」
リル・リリアック・レイ「恐らく、玲はこの世界に来ている」

〇魔法陣
デマ「本当に行くのですか?」
  不安げに訊ねるデマ氏に、リルは素っ気なく答える。
リル・リリアック・レイ「ああ。何としても、肉体を伴った状態で玲に会わねばならん」
  床に描かれた魔法陣の上に立つリルに、美羽は手を伸ばした。
森美羽「私も行く!」
  二人は光に包まれた。
デマ「お気を付けて」

〇女の子の一人部屋
森美羽「あれ、ここは」
  目覚めると、いつもの自分の部屋にいた。
リル・リリアック・レイ「起きたか、美羽」
森美羽「ここ、もう異世界なの?」
リル・リリアック・レイ「ああ。ベランダに出てみろ」
  ベランダに出て、空気を吸う。なんだか空が異様に青く澄んでいる。
森美羽「リル? 空気に匂いがある!」
リル・リリアック・レイ「ああ。この世界では人間は、環境と良く付き合っているからな。酸素も豊富だろう」
森美羽「ねえ、あれ何?空飛んでる人がいる!」
リル・リリアック・レイ「妖精だな。小型種のフェだ」
森美羽「凄い!本当に異世界なんだ」
  一頻り驚いていると、玄関チャイムが鳴る。
楪司「こんにちは。WSAエージェントの楓という者です」
リル・リリアック・レイ「久し振りだな楪。連れてきたぞ」
森美羽「・・・・・・知り合いなの?」
リル・リリアック・レイ「ああ」
楪司「あなたが、森美羽さんですね。我々と共に、来てください」

〇車内
  楓と名乗った女の人は車の中でこう言った。
楪司「これからあなたを保護しますが、あるお方に会っていただきます」
森美羽「あるお方?」
楪司「ええ。その方に会って頂いてから、こちらで保護させていただきます」

〇おしゃれな居間
ティール・ブラウン「やあ。君がアキラ君の妹、美羽ちゃんだね?」
森美羽「はい。あなたたちは?」
ティール・ブラウン「僕はティール・ブラウン。WSA・SV評議会第七席。エージェント柳だよ」
  車の中で楓さんが、この世界は、WSAという組織が守っていると言っていた。
アンジェリカ・ロキ「あたしはロキ。アンジェリカ・ロキ。ヴァルキリーたちのグランドマスターよ」
アンジェリカ・ロキ「これから、あなたは私たち”ヴァルキリー”に加わる事になる」
ティール・ブラウン「でも、力の程を見てみないとね」
リル・リリアック・レイ「能力ならぼくが見た。美羽は間違いなく覚醒者、”炎のヤイエル”だ」
ティール・ブラウン「うん、間違いない」
  どうして、分かるのだろう。そう訊ねると、柳さんは信じられないことを言う。
ティール・ブラウン「僕は脳波が読めるんだ。リルは意味なく嘘をついたりしないし、君は確かに覚醒者だよ」
  良く分からない世界に来てしまった。
森美羽「あの、ところで兄さんには何時会えるんですか?」
ティール・ブラウン「君の兄さんは、僕の担当下にある。だから、会おうと思えば会わせてあげられる。でも、それは君にショックを与える事になる」
森美羽「どうして?」
ティール・ブラウン「彼は、異世界から来たことは覚えているけどそれ以外は全く覚えてないんだ」

〇病室
森美羽「どうしよう」
  手元に収まったそれを見つめて、ため息をつく。会いたいなら会いに行けと渡された結晶機械だ。
リル・リリアック・レイ「行かんのか?幻夢境に」
  この結晶機械は”夢渡り”と呼ばれ、夢の世界をある程度自由に歩き回れる機械だという。
森美羽「使い方、分かんないし」
リル・リリアック・レイ「これは旧式だが、使い方は知ってる。枕の下に置いて頭の中で行きたい場所を思い浮かべるのだ」
  これは建前だ。実は記憶を失った兄に会うのが気まずいだけだ。
森美羽「はあ・・・・・・」
リル・リリアック・レイ「直接会いに行くか?今どこにいるか、ぼくは知ってるぞ」
森美羽「いいよ、そんな・・・・・・」
ブランカ「焦れったい!」
  そう言って部屋に現れたのは、アンジェリカと共にいた背の高い女の人だった。
ブランカ「さっきから聞いていれば、何をごちゃごちゃと!会いに行きたいなら行く、会いたくなければ会わない、どちらかにしろ!」
森美羽「会いたいですよ!でも、記憶がないって」
ブランカ「責任は私が取る、会いに行け!」
  そう言ってブランカさんは、リルと美羽の肩を掴んだ。

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