1-10「自然」(脚本)
〇可愛い部屋
市来碧都「紅羽・・・ちょっと待って、吸いすぎ・・・」
市来紅羽「足りない・・・違う、もっと美味しい血が・・・」
市来碧都「ごめん、紅羽・・・あんまり使いたくないんだけど」
市来碧都「・・・眠ったか。 これは・・・想像以上にやばい状態かもな」
市来碧都「榛兄の方は大丈夫かな・・・」
第10話「自然」
〇綺麗な会議室
―民間警備会社サーペンティン本部―
百瀬蛍「彼女が先に交戦していて、負傷していたので・・・血を与えて治療しました。それだけです」
市来榛斗「まあそれ自体は普通なんだけど・・・吸血鬼なら下手に治癒魔法使うより、その方が治るのも早いし」
市来榛斗「問題は、君自身が吸血鬼だってことだ」
市来榛斗「吸血鬼はその前に飲んだ血が自身の血液に影響する。つまり、君が紅羽を治療する前に何を口にしたのかが重要だ」
百瀬蛍「・・・天使様の血を」
市来榛斗「え?」
百瀬蛍「ですから天使様です。 うちの社長、天使なんですよ」
市来榛斗「まあ人狼の社長とか雪女の取締役とかもいるから、それ自体はありうるのかもしれないと思うんだけど・・・」
市来榛斗「・・・天使の血は、確かに吸血鬼にとっては非常に美味だと聞く」
市来榛斗「しかし過去の文献に当たってみると、それには続きがある」
市来榛斗「天使と悪魔の血は美味だが、それゆえに非常に依存性が高いと」
百瀬蛍「ええ。ですが人間が想像する依存性とは違いますよ」
百瀬蛍「必要量が多くなったりはしません。ただ・・・あの味を知った後では、人工血液パックなんて飲めたものではありませんね」
市来榛斗「・・・わかっててその血を与えるのは、悪意があるんじゃないのか?」
百瀬蛍「ですから、彼女にはちゃんと対応する方法も教えましたよ」
百瀬蛍「ただここに来ればいいだけ。天使様から血を貰えば飢えは治まるし、力も手に入る」
百瀬蛍「彼女は本来の力を出しきれていない。天使様はそう言っていました」
百瀬蛍「彼女は強くなりたいと思っているんじゃないんですか?」
市来榛斗「・・・それはそうだけど。でもこんなやり方は・・・」
市来榛斗「今の世界で生きるのに、人工血液パックが飲めなくなるのは死活問題だ」
市来榛斗「いつでも天使の血が手に入るわけではないんだから」
天堂斎「お待たせしました、市来さん」
天堂斎「私が民間警備会社サーペンティン代表、天堂斎です」
市来榛斗「単刀直入に言いますけど、とにかくうちの妹を元に戻していただきたい」
市来榛斗「このままだと数日後には動けなくなるかもしれない」
天堂斎「彼女を助けたいと思うなら、うちに彼女を預けてください」
市来榛斗「なっ・・・!?」
天堂斎「私の血なら受け付けるでしょうから」
市来榛斗「引き抜きにしてはやり方がずいぶん強引ですね?」
市来榛斗「何が目的なんですか?」
市来榛斗「正直な話、紅羽を引き抜きたいと思うほど、そちらの戦力が薄いとは思えないんですが」
天堂斎「・・・私は、吸血鬼をはじめとした怪異の未来を憂いているんです」
天堂斎「彼らは人間と共生するため・・・と言えば聞こえがいいですが、殺されないために自らの性質を歪めている」
天堂斎「人の血を美味とは思えず、嗜好品でしかない人間の食事ばかり嗜む者もいる」
市来榛斗「それによって、人と怪異は争わずに済むようになってきた」
天堂斎「ですが、歪な状況ではあります」
天堂斎「怪異は人に歩み寄りすぎた。無理をして生きている。それがいいこととは思えません」
天堂斎「だからこそ、ルールを破り、必要以上に人を襲うものも現れる」
天堂斎「私たちはこの現状を変えたいんです」
市来榛斗「ご高説ありがとうございます」
市来榛斗「でも、正直そんなことは今はどうだっていい」
市来榛斗「大切な家族が苦しんでいるのに、そんな理由で納得できるか!」
天堂斎「家族・・・血が繋がっているわけではないでしょうに」
市来榛斗「血の繋がりは関係ない。家族の繋がりはそんなものじゃないだろ」
天堂斎「市来さん。あなたは・・・失ったものを彼女に重ねているだけなのでは?」
市来榛斗「・・・あなたが何を知っているかはわかりませんが、今は関係ない話です」
市来榛斗「・・・ですが、交渉の余地はないということはよくわかりました」
市来榛斗「これ以上話をしても無駄なので、私は帰ります」
〇おしゃれなリビングダイニング
市来碧都「はぁ・・・」
市来榛斗「ただいま・・・」
市来碧都「・・・どうだった?」
市来榛斗「正直あまりいい報告はできないんだが・・・碧都はどうした? 顔色が悪いけど」
市来碧都「こっちもあんまりいい報告はできない感じ」
市来碧都「・・・紅羽に吸われたんだよ。ちょっと貧血になるくらい」
市来碧都「ダンピールはただでさえ貧血になりやすいのに」
市来榛斗「どうしてそんなことに・・・」
市来碧都「わからないけど、なんか吸血衝動が抑えられない感じだった」
市来碧都「とりあえず魔法で無理矢理眠らせたけど」
市来榛斗「・・・昔の吸血鬼は吸血衝動があったらしいな」
市来碧都「でも今の吸血鬼はそんなに・・・」
市来榛斗「あいつらが怪異を自然の状態に戻そうとしていると考えると、理屈は通る」
市来碧都「何の話?」
榛斗はサーペンティンで聞いた話を碧都に説明した。
強引に、かつての吸血鬼のような状態に引き戻された紅羽を元に戻す術は今のところないということも。
市来碧都「・・・天使の血か」
市来碧都「たった一滴でこれは・・・おそろしいものがあるね」
市来榛斗「おそらくあの百瀬という子も、天使の血に依存しているんだろう」
市来榛斗「そりゃあ人間の血を吸ってただけの吸血鬼なんて敵ではないし、彼女から見れば紅羽は弱い」
市来碧都「・・・どうするかは、紅羽に聞くしかないね」
市来榛斗「もし、紅羽が強くなる方を優先するなら・・・それは紅羽の意思を尊重すべきだと思うし」
市来碧都「榛兄はそれでいいの?」
市来榛斗「・・・仮に本当の家族でも、それが紅羽の選択なら口は出せない」
市来碧都「それはそうだけど・・・」
市来碧都「まあ、何にしても紅羽に聞いてみないと始まらないか・・・」
〇可愛い部屋
市来紅羽「ごめんなさい・・・」
市来碧都「だから俺は大丈夫だって。すぐに魔法使っちゃったし。あと人工血液パックも飲んだし」
市来碧都「それに紅羽は悪くないんだから」
市来碧都「でも、何があったかは教えてほしかったってのはあるけど」
市来紅羽「・・・どうすればいいかわからなくて」
市来紅羽「強くなりたいとは思うんだ。でも・・・ここで生活するのが楽しくなってる自分もいて」
市来紅羽「学校にも六花がいるし、ここにも・・・碧兄も榛兄もいる。だから・・・」
市来碧都「わかった。紅羽がそう言うなら・・・何とかする方法を一緒に考えよう」
市来碧都「とりあえず俺の血飲んでちょっとは元気になったみたいだし」
市来紅羽「うん・・・」
市来碧都「ちなみにさ、グレープ味とチョコ味とオレンジ味とリンゴ味ならどれがいいと思う?」
市来紅羽「・・・何の話?」
市来紅羽「その中で好きなのはリンゴだけど」
市来碧都「まあ詳しいことは榛兄から聞いてよ」
榛兄さん、妹のために文献まで調べて…普段ちょっとぽややんとしてるけど交渉の時は洞察力もめちゃ鋭いしギャップにきゅんときました!!!これはやばい!
家族想いの心が誰よりも強いのエモいよ…
確かに引き抜きにしては強引というか、彼らにしてみればもう確信犯でしょこれはという感じがする…
確かにその方が自然に近い状態ではあるのかもしれないが…
力を求めるか、共存生活を望むか…難しい問題…