うつし世はゆめ

深山瀬怜

1-14「Dies Irae」(脚本)

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〇怪しげな祭祀場
  ──あの日、悪意を持った人間たちに
  よって悪魔が召喚された。
  悪魔を召喚するように人間をそそのかした、
  顔を隠した男の姿は
  いつの間にかなくなっていた。
???「うわぁぁあああ!!!!」
???「助けてくれ!」
  悪魔は人間も怪異も区別なく、その場にいた者を全て惨殺していた。
  紅羽は咄嗟に陰に隠れて、息を潜めていた。
氷樹「紅羽、あなただけでも逃げなさい」
紅羽「でも・・・」
氷樹「私があれを引きつける。紅羽はその間に」
紅羽「でも、そんなことしたら氷樹が・・・!」
氷樹「私はこの中の誰よりも強いわよ。忘れたの?」
  それでも、悪魔に勝てないことはわかっていただろう。
  氷樹は、紅羽の両親が亡くなってから、紅羽を育ててくれた人狼だった。
  その強さは紅羽もよく知っている。だからこそ、氷樹ひとりでは悪魔に敵わないこともわかっていた。
紅羽「氷樹を置いてはいけないよ! だったら私も一緒に戦う!」
氷樹「・・・それはできないわ」
紅羽「でも・・・!」
氷樹「黙りなさい、紅羽。もう話している余裕はないわ」
  紅羽を黙らせるためなのか、氷樹は紅羽の口の中に自分の指を突っ込む。
  その指先には血が滲んでいた。
紅羽「氷樹・・・」
氷樹「あなたは──生きて」
  そのときだった。
  悪魔が紅羽たちに気付き、
  攻撃を放つ。
氷樹「ぐっ・・・!」
紅羽「氷樹!」
  紅羽を庇い、
  その攻撃をまともに食らった氷樹は、
  血塗れになった手を紅羽に伸ばした。
氷樹「もう少しかっこいいところ見せたかったんだけど・・・これが限界みたいね・・・」
紅羽「駄目・・・氷樹! 私が治すから!」
  治癒魔法を使おうと、
  深紅の石を取り出した紅羽を、
  氷樹が止める。
氷樹「このままだと共倒れよ。だから・・・あなただけでも・・・」
  氷樹が紅羽に与えた辰砂の上に血が落ちる。
  穏やかな顔で目を閉じた氷樹を、
  紅羽はしばらく呆然と見つめていた。
  ──舌には、氷樹の血の味がまだ残っていた。

〇渋谷のスクランブル交差点
  第14話「Dies Irae」
市来紅羽「(あのとき、私が悪魔に対抗できたのは、氷樹の血を少しだけ飲んでいたから)」
市来紅羽「(でも、今は)」
  氷樹は力の強い人狼だった。
  だからこそ対抗もできた。
市来紅羽「(それでも、たとえ負けたとしても・・・ここで逃げるわけにはいかない)」
  覚悟を決める。
  榛斗も碧都も、力を尽くして、紅羽に最後を託してくれたのだから。
市来紅羽「・・・やっぱり、通らないか」
市来紅羽「でも、私の全部をぶつけるんだ・・・!」
  氷樹が守ってくれた命。
  そして、榛斗と碧都が守ってくれた命。
  大切なものを失った悲しみと、
  兄たちが自分に託してくれた思いと、
  自分自身の不甲斐なさに対する怒り。
  一言では説明できない想いを、形見である深紅の鉱石に込める。
市来紅羽「──血の槍!」
  文字通り、全ての力をもって
  悪魔へと向かっていく。
  その瞬間、魔力に耐えきれなくなった石が
  音を立てて割れた。
氷樹「紅羽・・・大丈夫、あなたなら」
市来紅羽「氷樹・・・?」
  砕けた石から、赤い液体が流れ落ちる。
  むせ返るような血の匂いに誘われるように、紅羽はそれを飲み干した。
市来紅羽「そうだね。私は絶対に──」
市来紅羽「負けるわけにはいかない・・・!」

〇渋谷のスクランブル交差点
市来紅羽「はぁ、はぁ・・・」
市来榛斗「紅羽!」
市来紅羽「榛兄・・・?」
市来榛斗「よくやった、紅羽」
市来紅羽「じゃあ、あいつは・・・」
市来碧都「紅羽がやっつけたんだよ」
市来紅羽「そっか・・・よかった」
市来碧都「あれ、せっかく勝ったのにあんまり嬉しそうじゃないね?」
市来紅羽「・・・疲れた」
市来榛斗「あれだけ力を使ったら、疲れるよな」
市来榛斗「あとのことは偉い人に任せて、今日は帰ろう」
市来紅羽「・・・っ!」
市来碧都「えっ、大丈夫!? どっか怪我した?」
市来紅羽「違うの。・・・でも、自分でもよくわからなくて」
  氷樹が死んだあの日も、涙は出なかったはずなのに。
  今になって、涙が溢れて止まらなかった。
市来碧都「うんうん・・・よく頑張ったよ、紅羽」
市来榛斗「紅羽のおかげで、沢山の人が助かった」
市来榛斗「紅羽は、俺たちの自慢の妹だ」
市来紅羽「ありがとう。 ・・・榛兄と碧兄がいてくれて、よかった」
市来碧都「そんな感謝されると照れちゃうな ・・・ね、榛兄?」
市来榛斗「そうだな。・・・帰ろうか、みんなで」

〇渋谷のスクランブル交差点
クロ「・・・終わったみたいだな」
クロ「お前なんだろう? あの悪魔を召喚させたのは」
百瀬蛍「市来紅羽の証言では、「顔を隠した男が人間たちを唆した」となっています」
百瀬蛍「結果的には、二度もあの三人に阻まれたということになりますね」
天堂斎「・・・たかが悪魔一体を退けただけだろう」
天堂斎「私の計画はこれで終わったりはしない」
百瀬蛍「危ない!」
百瀬蛍「・・・逃げられてしまったわね」
百瀬蛍「大丈夫? えーと・・・猫さん・・・?」
クロ「我が名はクロだ 黒いからな。覚えやすいだろう」
百瀬蛍「覚えやすいのと安直なのとで驚いているわ」
クロ「・・・これから、どうするつもりだ?」
百瀬蛍「まだ決めていないわ」
百瀬蛍「でも・・・これで終わりじゃないのなら、対抗手段を考えておかないとね」
百瀬蛍「どうも余罪もあるようだし」
クロ「余罪?」
百瀬蛍「少し前にあの三人が捕らえた夢魔・・・何も吐かないうちに謎の死をとげたそうよ」
百瀬蛍「あの夢魔が集めた人間たちの精気は、おそらく天使の糧になっている」
百瀬蛍「それに加担していた身としても・・・これは私が解決しなければならない問題よ」
クロ「そうだな」
百瀬蛍「でも、暫くは療養しないと」
百瀬蛍「・・・天使様の血は、もうもらえないからね」
クロ「依存症の治療は大変だと聞く」
クロ「何もできないのが心苦しいが」
百瀬蛍「大丈夫よ。私は強いから」
クロ「そうか。それなら安心だ」
クロ「必要になったら呼ぶといい 猫は吸血鬼と仲良しらしいからな」
百瀬蛍「初めて聞いたけど、それ」
クロ「やはりそうか」
クロ「紅羽め、あやつはたまに適当なことを言うからな」
クロ「まあ仲が悪いよりはいいのだろうが」
百瀬蛍「そうね 仲良くしましょう、クロ」
クロ「ああ。だが私は誰にも飼われる気はない。 それだけは忘れてくれるな」
百瀬蛍「・・・誰にも飼われたくない割には世話焼きな猫ね」

〇教室
  そして、紅羽たちの日常が戻ってきた。
  体力が尽きて一週間ほど学校を休んだ紅羽が久しぶりに登校すると、教室がいつもより騒がしかった。
市来紅羽「何かざわついてるけど・・・どうしたの?」
古井戸六花「転校生が来るんだって。しかも吸血鬼の」
市来紅羽「そうなんだ」
古井戸六花「これまで人間じゃないのは私たちだけだったから、仲良くできるといいな」
市来紅羽「そうだね。私も楽しみだな」
先生「はい、じゃあみんな席について」
先生「転校生を紹介します」
百瀬蛍「百瀬蛍です。よろしくお願いしま──」
市来紅羽「あー!!!!!!」
先生「どうした市来、騒がしいぞ」
市来紅羽「どうしたもこうしたもないんですけど! 何でここに!?」
百瀬蛍「転校してきたのよ。サーペンティンはやめたから」
市来紅羽「びっくりした・・・」
百瀬蛍「そういうわけで、民警会社ハートピアに所属しながら、この学校でもお世話になることになりました」
百瀬蛍「よろしくお願いします⭐︎」
市来紅羽「お願いします⭐︎ ・・・じゃないわよ、ちょっと色々説明して!」
先生「はいはい、それは後で二人でやって」
先生「じゃあ、席は市来の後ろで」
百瀬蛍「仲良くしましょうね⭐︎」
市来紅羽「キャラ変わってない・・・?」

〇おしゃれなリビングダイニング
市来紅羽「で、どういうことか説明してくれる?」
市来紅羽「何であの子がうちの学校に転校してきたり、うちの会社の所属になったりしてるの?」
市来榛斗「ああ、今日からだったのか・・・言い忘れてた」
市来紅羽「そんな大事なこと言い忘れることある?」
市来榛斗「とりあえずあの天使が姿を消して、サーペンティンの代表は変わったんだけど、」
市来榛斗「あの子は依存症の治療もあるからってことで、うちの会社で引き受けることにしたんだ」
市来榛斗「元々実力のある子だから、治療が終わればいい戦力になるしって」
市来紅羽「まあいいか・・・いつか参りましたと言わせてやる」
市来榛斗「前に言われたこと、めちゃくちゃ根に持ってる・・・」
市来榛斗「まあ、ほどほどにな」
市来榛斗「ところで、割れた鉱石のことなんだけど」
市来紅羽「・・・うん」
市来榛斗「とりあえず辰砂の中でよさそうなものを碧都が何個か選んでくれているから」
市来榛斗「あとで、その中から自分に合うものを選んでほしいって」
市来紅羽「わかった」
  あのとき割れてしまった石は、もう元には戻らない。
  氷樹は、紅羽が自分の魔力を全て使うような事態になったときに、その助けとなるように石の中に自分の血を閉じ込めていた。
  その血のおかげで悪魔に勝つことができたのだ。
  俯いた紅羽の頭を、榛斗が優しく撫でる。
市来榛斗「最高のやつを選んでるから、な?」
市来紅羽「子供扱いしないでよ、榛兄」
市来碧都「ふぃー、ただいまぁ」
市来碧都「見て見て! 新しくオープンしたケーキ屋が美味しそうだったから買ってきちゃった」
市来紅羽「・・・誰の誕生日でもないけど?」
市来碧都「いいのいいの! ご飯終わったら食べよ!」
市来榛斗「大丈夫かな、俺わりと最近生クリームがきつい・・・」
市来紅羽「おじさんみたいだよ、榛兄・・・」
市来榛斗「若者にはこの苦しみがわからないんだ・・・」
市来碧都「はいはい。この生クリームはわりと食べやすいって言ってたから安心してよ」
  人間とダンピールと吸血鬼。
  種族の違う三人は、今日も、これからも家族として生きていく。
  「うつし世はゆめ」
  ―第一部・完―

次のエピソード:番外編「黒猫と吸血鬼」

コメント

  • 第一部完結お疲れ様でしたー!
    みんなが一人一人の特性を生かしつつ戦っててすごくよかった…
    そして猫さんは可愛い…飼われたくないけど世話焼きな猫さん…かわいい…
    蛍ちゃんも仲間に加わってますます賑やかになりそうですね…!

  • 第一部完!おめでとうございます。
    吸血鬼✕現代対魔モノというジャンルが大好きなので、一気読みしちゃいました♪
    第二部からの展開も楽しみです。新たな仲間も加わり、ワクワクします。

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