1-13「リベンジマッチ」(脚本)
〇渋谷のスクランブル交差点
人々「きゃああああっ!」
人々「やめて! 助けてー!」
子供「おかあさぁぁあん・・・!」
市来碧都「既になかなかやばいことになってるね」
市来紅羽「そうだね・・・」
勝てる見込みはない。
けれどあの悪魔だけは倒さなければならない。
紅羽は赤く輝く石を握りしめた。
これは、かつて紅羽と家族のように暮らしていた人狼がくれたものだ。
そしてその人狼は、あの悪魔に殺された。
けれど今はその復讐などとは言っていられない状況だった。
市来紅羽「行こう、碧兄」
市来碧都「紅羽、あのね」
市来碧都「そんな今から死にに行くみたいな顔しないで」
市来紅羽「・・・二人でやっても勝てる相手じゃないって、わかってるでしょ」
市来碧都「そうだね。ここに榛兄がいても勝てる相手じゃない」
市来碧都「でも・・・俺たちはずっと考えてたんだよ」
市来紅羽「考えてたって・・・何を?」
市来碧都「悪魔に勝つ方法。俺たちが家族になってから、どうすれば勝てるかずっと考えていたんだ」
市来紅羽「どうして・・・?」
市来碧都「紅羽は俺たちの大切な妹だから。 紅羽を勝たせるために、俺たちは力を尽くそうって」
市来碧都「ちなみに最初に言い出したのは榛兄だからね」
市来紅羽「・・・ありがとう」
市来碧都「だからそんな悲壮感漂わせないでよ」
市来碧都「これはね・・・必ず勝てる作戦だから」
市来碧都「そういうわけで、始めようか。 ──あの日のリベンジマッチを」
第13話「リベンジマッチ」
〇渋谷のスクランブル交差点
天堂斎「蛍は上手くやったようだね」
天堂斎「君は実にいい駒だったよ」
天堂斎「かつて神はこの世界を正しい姿に戻すために大洪水を起こした」
天堂斎「だが、既に神は失われた」
天堂斎「だからこの私が、世界を正しい姿に戻すのだ・・・!」
クロ「盛り上がっているところ悪いが、今回のお前の計画は失敗するぞ」
天堂斎「お前は・・・魔女の使い魔か」
クロ「正確には元、だがね。 残念ながら魔女の方が先に往生してしまった」
天堂斎「使い魔ごときに何がわかる?」
クロ「我が主人だった魔女は、未来を見るのが得意であった」
クロ「だが、実はあやつは非常に怠け者で、占いの類は全て使い魔にやらせていた」
クロ「魔女の怠慢がために、未来を見ることには長けている」
クロ「私は既にこの戦いの結末を知っているのだ」
天堂斎「さすがは大魔女の使い魔。ハッタリが得意なようだな」
クロ「ハッタリかどうかはその目で確かめるといい」
クロ「だが、邪魔をされると困るからな。 お前の動きは拘束させてもらう」
天堂斎「なっ・・・これは・・・!」
百瀬蛍「・・・邪視って本当に天使にも効くんですね」
天堂斎「蛍・・・何故ここに!?」
百瀬蛍「死んだと思いましたか?」
百瀬蛍「助けてもらったんです。残念ながらあまり美味しい血ではありませんでしたが」
天堂斎「君は・・・私の計画に賛同していただろう!?」
百瀬蛍「ええ・・・ですが、気が変わりました」
百瀬蛍「羨ましくなってしまって。種族が違うのに、本当の兄妹みたいなあの人たちが」
百瀬蛍「あなたの計画が実行されてしまうと、私たちはその生活を選べなくなる」
百瀬蛍「人と生きることを望んだ者には、その道が与えられるべきです」
天堂斎「っ、体が動かない・・・」
クロ「抵抗は無駄だぞ。お前は特等席で、自分の計画の失敗を眺める観客になるんだ」
天堂斎「吸血鬼一人の邪視くらい簡単に・・・!」
クロ「猫を舐めてもらっては困るな」
天堂斎「なっ・・・!」
クロ「二重の邪視からは、天使といえどさすがに逃れられまい」
クロ「(だが、これも時間の問題ではある。 あとは・・・あの兄妹に託すしかない)」
〇渋谷のスクランブル交差点
市来榛斗「これで配置は完了した」
市来紅羽「榛兄! 大丈夫なの?」
市来榛斗「ああ、この通り問題ない。 ちなみに昨日は8時間たっぷり寝た」
市来碧都「作戦の方は?」
市来榛斗「扉の破壊が物理的なものだったから、それほど苦労はしなかったよ」
市来榛斗「扉に使われていた封印魔法をそのまま利用して、悪魔を捕らえる罠を作った」
市来紅羽「えーと・・・どういうこと?」
市来榛斗「見ていればわかる」
禍々しい気配を放つ悪魔は、上空を飛び回り、逃げ惑う人間たちを攻撃していた。
紅羽は息を呑んでその光景を見つめる。
あの日を超える惨劇が、その赤い瞳の前で繰り広げられていた。
耐えきれなくなった紅羽が、声を上げようとした瞬間、金属が触れ合うような音が響いた。
虚空から伸びた鎖に悪魔は捕らえられた。
それを見た榛斗が長く息を吐き出す。
市来紅羽「え、何これ!? どういうこと?」
市来碧都「あの扉には強力な封印魔法がかかっていたんだ」
市来碧都「でも壊されてしまったから、この街中にその破片を配置して、特定の場所に到達した段階で罠が発動するようにしたんだ」
市来榛斗「扉の術式を壊す形で破壊が行われていたら、もう少し時間がかかったんだけど・・・幸いにも物理的な破壊だった」
市来紅羽「これ、榛兄が考えたの?」
市来榛斗「そうだよ。罠を仕掛けるのはわりと得意だから」
市来紅羽「こんなでっかい罠張るとこ初めて見たけど・・・」
市来榛斗「見直した?」
市来紅羽「・・・その言葉がなければ完璧だったなぁ」
市来碧都「喜んでいるとこ悪いんだけど、これだけじゃ終わらないからね」
市来紅羽「そうだね。捕まえることはできたけど、倒すには力が足りない」
市来碧都「さて、じゃあここからは俺の活躍を見てもらおうか」
〇渋谷のスクランブル交差点
悪魔は鎖に繋がれたまま苦しみ出した。
紅羽は何が起きたかわからずに、隣にいる碧都を見る。
市来紅羽「え、これ何してるの?」
市来碧都「魔力を奪ってるんだよ」
市来碧都「ダンピールは不死である吸血鬼を殺せるって話は知ってる?」
市来紅羽「そうだったっけ?」
市来碧都「民警のライセンス試験で出てくるはずなんだけどなぁ・・・」
市来碧都「まあいいや。ダンピールは血だけじゃなくて、対象の魔力を奪うこともできる」
市来碧都「だから吸血鬼が殺せるんだけど、対象は吸血鬼だけじゃないんだよ」
市来碧都「怪異の中でも、元々日光に弱い種族なら使える。そして悪魔も日光は苦手だ」
市来碧都「奪った魔力を自分のものにできないのが不便だけどね」
市来榛斗「これでそれなりにあの悪魔は弱体化したはずだ」
市来榛斗「あとは──紅羽、お前の番だ」
市来紅羽「・・・そうなるよね」
市来碧都「大丈夫、紅羽ならできる」
──正直、自信がなかった。
あの日は、多少なりとも悪魔に
ダメージを与えることができた。
二人はそれを知っているから、
この作戦を立てたのだろう。
けれどあのときと今では──
決定的に違うことがある。
市来紅羽「じゃあ、行ってくるね」
そのたったひとつが、
勝てる可能性を限りなくゼロに近付けていた。