エピソード35(脚本)
〇荒廃した街
シュウウウ・・・
エミリア「・・・・・・・」
エミリア「・・・・?」
轟音のあと、いつまでも来ない衝撃にエミリアは戸惑いながらうっすらとまぶたを開く。
そして視界に飛び込んできた光景に、目を疑った。
エミリア「な・・・」
エミリアの目の前には、自分を守るように剣を構えた男の姿があった。
アイリ「ニル!」
エルル「ニルさん!」
後ろからのふたりの声にニルは振り返って微笑む。
ニル「遅くなってごめん」
エミリア「・・・お、お前は・・・」
エミリアはニルをじっと見つめながら、絞り出すように声を漏らした。
目を見開き、固まっているエミリアとニルの視線がかち合う。
「信じられない」というエミリアの眼差しに、ニルは苦笑した。
エミリア「・・・助かった。 だが、お前がどうこうできる相手じゃない。 逃げろ!」
ニル「逃げませんよ。俺だって男ですから」
アイリとエルルは、倒れているエミリアを抱える。
立ち上がったエミリアは慌てて声を出した。
エミリア「なっ・・・待て、私はまだ・・・」
エルル「大丈夫です、ニルさんに任せましょう」
呆然としたままのエミリアに、ニルはしっかりと頷いた。
納得いかない表情のエミリアを抱え、ふたりがそのまま脇に下がる。
3人の安全を確かめると、ニルはガルバニアスの方に向き直り、ギュッと剣を握りなおした。
ヴェラグニスのコアは、ゼノンとの戦いですでに割れてしまっている。
もう、黒焔化は使えない状況だ。
さらにニルの全身には、剣を構えているだけでも気絶しそうなほどの激痛が走り続けていた。
ニル(限界が来てることはわかってる・・・)
ニル(でも、絶対にここで倒れるわけにはいかないんだ!)
身体にムチを打ってニルは駆け出した。
ニル「おおおおおっ!」
ガルバニアスはわずらわしそうにニルに向かって竜巻を起こす。
竜巻を避け、ニルはガルバニアスへ斬りかかろうとした。
しかし、異変に気づき足を止める。
ニル「!!」
ガルバニアスが屈んだ状態でニルの方へ口を向け、息を吸い込み始めたのだ。
すさまじい吸引力を前にニルは足に力を込めてグッとこらえることしかできない。
しかし徐々にガルバニアスの方へ身体が引き寄せられていく。
右腕を変形させて抵抗しようとするも、うまく組み替えることができない。
ニル「クッ・・・」
ゼノンとの戦闘でエネルギーを使い果たしたニルにとって、踏ん張って耐えるガルバニアスの攻撃はあまりにも酷だった。
抵抗虚(むな)しく、ニルの身体が吸い込まれていく。
あっという間にガルバニアスの口元まで引き寄せられてしまった。
あともう少しで口の中に入り込んでしまう。
そこでガルバニアスはパタリと吸い込むのをやめ、すかさず竜巻を起こす。
ニルの身体は竜巻に巻き込まれ、空高くへと打ち上げられた。
体勢を整えられず、そのままニルは地面に激突してしまう。
エルル「ニルさんッ!!」
エミリア「馬鹿者めっ・・・!」
ピクリとも動かないニルに、ガルバニアスがトドメを刺そうとブレスのチャージを始める。
ニル(駄目だ・・・力が・・・入らない・・・)
頭から流れ出る血が目にかかり、ニルの視界がぼやける。
手を動かそうと右腕に力を入れても、わずかに指が動くだけだった。
ニル(アイリたちを・・・守らなきゃいけないのに・・・)
ニル(俺が・・・守らないと・・・)
ニルの名を叫ぶアイリたちの声はもうニルの耳には届いていなかった。
ニルの瞼(まぶた)と意識が、深く深く沈んでいくように落ちていく。
今にも意識を失うその瞬間、ニルは自身の右腕がぼんやりと光を放っていることに気がついた。
ニル(なんだろう・・・? あたたかい・・・)
光を帯びた右腕からするすると細い機械の管が伸び始めた。
なにかを求めるように蠢(うごめ)く管を見つめて、ニルは口を小さく動かした。
ニル「・・・そうか・・・呼んでいるのか・・・」
ニルは自分にしか聞こえないほどの声量でそうつぶやいた。
そのまま意識を失い、瞼が閉じる。
アイリ「はああッ!」
ガルバニアスがブレスを溜めきる前に、アイリが全力で双剣の1本を放つ。
鋭く放たれたアイリの攻撃に気づき、ガルバニアスはチャージを止めた。
即座に厚い風の膜を作り、剣をはじく。
ブオンッ
アイリのはじかれた双剣が宙を舞う。
なんとかニルへの攻撃を防いだ。
しかしガルバニアスはアイリのいる方に向きチャージを始める。
もう3人にはブレスを避けられるほどの力が残っていない。
万事休す――、誰もがそう思った。
〇黒
ニル「・・・・・・」
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