とある世界の物語

ビスマス工房

Story#0006:蜘蛛の道化師、動く(脚本)

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〇綺麗な一戸建て
  僕たちは、ある”学校”の正面玄関前にいた。学校と言っても、ただの家に見える。
ルイーズ・マーロン「ミランダは、ミステリースクールの生徒で、いつも夜に瞑想をしていたの。だから三昧に陥った」
  三昧と呼ばれる一種の瞑想中毒を、ルイーズは殊更恐れていた。
ルイーズ・マーロン「私の故郷の火星でも、シータの故郷のリラ星でも、瞑想のやりすぎはいけないことだって言われてるの」
エマ・レイ「そうなんだ」
  玄関のチャイムを鳴らすと、講師らしき若い女性が現れた。
シルエット1「こんにちは。取材で来たチーム・ミライの方々ですね?」
  頷くと、女性は僕たちを中に入れた。フレデリックの姿がないのは、”風邪”で休んでいるかららしい。
  暫くミランダについて話し、家に帰る時間になった。すると女性は、こんなことを言う。
シルエット1「アキラさん、エマさん。我々のグループに、加わりませんか?」
  何のグループだろうか。気になったが、断った。

〇カラフルな宇宙空間
アキラ・ロビンソン「変わった人だったね、講師さん」
エマ・レイ「・・・・・・ええ」
  固有夢に帰る途中、キャサリンが話し掛けてきた。
キャサリン・オークランド「エマ。ちょっと、話したいことがあるのよ。良いかしら?」
エマ・レイ「良いですよ」
アキラ・ロビンソン「どうしたの?」
  キャサリンは険しい顔でエマに訊ねる。
キャサリン・オークランド「エマ、怖くないの?自分の力が。やろうと思えばどんな存在も意のままに操れるその力を見た人たちが」
アキラ・ロビンソン「どういうこと?確かにエマは強いけど、それが怖いって?」
  エマは少し考えてから口を開く。
エマ・レイ「産まれたときから、”魔法使い”だったので、分かりません。でも、忘れてしまった大切な人がいます」
  キャサリンは顔をしかめて暫く口をつぐみ、それからエマを見た。
エマ・レイ「その人の事を思い出すまでは、魔法を人前で使うことはないです。自分も他人も怖いので」
キャサリン・オークランド「・・・・・・そう」
  キャサリンは去っていった。

〇大きい交差点
ダルーカ「良い天気だね。遊び日和だ」
漆黒の騎士「・・・・・・」
  ビルの屋上から、二人は下界を見ていた。ダルーカは手を広げ、深く息を吸った。
  その指先から黒い魔糸が放たれ、道行く人々の首筋に吸い込まれた。
ダルーカ「これでよし」
  30人ほどの通行人の意識を乗っ取り、眷属としたダルーカは、漆黒の騎士に笑いかける。
ダルーカ「じゃあ、船に戻ろうか」
  上空に禍々しい飛行物体が現れ、二人はそれに吸い込まれていった。

〇貴族の部屋
アンジェリカ・ロキ「久し振りね。ロゼ」
  祈りを捧げる背後に現れ、可愛らしい口調で挨拶したのは、星歌隊”ナイト・サーカス”のグランドマスター、アンジェリカだった。
ロザリス・ハイルローゼ「アンジェリカ。どうなさいました?」
アンジェリカ・ロキ「夫婦星が危ないわ。蜘蛛の道化師が動いてる」
ロザリス・ハイルローゼ「・・・・・・!」
  ロザリスは、驚き、硬直した。”あの約束”の元に教会にとって庇護の対象であるあの二人の命が危険にさらされている。
アンジェリカ・ロキ「行った方が良いかしら?」
ロザリス・ハイルローゼ「・・・・・・ええ。お願い」
  アンジェリカは姿を消した。

〇豪華なリビングダイニング
シーナ・ディラン「起きろ、アキラ」
  シーナさんの、何かを警戒しているかのような声で目が覚める。
アキラ・ロビンソン「どうしたんですか?シーナさん」
シーナ・ディラン「蜘蛛の道化師が眷属をこちらに差し向けた。家中の皆を叩き起こした方が良いな」
  その時、バンバンとガラスを叩く音がして、三十人程の虚ろな目をした集団が現れた。
シーナ・ディラン「楪司に電話をして、家族を皆、叩き起こせ。出来るな?」
  頷いて、電話をかける。エージェント楓は、すぐに来ると言う。
シーナ・ディラン「結界が張ってあって良かったな。何も無かったら、すぐに突破されていたはずだ」
アキラ・ロビンソン「・・・・・・はい」
  外から閃光弾の光が激しく明滅する。虚ろな目をした集団は、はっとしたようにガラスを叩くのをやめた。
?「俺たち、ここで何を」
楪司「皆さん、大丈夫ですか?」
アキラ・ロビンソン「だ、大丈夫です」
  そう答えるのが、やっとだった。

〇ヨーロッパの街並み
  朝起きて、日課の庭先掃除に出ると、メアリーがポストの横に立っていた。
ウィリアム「どうしたの?誰かから手紙?」
メアリー「父さまからよ。火星に住んでるの」
  火星と地球は、二度の戦争で険悪な間柄になっていた。火星に住む彼女の父親は、地球に妻と二人の娘を逃がしたのだという。
ウィリアム「何て書いてあるの?」
メアリー「最近、おかしな事件が多いって」

〇おしゃれな居間
  襲撃事件の翌日、エージェント梨──ナタリア先生に呼び出された。
ナタリア・ラピス「お二人に会わせたい方がいます」
  その人は、穏和そうな若い男性だった。
シャルル・マットロック「初めまして。私はハイルローゼ教会の司教、シャルル・マットロックです」
  彼らハイルローゼ教会は、ある理由からWSAと協力しているらしい。
シャルル・マットロック「エマさんの事は生まれる前から、アキラさんの事は此方に来る前から知っています」
  青年は静かに続ける。
シャルル・マットロック「我々は人類が迎える成人の日を前に、救世主たるあなた方をずっと見ていました。そしてあなた方を保護するために、ここに来ました」
  それから聞いたのは、彼らハイルローゼ教会の目的についてだった。

〇西洋の城
シャルル・マットロック「着きました。ここがハイルローゼ教会総本山です」
  国境時代にはモン・サン・ミシェルの呼び名で知られたミハエル市国は、荘厳な大聖堂や修道院があることでも有名だ。
アキラ・ロビンソン「大きい」
エマ・レイ「きれい」
  門が開き、島全体を覆う壮麗な建物郡の中を歩いていく。人間の住む居住区でありながら、保護自然区域でもある不思議な都市だ。
アキラ・ロビンソン「観光地としても有名だよね、確か」
エマ・レイ「はい」

〇大教室
久我美子「あっ、しのっち、久し振り」
  古くからの友人である久我美子が話し掛けてきた。彼女は千弦神社の巫女であり、最近は神社の手伝いで忙しく、会っていなかった。
久我美子「これ、あげる」
  そう言って、差し出されたのは、千現神社のお守りだった。
香月忍「・・・・・・ありがとう」
  礼を言って受け取ると、彼女は抱き付いてきた。相変わらず距離が近い。

〇おしゃれな居間
  今日は、あの子たちが来る日。ナタリア女史を含めたWSAの面々と何ヵ月も話し合って決めた面会の日だ。
ロザリス・ハイルローゼ「シャルルは上手くやってるかしら」
  世話役のシスター・瑠璃に、独り言のようにこぼした。
ネイビー「心配いりませんよ。シャルルさんは今まで、とても上手くやってきたのですから」
ロザリス・ハイルローゼ「そうね」
  仕度を殆ど済ませた頃、廊下からシャルルの声が聞こえた。
シャルル・マットロック「ロザリス様、入りますよ」

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