しあわせの対価

はちねこ

愛という名の、洗脳(後編) (脚本)

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はちねこ

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〇研究施設の玄関前
優「銀行員が、お客様に口を出すのもアレですが・・・」
優「次を考えていらっしゃるようですが、無理ですね」
山田 昌子「ふっ・・・私は、資金さえ手に入ればいいの」
優「そうですか。 ・・・残念です」
  これまでの経験上、優は何度か・・・そういった人間を見てきた。
優「(私情は持ってこない。 お客様次第なのだから。でも・・・)」
優「(人間って、そういうものよね──)」

〇明るいリビング
  晶子は、リビングでほくそ笑んでいた。
山田 昌子「(私は悪くない・・・)」
山田 昌子「(あの子がいけないのよ・・・)」

〇明るいリビング
  傑が、生まれたばかりの頃。
  
  育児で、これまでの仕事を休むことになった。
  復帰は・・・
  
  絶望的だった。
  それでも、まだ小さな手で一生懸命、私の指を握ってきて。
  可愛かった。
  
  この子を守りたいと思った。
  ただ・・・
  
  この子のことを、理解できなかった。
山田 昌子「傑、ごはんよ」
「やー、やー」
山田 昌子「ちょっとでいいの。 食べてくれる?」
「あー、これ」
山田 昌子「ちょっと!? 何食べてるの、それはフィギュアよ!!」
山田 昌子「食べ物じゃないのよ? すぐペッ、しなさい!!」
  それでも、えう・・・と泣きながらあぐあぐ、と食べるのをやめない傑。
  命に関わることなので、私は力ずくで奪った。
  傑は、大きな声で泣きじゃくった。
山田 昌子「ごめんね、傑。 でも、これは食べちゃだめよ」
「あー・・・うー」

〇広い公園
  またある時。
  
  私は傑を、公園に連れて行った。
山田 昌子「傑。 何して遊ぼうかしら」
「ブランコー! マー、きて」
山田 昌子「はいはい、ブランコね。 ちょうど空いてるし、行こうか」
  傑は、楽しそうに揺られていた。
  
  私も、なんだか楽しかった。
  私は、そっと後ろから押したり押さなかったり。
「なー、ばあちゃん。 あいつ、後ろから押してもらってさほど揺れてねー!ダセー!」
  その声にぎょっ、としてしまった。
近所のおばさんその1「そんなこと言わないの。 それにまだ小さいじゃない。そんなもんよ」
近所のおばさんその1「ごめんなさいねえ、うちの甥っ子が・・・ あなた、最近ここでお子さんと遊んでらっしゃるの?」
山田 昌子「ええ、まあ・・・」
近所のおばさんその1「分からないこととか、何でもきいてね」
山田 昌子「あ・・・ありがとうございます」
  他愛無い会話をしているときだった。
「んだよ、てめぇ挨拶もできねーのかよ。 名前! 言えるだろ!」
「あー・・・あう」
「あーじゃ分かんねえよ! それともお前の名前、あーなの?」
近所のおばさんその1「こら、小さい子をいじめないの! やめなさい!・・・全く」
近所のおばさんその1「ごめんなさいは?」
  だってそいつ、なんも言わねーんだもん!
  
  と言って、走り去ってしまう。
近所のおばさんその1「ちょっと、待ちなさい!」
近所のおばさんその1「全く・・・ うちのがごめんなさいね」
山田 昌子「いえ、気にしないでください。 元気な子ですね」
山田 昌子「(傑も、もっと話してくれたらいいのに)」
近所のおばさんその1「ごめんねぇ。 その、お子さんおいくつ?」
山田 昌子「まだ、3歳になるかどうか・・・」
近所のおばさんその1「まあ、ゆっくりの子もいるから焦らないでね」
近所のおばさんその1「まあでも、どこか支援センター?みたいのもあるし・・・いってみてもいいかもねえ」
山田 昌子「はい・・・どうも」
近所のおばさんその1「じゃあね」
  おばさんは、悪気は無いかもしれないけれど・・・
  複雑だった。
  何故なら、私も・・・
  
  この子を、疑っている。

〇病院の診察室
  私は、傑を病院へ連れて行った。
先生「はじめまして。 小児神経科の松田です」
先生「ぼく、おなまえ言えるかな?」
  先生に名前を聞かれても、この子はずっと院内のぬいぐるみと遊ぶだけだった。
山田 昌子「すみません。 この子、こんなで・・・」
先生「いやいや、見事な集中力。 この科を受診するきっかけは、何か?」
山田 昌子「ミルクを飲んでいた頃は、まだ分からなかったんですが・・・」
山田 昌子「ここ最近、ご飯を食べないと思ったら・・・」
山田 昌子「虫とか、普通口にしないものを食べてるんです」
山田 昌子「何度か注意したんですけど・・・」
先生「なるほど。 虫は栄養価のあるものもありますが、不衛生であまり良くないかもですね」
山田 昌子「お腹を壊しても、これがいいって聞かないんです」
先生「ふむ・・・ 検査、してみますか」
山田 昌子「お願いします、先生・・・」
先生「ではお母さん、少し待合室の方へおかけください。 傑くん、ちょっと具合悪いところ無いか調べさせてね」

〇病院の診察室
  何時間かかかって、診察室へ案内された。
先生「お母さん、また後日いらしてください。 結果とともに、これからどうしていくか一緒に考えましょう」
  ああ・・・やっぱりな。
  
  悪い予感ほど当たる。

〇明るいリビング
  先生と相談しながら・・・
  
  中々会えない、仕事づまりの夫にも相談した。
山田 昌子「あなた・・・ 相談があるの。あの子のことで・・・」
山田 剛「ああ、なんかあったの?」
山田 昌子「病院に行ったわ。 この子は、普通に生きることは難しいって」
山田 剛「あ、そうなんだ。 男だったのに、失敗作かー・・・」
山田 昌子「そ、そんな言い方・・・ あなたも、あの子と少しでも話してくれたら助かるの」
山田 剛「いや、どうすればいいの。 俺、そんなのの相手なんかしたくないよ・・・」
山田 昌子「私達の子供よ。 どんなでも、ちゃんと育てたい」
山田 昌子「他の子より変わってるけど、かわいいものよ」
山田 剛「うーん・・・ じゃあ、こうしよう」
山田 剛「あいつを、あの銀行で金に変える。 そしたら、新しい子供もできる」
山田 昌子「な、なんてこと言うのよ・・・ あの子がかわいそうだわ・・・」
山田 剛「じゃあ、お前が面倒見るか離婚するか。 母さんにもさ、顔向けできない・・・」
山田 昌子「そんな・・・」
  支離滅裂な意見。
  
  でもこの人がいないと、生活ができない。
山田 昌子「せめて、期限をちょうだい。 8歳くらいまで・・・」
山田 剛「いいよ、まああいつに上手く言ってくれ。 じゃあ」

〇教室
  保育所で、何とか食べ物を克服。
  
  呼び出されて、謝ることも多々あった・・・
  でも、何とか卒園できて次は学校だった。
  私は、前職のポジションを奪われて、
  パートとして、何年かやっていた。
  ただ。
  
  毎日思った。
  ”何で、生きてるんだろう”って。
  鏡の前に映る自分は、ボロボロだった。
  
  それに・・・
  夫が、家に帰る日がだんだん、少なくなった。

〇学校の校舎
  ある日。
  
  学校に呼び出された。
担任の先生「お母さん、忙しいところ申し訳ありません」
山田 昌子「傑・・・ですよね」
担任の先生「傑くんは、まともに計算ができません。 指で、足し算と引き算を教えても、自分で中々できませんでした」
担任の先生「体育は、頑張って着替えても皆と違うことをして、先生に指導されても泣き出して・・・」
担任の先生「そして、授業中も眠ってばかりです・・・」
山田 昌子「す、すみません・・・ 他の子たちにもご迷惑をおかけして申し訳ありません」
「ねぇ、すぐるくんてさ・・・ かわいそうだよね」
山田 昌子「っ・・・」
「おれたちが、気を使わないとだめでさ。 いいなあ、何やっても大丈夫なんだから」
  子どもたちは、そう思ってたのか・・・
担任の先生「あ、お、お母さん・・・ 難しいかもしれませんが、あまりお気になさらず・・・」
山田 昌子「すみません・・・ 時間をみつけて、なんとか転入も視野に入れます」
担任の先生「そんな、転入だなんて・・・ あ、お母さん!」
  バタン。
  
  戸を閉めて、その場を去った。
  一刻も早く、その場を去りたかった。

〇明るいリビング
  『えー、次のニュースです。
  
  ハンディーギャップを背負った子どもたちが、次々と殺害されるという、痛ましい事件が・・・』
山田 昌子「・・・」
  犯人は、俺たち健常者はあくせくして働いているのに、何もできない奴らを何で自分の税金で守らないといけないのかわからず・・・
  むしゃくしゃして、やった・・・とのことです。
  
  確かに、私達と少し違いがあっても殺すまではなかったのではないのでしょうか
  我々もこれを教訓に、誰一人置いていかない社会にしなければならない。
  
  現場の合理的配慮を・・・
山田 昌子「(ほら、結局世間一般的には・・・こういう考え方が大半じゃない・・・)」
山田 昌子「(誰も、擁護なんてできない・・・そうよ。 現場はただでさえ、余裕なんてないのに。)」
山田 昌子「(傑みたいなのが入ったら、本人より周りが大変よ。冗談じゃない・・・)」
  何度、傑の奇行に悩まされ、頭を下げたことか。
  
  私の中で、何かがプツリ、と切れた。

〇銀行
  そして私は、あの銀行へとたどり着いた。
山田 昌子「傑。 お母さん、怒ってばっかりでごめんね。あのね・・・」
山田 昌子「今から言うことを、やってくれたら私達・・・もう大丈夫なの」
  傑は、よく分かっていなかったけど嬉しそうに笑っていた。
  あの子は、もういない。
  
  でも私は、堪えられなかった。
  あの子より、金と、世間体をとった。

次のエピソード:裏側の"セカイ"

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