鬼面人の唐紙

キリ

-鬼と人間-(脚本)

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〇寂れた村
環「さて、どうしたものか...」
環「働かざる者食うべからず、買うお金もない」
環「・・・」
環「いかんいかん、ため息が出ては──」
環「武士道が廃(すた)る...」
「お侍様...」
環「お、その声は唐紙殿か」
唐紙「どうしたらいいかの...」
環「どうした?」
唐紙「この姿のままで、戻れねえんだ...」
環「なにっ...!」
環「いままではどうしていたのだ?」
唐紙「こんなこと、初めてだ」
環「ひょっとすれば、アレを食べた副作用」
唐紙「考えられるな」
唐紙「まあとりあえず、お侍様の主を 見つけないとだな」
環「かたじけない...」

〇寂れた村
唐紙「てか、オイラが主になっちゃならぬのか?」
環「鬼の侍になるなんて偉業もんだぞ?」
唐紙「それもそうか」
環「・・・」
環「いくつか質問しても、良いだろうか」
唐紙「ああ、何なりと?」
環「大きい声では話せないが、唐紙殿は」
環「自身が"鬼"ということは自覚あるのか?」
唐紙「そんなこと気になるのかぁ?」
唐紙「自覚はねえな」
唐紙「オイラは何もんなのか、自分でも分からん」
唐紙「ただ、人間は餌じゃねえってことを」
唐紙「教えを忘れないようにって、釘を刺された」
環「人間は餌じゃない...か」
環「その教えは、鬼からか?」
唐紙「いいや、」
唐紙「人間だよ」
環「え...」
唐紙「少し、オイラの昔話を聴いてくれ...な?」

〇村の広場
  10数年前──
  鬼たちは人間から酒を盗み、昼間から
  酒豪の鬼たちの元で、身を置いていた
  唐紙は当時、
  一枚紙を身に付けていなかった
  しかし、自分でも顔を覚えていない
唐紙(宴(うたげ)は楽しい)
唐紙(みんな、口を揃えて言うけれど──)
唐紙(オイラは、)
唐紙(嫌いだ)
瓦「ヒック お~い唐紙ぃ~~」
瓦「つまみ持ってこ~~い~」
唐紙「べろんべろんじゃのぉ~」
唐紙「後始末はいつもオイラなのに...」
瓦「ま~だかあぁ~?」
唐紙「今持ってきますっ!」

〇枯れ井戸
唐紙「はあ...やっと静かになった」
「お前さん、精が出るなあ」
紫苑「いつもものを運んで、力持ちだねえ」
紫苑「ぷはっ、笑える~」
唐紙「んんん~」
唐紙「苦労してる姿を笑うなんて酷いよ!」
唐紙「鬼ってもんは面白がる たちなんだろうけどさ」
紫苑「悪かったって」
紫苑「でもお前さん勘違いしてるぜ」
紫苑「おらぁ鬼じゃねえ」
紫苑「鬼に狙われる側の人間だ」
唐紙「てことは...」
唐紙「人間? !」
紫苑「ばかっ声がでけえよっ...」
紫苑「あ~~あ、見つかっちまったじゃねえか」
紫苑「ほらぁ鬼がこっちへ来る...」
紫苑「ずらかるぜ」
紫苑「っしょっと」
  人間の男の片腕に、唐紙は軽々と
  持ち上げられた
唐紙「お、おい!放せぇっ! オイラ関係ないだろ? !」

〇村の広場
紫苑「はあっ...はぁ...はへぇ...っ」
紫苑「撒いたか、うう~くわばら くわばら」
唐紙「なんでオイラまで...」
唐紙「オイラも鬼なんだけどな~」
唐紙「よく見えないって言われるけど...」
紫苑「うん?なんて言ったんだ?」
唐紙「オイラも鬼だってば!」
紫苑「ええっ! ?」
紫苑「お前さん鬼だったのか」
紫苑「でも優しい奴だな」
紫苑「自ら鬼ということを教えてくれるなんてな」
唐紙「そ、それは...っ」
紫苑「気に入った!」
紫苑「おらぁ"紫苑"っていうもんだ!よろしく」
唐紙「んー・・・」
唐紙「この際ハッキリと言わせてもらうが」
唐紙「オイラ貴方のことが嫌いだ! !」
紫苑「そうかい...」
紫苑「けど、お前さんが嫌いでも、」
紫苑「オレに付き合ってもらうからな?」
唐紙(何者なんだ?)
唐紙(ずっと付き添ってるなんて御免だよ)
唐紙(隙を見て逃げよう...!)
紫苑「お?新作の雑貨か~どれどれぇ~~」
唐紙「いまだっ...!」
  唐紙は物陰に身を潜めた
紫苑「そういやお前さん──」
紫苑「あれ?いないのか、おい、どこいった?」
紫苑「これじゃあ何も...っ」
村人B「おいあんた!通れないだろ?どけよ」
村人B「おい!」
唐紙「んー?」
唐紙「怒鳴られてる」
唐紙「なにしてるだ?あの人」
紫苑「ん?」
紫苑「ああ; 邪魔してたか、すまねえなぁ~」
村人B「やっと気づいたのか、気を付けろ」
紫苑「はいよ」
紫苑「お、」
紫苑「お前さん探したじゃねかよお どこに行ってたんだ!」
唐紙「なぜすぐに避けなかった」
唐紙「声を掛けても無視するなんて、 そりゃ怒られるよ...」
紫苑「そうだったのか~」
紫苑「実は俺、耳が聴こえねんだ」
唐紙「え? ?」
唐紙「だってこうして会話できてるじゃないか」
紫苑「口の動きで言いたいことは分かる、 だが目の前のことしか気づけねえ」
紫苑「だからお前さんに助けて欲しいんだ」
唐紙「・・・・・・っ? ?」

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