藤倉四姉妹の事情

深山瀬怜

始まりは福引で(脚本)

藤倉四姉妹の事情

深山瀬怜

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〇アーケード商店街
藤倉藍「よし、行け茜!」
藤倉雫「私は2等の神戸牛がいいなぁ」
藤倉茜「もー! お姉ちゃんたち、プレッシャーかけないで!」
  藤倉家の六人は、年末の商店街へ赴き、5000円で1回引けるくじを引こうとしていた。
  6人もいるので、年末年始に必要なものを買い出すだけで結構なお金になる。
  くじは8回引くことができた。
藤倉茜「よし!行くよ!」
  そして藤倉家の四女・茜が抽選器を8回まわしたその時──
商工会会長「大当たり〜!!」
藤倉茜「えっ!?」
商工会会長「おめでとうございます! なんと1等、豪華客船での世界一周の旅ペアチケットです!」
藤倉奏「世界一周・・・」
藤倉雫「すごいじゃん、茜!」
藤倉藍「その豪運分けてほしい・・・」
藤倉いろは「1等って当たるもんなんだな・・・」
藤倉由里香「さすが私の娘。私も昔商店街の福引得意だったのよ」
藤倉雫「いやお母さん、商店街の福引得意って何?」
藤倉雫「初めて聞いたんだけど」
藤倉藍「んー・・・でもペアチケットか」
藤倉藍「誰が使うの? うち6人家族だけど」
藤倉奏「そこお母さんたちでいいんじゃない?」
藤倉奏「来年は銀婚式でしょう? 記念にどうかしら」
藤倉茜「それがいいよ! 奏姉に賛成!」
藤倉由里香「あらあら、じゃあお言葉に甘えようかしらねぇ」
藤倉いろは「ああ、そうしよう でも私たちが旅に出ている間、4人だけになってしまうけど」
藤倉藍「大丈夫だよ。私も奏もいるし、茜だってもう中学生なんだから」
藤倉奏「何かあったら叔母さんたちを頼るから安心して」

〇綺麗なダイニング
  そうして年が明け、父と母は世界一周旅行に旅立って行った。
  残された4人はというと──
藤倉奏「みんなー!ごはんよー!」
藤倉雫「ふぁ・・・おはよう・・・」
藤倉茜「雫姉、眠そうだね」
藤倉茜「また遅くまで小説書いてたの?」
藤倉雫「そう・・・公募の締め切りが近くて・・・」
藤倉奏「そんな雫に目が覚めるあったかいカフェオレもあるわよ」
藤倉奏「茜にはココアね」
藤倉雫「ありがとう、奏姉・・・ふぁ・・・」
藤倉茜「あれ、そういえば藍姉は?」
藤倉奏「藍はまだ寝てるんじゃないかしら 昨日もすごく遅かったから」
藤倉雫「藍姉、相変わらずバリバリ働いてんね・・・」
藤倉奏「そうね。最近は・・・どうもそれだけではないようだけど」
藤倉茜「もしかして、藍姉また彼氏できたの?」
藤倉雫「藍姉、男運ないんだからやめとけばいいのに・・・」
藤倉奏「それよりも二人とも、早くご飯食べないと遅刻するわよ」
藤倉奏「藍は私が起こしてくるから」
「いただきまーす!」

〇女性の部屋
藤倉奏「藍、入るわよ」
藤倉藍「ああ、奏・・・おはよう」
藤倉奏「朝ごはん、出来てるわよ」
藤倉藍「ごめんね、朝はいつも奏に任せきりになっちゃって・・・」
藤倉奏「いいのよ 藍は他のところで頑張ってくれているし」
藤倉藍「着替えたら行くから」
藤倉奏「待ってるわね。藍にはコーヒーを用意しているから」
藤倉藍(奏は本当にソツがないというか・・・)
藤倉藍(でもうちで一番の苦労人は奏なのよね)

〇グラウンドの隅
  藤倉家には母親が二人いる。
  同性婚が法律的に認められた数年後、同性同士でも子供を設けることができる技術が生まれた。
  そうして生まれたのが奏・藍・雫・茜の四姉妹だった。
  しかし法律的に認められていても、偏見というものは完全には消えていなかった。
  子供の世界では、その偏見は「あいつは人と少し違って変」という形で表出する。
クラスメイト1「お母さんが二人なんて変だよね」
クラスメイト2「変な家の子だから、あの子もちょっと変わってるんじゃない?」
クラスメイト1「この前えっちゃんが掃除さぼったから無視しようって言ったらさぁ・・・」
クラスメイト1「「そういうのは良くないと思う」ってさ 良い子ぶっちゃって」
クラスメイト2「ねぇねぇ、今度はあの子のこと無視しようよ」
藤倉奏「・・・っ」
藤倉藍「どうしたの、お姉ちゃん?」
藤倉奏「何でもないよ、気にしないで」
藤倉藍「お姉ちゃん、またクラスの人に嫌なこと言われたんでしょ?」
藤倉藍「私がやっつけてあげる!」
藤倉奏「藍・・・嬉しいけど、いいの」
藤倉奏「だって私、うちのことを変な家だって思ったことはないから」
藤倉奏「お母さんたちは私たちのことをすごく大切に思っていてくれるし、藍もいる」
藤倉奏「自分の気持ちを貫いたお母さんたちのことを私は尊敬してる」
藤倉奏「だから大丈夫なの」
藤倉藍「お姉ちゃんは優しすぎるよ!」
藤倉藍「あんな奴ら、ボコボコにしちゃえばいいのに」
藤倉奏「ボコボコにしたら、ボコボコにした手だって痛いのよ」
藤倉藍「お姉ちゃん・・・」
藤倉奏「藍は大丈夫なの?」
藤倉藍「私はみんなボコボコにしてやったから大丈夫」
藤倉奏「あんまり乱暴しちゃ駄目だからね?」
  奏は優しくて、家族想いの子供だった。
  けれど無理を重ねたせいなのか、小学校の後半は学校に行くことができなくなってしまった。
  それどころか家にいても苦しくなってしまうらしく、一時期は家を出て、施設で過ごしていた。
  一番下の茜はまだ生まれていなかった。
  雫もまだ小さくて、よく覚えていないという。
  けれど藍は、苦しんでいた奏の姿を大人になった今でも覚えている。

〇綺麗なダイニング
藤倉藍「おはよう」
藤倉奏「そこまで早くないけどね」
藤倉奏「茜はもう朝練があるからって学校に行ったわよ」
藤倉藍「朝練とか・・・よくやるね・・・」
藤倉奏「ほら、藍も早く食べちゃって」
藤倉藍「はーい、いただきます」
藤倉藍(奏はいつも私たち家族のことを考えてくれている)
藤倉藍(でもいつか、自分の幸せなことだけを考える時が来てほしいな)
藤倉奏「そういえば、藍。 今日も遅くなりそう?」
藤倉藍「今日は定時退社日だから 夕飯も私が作るよ」
藤倉奏「そう。じゃあよろしくお願いね 私もそろそろ出なきゃいけない時間だから」
藤倉藍「わかった。行ってらっしゃい」
藤倉藍「私もそろそろ会社に・・・」
藤倉雫「あ、藍姉。私、二限からだから洗い物しておくよ」
藤倉藍「皿洗うくらいの時間はあるよ 雫はちょっと休んだほうがいい」
藤倉藍「目の下のクマやばいから」
藤倉雫「そう? じゃあそうしようかな」
藤倉藍「寝過ごしちゃダメだからね」
  今の藤倉家は昔に比べたら穏やかなものだ、と藍は思う。
  けれど少しずつ、変化の波が四人に押し寄せているのも事実だった。
  第1話「始まりは福引で」・終

次のエピソード:茜の話

コメント

  • 幼かった奏が両親の同性婚という形を本当に素直に受け入れ理解していた所が胸をうちました。子供にとって、両親が仲良く愛情を注いでくれれば、性別なんてどうでもいいんだと考えさせられますね。

  • 先進的な家族の形ですね。奏お姉ちゃんの優しい気持ちと無理をしてしまったという事実が胸に刺さりました。これから姉妹それぞれの事情が明かされていく予感がして楽しみです。

  • 話の雰囲気が、ホラー要素無しのヒューマンドラマで、姉妹が若くて美しかったです。姉さん、幸せになれると良いですね❣️

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