ぼくらの就職活動日記

大杉たま

エピソード1(脚本)

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〇巨大ドーム
「こちら、会場からの中継です」
「リクルートスーツの学生たちが、次々とドームの入り口へ歩いて行きます!」
真田紅音「・・・・・・」
真田紅音「スゥ——ッ」
真田紅音「・・・ふぅ」
  深呼吸をする真田紅音(さなだくおん)。
  入口横にある看板を確認する。
「すみません!」
真田紅音「!」
リクスー姿の男「エリートピア説明会の参加票、売ってもらえませんか?」
リクスー姿の男「お金は払います、お願いします!」
真田紅音「いやです」
リクスー姿の男「!」
リクスー姿の男「・・・・・・」
リクスー姿の男「これでお願いします!」
真田紅音「・・・・・・」
真田紅音「参加票を取れなかったのは、あなたの努力が足らなかったからでしょう」
真田紅音「潔く諦めて帰ってください」
真田紅音「・・・では」
リクスー姿の男「・・・・・・」
リクスー姿の男「調子乗りやがって、 落ちろ、クソが!」

〇黒
  ぼくらの就職活動日記

〇球場の入口
「あの、さっきはホントにあったんです、 信じてください!」
  声を荒げる青年を横目に、学生たちがヒソヒソと会話する。
「毎年いるらしいな、ああやってゴリ押しで入ろうとするやつ」
「ああ。でも中にはホントに盗まれたやつもいるらしいけどな」
「いかんせん、プレミアチケットだからな、ここの参加票は」
真田紅音「・・・・・・」
真田紅音「明陰大学法学部四年の、真田紅音(さなだくおん)です。本日はよろしくお願いします」
受付の女性「はい、よろしくお願い致します」
真田紅音「毎年、御社の選考会をテレビで拝見していました」
真田紅音「今年はついに自分もこの場に来れたのだと、感無量の気持ちで」
受付の女性「あ、あの、後ろで待っている方がいらっしゃるので」
真田紅音「はい、失礼いたしました」
真田紅音「これは私の長所でもあり、短所でもあるのですが、一つのことに熱中すると周りが見えなくなり、そのせいで——」
受付の女性「すみません、後ろがつかえてますので」
受付の女性「次の方、どうぞ」

〇野球場
「あれ、紅音くん?」
真田紅音「!」
浅野祐二「おー、やっぱり紅音くんじゃん。 何してんの?」
真田紅音「エリートピアの選考を受けに来たに決まってるだろ」
浅野祐二「あれ、紅音くん法学部だよね?」
真田紅音「まあね、でも自分の実力とやりたいことを考えたら・・・やっぱりエリートピアがいいかなって」
真田紅音「だって、弁護士は毎年千人以上が合格するけど、この会社の合格者はこの中でたった十人だけ」
真田紅音「まあ、自分がどれくらい通用するか、把握しておきたかったというかね」
真田紅音「まあ、弁護士でも勿論いいんだけどね」
真田紅音「なんというか、まあ、ありがちだよね。 弁護士は」
浅野祐二「へーへー、そうなんだ。 すげぇな、紅音くんは」
真田紅音「まあ、そうでもないけどね。 とりあえず、まあ、お互い頑張ろうね」
真田紅音「まあ、記念受験みたいのでも良い思い出になると思うし、悪くないと思うよ」
浅野祐二「へーへーへー」
真田紅音「・・・何?」
浅野祐二「いやいやいや、何でもないよ」
浅野祐二「やっぱり、紅音くんとかが受かるんだろうなって」
真田紅音「まあね、まあ、浅野くんもかんばりなよ。 じゃあ」
浅野祐二「・・・ククッ」
「浅野、誰あいつ? イタイ感じだったけど」
「どんだけ「まあ」言ってんの」
浅野祐二「大学の友達、ってほどでもないんだけど」
浅野祐二「まあ、落ちこぼれかな」

〇野球場
真田紅音「何が紅音くんとかが受かるんだろうな、だよ」
真田紅音「全部嘘、分かってんだよ」

〇野球場の座席
  空いている座席に座る紅音。
  ノートを黙々と読み始める。
  タイトルには『エリートピア社 選考対策』と書かれている。
「あんの、隣いいだか?」
真田紅音「?」
真田紅音「ああ、まあ」
若山柿之介「はー、しっかしすんごい人だべなー。 おらの村より多いべ」
  若山柿之介(わかやまかきのすけ)が、紅音の隣に腰掛ける。
真田紅音「・・・・・・」
若山柿之介「あっ、そうだ・・・」
若山柿之介「ばあちゃんが漬けた梅干し、食わねが?」
真田紅音「いや、いらないです」
若山柿之介「遠慮することねぇよ、無くなったらまたおぐってもらう」
真田紅音「いえ、ホントに大丈夫です」
若山柿之介「ん、おお、その帳面、この会社のために作っただか。えれえのー」
  紅音のノートを取りあげる柿之介。
  梅干しの汁がノートに垂れる。
真田紅音「ちょ、おい、やめろ」

〇黒
「!」
若山柿之介「え、なんだべか?」
真田紅音「チッ、静かにしろよ・・・」

〇野球場
戸川仁「レディース&ジェントルメンな就活生諸君、大変長らくお待たせしました!」
戸川仁「只今より、エリートピア社の選考説明会を開始いたします!」

次のエピソード:エピソード2

コメント

  • 就活のリアルとファンタジー感がほどよい感じで交錯した物語だと思いました。日本の典型的な就活、もっとラフで気ままなものになればいいのに、、と思います。

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