読切(脚本)
〇教室
「はぁ、何とか間に合ったー!!」
五十嵐茜「今日も遅刻ギリギリだね」
風間藍「ハハハ・・・・・・ちょっと今日も出会しちゃってさ」
五十嵐茜「ただ、今日の1限は自習だけどね」
風間藍「うわぁ、最悪ー。折角、間に合ったのに・・・・・・」
五十嵐茜「まぁまぁ、とりあえず、これでも飲んで落ち着いたら?」
風間藍「うぅ、ブラックは飲めないって言ってるじゃん」
五十嵐茜「ハハっ、これはあたしのだよ」
風間藍「うーん、朝からエナドリって・・・・・・まぁ、ありがたくいただくよ」
風間藍「もう咽喉が渇いて死にそうだしー」
風間藍「はぁー」
五十嵐茜「お、良い飲みっぷり! 茜さん、これもあげちゃうよ」
風間藍「いや、普通のもあるじゃん!! それから出してよー」
風間藍「って・・・・・・もらってて、文句、言うのもどうかと思うけどさ」
五十嵐茜「まぁ、あんたも羨ましいんだか、不憫なんだか分からないからね」
風間藍「いや、普通に羨ましくはないでしょう。走り切れなかったら死ぬんだよ」
五十嵐茜「まぁね」
五十嵐茜「あ、そうだ! またヤマセンがあんたに話があるって言ってたよ」
風間藍「えー、ヤマセンが?」
五十嵐茜「そう!」
〇グラウンドのトラック
山瀬「遅刻癖があるのは難点だが、あの走力があればIHでも十分主力選手になるんだが」
〇教室
五十嵐茜「って・・・・・・」
風間藍「ハハハ・・・・・・毎朝のように走って、こちとらヘトヘトっすわ」
五十嵐茜「ハハハ、良いんじゃない? 夢のインハイ優勝に、スポーツ推薦」
風間藍「冗談じゃないよ。私、あの時以外は50m走12秒だし」
五十嵐茜「まぁ、100mなら確かにインハイ優勝も夢じゃないけどね」
風間藍「飲みもの、ご馳走様。って、いつも思うけど、凄いよね」
風間藍「私もどうせなら茜みたいに駄菓子屋のおじいちゃんから好かれたかったなー」
五十嵐茜「好かれるって・・・・・・たまたま昔から交流があるだけだよ」
五十嵐茜「孫みたいな感じ?」
風間藍「いやいや、それでも、羨ましいよ」
風間藍「さて、勉強しますか・・・・・・」
五十嵐茜「だね。そろそろ誰か、見回りに来るだろうし。ヤマセンかもね」
風間藍「うぅ、勘弁してくれーって感じなんですけど・・・・・・」
〇芸術
人間の能力。
それは大まかに3種類に分けられる。
〇星座
1つ目は個人が先天的に持ち得たもの。
〇サイバー空間
2つ目は遺伝的に持ち得たもの。
〇赤いバラ
そして、
3つ目は個人が後天的に持ち得たもの。
〇教室
古地「えーと、この『富士には月見草が似合うというのは何故か?』」
古地「というところはテストや模試に出やすいから押さえておくように」
古地「さて、太宰治はこの『富嶽百景』の他にも幾つもの作品を遺している」
古地「最後に、何人かに1つずつ言ってもらおうか」
古地「今日は2日だから五十嵐(いがらし)と、羽江(はえ)、風間(かざま)」
五十嵐茜「『斜陽』」
古地「おっ、最初から渋めなところ、行くなぁ。正解だ。羽江はどうだ?」
羽江「うーん、『人間失格』とか?」
古地「こらこら、そんなに笑うな。正解なんだから。じゃあ、最後は風間」
風間藍「えーと、はし・・・・・・『地獄変』とか?」
古地「それは芥川だ」
古地「まぁ、太宰は暗めな作品ってイメージがあるから間違えやすいよな」
古地「でも、『走れメロス』とかは明るいし、」
古地「『女生徒』や『晩年』は他の小説家に影響を受けたり、与えたりしている」
古地「まだ模試なんて高1だから先の話かも知れないが、」
古地「同年代に活躍した作家の組み合わせで合っているのはどれかみたいな問題も出やすい」
古地「じゃあ、今日はここまで。漢文の課題、出してなかったヤツは今日の17時までに出せよ」
風間藍「失敗しちゃったな・・・・・・」
五十嵐茜「まぁ、別にそんなに気にしなさんな」
風間藍「はぁ、茜は良いよ・・・・・・答えも合ってたし、かっこよかったし」
五十嵐茜「かっこよかったって・・・・・・藍も『走れメロス』、言えば良かったのに」
風間藍「ハハハ・・・・・・何か、それも嫌だ」
五十嵐茜「まぁ、羽江に『人間失格』、言われたのも痛かったかな? それより、昼、どうする?」
風間藍「うーん、今日は弁当、忘れちゃったしなー」
風間杏「やっほー」
風間藍「あ、お姉ちゃん。どうしたの?」
風間杏「どうしたなんて挨拶だね。折角、これ、持ってきてあげたのに」
風間藍「あ、私のだ」
風間杏「全く、この子は・・・・・・もっと感謝して欲しいもんだよ」
五十嵐茜「ふふ、ありがとうございます。杏先輩」
風間杏「やっばい、茜ちゃんが女神すぎるー」
風間藍「はいはい。ありがとうございましたー。早く行かないと休み時間なくなるよ」
風間杏「本当だ、羽江先輩と約束してたんだ」
風間杏「じゃあね。あ、そうだ。これも」
風間藍「ハハハ、我が姉ながら心配症だな。まぁ、帰りも出くわすかもだしね」
風間藍「ありがとう」
風間杏「うんうん。素直でよろしい。じゃあ、また。茜ちゃんも妹をよろしくお願いします」
五十嵐茜「はい、杏先輩」
五十嵐茜「じゃあ、我々も行きますか」
風間藍「うん、今日は天気微妙だからもしかしたら、外、空いてるかも」
〇中庭
風間藍「最近、それのこと、多いけど、美味しいの?」
五十嵐茜「ああ、これ? うん、まぁね」
風間藍「あぁ、こせにさんでしょ」
こせにさん。
略さずに言うと、古地先生に似た人だ。
後に、本当に古地先生のお兄さんだということが分かったが、こせにさんのままだ。
五十嵐茜「まぁ、似ていて当然だよね」
風間藍「それで、進展とかは? 映画くらい行ったら良いのに」
五十嵐茜「あのね、知らない人から見たら古地先生と出かけてるみたいになるじゃん」
五十嵐茜「そもそも、彼とはそんな関係じゃないし。弁当屋でたまに会うお客さん同士なだけ」
風間藍「はいはい。そういうことにしておくよ」
〇黒
彼に関する何気ない会話。
それが最後の会話になるなんて・・・・・・
誰も思わなかった。
〇散らかった職員室
〇ゆるやかな坂道
〇街中の階段
「あのー、すみません」
かけられた声に身が強張る。
振り返ると、そこにはよく知った顔があった。
風間藍「あ、貴方は?」
古地?「ふふふ、古地と言います。君は東高の生徒だよね」
風間藍「そ、そうですけど・・・・・・(お願い、何かの間違いって言って)」
古地に似た男はどんどん間合いを詰めてくる。
「藍!!」
〇街中の階段
古地?「逃がしたか? まぁ、逃がさないけどな」
〇裏通りの階段
風間藍「あ、茜!! どうして?」
五十嵐茜「何だか、さっき、藍と別れた時、嫌な予感がしたんだ」
五十嵐茜「そしたら、そしたらさ・・・・・・」
風間藍「茜・・・・・・」
五十嵐茜「私は大丈夫。それよりさ、彼を・・・・・・」
五十嵐茜「・・・・・・へ。お願い・・・・・・!!」
風間藍「うん。分かった。必ず茜の願い、叶えるよ」
〇裏通りの階段
古地だったもの「見つけた」
風間藍「(どうしてなのかな?)」
風間藍「(どうして、こんなことになってしまったのかな?)」
風間藍「(でも、仕方ないよね)」
風間藍「(私はまだ死にたくない・・・・・・!!)」
〇街中の階段
〇裏通りの階段
〇神社の石段
風間藍「はぁ、はぁ!!」
風間藍「(もう、何でこんなに階段が多いんだろう!!)」
風間藍「あっ!!」
風間藍「うっ・・・・・・!!」
風間藍「(あと、もうちょっとなのに・・・・・・)」
古地?「本当にもうちょっとだったのにね」
風間藍「・・・・・・っ!!」
古地?「さて、大人しく着いてきてもらおうか?」
古地だったもの「あの世へ・・・・・・」
〇神社の石段
風間藍「(足、ヤバい・・・・・・!! でも!!)」
〇黒
風間藍「(私まで死ぬ訳にはいかないから!!)」
〇神社の本殿
風間藍「はぁ・・・・・・はぁ・・・・・・」
古地だったもの「もう逃げ回るのは止めないか?」
古地だったもの「煙幕なんて使って少しだけ延命しただけ。あの世の方が近いのに・・・・・・」
風間藍「はぁ、はぁ・・・・・・!!」
古地だったもの「何、あの世だって悪いところじゃない」
風間藍「はぁ・・・・・・」
風間藍「はぁ・・・・・・」
古地だったもの「さぁ、我と来い!!」
風間藍「お姉ちゃん!!」
風間杏「ネポエタガ!」
〇謎の扉
古地だったもの「な、何だ?」
〇黒
古地だったもの「ーーーーーーー!!」
〇神社の本殿
風間藍「た、助かった・・・・・・!!」
風間杏「毎日のことながらお疲れ様」
風間藍「・・・・・・まぁ、毎日かって言ったら、毎日じゃないけど」
風間杏「でも、人が死ぬ限り、藍を探して連れて行こうとする」
風間藍「・・・・・・道連れに選ばれやすい性質なんて冗談じゃないよ」
風間杏「まぁ、考え方次第では少し羨ましいけどね。知り合いなら・・・・・・辛いだろうけど」
風間藍「・・・・・・」
「藍!!」
風間杏「あ、茜ちゃんかな? 彼女も見えるんでしょ。私には見えないけどさ」
風間杏「じゃあ、私、先に帰ってるよ」
風間藍「あっ・・・・・・」
風間藍「あ・・・・・・茜・・・・・・」
五十嵐茜「良かった。無事だったみたいで・・・・・・」
風間藍「う、うん。その、私はだけど・・・・・・」
五十嵐茜「何、言ってるの? それだけで良いよ」
五十嵐茜「まぁ、彼が亡くなったのは思うところがない訳じゃないけど、それはさ」
五十嵐茜「あんたのせいじゃないでしょ? それに、あのままだと悪霊化するのも目に見えてた」
五十嵐茜「あんたと杏さんが彼を救ってくれたんだよ」
風間藍「うん・・・・・・」
風間藍「そうだったら良いんだけど」
五十嵐茜「帰ろう。今日は・・・・・・」
風間藍「うん」
〇芸術
人間の能力。
それは大まかに3種類に分けられる。
〇星座
1つ目は個人が先天的に持ち得たもの。
彼女達なら死者を見る力。
〇サイバー空間
2つ目は遺伝的に持ち得たもの。
彼女なら死者を惹きつけ、
道連れにされる魅力。
彼女ならある特定の場所で
あの世への門を開く能力。
〇赤いバラ
そして、
3つ目は個人が後天的に持ち得たもの。
彼女なら死者から逃げ切る足と
絶対逃げ切るという意思。
〇神社の出店
五十嵐茜「今日も大変だったね」
風間藍「うん、夏なのに全力疾走」
風間藍「疲れたし、汗もかいたし、悩んだけど、来てよかった!!」
五十嵐茜「はいはい。あっ!!」
古地「五十嵐と風間か?」
風間藍「あ、先生だ」
古地「はは、懐かしいな。まだ卒業してから半年も経っていないのに、すっかり大学生らしくて」
風間藍「先生は補導ですか?」
古地「いやぁ、俺はそこまで野暮じゃないよ」
古地「山瀬先生は張り切ってたから調子を合わせてるだけ」
「あぁ・・・・・・」
古地「あとは・・・・・・兄とよくこのお祭りに来ていて、懐かしくなったんだ」
「・・・・・・」
古地「五十嵐は兄を知っていたんだろう」
五十嵐茜「えぇ、まぁ・・・・・・」
古地「良かったら、ちょっと渡したいものがあってさ」
古地「兄が五十嵐に渡そうと思って用意していたらしい」
古地「どうかな、来週の土曜日にでも会えないかな?」
古地「あ、もし、大学生活が忙しかったら・・・・・・実家の方に送るけど」
五十嵐茜「いえ、今度の土曜日、大丈夫です」
古地「そうか。じゃあ、来週の土曜日に。風間も引き留めて悪かったな」
古地「遊びも良いが、折角、大学に入ったんだ。しっかり勉強して悔いのないように頑張れよ」
風間藍「はーい」
風間藍「何か、良かったね」
五十嵐茜「な、何が?」
風間藍「何だか、途中から嬉しそうだったよ」
五十嵐茜「そ、そう?」
風間藍「うん、絶対そう!!」
五十嵐茜「はは・・・・・・うん、確かにそうかもね」
〇神社の出店
〇神社の出店
〇神社の出店
RAN★RUN★LAN!! 完
途中で唐突にインサートされる3種類の能力の説明が、最後に三人の能力であると判明する展開が巧妙でドラマティックでした。藍と杏は一生離れずに神社仏閣のある町に住まなきゃいけないし、歳をとったら藍がrunできなくなるから、それがちょっと心配 ですね。