1-11「黒猫」(脚本)
〇おしゃれなリビングダイニング
市来紅羽「あ! これは飲めるかも!」
市来榛斗「そ、そうか・・・やっと開発部に良い報告ができる・・・」
人工血液パックの味の改良を進めていた榛斗は、味見を紅羽に頼んでいた。
何度も厳しいダメ出しを食らい、ようやく合格が出るものができたのだ。
市来碧都「俺もちょっともらっていい?」
市来紅羽「いいよ、はい」
市来碧都「おー、確かにこれは美味しい。リンゴジュースみたい」
市来榛斗「血って何だっけ状態ではあるけど・・・不味いよりはいいか」
吸血鬼の自然状態からは離れて行っているが、今を乗り切るためには必要なことだ
市来榛斗「体の調子はどうだ?」
市来紅羽「んー・・・大分良くなったかな。そろそろ仕事も復帰できるよ」
市来碧都「まあ無理をしないように、もう少ししたら再開しよう」
市来紅羽「じゃあ今日も私は留守番?」
市来榛斗「そうなるな」
市来榛斗「あんまり拗ねないでよ・・・なんか甘いものとか買ってくるから」
市来紅羽「ちゃんと買ってきてよ?」
市来紅羽「怪我とかもしないでね?」
市来碧都「大丈夫だよ。今日のはそんなに強くなさそうだし」
市来碧都「じゃあ、行ってくるね」
第11話「黒猫」
〇可愛い部屋
市来紅羽「二人とも出かけちゃったし、いいよ、出てきて」
クロ「全く・・・相変わらず猫遣いが荒いニャ」
市来紅羽「鰹節、足りなかった?」
クロ「私を鰹節だけで動く安い猫だと思ってもらっては困るニャ」
クロ「私は元々夜に生きる気高き魔女の使い魔ニャ」
市来紅羽「じゃあその語尾のニャを止めればいいと思う」
市来紅羽「普通に話せるの知ってるし」
かつて魔女の使い魔だった黒猫のクロと、吸血鬼の紅羽は友人関係だった。
紅羽が市来家に来る前からの関係だ。
実は紅羽より年上どころか、100歳を超えているらしい猫を紅羽は自室に招き入れた。
クロ「仕方ないのう・・・で、用件は?」
市来紅羽「サーペンティンのこと、調べてくれたんでしょ?」
クロ「元々あれは民警組織の中でも最大のものだったが、一年前に代表が変わってからはさらに規模を拡大している」
市来紅羽「その代表ってのが「天使様」ね」
クロ「活動自体はいたって真面目かつシンプルだ」
クロ「特に怪しいところはない」
クロ「だがあの天使は、どこか信用できない」
クロ「怪異を自然な姿にっていう思想自体も珍しいものではない」
クロ「だが、天使が自分の血を簡単に吸血鬼に与えるというのはいささか信じ難い」
市来紅羽「そうなの?」
クロ「天使の血を飲んだ吸血鬼は、だいたい依存症になる。わかってて与えるのは悪意があるだろう」
市来紅羽「悪意か・・・」
クロ「都合よく使える駒を増やしたいように思えるんだ」
市来紅羽「私は多分もう大丈夫だけどね」
クロ「油断はしない方がいい」
市来紅羽「うん、わかってる」
クロ「私は引き続き奴等を探る。次は猫がまっしぐらする例のものを用意しておいてくれると嬉しい」
市来紅羽「わかった。買っておくね」
市来紅羽「・・・榛兄たち、まだ帰って来ないかなぁ」
やることもないし、一眠りしようと紅羽は目を閉じる。
そして暫くして、柔らかいものに顔を叩かれて目を覚ますことになった。
市来紅羽「ん・・・何?」
クロ「寝てる場合じゃない! 大変だ!」
市来紅羽「何? どうしたの?」
クロ「お前の兄貴が大変苦戦している」
市来紅羽「そうなの? でも今日のはそこまで強くないって・・・」
クロ「事情が変わったようだ」
市来紅羽「わかった。すぐに向かうから」
〇廃ビルのフロア
怪物「グアァァァアアア・・・!」
市来碧都「聞いてた話の百倍くらい強くない!?」
市来榛斗「こういう類の怪物は、人を襲ったところで大して強くはならないはずなんだけど・・・」
市来碧都「これは・・・一旦引いて応援を待つのもありじゃない?」
市来榛斗「・・・そうだな。でも引かせてくれるかどうか」
怪物「キシャアアアア・・・!」
市来碧都「効いてる感じはないね」
市来碧都「いや、傷は負ってるか」
市来榛斗「痛みが麻痺しているのか・・・いや、苦しんで暴れているだけのようにも見える」
市来碧都「それなら・・・」
市来碧都「・・・確かに、なんかあるな」
市来碧都「変なものでも食べたのかな?」
市来榛斗「同時に攻撃してみよう」
市来碧都「りょーかい!」
怪物「グォォオオォオオ・・・!」
市来碧都「・・・効果なさそうだね」
市来碧都「ってちょっと待った! 危ない!」
市来榛斗「・・・っ!」
市来碧都「榛兄! 大丈夫?」
市来榛斗「・・・これは食らったらまともに動けなくなるぞ」
市来榛斗「お前だけでも逃げろ」
市来碧都「・・・っ、榛兄もすぐに離脱して」
市来榛斗「わかってる・・・!」
市来榛斗「さて・・・他の痛みでこっちの攻撃の痛みがわからなくなっている感じか」
市来榛斗「ここまで来ると眠りの魔法も効かないだろうし・・・」
榛斗は攻撃を食らった腕を押さえながら思案する。
ただの火傷ではない。炎が消えてからも、じわじわと体が焼けていっているのがわかる。
市来榛斗「あと数分ってところか・・・応援は間に合いそうもないが、碧都は逃がせたし・・・」
その瞬間、頭上で爆音が響いた。
市来榛斗「何だ・・・!?」
怪物「ガァ?」
爆音と共に崩れた天井を怪物が見上げた瞬間、赤い閃光が走ったように見えた。
怪物「グ・・・ガァァ・・・ア・・・!」
市来紅羽「──血の槍!」
天井の大穴から飛び降りた勢いのまま、真紅の槍を握り締めた紅羽が怪物に飛び込む。
怪物「グアァァァアアア・・・!」
心臓に槍を突き立てられ、怪物は苦しみ悶えながら倒れた。
市来榛斗「紅羽・・・!」
市来紅羽「榛兄! 大丈夫!?」
市来榛斗「・・・どうやら命拾いしたみたいだな」
市来紅羽「いや安心してもらっちゃ困るんだけど!」
市来紅羽「私が治す・・・って言いたいところだけど、治癒魔法使う余裕はないというか・・・」
市来榛斗「・・・もう応援は呼んである。そろそろ到着するだろうから、治癒魔法はそっちに頼むよ」
市来榛斗「それはそうと・・・何でここに」
市来紅羽「猫の知らせというか・・・」
市来紅羽「実は仲良くしている100歳越えの黒猫がいて、その子が教えてくれて」
市来榛斗「吸血鬼は猫と仲良しって言ってたな、そういえば・・・」
市来紅羽「ちょっと榛兄! ここで寝たら死ぬやつだから!」
市来榛斗「いや、ちょっとそんなに揺すらないで・・・」
市来榛斗「それにしても、強いな・・・」
市来紅羽「・・・この前、碧兄の血をいっぱい吸っちゃったから・・・邪視はともかく、血の槍はもう使えないな」
吸血鬼は血を武器にすることができる。しかしそれは自らの生命線である血を浪費する行為でもあった。
どうしようもないときにしか使わない技。
それを使ったがために、紅羽もかなり消耗していた。
市来榛斗「・・・ありがとう、助かったよ」
市来紅羽「でも・・・何であんな苦戦したわけ?」
市来榛斗「基本的に、吸血鬼の血の武器は、吸血鬼以外には毒になる」
市来榛斗「それを心臓に突き刺したから勝てたんだ」
市来榛斗「あの怪物は多分元々毒かなんかで正気を失っていたから・・・こっちがいくら攻撃しても、痛みを感じない状態になっていた」
市来紅羽「・・・じゃあ、猫に感謝しないと」
市来紅羽「血の武器を使うといいって、猫が言ってたから」
市来榛斗「頭がいい猫がいたもんだ・・・っ」
市来紅羽「だから寝ちゃダメだって!榛兄!」
〇おしゃれなリビングダイニング
市来碧都「で、この子が例の猫?」
市来紅羽「そう。まあ「飼われるのはもう嫌だ」って言ってたから、うちでは飼わないけど」
クロ「そういうのはもうあの魔女で充分ニャ」
市来紅羽「だってさ」
市来碧都「・・・ちょっと飼いたいくらいかわいいけどなぁ」
クロ「そんなことはどうでもいい」
クロ「あの怪物の亡骸を調べたら、こんなものが出てきた」
市来碧都「猫が検死を・・・?」
クロ「私を侮るな。大魔女の使い魔だったこともある」
クロ「魔女は言っていた。 「魔物の遺体とか魔法薬のいい材料取れるかもしれないからとりあえず漁る」と」
市来碧都「魔女の教え、なかなかやばいな」
クロ「本題に戻ろう。やはり元々は弱い怪物だったようで、素材としては使い物にならなかったが・・・これを」
市来碧都「泥団子?」
クロ「違うわ!」
クロ「紅羽はこれが何かわかるか?」
市来紅羽「・・・血を固めたものだね」
市来紅羽「血の武器と同じ・・・血の弾みたいな」
クロ「そうだ。これは純血の吸血鬼にしか作れないものだ」
クロ「これだけでも普通に毒ではあるが・・・」
市来紅羽「・・・これ、もしかして」
クロ「紅羽には覚えがあるだろうな?」
市来碧都「・・・ってことはつまり」
市来紅羽「これは、天使の血を使って作られてる」
市来紅羽「天使の血を吸って、その後で作ったんだと思う」
クロ「やはりあの天使、何かありそうだな」
市来紅羽「・・・もうちょっと色々調べてもらっていい?」
クロ「承った。まあ、ここ10年暇していたからな」
市来碧都「・・・天使、か」
市来紅羽「榛兄は会ったんでしょ?」
市来碧都「みたいだね。話にならないって帰ってきちゃったみたいだけど」
市来紅羽「・・・大丈夫かな、榛兄」
榛斗は一命は取り留めたものの、傷の侵蝕がひどいため、暫く入院することになった。
市来碧都「大丈夫だよ。病院には治癒魔法の専門家もいるし」
市来紅羽「そう・・・だよね」
けれど、嫌な予感は消えなかった。
そして、結局消えずに残ってしまった
吸血衝動を堪えるように、
紅羽はそっと息を吐き出した。
わーいネコチャン!!!←
有能なネコチャンだ…魔女の教え、色々と怖いが役に立ちそう…
血の槍めっちゃ格好良いですね…
そしてここで寝て死亡のフラグを回収させまいとする紅羽ちゃんが面白かったです(死ななくてよかったけど😇)