〇草原
ニル「アアアアアアァッ!!」
　　ニルが再びゼノンへ近づき、攻撃を仕掛ける。
　　ゼノンは素早く両腕をブレードに変形させ、撃を受け止めた。
　　衝撃でゼノンの足が地面にめり込む。
　　そのまま、しばし均衡状態が続いた。
　　互いの剣が交わったまま動かない。
　　その均衡を破ったのは、ゼノンだった。
　　ブレードを伝ってニルの身体に強力な電流を流し込む。
　　しかしニルは攻撃の手を緩めなかった。
　　ゼノンの電流さえ、今のニルには全く通用しない。
ゼノン「・・・クッ」
　　あと少しでニルのブレードが顔に触れる——
　　そのギリギリのところで、ゼノンは思い切りニルのブレードを跳ね返した。
　　ニルはゼノンの脇にできた隙を無駄のない動きで的確に狙う。
　　それに対しゼノンは、再びブレードで防御する体勢を作る。
　　再びブレード同士が激突する——というその瞬間、ニルのブレードが突如形を変えた。
ゼノン「ッ！」
　　まるで触手のようにうねるブレードが、一瞬のうちにゼノンの全身を包み込んだ。
　　ガッチリと四肢を拘束され動けなくなったゼノンを、ニルは八の字を描くように何度も何度も地面に打ちつける。
ゼノン「ッ、ガッ！」
　　ゼノンの痛ましい声があがる。
　　それでもなお、ニルは淡々と地面にゼノンを打ち付け続ける。
　　弄ぶかのようにゼノンを振り回したあと、ビュンッと上空へと放り投げた。
　　上空で体勢を整えようとするゼノンの姿に重ねるようにニルは右腕を上に構える。
　　触手状だった腕はさらに変形し、スピアのような形状になった。
　　スピアは風を切りながらゼノンへとまっすぐ伸びる。
ゼノン「チッ」
　　ゼノンは上体をひねり心臓を貫こうとしたスピアの射程から、紙一重で逃れようと試みた。
ゼノン「グアッ・・・」
　　表情を歪めながら、ゼノンは自身の左肩に突き刺さったニルの右腕を掴んだ。
　　固定されて動けないニルに、ゼノンはわずかに口角を上げた。
　　そして右手をニルに向けてかざした。
ニル「!!」
　　キュルキュルキュル・・・
　　ゼノンの手のひらに急速に光が集まり、眩（まばゆ）い光が放たれる。
　　キュインッ
　　鋭く放たれた光のビームは、全てを消し炭にしてしまいそうなほどの輝きをもってニルの身体に直撃した。

〇草原
　　衝撃で巻き起こった煙があたりを覆う。
ゼノン「・・・・・・」
　　徐々に煙が晴れていく。
　　そこには、微動だにしていないニルの姿があった。
ゼノン「——！」
　　ドゴォッ
　　気がつくとゼノンは地面に叩きつけられていた。
　　ゼノンを貫いていたニルの腕が縮み、やがて義手の形状へと戻る。
　　ニルは眉をひそめふらついたかと思うとがくりとその場に膝をついた。
　　光のビームを相殺することにエネルギーを使いすぎたのか、青白い顔で動けずにいる。
　　煙の立つ中でゼノンはむくりと起き上がった。
ゼノン「ふう・・・なかなかやるね」
　　無傷ではないにしろ、ゼノンはまだまだ余裕そうな笑みを浮かべている。
ゼノン「・・・でも、もう終わりかな？」
　　ニルは膝をついた体勢のまま、地面にぱたりと倒れた。
　　体内にあるエネルギーを大量に使いすぎて気絶してしまったのだ。
　　倒れ込んだニルに、ゼノンは先ほどと同じように右手をかざした。
　　エネルギーが手のひらへと集まり、キュルキュルと球を形成し始めたところで突如エネルギーがはじけた。
ゼノン「・・・あーあ」
　　ゼノンが残念そうに息を漏らした。
ゼノン「・・・この身体じゃここまでか。 また会おう、ニル」
　　ピキッとなにかが割れるような音がした直後、ゼノンの身体がバラバラになって崩れ落ちた。
　　しばらくして、ニルが静かに目を開いた。
　　ゆっくりと上体を起こし、散らばっている機械パーツを見つめる。
　　ニルは辺りを見渡し、ゼノンの波長を探る。
　　しかし、なにも感じられなかった。
ニル「・・・終わった、のか・・・？」
　　安堵から、ニルはそのままどさりと大の字に倒れた。
　　息を吐いて再び目を閉じた瞬間、地響きのような轟音と突風がニルを襲う。
ニル「!!」
　　同時に、ゼノンとは別種のネームドの気配を察知した。
　　気配のする方向を見る。
　　目線の先には、メルザムの街。
ニル「・・・アイリ、エルル」

〇荒廃した街
　　メルザムの街はガルバニアスの巻き起こした突風により、見るも無残な姿になっていた。
　　いつの間にか空は雲に覆われており、ポツリポツリと雨が降り出している。
　　ボロボロな身体を引きずって、アイリ、エルル、エミリアの3人はうめき声を上げながら立ち上がる。
エミリア「・・・もう一度だ！」
エルル「はい・・・！」