わたしが、ほしかったもの(脚本)
〇綺麗なリビング
とある家族の、大黒柱が60歳で他界してしまった。
原因は、職場での休憩ごとに、タバコを慢性的に吸っていたこと。
そして、積もり積もった心労で、親より早く亡くなってしまった。
葬儀が終わっても、暗くどんよりとした空気が流れる。
そこでは、末っ子の病気持ちである陽子の今後について、話をしていた・・・
母「陽子には、今までグループホームにいてもらうわ」
母「あなたたちは、昔から陽子の面倒を見たくないって言っていたものね」
由香「でも、母さんだってあの子の面倒を見たくないから、グループホームに預けたんでしょ」
由香「というか、結婚式にも来ないでほしかったんだけど。ほんと、恥晒し」
由香「健太さんに、家に障害者がいるなんて知られて嫌な思いしてきたし、離婚になりそうだった」
景子「てか、職員さんに病院は私がなるべく連れていきます、って言っといて結局、送迎に頼ってるしなんなの?」
母「母さんだって、いつでも休めるわけじゃないの。 それに、携帯・・・持ってないから・・・」
母「私だって、あんなの負担なのに・・・ それに、お義母さんと一緒に住みたくないから、実家に帰るわ」
景子「それは良いけど、ねーちゃんも自分も仕事あるし、うちらのとこからここは遠いし車で100キロくらい走るなんて冗談じゃない!」
景子「父ちゃんじゃなくて、陽子がいなくなればよかったのに。 ねーちゃんに酷いことばっか言って」
景子「困ったら助けて、って言ってきたけど今までのこと謝れよ、って思う。 都合良すぎる、父ちゃんに迷惑かけてまで生きて・・・」
由香「いいよ、景子。 何言っても無駄なんだから。これから、困ればいい」
由香「相談員さんと、職員さんに任せてうちらはもう・・・見捨てようよ。 父ちゃんみたいに面倒見れないから、さ・・・」
景子「まあ、死んだら100万降りて手当もあるから葬式とか部屋の掃除のは、足りそうだね」
由香「てか、あんなのに一銭も出したくないよ。今も作業所?続いてるの?」
母「一応、日数を増やして頑張ってるみたいだから・・・」
母「というか、姉妹なんだから仲良くしなさい! 何であの子にそんな酷いこと・・・」
景子「てか、苦しんでいたのに甘えるなっていって病院連れて行かなくて、大人になって困ってる陽子もちょっとかわいそう」
景子「母ちゃんこそ、何やってたの? 大切とか言っといてさ。愛玩動物じゃないんだよ?」
母「わ、私だって・・・こんな、ひどいと思ってなくて・・・」
母「それに、昔はなかった病気なんだから、分からなくても仕方ないじゃない!」
由香「とりあえず、父ちゃんの葬式終わったし・・・うちらは行くから」
由香「行くよ、景子」
景子「うん」
景子「ばあちゃん、また来るね! 一応、色々やっといたからね」
清海「おお、景子、由香、また来いや~」
清海「ついでに、米と野菜、持ってけな~」
由香「ありがと!今度、うちらで取りに来るね!」
景子「いつも、父ちゃん来てくれたし」
由香「今度はうちらが〜、みたいな?」
清海「あんたら来ると、ばあちゃん嬉しいよ」
二人は色々持たされて、帰った。
清海「ああ、姐ちゃん。もう寝るから、あと頼むわ~」
母「・・・私はとりあえず、陽子をグループホームに送ってきます」
母「陽子、ごめんね。母ちゃんとうちに帰ろうか」
陽子「うっ・・・うっ・・・」
母「・・・もう、お父さんいないんだから・・・」
母「しっかりしな、じゃないとまた姉ちゃんたちに舐められるよ。いいの?」
泣く陽子を、無理やり車に乗せて、母は車を走らせた・・・
〇住宅地の坂道
車を走らせて、しばらく・・・
母「陽子・・・ごめんね」
母「でもお母さんも、しんどいの・・・」
陽子「・・・」
無音のまま、急なカーブを曲がって、進んでいく・・・
〇綺麗な一戸建て
母「ほーら、陽子。おうちに着いたわよ」
陽子「うっ、ありがとう・・・」
母「母ちゃんも、来れそうなとき来るからね」
母「強く、生きるんだよ・・・」
世話人「あら上之井さん、おかえり〜!」
母「あ、どうも・・・」
世話人「お葬式って聞いたけど、大丈夫ですか?随分、早かったけど・・・」
母「いえ、娘たちがいいのにしてくれたので・・・」
母「じゃあ、この子を頼みます・・・」
世話人「はい・・・あら、上之井さん泣いてるわ・・・」
母「しばらくしたら落ち着くと思うので、少し一人にしてやってくださいな」
ぺこり、とお辞儀をして母は、去っていった・・・
世話人「上之井さん、外寒いし、お部屋に上がろうか」
世話人「(上之井さん・・・お父さんと、仲良しだったもんね・・・それに)」
世話人「(あまり、不仲だと言っていたけどお姉さんたちはいない。お母さんだけ・・・)」
世話人「今、そんなに人いないから。リビングでお茶でも飲む?」
陽子「・・・うい」
〇簡素な部屋
お茶を飲んで、陽子は引きこもってしまった。
陽子「どうしよう・・・」
陽子「(お父さんはもう、いない・・・)」
陽子「(予想通りではあったけど、お姉ちゃんたちは援助は見込めない・・・)」
陽子「(母ちゃんは気まぐれだし、ばあちゃんは・・・私のこと、誰だって言ってたし・・・)」
陽子「はやく、楽になりたいな・・・」
自由度の高いグループホームではある。
だが、ここで自分がなにか起こしてしまえば・・・
色々、きまりが増えて面倒なことになるし、それこそ迷惑をかけてしまう。
こうして、途方に暮れていたとき・・・
〇簡素な部屋
「ねえ、ものすごく困ってるみたいやね?」
陽子「わっ、だれ?」
死神ちゃん「どうも〜!死神ちゃんやで★」
陽子「(わあ・・・可愛い・・・ほんとに、死神・・・?)」
陽子「死神、ってことは私、死ぬことできるの?」
死神ちゃん「なんで自分、そないに笑顔やねんて・・・」
死神ちゃん「未練とか、無いんかいな?」
陽子「無いよ!だって・・・」
陽子「父ちゃん、いないから・・・」
死神ちゃん「(せや・・・この子、記録通りやな。親父さんと仲良しやって・・・)」
死神ちゃん「(亡くなってもうたんや・・・)」
死神ちゃん「(まあ、どう思っとったかは分からんけど。死人に口無し、やさかいな・・・)」
死神ちゃん「まあ、大事な人亡くなってもうたんや・・・ 辛いわな、自分・・・」
死神ちゃん「でも、そんな生き急がんくても・・・ええんとちゃう?」
陽子「でも、もう・・・生きていても、仕方ないから」
死神ちゃん「まあまあ・・・死ぬにしたって、迷惑なんは変わりないでー」
陽子「・・・」
死神ちゃん「そないに、都合良くはいかんわなー・・・」
死神ちゃん「でもなあ、どうせならメシウマな思いしてからでも、ええんとちゃうん?」
君をいじめた姉ちゃんら、今ごろパフェでも食っとるで?と言った。
陽子「うん、知ってる・・・」
死神ちゃん「でも、死神ちゃんの話聞いたら、車使わんでも自分、好きなとこ行けるで?」
陽子「ほ、ほんと・・・?」
死神ちゃん「せやで~、友達が疲れることも、無いで」
死神ちゃん「後ろめたい思いは、しなくてええんや・・・」
陽子「友達が、疲れることも無い・・・」
陽子「楽しい思い、してもいい・・・」
死神ちゃん「せやでー、どないする?」
陽子「・・・聞く、聞くよ!」
陽子「私だって、好きで病気になったんじゃない。・・・好きで・・・」
陽子「生まれてきたんじゃ・・・ないもん・・・」
死神ちゃん「せやな。まあ、今のはいい判断やで!」
死神ちゃん「自分みたいなん、あんま苦しんでほしないねん。せやから・・・」
死神ちゃん「開発したんや・・・トブで?」
陽子「お願い・・・楽に、なりたい・・・」
死神ちゃん「よーし、死神ちゃんが楽にしたるさかいな」
死神は、陽子をそっと抱きしめた・・・
〇簡素な部屋
死神ちゃん「ほな、本題入るでー!」
死神が、懐から出したものは・・・
陽子「ど、ドリップコーヒー? 私、コーヒー好きだけど・・・どうするの?」
死神ちゃん「いやー、これただのドリップコーヒーやないねんて!」
死神ちゃん「名付けて・・・『トリップコーヒー』やで・・・!」
陽子「と、トリップコーヒー?」
死神ちゃん「いや、自分これ笑うとこやで!」
死神ちゃん「・・・まあ、ええわ」
死神ちゃん「ま、名前の通り!これ飲んだら、行きたいとこ行けるねん」
陽子「ど、どこでも・・・?」
死神ちゃん「せやでー、半分飲んで、帰りたくなったらまた半分飲めばええで!」
陽子「でも、コーヒー持ちながらどこでも行けないよ・・・」
死神ちゃん「そこは安心せえや、わい持っとるさかい」
死神ちゃん「監督不行きにならんよう、見てるから」
あ、これは理解しときや、と言われる
死神ちゃん「場所にはいけるけど、過去とか未来は行けんからな?」
陽子「時間は、移動できないんだ・・・」
死神ちゃん「せやな。ほんで、一人あたり3つまでが限界やな」
陽子「3つまでなら、好きなとこ行ける?」
死神ちゃん「まあ、そういうことやね」
陽子「どこでも、ってあの世とかも?」
死神ちゃん「まあ、行って行けんこともない」
死神ちゃん「ただ、あの世は死者に好かれてもうて、帰ってこれんかったのが、多かったね」
陽子「ううん、いいの。もう・・・」
陽子「いいんだ・・・何もかも・・・」
死神ちゃん「・・・」
死神ちゃん「(あー・・・アカンな、かわいそうになっきてもうた。でも、無理やろなあ。)」
死神ちゃん「(信じられるもんがおらん世界で・・・生きろなんて、かわいせやろ。それに・・・)」
生きるにしても、この子を大事にしてくれる家族やらは・・・いないんやからな。
死神ちゃん「行き先は、どないするん?」
陽子「あ、決めたよ。どうしても行きたいとこ」
死神ちゃん「え、早いやん自分!?」
死神ちゃん「死神ちゃん、コーヒー淹れたる!」
どこからか、やかんが出てきた。
いつの間にか、シンプルなカップにセットされたトリップコーヒーに、少しずつお湯を注いで・・・
陽子「(わあ・・・いい香り。誰かに、コーヒー淹れてもらうなんて・・・久しぶりだな・・・)」
死神ちゃん「できたで~、冷めんうちにどーぞ♪」
死神ちゃん「半分までやでー」
死神ちゃん「ほんで、行きたいとこ思い浮かべながら飲むんや」
陽子は、少しずつ、熱いコーヒーを口へ運んだ・・・
陽子「(最初は、あそこ・・・)」
〇うどん屋台
陽子が、最初に行きたかったところは・・・
死神ちゃん「おー、美味しそうなお出汁の香りやな~」
陽子「よく、父ちゃんが・・・前に住んでた私のアパートに遊びに来ては、ここで食べてた!」
死神ちゃん「有名なうどん屋さんやろ?」
陽子「そうそう!鶴亀うどん!」
陽子「父ちゃんはねえ、いつも釜揚げの大きいやつ頼んで、ネギいっぱい入れるの!」
死神ちゃん「そか・・・でも、今食べるのはアンタやで」
陽子「うん、でも、父ちゃんの食べ方・・・」
陽子「やってみたいなあ、って」
死神ちゃん「そーか、ほな、注文せなアカンな」
陽子は、気のいいアンちゃん店員に声をかけられ、注文した・・・
陽子「わあ、美味しそう・・・!」
いただきます!と言って、割り箸を割り・・・
陽子「ほとんどネギだけど、美味いなあ!」
死神ちゃん「(幸せそうに、食べるなあ・・・)」
うどんを食べ終えて・・・出汁も飲み干した。
死神ちゃん「マジの完食やなー! 作った人喜ぶでー!」
陽子「最近、食欲無かったんだけど、これは食べることできたよ!」
死神ちゃん「そか・・・」
死神ちゃん「たんと、食べや・・・」
このまま、次のところに行けないの?と聞くと、何杯目かわからなくなるからだめみたい。
〇簡素な部屋
陽子「あ・・・戻ってきちゃった・・・」
死神ちゃん「まー、一回目終わりー!どうやった?」
陽子「・・・たのしくて、懐かしかった・・・」
死神ちゃん「そか・・・ほな次か?」
陽子「ううん、まだ待って・・・」
〇白いアパート
陽子は・・・アパートで暮らしていた3年間を、ふと思い出していた・・・
陽子「(もうすぐ、お父さんアパートに着く!)」
ピンポーン
インターホンがなって、モニターに父が映る。
陽子「父ちゃん、元気やった?」
父ちゃん「おー、生きとったか!元気そうやな!」
父ちゃん「これ、野菜ともらった果物や」
陽子「ありがとう!」
陽子「今朝、パン焼いたよ!」
父ちゃん「おお、ご飯しか食べてないから腹減った、食べまーす!」
寛いでは、重いものを買ったり、欲しい漫画を買いに行ったり。
ごはんは、回転寿司か、ミックか、うどん屋さん。
あの頃は、ほんとに楽しかったな・・・
陽子「(私もいつか、父ちゃんをどこか連れていけるように、練習したいなあ・・・)」
父ちゃん「また、余計なこと考えてるだろ」
陽子「ううん。でも、姉ちゃんたちにも、父ちゃんあんまり使うなって、言われて・・・」
父ちゃん「んなの、気にするな。 車は便利だが、金もかかるし面倒だから・・・なんかあれば来るよ」
同じ県内でも、遠い。
それでも月に一回、様子を見に来てくれるのはありがたかった。
陽子「(それに、実家と違ってチャリさえあれば近くで色々済ませられる。バスも何分かに何回かあるし・・・)」
ただ、仕事に恵まれなかった。
それでも、色々出来そうなことや無理して通うことのないように、頑張った。
〇本屋
思い出に浸って、コーヒーを飲んだ。
今、来ているのは・・・
県内最大級の、大きな本屋さんだった。
小説や参考書、雑誌や漫画が階ごとにずらり、と並んでいる。
それに、本だけではなく可愛い文具や便箋、ちょっとしたキャラクターグッズ。
さらに一階の左は、コーヒー屋さん。
陽子「(あ・・・この漫画、続きどうなるんだろ・・・)」
陽子「(これ、読みたかった小説・・・)」
死神ちゃん「おー、めっちゃ本あるなあ!」
陽子「父ちゃんに、よく連れてきてもらって欲しい漫画探したり、マスキングテープとか買ったの」
死神ちゃん「おー、そうなんか!」
死神ちゃん「いやー、冥界にも持っていきたいなあ」
陽子「じゃあ、ほしいの一緒に買おうよ!」
死神ちゃん「え、あかんやろ、自分欲しいの買いや・・・」
陽子「大丈夫だよ、もう、病院もお買い物も行かないだろうから」
死神ちゃん「(そこまで、考えとったんか・・・)」
陽子「あ、ギフト用の紅茶だ!かわいい!」
陽子「死神ちゃんは、コーヒーのほうが好き?」
死神ちゃん「いや、どっちも好きやけどな・・・」
死神ちゃん「て、はや買ったんかい!」
陽子「包んでもらったよ! ドリップコーヒー!」
死神ちゃん「お、おおきに!」
陽子「他に欲しい物ある?」
死神ちゃん「いや、これあればええねん・・・」
陽子「なんか、お揃いのキーホルダーでも買う?」
陽子「これ、ずっと見てたよね? 羊のやつ。すごく人気だよ!」
死神ちゃん「あ・・・ま、まあなあ・・・」
陽子「行ってくる!」
瞬く間に、お会計を済ませる陽子。
死神ちゃん「な、なんやすごい行動力やな・・・!」
陽子「ねえ、あそこでケーキ食べようよ!」
死神ちゃん「ちょ、調子のいいやっちゃな・・・」
行こー!と、死神の手を引く陽子。
戸惑いながらも、満更でもなさそうな死神。
まるで、仲のいい姉妹のようだった・・・
死神ちゃん「(無意識やろうけど、多分・・・この子が欲しかったもんやろうな・・・)」
死神ちゃん「(こうして話しとると、普通やし、なんで家族からそんな扱いを受けるんか分からん・・・)」
「なんや、また女か」
死神ちゃん「(!? 何や・・・今、頭に・・・)」
少しずつ・・・陽子の生きてきた時間が、映画のように流れ出す・・・!
〇綺麗なリビング
清海「なんや、また女か・・・」
清海「しかも、毎日夜中に救急車・・・ 何なんや、うるさい・・・」
母「し、仕方ないじゃないですか! 陽子は体が弱いんですよ!?」
清海「ほんなもん、どっか山に捨ててこい。ほんで、今度こそ・・・」
清海「男、頼むわよ?うちは畑と田んぼもあるの」
(あちゃー・・・田舎やったな、産まれたの・・・でも、性別でなんか言うのはちゃうやろ・・・)
(なるほどなあ、この頃からもう・・・姉二人が大事にされとったわけやな。そら辛いわな)
〇綺麗なリビング
そして、時間が流れて・・・
さすがに捨てずに、育てたみたいやな。
母「陽子、ごめんね、これかけといて。お母さん、今からお仕事やさかい・・・」
陽子(幼少期)「うん、わかった!いってらっしゃい!」
清海「陽子、それ終わったらこれ畳んどいて」
陽子(幼少期)「わかったー、待ってて!」
なんや・・・陽子、まだ7歳くらいやろ・・・?
お姉ちゃん2人、おるんやないんか・・・?
お姉ちゃん2人、何してんねん!て突っ込もうとしたら・・・台所で横になっとるがな!
末っ子に、なに任せきりにしてんねん!
上なら手伝や!!アホか!!
清海「陽子、これ切っといて。前に教えたでしょう?」
陽子(幼少期)「うん、やってみる!」
陽子・・・休めても、この頃から手伝いしとって・・・遊びたいやろうに・・・
〇綺麗なリビング
陽子(幼少期)「う・・・お腹痛い・・・またのとこ、気持ち悪い・・・」
陽子、それ・・・生理やないか!
オカンからナプキンもらったっぽいけど・・・
母「陽子。 ナプキンも高いから、なるべくいっぱい吸ってから変えるのよ?」
陽子(幼少期)「うう・・・痛い、気持ち悪い・・・」
青い顔に、脂汗かいとるやないか・・・
陽子(幼少期)「あ・・・」
母「・・・何?服もシーツも汚したの?」
陽子(幼少期)「ご、ごめんなさい・・・」
母「はあ・・・洗い方教えるから、今度からは自分でやるのよ」
陽子(幼少期)「はい・・・」
いや、かわいそうやろ・・・具合悪い時ぐらい、おかんやってやれよ・・・
そして、何年かして・・・
母「なに、また生理で早退したの?」
陽子(幼少期)「ご、ごめんなさい・・・」
母「お母さんの頃はね、我慢して行ってたの。それに、そんなことじゃ仕事できないわよ!」
陽子(幼少期)「はい・・・」
清海「だから、女の子だと大変だし、お金もかかる・・・それに」
清海「この子も、いい子供を産めなさそうだね」
清海「覚えも悪い、頭も悪い、おまけに不細工・・・」
清海「最悪ねえ・・・由香が、妹として紹介したくない気持ちが分かるわね・・・」
陽子(幼少期)「・・・」
・・・まじか・・・これは、きついな・・・
今どき、生理に振り回されんために婦人科行くの普通やで? 最悪、病気だったり痛みの原因が判明するし・・・
〇綺麗なリビング
それからも、ひどかった・・・
一番上が、大学行って一人暮らし。ただ・・・
心の支えを失った次女は、段々引きこもりに。 陽子は中学生・・・
ただ、一学期後半で早朝に、家出・・・
警察のお世話になって・・・
清海「見つかったからいいものの・・・」
清海「この、恥晒し!」
母「な・・・」
いや、さすがに時代錯誤やろ・・・
人殺した、とかやないねんから・・・
まあ、この前科でも・・・
思春期で太りやすい頃で、見た目でいじめられることもあって・・・
大変だったようだ。
幸い、ブラスバンドで仲間に恵まれるものの・・・
体調をくずして、パフォーマンス中やパレードでぶっ倒れることが多かった。
〇綺麗なリビング
高校でも、いじめもあったが理解者もいてなんとか頑張ったっぽい。
まあ、いじめるやつが弱いし悪いんやけどな。卑怯な奴らやなあ・・・
高校後半・・・やっと婦人科につれてってもろたみたいやけど・・・
先生「・・・あのねえ、生理痛くらいでうちに来ないでくれる?」
陽子「え?でも、毎回青い顔に、脂汗止まりません。ナプキンも夜用を何回か変えて・・・」
先生「あのねえ、生理は痛いのが普通なの。 それに、妊婦さんの来るとこだから!」
先生「次の患者さん、お入りください!」
陽子「ま、待ってください!せめて、おくすりないんですか!」
先生「ないよー、整腸剤でも飲んどきゃ大丈夫!」
陽子「そ、そんな・・・」
あーあー・・・
こんなのがたらい回しで、大変だったのか・・・
でも、陽子は頑張って推薦で看護の学校入れたんやけど・・・
周りが協力しない奴らばっかりで、除け者にされたり馴染めなかったりで、鬱病に・・・
〇簡素な部屋
そして、実家に戻ったみたいだがろくに病院も、連れて行ってもらえず悪化。
それでも母に、働け!と怒鳴られ渋々・・・父の働く工場に行ったようだ。
ただ、性格の悪いおばさんが多くて、嫌になったようやな・・・
頑張って、貯めて、家から出てまた働き出して・・・
で、心配な親父がちょこちょこ、様子を見に行っとったわけや。
〇カフェのレジ
死神ちゃん「(おお、戻ってきた・・・)」
死神ちゃん「なあ、陽子・・・」
陽子「どうしたの?」
死神ちゃん「他人に・・・いっぱい、傷つけられる、人生で・・・」
死神ちゃん「人なんか・・・信じられんわな・・・」
陽子「!!」
陽子「まあね・・・」
陽子「顔が気持ち悪い、デブ、ブス・・・ いっぱい、言われたなあ・・・」
陽子「でも、昔の写真とか見たら、やっぱ太ってるなあ・・・って、思うよ」
陽子「それでも、悪いことばっかじゃなかったよ」
陽子「そりゃ、由香ちゃんにも景子ちゃんにもいじめられて嫌だったけど・・・」
陽子「でも、もうそんなの聞かなくても良いんだから」
死神ちゃん「・・・」
死神ちゃん「(何年、のスパンとはいえ・・・強いなあ、陽子。それに、他の人よりすごいもん、感じるわ・・・)」
死神ちゃん「ここで、まだ寄りたいとこあるかいな?」
陽子「ううん。それに、長居すると離れづらいし」
陽子「コーヒー、ちょうだい」
死神ちゃん「おお、はい」
陽子は、一気に飲み干した。
〇簡素な部屋
死神ちゃん「陽子、体は辛くないか?」
陽子「ううん、大丈夫。 ちょっと、節々痛いけど・・・」
陽子「お店の中、いっぱい歩いたからかな?」
死神ちゃん「(・・・じゃあ、次が最後やな・・・)」
死神ちゃん「そか・・・ほな、次が最後やな・・・」
陽子「うん」
死神ちゃん「ほんまに、お父ちゃんのおるとこに、行きたいんか?」
陽子「最後に、会いたい・・・」
死神ちゃん「分かったで・・・ほい、コーヒーやで・・・」
陽子はごく、ごく・・・と飲んで。
〇睡蓮の花園
陽子「ここが、あの世で・・・ 父ちゃんのいるところ・・・」
陽子「(すごく、きれい・・・)」
陽子「父ちゃん!父ちゃん! 陽子だよ、いたら返事してー!」
陽子は着くなり、父を呼んでいた。
死神ちゃん「あんた・・・」
「ん?陽子か?」
陽子「あ、父ちゃん!」
父ちゃん「え、なんで陽子がここに・・・?」
陽子「旅行で来てるよ、まだ生きてるよ」
父ちゃん「なんだ・・・びっくりさせるなや・・・」
父ちゃん「みんな、元気か?」
陽子「ああ・・・うん、元気・・・」
父ちゃん「・・・そうか・・・ なあ」
父ちゃん「実はな、お前のことが気がかりだった」
陽子「・・・」
父ちゃん「由香はやっと、結婚。景子は、友達と一緒に暮らしながら働いている・・・」
父ちゃん「お前たちは、近くに住んでいても、あの二人は・・・」
父ちゃん「陽子のことは、助けてくれないだろうと思った・・・」
陽子「・・・うん」
父ちゃん「葬式で、やっとお前が本当に苦しんでいるのを知った・・・」
父ちゃん「上から、見ていたんだ・・・ ごめんな、陽子。ごめんな・・・」
陽子「・・・辛かった・・・」
陽子「毎日、死にたい、消えたいって願っていた」
父ちゃん「ずっと、聞いてたのに・・・馬鹿言うな、って言ってしまったよな・・・」
陽子「いい、よ・・・もう、いいよ」
陽子「私、父ちゃんの代わりに運転したかったよ」
陽子「でも、お医者さんに止められたの・・・」
陽子「役立たずで、ごめんね・・・」
父ちゃん「俺の方こそ、車も買ってあげられなくてごめんな・・・」
父ちゃん「グループラインも、お前が抜けたら・・・お前の悪口ラインになって、胸糞悪かった・・・」
父ちゃん「金が払えなくて、お前に姉ちゃんの新車代7割払わせて・・・ごめん・・・」
陽子「辛かったなあ・・・でも、それくらいでしか、役に立てないから・・・」
陽子「まあ、お金の話は、おいといて・・・」
陽子「父ちゃんは、あの家にいられなかったんでしょ・・・母ちゃんも、ばあちゃんもあんなのだからね・・・」
父ちゃん「ああ、だからお前のところに行ってたんだ。それに・・・」
父ちゃん「それが楽しくて、仕事も頑張ろうって思ってな・・・」
父ちゃん「・・・生きがい、だったよ」
陽子「・・・うん、私も・・・」
陽子「お姉ちゃんたちのことは気にせず、あのアパートにいたかったな・・・」
父ちゃん「まあ、陽子もあの家にいたくないから出てきたんだもんな・・・」
陽子「でもね・・・私も・・・」
陽子「辛くても、父ちゃんがいたから・・・ 生きてきたよ」
父ちゃん「俺も、ほんとのことを言えるのはお前だけだった・・・姉にすら、言えなかったことも」
陽子「酷いこと言うかもしれないけれど・・・」
陽子「正直、生まれてこなければこんな思いをせずに済んだよな、って何度も思った・・・」
〇睡蓮の花園
影から、死神は二人を見守っていた。
死神ちゃん「(嘘は、ついてないな・・・)」
死神ちゃん「(お互いが、お互いを必要としていたんだな・・・)」
死神ちゃん「(しかし、姉たちは酷い奴らだな・・・)」
死神ちゃん「(長女は、大学も出してもらって車も買ってもらって、結婚式の費用も負担させている・・・次女も、車を買ってもらって・・・)」
死神ちゃん「(挙げ句・・・県内でも遠い通信制の高校に、毎回父を運転で使っている・・・)」
死神ちゃん「(それに、そいつらもアパートで暮らしていた数年間、父親が様子を見に来ていたんだ。陽子のは、かわいいもんだろう・・・)」
死神ちゃん「(果たして、どっちが親に迷惑かけてるんだか・・・)」
死神ちゃん「(ハンディーギャップがあっても、社会と繋がろうとしていた陽子のほうが・・・)」
死神ちゃん「(よっぽど、立派じゃないか・・・)」
〇睡蓮の花園
陽子「ごめん、父ちゃん・・・」
陽子「もう、行くよ・・・」
父ちゃん「そうか・・・」
陽子「私も、前を向かないと・・・」
父ちゃん「陽子・・・」
父ちゃん「あんまり、考えすぎるなよ・・・」
父ちゃん「姉・・・きのこも、お前のことが気がかりだったからな」
陽子「うん・・・じゃあね」
すっ・・・と死神が出てくる。
陽子に、残りのコーヒーを渡した・・・
陽子「私、友達ができたから大丈夫」
父ちゃん「・・・そうか、良かった・・・」
残りのコーヒーを、少しずつ飲む陽子。
ここに残りたい・・・帰りたくない
どんなに辛くても・・・生きなければ・・・
〇簡素な部屋
世話人「陽子ちゃーん、ごめんねえ、ご飯食べよう?」
世話人の女性が、何度もノックし、声掛けをする。
だが、返事が返ってくることはなかった。
部屋は、鍵がかかっている。
時間きっかりには、リビングに来ていた陽子。外出の際は、ちゃんと世話人の誰かに伝える。
嫌な予感がした彼女は、下の部屋からマスターキーを急いで取りに行った・・・
〇簡素な部屋
陽子「あれ、何だか・・・」
陽子「ボーっとしてきた・・・」
死神ちゃん「・・・」
死神ちゃん「ごめんなあ・・・陽子」
死神ちゃん「今まであげとったの、陽子の寿命を原動力にしてできてたんよ・・・」
陽子「えっ・・・?」
死神ちゃん「ごめん。 でも陽子・・・」
死神ちゃん「今日までやったんや。 何でや言うたら・・・」
アタシが来なかったら・・・首吊りで死んでたからな・・・と。
陽子「・・・そっか・・・」
死神ちゃん「な、何わろてんねん・・・ 結局、寿命を一気に削って、その急激な経年劣化と負担で・・・どのみち、死ぬんやで・・・?」
陽子「いや、感謝しないとな、って・・・」
死神ちゃん「何が感謝や・・・」
陽子「だって、苦しまずに死ねるんだよ?」
陽子「どうすれば苦しまずに死ねるか、かんがえてたんだ・・・」
陽子「でもどれも、大変なものばかり・・・」
陽子「だけど、これで・・・もう、誰からも馬鹿にされることはなくなる・・・」
死神ちゃん「・・・陽子・・・」
陽子「それに、死神ちゃんと一緒に過ごせたら、死んだって楽しいよ?」
死神ちゃん「陽子・・・」
陽子「ちゃんと、死ぬまで・・・そばに、いて・・・」
死神ちゃん「・・・ああ、安心せえや・・・」
死神ちゃん「自分が、しっかり・・・看取ったるさかい・・・」
そっと、陽子の手を取った。
少し、冷たかった・・・
陽子「はは・・・あったかいな・・・」
死神ちゃん「・・・なんか、してほしいことあるか?」
陽子「ううん、大丈夫・・・」
陽子「私ね・・・一人ぼっちだと思った。でも・・・」
陽子「一人じゃ、なかった・・・」
死神ちゃん「そばに、おるから安心して・・・」
死神ちゃん「眠りや、陽子・・・」
〇簡素な部屋
そして、世話人の女性が鍵を持って戻ってきて・・・
急いで開けた先に、待っていた光景は・・・
幸せそうに、穏やかな笑顔で壁に寄りかかった、陽子の姿だった。
世話人「よ、陽子ちゃん・・・?」
彼女はそっと、陽子の左手に触れる。
ものすごく、冷たかった・・・
世話人「きゃああああああ!!!」
彼女は、思わず叫んでしまった。
そして、叫び声に驚いた入居者たちがぞろぞろと、やってきた。
世話人「驚かせてごめんなさい、皆さん・・・」
世話人「事情は後ほど説明しますので・・・ どうか、それぞれお部屋に戻ってください・・・」
〇綺麗な一戸建て
しばらくして、救急車がきた。その次はパトカーが・・・
もう亡くなっていて、助けようがなかった。 だが、部屋の状況、遺体が異様にきれいで・・・
後ほど、体内も調べたがひどい損傷もなく、きれいだったため・・・突然死と、処理された・・・
〇綺麗な一戸建て
陽子の葬儀が、開かれることはなかった。
親族側が、お金がないと言ったためだ。
数日して、親族・・・と言っても、母だけだが陽子の部屋の荷物を取りに来ていた・・・
世話人「お母さん・・・お疲れ様です。陽子ちゃんの・・・」
母「良いんです・・・これで、施設にも迷惑をかけずに済みますから・・・」
母「ほんとに、娘が・・・申し訳ありませんでした・・・」
世話人「いえ、こちらこそ、陽子ちゃんにお世話になりました・・・」
世話人「私が世話人になって、しばらく・・・ 陽子ちゃんが、クッキーを・・・焼いてくれたんです」
世話人「すごく、美味しかった・・・ それに、イラストも見せてくれました」
世話人「辛くても、とっても元気の出る、イラストを見せてくれました・・・」
母「・・・そうですか、陽子が・・・」
世話人「あの・・・ご学友の方や、叔母さん、それと地域の方から・・・葬儀代をいただいて・・・」
世話人「勝手ながら、ホームが落ち着いた何日か後に、やろうと思っています・・・」
母「・・・あの子は、色んな人に愛されて、いたんですね・・・」
母「弔ってやりたかったけど、はずかしながら・・・皆、お金がなくて・・・」
母「本当に・・・ありがとう、ございます・・・」
〇葬儀場
──しばらくして。
いろんな人のおかげで、ささやかながら葬儀が行われた・・・
姉二人は急なことだったのと、仕事が忙しくて来ることができなかった・・・
清海「ねえちゃん、これ、誰の葬式や?」
母「私の娘で、あなたの・・・」
母「孫の、陽子ですよ・・・」
清海「ねえちゃん、何おかしなこと言っとるんや」
清海「孫は、由香と景子だけだろ?」
母「な・・・!(認知が混ざってるとはいえ・・・)」
母「何てこというの・・・」
二人は、そんな調子だったか・・・
もじみ「あの・・・お母さん、お久しぶりです・・・」
母「あら・・・もじみちゃん・・・ ありがとね、陽子のために・・・」
もじみ「いえ、大丈夫です・・・ まさか、陽子がこんなに早く・・・」
もじみ「亡くなる、なんて・・・」
母「ええ・・・」
もじみ「陽子って、何でもできて・・・まるで、神様に愛されてるような感じで、羨ましかったし・・・」
もじみ「それに、たまにくれる手紙が、励みになってた・・・」
母「・・・ありがとう・・・」
こずえ「あ・・・お母さん・・・」
母「こずえちゃん・・・だったわよね・・・」
こずえ「あ、はい・・・ まさか、こんな早く・・・」
母「あなたは、よく・・・陽子をどこでも連れて行ってくれたわね・・・」
こずえ「いえ、陽子ちゃんは私の分までお金を払ってくれたり、色々・・・くれたりして、むしろこっちが申し訳ないですよ!」
こずえ「お菓子も美味しいし、センスもいい。ちょっと、ズレていても悪い子じゃ・・・ないし・・・なんで・・・」
母「うん・・・」
ちゃんまえ「あ・・・お母さん・・・」
母「あら・・・まえちゃん・・・」
母「保育所の頃からずっと、あの子と一緒だったわね・・・」
ちゃんまえ「なんか・・・信じられないです・・・」
ちゃんまえ「介護やってて、入居者さんが急に亡くなることもあるんですけど・・・友達・・・は、また違うというか・・・」
母「そうね・・・」
葬儀には、とくに仲の良かった3人。そして、いろんな人が・・・忙しい中、参列してくれた・・・
〇葬儀場
死神ちゃん「陽子・・・迎えに来たで・・・」
陽子「あ、死神ちゃん!」
死神ちゃん「・・・ほんまに、死神やるんか?」
陽子「うん。死神になって、一緒にいたら寂しくないし」
死神ちゃん「そか。ほな・・・」
死神ちゃん「生きとるときは、苦しいことがいっぱいあったやろうけど・・・」
死神ちゃん「こっちくらいは楽しんで・・・」
死神ちゃん「あの姉共より、幸せになればええねん」
陽子「そうだね、じゃあ・・・」
陽子「これから、よろしく!」
お揃いのキーホルダーを持って、二人は光あふれる方へと歩いていった・・・
END
主人公が亡くなって良かったと思える物語なんて初めてです。父親を失った後の家族は、陽子にとってはまさに「生き地獄」だったように見えました。現世の苦しみから解放された死後の世界では、関西弁の可愛い死神ちゃんと一緒に思うがままに過ごしてほしいと心から思います。
大事な人の死は辛いですよね。まして唯一の理解者だなんて。頑張っているのに、どうにもならない状況が歯痒く感じました。死神ちゃんがすごい可愛いかったので、全体的にあまり暗くなりすぎず、テンポよく読めました!
なんだかすごく切なくなるお話でした。
人は一人では生きていけませんし、何かしらに頼ってるからこそ生きていけるのかもしれません。
心にグッと熱いものを感じました。