怪異探偵薬師寺くん

西野みやこ

エピソード35(脚本)

怪異探偵薬師寺くん

西野みやこ

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〇教室
  長いようで短かった夏休みが終わり、 新学期が始まった。
  長期休みが終わっても、 まだまだ厳しい暑さが続いている。
先生「で、これが後の大乱につながるわけだ。 ここテストに出るからなー」
  グラウンドを走る体育服姿の生徒たちが目に入った。
  授業を進める先生の声をBGMに、 グラウンドの上を動く白い体操服を眺めて物思いにふける。
  5月に薬師寺に出会ってからというもの、俺は今まで聞いたことすらなかった『怪異』に振り回されている。
  借りていたアパートも夏休み中に引き払い、完全に薬師寺家の居候になった。

〇黒
薬師寺廉太郎「こんなに怪異に巻き込まれやすい体質で、 よく今まで無事だったね」
薬師寺廉太郎「たぶん、亡くなったご両親の守護霊が君のことを守ってくれてたんだと思うよ」
薬師寺廉太郎「怪異にとって茶村は、目の前にいたら手を伸ばさずにはいられない」
薬師寺廉太郎「極上の餌だから」

〇教室
  出会って間もないころ、異世界鏡で 囮(おとり)にされたときに、 薬師寺にそう言われた。
  両親が守護霊・・・ってことは、 両親が死ぬ前の俺はどうだったんだ・・・?
  俺の、両親は——
  ズキン
  そのとき、頭に鋭い痛みが走った。
  顔をしかめ、眉間を指で押す。
茶村和成(・・・やっぱり、思い出せない)
  両親を失った事故以前のことを 思い出そうとすると、 どうにもうまくいかない。
  はあ、とため息をついて再びぼーっと外を眺めた。
  と、突然鋭い気配を感じた。
  おそるおそる振り返ると、 俺のすぐそばに先生が笑って立っている。
先生「ほう、茶村。 俺の授業はため息をつくほどつまらんか?」
  先生の顔がひくひくと引きつる。
  クラスメートたちの笑い声が聞こえて、俺は苦笑いした。
茶村和成「・・・すみません。考え事をしてました」

〇学校の廊下
  HRが終わり、チャイムが鳴り響いた。
  俺は由比とスワとともに、 騒がしい放課後の廊下を歩いていた。
諏訪原亨輔「茶村、今日はめずらしかったな」
茶村和成「?」
由比隼人「ああ、日本史のときだろ? 俺も思った」
  俺はバツが悪くなって肩をすくめた。
茶村和成「あー・・・ちょっとぼーっとしてた」
由比隼人「あるある。俺もたまに注意されるし」
諏訪原亨輔「お前の場合は寝てることのほうが多いけどな・・・」
  由比の苦笑いが見えた。
  それとともに、ふと足を止める。
  由比とスワは気づかず、 雑談しながら、そのまま行ってしまった。
  俺はその背中をじっと見つめた。
  俺の様子に気づいたふたりが振り返る。
由比隼人「茶村?」
諏訪原亨輔「どうした?」
茶村和成「ごめんごめん、なんでもない」
  俺は駆け足で由比とスワの元へ向かう。
  ふたりは首をかしげていたが、 特に詮索(せんさく)もせずに会話を続けている。

〇学校の下駄箱
  由比とスワは部活、俺は稽古に向かうため
  昇降口の前で別れる。
  静かに靴を履き替えながら俺は考えていた。
茶村和成(俺の存在が、由比とスワを取り返しのつかない事態に巻き込んでしまう可能性があるんじゃないか?)
  今まで目を背けてしまっていたが、怪異を引き寄せる俺と仲がいいふたりに危険が及ぶことは十二分に考えられる。
  実際、薬師寺がいなければただでは済まなかった危険な場面がいくつかあった。
茶村和成(俺は怪異に対して、あまりにも無力だ)
茶村和成(今の状況でふたりと行動をともにすることは危険なんじゃないか?)
  薬師寺自身も、 決して万能というわけではない。
  俺はポケットに手を伸ばした。
  指先に小さくて冷たいものが触れる。
  ポケットから取り出したそれは、以前ナオからもらった黒い玉だ。
茶村和成(あのときだって、ナオがいなければ俺は死んでいたかもしれない)
茶村和成(俺は薬師寺にもナオにも、助けられてばかりで自分じゃなにもできない)
  自分の無力さを痛感し、憂鬱(ゆううつ)な気分になる。
  俺は怪異を引き寄せて、まわりに迷惑をかけているだけだ。

〇バスの中
  空手の稽古を終え、俺は帰路についていた。
  バスに揺られながら、今日の稽古のことを思い出す。
  稽古の間も、放課後に考えていたことを引きずってしまっていた。
  師範に「稽古に身が入ってない」と叱(しか)られ、考えることをやめたくてなんとか稽古に励もうとしたのだが
  それでも気分は晴れず、しまいには師範に心配されてしまった。
茶村和成「・・・はあ」
  そして、今もずっとぐるぐると考えてしまっている。

〇高層マンションの一室
茶村和成「ただいま」
薬師寺廉太郎「茶村おかえり~。遅かったね」
  俺が家に帰り着くと、薬師寺はソファでゴロゴロしながら本を読んでいた。
  すぐに着替えて夕ご飯の準備に取り掛かる。
茶村和成「ごめん。今からご飯つくるから」
薬師寺廉太郎「あ、大丈夫だよ」
茶村和成「もう済ませたのか?」
  薬師寺は読んでいた本を置いて、楽しげな笑みを浮かべて立ち上がった。
  そのまま台所の方へ歩いていくと、勢いよく冷蔵庫を開けた。
薬師寺廉太郎「じゃ~ん!」
  薬師寺はパスタ・・・らしきものを手にして得意げにしている。
薬師寺廉太郎「前に茶村が作ってたのを真似してみたんだ」
薬師寺廉太郎「・・・ちょっと失敗しちゃったけど」
  くるくると表情を変える薬師寺に、思わず笑みがこぼれた。
  薬師寺は「ちゃんと2人前あるから!」と見当違いなことを言っている。

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